スポーツ産業のイノベーション 身体は運動を求めている

スポーツ産業のイノベーション
身体は運動を求めている
植田真司│大阪成蹊大学マネジメント学部教授

運動不足は大きな死亡リスクに!

WHO(世界保健機関)は昨年2月に、「運動不足は、世界的な死亡の主要なリスク要因のひとつである。」「運動不足は、心血管疾患、がん、糖尿病などの非感染性疾患(NCD)のリスク要因である。」と身体活動のファクトシートを発表しました。運動不足が死亡リスクの要因になると言うので、各国が対策に取り組んでいます。
33万人を約12年間追跡調査したケンブリッジ大学のウルフ・エケルンド教授の研究でも、1日20分の中強度の運動を続けている人は、運動不足の人に比べ、死亡リスクが16~30%低く、肥満や過体重より運動不足の方が死亡リスクを高めていることが分かりました。

運動するより、座らないことが大切

シドニー大学の研究によると、オーストラリアの成人22.2万人の総座位時間と死亡リスクについて調査した結果、1日の座位時間が4時間未満の成人に比べて、4~8時間未満だと1.02倍、8~11時間未満だと1.15倍、11時間以上だと1.40倍になり、長時間座っていることは、身体活動とは無関係に危険因子になることが分かりました。1)さらに、世界20カ国5万人の成人を対象に平日の座位時間を調査した結果、日本が1日7時間と最も長く座っていることも分かりました。2)
「長生きしたければ座りすぎをやめなさい」の著者、岡浩一朗教授は、座りすぎは、肥満や糖尿病に限らず、高血圧症や心筋梗塞、脳梗塞、がんなどを誘発し、死亡リスクを上げることが明らかであり、WHOが推奨する1日30分以上のウォーキングやランニングを週5日実施しても相殺できないと述べています。

なぜ、座ることがいけないのか?

人間の身体は、走るように進化し、座るように進化していないと言うことです。
「BORN TO RUN」の著者、クリストファー・マクドゥーガルは、チンパンジーと人間を比較し、アキレス腱、土踏まず、動く際に頭を固定する項靭帯は、人間にしかないと言います。さらに、人間は、汗腺で体温を冷やせる機能を持っており、全ての動物で最も長い時間走ることができ、人間は走るように進化してきたと述べています。 「GET UP! 座りっぱなしが死を招く」の著者、ジェイムズ・A.レヴィンは、人類は何百万年も昔から、動くことで、二足歩行と共に脳も進化してきたが、都市化と工業化により人間が座りだしてわずか二百年しか経っていないと述べています。
いずれにせよ、我々は歩く・走るなどの運動をすることで進化してきた生き物でありながら、便利な生活を求め、運動せずに座ることで、さまざまなリスクを抱えるようになったと言えます。

日常生活に運動習慣を!

座りすぎ対策として、イギリスでは、座りすぎのガイドラインを作成し、就業時間中は少なくとも座っている時間を2時間減らすことを推奨しています。アメリカでは、IT企業を中心に、「立ち会議」や「立ちオフィスワーク」を実施しています。オーストラリアでは、「脱・座りすぎキャンペーン」をテレビCMで流し、小学校では、立ちながらでも授業を受けられるようにしています。
一番良い対策は、便利なモノを使わないようにし、昔のように動く生活に戻ることです。せめて、1時間の仕事や勉強の間に5分の運動を入れる、555運動(55分仕事+5分運動)でも実施してはいかがでしょうか。
本来人間は、動く生き物でありながら、動かない便利な生活を送ってきた結果、さまざまなリスクを抱えるようになりました。本当は「身体(=本能)」が運動を求めているのに、企業の提供するCMなどの影響を受け、「頭(=理性)」が座ることを選択するからでしよう。我々にとって大切なことは何か、今一度自分の「こころ」と対話してはいかがでしょうか。

1)van der Ploeg HP et al. Sitting time and all cause mortality risk in 222,497 Australian adults. ArchIntern Med, 2012; 172:494-500
2)Bauman AE et al. The descriptive epidemiology of sitting: A20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ). Am J Prev Med, 2011; 41: 228-235.

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