スポーツ産業を測る ポーツサテライトカウントの国際比較

スポーツ産業を測る
ポーツサテライトカウントの国際比較
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部・助教

1)スポーツ産業の国際比較

前回は、日本政策投資銀行が開発した日本版スポーツサテライトアカウント1)によるスポーツ雇用者数について紹介いたしました。今回は、2018年に欧州委員会(EC)が発表した欧州28ヶ国の国際比較レポート2)をもとに、スポーツ産業の各国の特徴について考えたいと思います。表に「スポーツ付加価値(GDP)が全産業の付加価値に占める割合」と「スポーツ雇用者数が全産業の雇用者数に占める割合」を示しました。対象は2012年です。また日本政策投資銀行の日本版スポーツサテライトアカウントから2012年の日本のデータを追加しました。その結果、とくにオーストリア、ドイツ、イギリスの3ヶ国は、スポーツGDPとスポーツ雇用ともに、スポーツ産業が経済全体に果たす役割が大きいことがわかります。ECレポート(2018)によると、この3ヶ国のスポーツ産業が大きい理由には各国の特徴があるようです。
オーストリア:オーストリアのスポーツ産業は、冬季スポーツのスポーツツーリズムによって牽引される外需主導型の産業構造をしています。オーストリアは、EU諸国の平均人口の半分にも満たない国ですが、国内から1,100万人、国外から5,500万人の宿泊スポーツツーリストが訪れることによって「宿泊」「食品サービス」「小売」の分野でスポーツ産業の経済インパクトを押し上げています。
ドイツ:一方、ドイツは、オーストリアとは対象的に、官民サービスセクターの役割が大きい内需主導型のスポーツ産業の構造であるようです。ドイツのスポーツ産業の経済規模は、自動車産業にも匹敵するほどの大きさであり、卸売や小売の役割は大きく、スポーツ産業の商品とサービスの大半が家計部門によって消費されています。
イギリス:さらにイギリスは、スポーツ産業の特性として、スポーツGDPの割合に比較して、スポーツ雇用の割合が非常に高いことが挙げられます。これはスポーツクラブ、製造、卸売、小売などの伝統的なスポーツ産業から、スコットランドを中心としたスポーツツーリズムやゴルフリゾートの運営、さらに直近ではスポーツベッティング(スポーツ賭け)や金融などの新しい分野の成長がスポーツ雇用者の創出につながっているようです。2)

(2)スポーツ付加価値とスポーツ雇用者の関係性  

日本は、欧州と比較すると、スポーツGDPの全産業に占める割合は1.36%で29ヶ国中15番目に位置し、雇用者数の全産業に占める割合は1.47%で26番目となります。日本のスポーツ雇用の割合が低いことは、日本のスポーツ産業と欧州諸国のスポーツ産業構造に違いがあるからかもしれません。このあたりの産業構造の違いについては今後検討していく余地があります。

また、スポーツ付加価値(GDP)とスポーツ雇用者の関係性に着目すると、日本も加えた29ヶ国中、スポーツ雇用者の割合の方が下回っている国はポーランドのみで、他28ヶ国は全てスポーツ雇用者の割合の方が大きくなっています。これはスポーツ産業が雇用集約型(労働集約型)産業であることを示し、ECレポート(2018)2)においても、スポーツ関連の経済政策が失業対策に効果的であると述べられています。ただし、この失業対策に有効という見方は解釈が難しい面があります。一般論として労働集約型産業は雇用創出力がありますが、労働人口あたりの付加価値、すなわち労働生産性が低いという見方もできるかもしれないからです。この点について経済産業省の「スポーツの成長産業化に向けて」においてもサービス産業の生産性向上が目標として取り上げられています。3)
本稿においては、付加価値と雇用者数の全産業に占める割合による国際比較を行いました。しかし、実際のスポーツ産業政策において、経済全体のパイを変えずにスポーツ産業に取り込むことはほとんど意味がありません。スポーツ未来開拓会議(2016)において示されたように「新たなビジネスの創出」など、スポーツによる新しい経済を創造することが必要とされています。

▶ 1)株式会社日本政策投資銀行地域企画部,同志社大学;わが国スポーツ産業の経済規模推計~日本版スポーツサテライトアカウント~,スポーツ庁 経済産業省,監修,2018. URL: http://www.dbj.jp/ja/topics/region/industry/files/0000030092_file2.pdf
▶ 2)European Commission,et al.; Study on the Economic Impact of Sport through Sport Satellite Accounts,2018.
▶ 3)経済産業省商務情報政策局サービス産業室;スポーツの成長産業化に向けて,2016.

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