スポーツ産業のイノベーション 世の中をよくするには合理性より感情と遊びごころ

スポーツ産業のイノベーション
世の中をよくするには合理性より感情と遊びごころ
植田真司│大阪成蹊大学経営学部教授

新型コロナをはじめ、気候変動、高齢化、環境汚染、格差など多くの問題が解決されないままである。これらは問題が複雑化し、その場しのぎの対策になり、抜本的な解決ができていないからだろう。今回は、どうすれば複雑な問題を解決できるのか考えてみた。

広く、深く、時間経過をみる

温暖化による海水温の上昇が原因で、年々台風が巨大化している。舗装された道路、宅地の造成、森林伐採が原因で、洪水などの災害も増えている。砂漠化も、過放牧や過耕作、森林伐採など人の活動が原因とされている。多くの問題は、原因がわかっているのに解決されていない。

これらの問題解決には、専門分野に分割した思考でなく、全体を見るホリスティックな思考が必要である。

この場合、多面的な見方で原因を探るシステム思考が有効である。システム思考は、氷山のように、水面上に見えている出来事は全体のほんの一部であり、その下に根本的な原因が隠れていると考える。広い視野で全体を見て、なぜこの出来事が起きているのかパターンを予測し、それぞれの要素間のつながりに着目し、全体構造を創造する。最後は信念や価値観、物の見方、思い込みにまで目を向け問題解決するのである。①広く全体をみる、②つながりを深める、③時間経過の影響を考慮する、これが特徴である。

解決を急ぎ、対症療法的な問題解決では、根本となる問題解決にならず、時間が経つと新たな問題が発生する。合理性を優先すると、全体を見ず、つながりを探らず、後にどのような影響が現れるのか考慮しなくなり、人間や地球環境に対する配慮が欠落するのである。

合理性より感情と遊びが重要

山口周は著書「ビジネスの未来」の中で、資本主義のような合理性のもとでは、「問題の難易度=問題解決にかかるための費用」と「問題の普遍性=問題解決で得られる利益」が均衡する「経済合理性限界曲線」の内側にある問題だけ取り組み、外側にあるコストパフォーマンスが悪い問題は「解決不能な問題」として放置されると言っている。

ではどうすればこの問題に着手できるのか。山口は、これらの問題を解決する方法として、「〜をしたい」「〜をやってみたい」「何か崇高なものに人生を捧げたい」という合理性を超えた人間性に根ざした衝動が必要であると言っている。まさに、理性でなく人間の感情にもとづいた遊び心が必要なのである。

我々の仕事も、Laborでなく、Workでもなく、Playの精神で取り組めば、ブレークスルー出来るのかもしれない。

人が幸せになるには便利より愉しみが大切

世の中が便利になっても、心に余裕がなく時間に追われていては幸福感を感じ取れない。我々は、産業革命以降、経済や生産性のために技術を進歩させ、便利な生活を手にしてきた。しかし、時間が経過して、環境問題や健康問題などが現れ始めている。

人類は唯一道具をつくる生き物で、約200万年前に石器をつくり、寒さをしのぐために皮の服をつくり、機械をつくり、石炭によるエネルギーを利用し、移動するため馬車、自動車、飛行機をつくり、自然に適応して進化してきた。

一方、人間以外の生き物たちは便利な道具を作ることなく、自然と共生するように自らを進化させてきた。人間も、かつては動くことで脳や身体機能を進化させてきたのだが、今は便利な道具に助けられ、身体を動かすことも少なくなり、結果、本来持っている機能を退化させているように思える。

我々はあまりにも、効率や合理性にとらわれ、目先の便利さを追求している間に、最も大切なものを失っているのではないだろうか。

スポーツも、勝利を求め、合理性を追求するあまり、大切な「遊び心」を忘れているのではないだろうか。最近の遊びの研究では、遊びが思いやりや公平さを育み、遊びの時間とうつの数が反比例するなど、遊びの重要な役割が指摘されている。勝つことに集中し、練習が忙しく、愉しむ余裕がないと、気晴らしのスポーツが、ストレスになってしまう。

複雑な問題を解決し、世の中を良くするには、合理性より人間の感情にもとづいた遊び心が必要なようだ。

スポーツも、勝つことより遊ぶことの方が大切ではないだろうか。国技の柔道も、五輪で多くのメダルを獲得したが、登録人口は減少を続けている。柔道の役割、スポーツの役割を今一度考えてみたい。

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