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再開発中の渋谷駅東口

渋谷駅東口一帯では2020年の一大イベント東京五輪に向けて大規模な再開発が進み、工事現場の仮囲いの中からは重機の音がひっきりなしに聞こえてくる。ハチ公前のスクランブル交差点をはじめ、海外にも知られる若者の街渋谷。だがその雑踏の下に、かつてこの地域の田畑を潤していた川がひっそりと流れていることを知る人は少ない。
NHKの「ブラタモリ」で取り上げられたこともあるこの川の名前は、渋谷川と言う。 駅の南側の稲荷橋より下流ではわずかな流れを見ることができるが、それより上流の、センター街方面から流れる宇田川や原宿方面から流れる穏田川流域は完全に暗渠となっている。宇田川の支流には唱歌「春の小川」のモデルとなるほどの清流であった河骨川もあるが、今では目にすることは叶わない。
暗渠化がなされたのは1964年の東京五輪の時期に重なる。上流部分が下水道として転用されたことで下流への流れが断たれ、水源の一つだった新宿御苑方面から流れる玉川上水の余り水の受け入れをやめたことで、渋谷川はすでにほとんど干上がった状態となってしまっていた。生活排水が流入する部分では悪臭も問題となっており、五輪をきっかけとした都市化に伴ってついに蓋をされてしまうに至ったのだ。
それから半世紀経ったいま、人々の記憶から薄れつつある渋谷川の流れを復活させようと開渠部分に下水を浄化した水を利用した水景施設を作り、憩いの場を作る計画が進められている。さらには新国立競技場の脇に、かつてその敷地内を流れていた穏田川の流れを再現した景観を作る計画も持ち上がっているという。
もちろん、どちらの計画も清流を取り戻し暗渠の蓋を取り払おうというプロジェクトではない。あくまでも、かつての面影の一部の再現にとどまる。しかし経済の発展を優先して都市部の川の多くに「戦力外通告」を突き付けた19 64 年の東京と比べれば、大きな進歩と言ってよいと思う。2 020 年の東京オリンピック・パラリンピックは、多様な存在を認め合い、自然と人が共存する社会について考えるきっかけとなるだろう。渋谷川の流れはそのささやかな象徴であってほしい。

新国立競技場の敷地内に渋谷川が入る地点。「観音橋」の地名板が川の存在を思い出させる

▶文・写真 伊勢采萌子│早稲田大学法学部3年

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