スポーツ産業のイノベーション 大阪万博で、スポーツの街の素晴らしさを世界へ!

スポーツ産業のイノベーション
大阪万博で、スポーツの街の素晴らしさを世界へ!
植田真司│大阪成蹊大学経営学部教授

2025年5月3日〜11月3日。大阪の夢洲で万博が開催されます。今回は、1970年の万博を振り返りながら、5年後の万博で実現したいスポーツの街を考えてみました。

1970年の大阪万博(EXPO’70)を振り返る

日本で最初に開催された大阪万博は、6400万人が来場しました。記憶に残っているのが「太陽の塔」、「月の石」、「動く歩道」、テーマソングの「世界の国からこんにちは」。この歌は、1967年に三波春夫、坂本九、吉永小百合など8社がレコードを出し300万枚の大ヒット、なかでも三波春夫さんは140万枚も売れたそうです。
そして、「お客様は神様です」という言葉も流行りました。三波春夫さんが語った言葉を、漫才トリオのレツゴー三匹さんがデビューした1968年に「三波春夫でございます。お客様は神様です」とギャグにして流行させたようです。この言葉が間違った意味で広がり、日本にクレーマーが増えたと考えています。本当は、「歌う時は、あたかも神前で祈るときのように、お客様を神様とみて、歌を唄う」意味だったようです。

2025年の大阪万博に向けての提案

2025年のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」。サブテーマは、「多様で心身ともに健康な生き方」「持続可能な社会・経済システム」。そこで、勝手に2025年のスポーツの街をデザインしてみました。

1 スポーツ産業の街大阪・関西
大阪・関西は、世界でも珍しいスポーツ産業クラスターの街であり、メーカー・卸・小売・顧客が、産官学民が連携し、する・みる・ささえるなど新しいスポーツの価値を共創する街になること。仕事はやらされる(labor)でなく、自ら主体的に働き(work)、スポーツのように楽しく(play)働き、世界の手本となる健康・スポーツの街になること。ミズノ創業者の水野利八氏が、「スポーツ産業は聖業である」と言ったように、私も、スポーツ産業だからこそ他産業のハブとなり、持続可能な社会・経済システムが実現できると考えています。

2 思いやりと助け合いの街
スポーツマンシップを身につけ、お互いを尊重することが出来る街。みんな同等であり、お金を払う人が偉いわけではない。お客様は神様でなく、売り手と買い手が助け合う街。まさに、敗者をつくらない、貧困をつくらない街になること。
ヴァージニア大学の大石繁宏准教授は、「幸せの文化比較は可能か?」の論文の中で、「格差の少ない地域ほど、幸福度が高い」と述べています。また、ハーバード大学で75年間幸せな生活の秘訣を研究してきたロバート・ウォルディンガー教授は「幸せは富でも名声でもなく、無我夢中で働くことでもなく、良い人間関係にある」と述べています。スポーツマンシップがある助け合いの街が幸せな街なのです。

3 自然と共生する街
文明の発達した便利な街が理想の街でしょうか?「ガイアの思想」の著者、龍村仁氏は、『人間の「知性」は、自分たちだけの安全と便利さのために自然をコントロールし、意のままに支配しようとする、いわば「攻撃的な知性」だ。(略)鯨や象のもつ「知性」は、いわば「受容的な知性」とでも呼べるものだ。彼らは、自然をコントロールしようなどとはいっさい思わず、そのかわリ、この自然のもつ無限に多様で複雑な営みを、できるだけ繊細に理解し、それに適応して生きるために、その高度な「知性」を使っている。』と述べています。
持続可能な社会を実現するために、自然と共生し、便利だけを追求しない街が必要です。
私たちは、不便には隠れた益があり、便利には隠れた害があることに気づいていません。例えば、日本の風呂敷は、モノを包むのに不便ですが、一枚の風呂敷で何でも包めます。一方、西洋の鞄は、モノを入れるのに便利ですが、すべてのものに対応した鞄を持たなければなりません。また、我々は不便があるから便利であることに気付くのであり、少し不便があった方が良いのではないでしょうか。便利に頼らず、主体的に身体を動かし自然と共生するスポーツの街になることです。

2025年万博の成功に向けて
大阪万博がめざすものとして、Society5.0の実現を唱っています。Society5.0とは、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、IoTで全ての人とモノがつながる人間中心の社会で、様々な知識や情報が共有され、新たな価値を生み出し、課題や困難を克服する社会と説明されています。
狩猟社会は、日本では縄文時代で戦いのない平和な時代でした。しかし、農耕社会になり、自分の土地を守るために争いが始まりました。工業社会になり、大量生産が可能になりましたが、資本家が労働者を雇い貧富の格差が広がりました。情報社会になると、情報が人・モノ・金と同等の価値を持つようになり、GAFAのような企業が現れ、ますます貧富の格差が広がっています。Society5.0は、本当に我々を幸せにするのでしょうか? 必要なモノやサービスが、必要な時に必要なだけ提供される便利な社会が幸せなのでしょうか?
我々は、いろんな視点で、考える必要があるようです。人間中心の便利な社会ばかりに目を向けず、鯨や象のように、自然と共生する社会をめざしても良いのではないでしょうか? そのヒントが、自然の中で体を動かし、助け合い、信頼し、人と人をつなげるスポーツにあると考えています。

関連記事一覧