スポーツを活用した新しい取り組み「スポーツふるさと納税」の可能性を探る──前編
スポーツを活用した新しい取り組み「スポーツふるさと納税」の可能性を探る──前編
赤嶺 健│ Sports Local Act 株式会社 代表取締役
2020年に向けた盛り上がりの中で、スポーツを活用した様々な地域創生の取り組みが行われています。その中でも、ふるさと納税制度を活用した取り組みを紹介し、スポーツ競技団体の新たな資金集めの手段として検討するとともに、今後の「スポーツふるさと納税」の可能性を探ります。 スポーツふるさと納税とは まず、皆様がよく耳にする「ふるさと納税」とは、自分の選んだ自治体に寄附(ふるさと納税)を行った場合に、寄附額のうち2,000円を超える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度のことを指します。 そのふるさと納税には、2つの特徴的な仕組みがあります。
1つは、ふるさと納税の寄附者が使途を決めることができるという点、2つめは、ふるさと納税のお礼として各自治体から返礼品を受け取ることができるという点です。
その中に、使途としてスポーツに関連している項目が含まれている自治体もあれば、返礼品がスポーツに関する内容の自治体もあります。返礼品には、スポーツ用品などの他に、体験型としてスポーツ大会の参加権利などを返礼品とする自治体があります。
そういった、ふるさと納税の使途および返礼品にスポーツが関連している場合を「スポーツふるさと納税」と定義します。 スポーツふるさと納税導入事例 それでは、導入経緯や募集方法など実態はどうなっているのでしょうか。既にスポーツふるさと納税を導入している5つの自治体の例を紹介します。
1. 使途にスポーツが選ばれるための手続き
5つの自治体が共通して、ふるさと納税を担当している課が中心となり、ふるさと納税を活用するのにふさわしい事業かどうかを判断していました。
自治体の歳出歳入の視点で見ると、すでに自治体として予算を組み込んでいる事業であれば、使途の項目として設定しやすいことがわかりました。例えば、自治体が大会の主催者である場合、ふるさと納税の使途として導入しやすいことになります。また逆に、予算を組み込んでいない事業であれば、すぐに使途へ追加することは難しく、翌年度に向けて課内・議会を通すというプロセスを踏むことになっていることがわかりました。
シティプロモーションという視点で見ると、大会やチームが地域をPRでき、交流人口を増やすための重要な施策として推進されていると、ふるさと納税の使途として導入しやすいということがわかりました。
2. 返礼品としてのスポーツ
以下に5つの自治体のインタビューコメントをまとめました。
①群馬県前橋市
Jリーグチーム「ザスパクサツ群馬」、Bリーグチーム「群馬クレインサンダーズ」、プロ野球独立リーグ「群馬ダイヤモンドペガサス」といったプロチームを活用しています。また「赤城山ヒルクライム」自転車大会の参加権を返礼品に導入しましたが、寄附件数は0件でした。寄附申し込みがなかったのは、ふるさと納税の返礼品として参加権を募集したタイミングが一般募集登録後であったため、エントリー希望者に情報が届かなかったことが原因でした。
②新潟県佐渡市
佐渡国際トライアスロン大会、佐渡ロングライド(サイクリング)の出場権を体験型返礼品として設けた結果、抽選倍率が1.5倍の人気の大会であるトライアスロン大会には39件の寄附申し込みがありましたが、そうでないロングライドには2件の寄附申し込みでした。そのことから「出場することに価値がある大会が体験型返礼品を導入するにはふさわしい」また、「ふるさと納税で出場することを大会・地域に貢献しているイメージに変えたい」と考えています。
③東京都青梅市
2017年に体験型返礼品として青梅マラソンの出走権を初めて導入しました。その結果、スポーツ振興への使途を希望する寄附者が前年の約3倍増えたことから、スポーツふるさと納税において「返礼品と使途は密接に関係している」と見ています。
④愛知県名古屋市
市の方針として返礼品を設けないことにしています。そのため、市にふるさと納税をしていただいた方にマラソン出走枠を付与し、別途出走料を支払ってもらう形をとっています。
⑤愛知県常滑市
市にふるさと納税をされた方に対して「アイアンマン70.3セントレア知多半島ジャパン」大会事務局が独自に、参加料の割引を行っています。スポーツふるさと納税の取り組みを行うことで「自治体と運営側が良好な関係を築くことができている」と感じています。
スポーツふるさと納税の市場
このように、導入している自治体にインタビューしたところ、様々な実態が見えてきました。では、スポーツふるさと納税の市場はどうなっているのか、データで見ていきたいと思います。 まず、2016年度、スポーツふるさと納税の返礼品を導入している自治体数は322あり、総務省が公表している「平成29年度ふるさと納税に関する現況調査」対象の1,788全自治体のうち18.0%にあたることがわかりました。
322自治体のうち、競技別分類をみてみると図2のように分けることができました。ゴルフ施設の利用券が最も多く55.8%(239施設)、次にマラソン大会の出場権13.8%(60大会)、Jリーグチームの観戦チケットや応援グッズ9.0%(39自治体)と続きます。
「スポーツふるさと納税」返礼品の3類型
そして、これらのスポーツに関する返礼品は、3つに分類することができました。
①「利用型」…ゴルフ場、スキー場、テニス場・プールなど既存施設の利用券
②「参加型」…マラソンやトライアスロン、サイクリングイベントなど大会参加権
③「チーム応援型」…Jリーグチームやプロ野球チーム、Bリーグチームの観戦チケットや応援グッズなど
それら3つの類型に分け、ふるさと納税が多く集まっている上位10位を調べてみました。(322自治体のうち、具体的な件数・金額・使途がわかった161自治体の数字になります)
①「利用型」による寄附金額が最高だったのは、宮崎市(ゴルフ場利用権)の136,640,001円で、上位10自治体の内9自治体がゴルフ場利用券を返礼品としており、そのうち5自治体は東京や名古屋などの大都市近郊の自治体でした。
②「参加型」の返礼品で最も集まったのは京都府京都市の京都マラソンの出場権で寄附額は52,130,000円。京都マラソンは、2017年大会の抽選倍率が3.8倍の人気の大会ですが、上位10位の大会の参加抽選倍率も1.5倍以上、もしくは、先着順でも募集期間より早く締め切りになる大会が多いことがわかりました。
また、使途については、上位10大会中8自治体は大会の運営などに活用され、残りの2自治体はスポーツ振興の事業に活用されており、上位10大会すべての自治体において様々な形でスポーツ振興に活用されていました。
③「チーム応援型」で最も集まった自治体は山口県山口市のJリーグチーム「レノファ山口」を応援する権利(ユニフォームやタオルマフラーなどの応援グッズや観戦チケット)の17,865,000円でした。返礼品の種類としては体験型のシーズンパスなどと体験型ではないユニフォームなどのグッズも存在します。告知活動としてホームゲームやイベントで紹介を行っていたため、県内県外の比率が県内377件、県外71件ということがわかりました。
また、チーム応援型の自治体52のうち使途がチームを応援する事業に活用されているのは山口県山口市、東京都町田市、山形県天童市、群馬県前橋市、福岡県北九州市、徳島県鳴門市のみですが、それら5自治体は、いずれも「チーム応援型」寄附金額の上位10位に含まれていました。
ここまで「スポーツふるさと納税」の導入済みの自治体の考え方や市場について見てきました。後編では、スポーツふるさと納税が多く集まる要因をデータをもとに検証し、今後のスポーツふるさと納税の活用の可能性について論じます。