スポーツ庁ビジネス便り

スポーツ庁ビジネス便り
由良英雄│文部科学省スポーツ庁参事官

大学アメフトの試合での不正タックル問題では、スポーツ現場での指導のあり方、行き過ぎた勝利至上主義の防止、大学部活動の適切な運営、スポーツ団体の意思決定、問題が起きた時の迅速な対応など様々な課題を問いかけられています。スポーツ庁では、日本版NCAA構想の推進やスポーツ団体のガバナンスの改革などを通じて、スポーツ界全体の問題としてインテグリティの確保のための取組を進めていくこととしています。それも含め、平成30年度の施策展開など最近の話題をご紹介します。

1.スポーツイノベーションのプラットフォーム構築

IT技術の活用は、日本経済全体の成長戦略の中でも主要なテーマですが、スポーツビジネスにおいても、データ分析、センサー、映像活用などのIT関連のイノベーションは成長のエンジン役となるものです。元来スポーツは物理的な動きと様々な戦略を組み合わせる必要があり、IT技術の活躍が期待される分野であることから、技術と現場のマッチングによりIT活用を加速して行きたいと考えています。
これまでから、スポーツ分野での連携の取組の中で、新事業のプロジェクトや大きなポテンシャルを持つ技術の紹介など様々な魅力的な事例が取り上げられて来ています。そうした連携の取組を幾つか紹介してみます。
①Sports Analytics Japan
スポーツデータの分析と活用をメインテーマとし、2017年はMLBアドバンストメディアのCTOを招くなどセミナー、企業展示、コンペを実施。(一社)日本スポーツアナリスト協会主催。
②KEIO SDM Sports X
スポーツとソーシャルデザインの融合を目指すコンセプトで、「スポーツ×○○」の様々な切り口から学術発表、企業・団体などからの発表を実施。慶応大学で開催。
③Sports-Tech & Business Lab
スポーツ分野でのIT活用の具体的なプロジェクトを実現するべく企業、自治体などが広く参加してワークショップを開催。NTTデータ経営研が提案。
④『新経済サミット』におけるスポーツ関連セッションの開催
IT技術に強い企業が参画する新経済連盟が展開するニューエコノミーをテーマにしたフォーラムで、本年4月に、プロスポーツチームの経営ノウハウを学ぶセッションを開催。
⑤スポーツ産業学会
ご存じのようにスポーツ産業学会はIT×スタジアムアリーナのシンポジウムなど民間視点を取り入れた新たな取組を意欲的に展開中。
⑥関西経済連合会など
関西においても関経連、関西経済同友会、大阪商工会議所スポーツハブ、神戸スポーツ産業懇話会などが提言、マッチングなどの取組を展開。
今年スポーツ庁では、これらの幅広く展開されているIT技術関連のネットワーク形成の取組を更に全体としてつないでいくような連携関係の構築を目指し、共同での企画体制を提案して行きたいと考えています。それをイノベーションのプラットフォームとして、スポーツビジネスのインキュベーションを図りたいと思います。

2.経営人材の育成

(1)スポーツMBA構想など
スポーツ団体やスポーツチームの経営を担う人材の育成を図るため、スポーツヒューマンキャピタル(SHC)のカリキュラムは現在第5期が進行中ですが、そのSHCは今年3月に内閣府から公益認定を受け、公益財団法人として活動を行っています。スポーツ経営人材の養成事業のほか、その活用(職業紹介)の事業、調査・研究、イベント・出版などの事業を進めることとされています。
また、スポーツ庁では、米国で広く行われている大学院MBA(経営学修士)コースでの人材育成のため、スポーツMBAコースの具体化の検討を行っています。現に国内でも大学・大学院や専門学校などにおいてスポーツ経営人材育成コースがありますが、財務やマーケティングなどの分析手法や経営戦略の知見に基盤を置いたMBAコース内での取組はまだ国内では極めて限られています。まずは、経営学部とスポーツ学部の連携強化の事例の充実から進めて行きたいと考えています。
(2)中央競技団体(NF)の経営戦略
種目別の中央競技団体(NF)においても経営戦略の充実の取組が進んでいます。先日2つの団体の具体例をお聞きしました。  日本トライアスロン連合では、スポンサーシップのアクティベーションとして、NTT東日本・西日本には「NTTトライアスロンジャパンランキング」の冠協賛や世代別国内ランキングの協賛、ローソンには国内42大会の全参加手続きをローソンチケットに一元化、味の素には国内主要大会でのアミノバイタル提供・販売といったスポンサーごとのスポンサープログラムを開発提供しています。
日本陸上競技連盟では、JAAF VISION 2017を策定し、陸連が注力すべきMissionを①国際競技力の向上と ②ウェルネス陸上の実現の2つとシンプルに定義しました。このうちウェルネス陸上については、2040年に陸上競技・ランニングを楽しんでいる人口を2,000万人とする数値目標を掲げました。具体的な活動として、ロードレース・ファンランニング大会における熱中症や運営トラブルなどの事故を防止するための基準作りや承認制度の検討に取り組むことにしています。
こうしたNFごとの具体的な取組は、参加者の増加やスポンサーからの支援の拡大に直結してきています。
(3)女性役員
スポーツ分野における女性の活躍については、既にオリンピック・パラリンピックにおける女性アスリートの活躍という形で日本でも大きく進展してきているところですが、スポーツ団体の運営体制の中ではまだ女性の活躍は限られています。スポーツ庁では、こうしたスポーツ団体における女性役員の活動を支援するため、女性役員やその候補として期待される方々のネットワーキングを念頭においた研修などを実施していくこととしています。
男女共同参画社会基本法に基づき作成される男女共同参画白書の今年(6月15日閣議決定)の特集は「スポーツにおける女性の活躍と男女の健康支援」です。スポーツ分野での女性の参加・活躍促進等について様々なデータや実例が紹介されています。スポーツ庁でもこの白書の特集の作成に協力したところであり、今後これに沿った取組を更に充実していくこととしています。

3. コンプライアンス

レスリング、アメフトと指導者によるパワハラに関する事案が続きました。スポーツの現場に残る悪い上下関係がこうした事案につながっています。その本質的な改革のためには、科学的合理的で人格形成を重視した指導方法の確立が勝利のためにもなるということを実証していくことが大事で、指導者を育成研修する「グッドコーチ」のプログラムは着実に展開していく必要があります。  鈴木大地スポーツ庁長官は6月15日に、昨今のようなコンプライアンス事案の再発を防ぎ、2020年を迎える際に健全性を確保できるスポーツ界となるため、関係団体と一体となって取組を進める旨をスポーツ庁長官メッセージとして発信しました。  主な取組として、教育・研修の強化のほか、相談体制の充実・利活用の促進、問題事案に係る公正・迅速な調査と説明責任の履行などを掲げています。
残念ながら不合理な指導や組織の風通しの悪さが露呈した場合には、それに対して公正迅速な事案解明や厳然とした処分を行い、個別に再発防止策を講じていくことも必要になるので、それについての行政の関与の在り方についても検討を進めることとしています。
日本版NCAA構想の中でも、大学スポーツにおけるコンプライアンスの確保のための取組はしっかりと進めていくつもりであり、日本版NCAAの組織と業務の具体化のための設立準備委員会は、第1回会合を7月中に開催予定です。

4. 健康スポーツのための行動計画

スポーツ庁では、スポーツ実施率の向上のための新たなアプローチや即効性のある取組を行動計画として取りまとめるため、スポーツ審議会に設置した健康スポーツ部会において議論を進めてきました。今般、その検討を経て「スポーツ実施率向上のための行動計画(案)~スポーツ・イン・ライフを目指して~」を作成し、パブリックコメントも募集して議論を整理したところです。7月に開催するスポーツ審議会においてお諮りし、行動計画として策定する予定です。
この行動計画(案)では、施策の対象として子供、ビジネスパーソン、高齢者、女性、障害者を区分し、また、施策の段階として、する気にさせる施策、するために必要な施策、習慣化させるための施策に分けて体系的に取組を提示した上で、国、地方自治体、産業界、スポーツ団体、医療福祉関係者、学校を施策に取り組むべき主体として特定しています。
今後、これらの施策をしっかり推進するとともに、新たな制度創設・制度改正を視野に入れた中長期的な施策についても政策パッケージとして取りまとめていくこととしています。

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