競技人口減少下におけるゴルフのサスティナビリティを探る──後編
競技人口減少下におけるゴルフのサスティナビリティを探る──後編
服部 宏│株式会社ダンロップスポーツエンタープライズ トーナメント事業部 企画グループ
少子高齢化による競技人口減少が明らかなスポーツビジネス界においては、積極的な需要供給バランスの調整が必要になります。ピークは3兆円市場であったゴルフ産業を事例に、今後のビジネスの持続可能性を探ります。
【前編】では、日本におけるゴルフ産業の成長と現在の状況をみていただきました。(表1)
ゴルフ市場の変化
ゴルフ市場は1992年頃をピークとして、現在では約50%の市場規模に縮小しています。数値から市場変化(状況)を見てみると、2つのポイントが明らかになります。
①売上規模は半減するもゴルフ場の数は6.8%(約160施設)しか減少していません。─経営が厳しくなったゴルフ場は会社更生や民事再生など再生型の倒産を経験していますが、その大半が現在もゴルフ場として経営を続けています。 ②客単価を下げながら来場者数を維持しています。─ゴルフ市場規模の縮小は施設数の減少ではなく、施設の売上減少(来場者数減少や客単価の減少、利益の減少)によることが明らかです。
ゴルフ場の経営課題
現状のゴルフ場経営を考察する上で注目すべきことは売上高・利用者数の推移とゴルフ場で勤務する従業員数の推移との関係です。決算報告書を開示している約200コースを抽出したデータによると、対象となるゴルフ場の売上高合計のピークは2002年1,230億円で、2014年933億円と比べ24.1%減少、利用者数のピークは2003年の998万1,000人で2014年は941万9,000人と5.7%減少に留まりました。また従業員数のピークは2002年の9,038人で2014年は8,498人と6%の減少に留まっているという状況がわかりました。。つまり、客単価を落としながら来場者の確保はできていますが、売上が24.1%減少する状況でも従業員数を6%しか落せていないことは、人件費面での課題があると推測することができます。
・なぜ人件費面で問題があるのか、それは施設とサービスに問題があります。─メンバーシップコースが大半である日本と、パブリックコースが主流であるアメリカとを比較してみます。表2を参照すると、施設・サービスにかかる原価の違いも容易に比較することができます。
・競技人口減少下においてゴルフ場が取り組むべきこと─ 文献調査やインタビュー調査を行った結果、高齢化の進展や少子化などによる競技人口減少に対応した経営として「従業員の配置削減」「セルフプレーによる低料金化」「サービスの見直し」「営業ホール数の変更」などの試みがされていることがわかりました。会員との話し合いのもと、先述のアメリカ型ゴルフ場経営への転換を図っています。
経営分析
・メンバー稼働率─低下傾向であればサービス内容を見直す必要がある。
・ビジター比率─メンバー向けのフルサービスとビジターの客単価とのバランス。
・収支分析─<収入> ①会員権収入及び年会費 ②利用料金収入 ③キャディフィ収入 ④食堂及び売店の売上 ⑤ その他、宿泊施設等付帯施設による収入(宿泊や結婚式等の催事他) <支出> ①運営における基本経費(営業支配人管轄):役員報酬、従業員人件費、一般経費、施設管理経費、クラブハウス運営。※株主会員制の場合は株主配当、預託金会員制は償還 ②キャディ関連原価(キャディマスター管轄):キャディ労務費、マスター室人件費、カート等減価償却費③食堂・売店仕入れ原価(料理長もしくはレストラン支配人管轄):食材・販売品原価、販売人件費 ④ コース整備原価(グリーンキーパー管轄):固定資産税、コース管理費、資材費、労務費、減価償却費、コース造成費
高齢化の進展、少子化などによる競技人口の減少は深刻な問題であり、ゴルフ場はこれまでの手法(上記支出4部門①~④を各々の管理者が執行するクラブ経営や会員を基準としたフルサービス)では立ち行かなくなります。アメリカのゴルフ場のようなシンプルな運営方式、国内2大ゴルフ場運営会社が進めるコスト効率化や新しいサービスを先行事例とし、また近年のゴルフ場リニューアル事例や効率化事例とを合わせて、今後の日本のゴルフ場に相応しい効率化手法を検証することが必要です。
ここに「ゴルフ場の存続の可能性」と、「効率化から生まれる圧縮された時間や費用」という従来のゴルフに対するネガティブな印象(華美/贅沢/時間がかかる等)の根本的な部分での改善の可能性があります。
サービス変更
・オンラインシステム化─予約受付をする事務作業員を削減。集客データを基に従業員の勤怠管理や作業計画・スタート方式などを、戦略的に判断することが狙い。
・セルフプレー化─キャディの人件費分がかからないためプレーヤーの負担する代金が減少し、ライトゴルファーの抵抗が減る。ゴルフ場も労働条件や給料設定などが原因で
「雇用困難」な状況であり双方のメリットがある。
・従業員の配置転換と業務や移動の効率化─運営セクションの縮小、対応時間の短縮(2シフト交代制から、1シフトへ変更等)
・クラブハウス等 施設の改修─クラブハウスの各部門スペースは近くに配置し、導線効率をあげる工夫(人や物の移動距離の短縮)、余剰スペースの光熱費等の圧縮。
・平日は「アメリカンスタイル」と称した、簡易サービス/ライトミール/セルフプレーを導入─休日は「ジャパニーズスタイル」と称して、従来のサービス/プレースタイルと区別する等。
営業スタイル/サイズの変更
・営業ホール数の変更─27ホール以上あるゴルフ場は18 ホール営業を検討する。整備費用の圧縮、不使用ホールの2次使用。(太陽光パネル発電基地/宅地/墓地等)
・ワンウェイスタートやスループレーによる時間の効率化─ プレーヤーだけでなく従業員にも経営者にも有効である。
更なる経営の効率化を進めるための提案
予約、精算、売店などをすべてスターター(キャディマスター室)で管理する「スターター集中管理システム(アメリカ型オペレーション)」へ変更することが最善策と考えます。 ゴルフ場において、スタートの管理者はすべてのプレーヤーに接触し、運営する上で必要不可欠のセクションです。そこにすべての機能が集中することで更に効率化が進む期待ができ、コストが軽減できる分はプレー料金の低下やゴルフ場の利益として残る可能性があると思います。
会員との関係における変更や改善、料金やプレー時間の効率化により、それが各ゴルフ場の特徴となり、そこに新しい魅力やサービスが生まれ、ゴルファーが始める理由、続ける理由、もっとプレーする理由になることを期待します。
おわりに
今後のスポーツビジネスに携わるには、自己実現に向けてのトライアルだけでは、立ち行かなくなる可能性があるということを念頭に、産学官民との連携、ステークホルダーとの論理的な交渉、問題点から目を背けない積極的な計画、判断が必要な時代であるということを理解し、将来明るいスポーツビジネス界へ向かいましょう。