USメジャースポーツ施設視察ツアー報告

USメジャースポーツ施設視察ツアー報告
梁瀬和人│シスコシステムズ合同会社

今回のツアーは、アメリカのメジャースポーツ施設を体験しよう、それに加えてそのチームの方、自治体の方、オペレーターの方とのディスカッションを通して日本のビジネス、マネタイズモデルを考えるヒントを得る目的で企画いたしました。  11月16日に東京を出発して、サンノゼ(カリフォルニア州)に到着。その夜にSAP Centerでアイスホッケーの試合を観戦。翌日は、運用管理会社AEG社ならびに、前日の試合(San Jose Sharksのホームゲーム)のCMO(最高マーケティング責任者)の講演。また、Local Measure社、Wait Time社とシスコシステムズの開発責任者からスポーツビジネス戦略やアメリカの最新動向についての説明をいただきました。
11月18日は移動時間と時差の関係で完全移動日。
11月19日はミネアポリスにあるアメフトの競技場、US Bank Stadiumの施設見学ツアーに参加し、その後12時からの試合を観戦。夜はTarget Centerでバスケットボールの試合を観戦。
11月20日はUS Bank StadiumでスタジアムのCTO(最高技術責任者)、州がつくっているSMG社という運用管理会社の方々とQ&Aをさせていただき、理解を深めました。また、鈴木友也さんにお越しいただいて「米国スポーツ界の最新ファシリティ・マネジメント」について講演をしていただき、さらに理解を深めました。

US Bank Stadium

US Bank Stadiumは2018年2月のスーパーボールの会場になっている競技場です。2016年7月にオープン、収容人数は66,000人の最先端のスタジアムで、MSFA(Minnesota Sports Facility Authority)というミネソタ州の外郭団体が所有しています。非常に大きくて、もちろん屋根がついていますが、札幌よりも位置的にはずっと北で、行ったのは11月中旬でしたけれども、真冬のように寒い場所でした。
US Bank Stadiumは規模で言うと新国立競技場ぐらいの大きさですが、そこにIPTVのシステムを2,200台導入、大型スクリーンが南北、東西に2枚ずつ計4枚あります。一周を取り巻くリボンボードがあり、LEDライトの導入、大規模Wi-Fiシステムの導入によるサービス提供、アクセスポイント数は1,350です。
アメリカの携帯電話会社、AT&T、ベライゾンなどが共同のアンテナを建てており、競技場内での通信の活性化、インフラの強靱化のために提供されています。共有DAS(Distributed Antenna System)により4G通信をサポート(4キャリア)、10,000以上のセンサーとエネルギーシステムを統合。また、コマンドセンターでの集中監視・管理、スタジアム内には39の売店、109のポータル、約600台のPOSが導入されています。チケット収入だけではなく、食べ物等いろいろなところで収入を得るためのインフラがたくさん提供され、モバイルアプリによるサービス提供、チケットの完全モバイル化等を実施しています。
US Bank Stadiumをつくるときの資金調達手段を公的資金と球団負担の2つに大きく分けると、45%対55%の割合です。トータルの建設コストは11億29百万ドル(約1.3千億円)で、その回収のために如何に収入を得るかということが非常に重要なポイントです。
ここでは競技フィールドと同じフロアに6つの大きなクラブラウンジがあり、平均10~20名収容可能な138のスイートBoxが一周しているつくりになっていまして、合計約8,000名の利用が可能です。大企業が大きなスペースを年間で借り切って、お客さんをお連れして接待をするという形の場所になります。そのスイートルームやクラブラウンジからの収入合計は、一般のチケット収入の7~8倍に達するという計算になります。
アメフトの試合は年間ホームゲームが少ないにもかかわらず、これだけの投資をして回収できる見込みが立つのは、特にUS Bank Stadiumの場合は年間約600のイベントを開催していることです。フィールド利用+座席が埋まるイベントは年間15(フットボール10、コンサート5)、それ以外にフィールド利用+席の大半を利用するイベントが15~20、企業イベント等(セミナー、イベント)でも活用されています。
もう1つおもしろかったのは、Community Use Dateです。年間45日間、地域に貢献するための使い方をする日にちが州の法律で決まっています。地域の高校サッカー、アメフト大会は、ほぼ無料あるいは非常にロープライスで利用できます。それらを含めて年間のイベント利用を構成しているということでした。
非常に参考になった情報として、アメリカにおけるスタジアムに対する基本的な考え方として、まずセーフティー&セキュリティーが最重要で、安全に観客の皆さんに来て、見ていただくための仕組みが考えられています。また、統合されたインフラシステムもポイントです。競技場に来たお客様が良い気持ちになって、また来たいと思っていただくための取り組みには、いろいろなソフトウェアが変わっていきます。そのためにインフラはかなり強靱で強固なものが必要になります。その上でいろいろなものが改善されていき、そこでの人々の体験を通して、気持ち良く帰っていくことが重要だとおっしゃっていました。
Keep Freshという言い方をされていましたが、完成時に100%を求めるのではなく、80%でスタートし、常に発展していくことを目指す。基本にあるのはセーフティー&セキュリティーであり、その上に強固なインフラが必要だとのことでした。
セキュリティーに関して、15,000人以上の人が入るイベントとそれ以下のときでは管理の仕方やセキュリティー・オペレーションの体制を大きく変えています。例えば警備に関しては、15,000人以上入るときは州の警察やFBIと連携したオペレーションの体制を発動する仕組みがあります。
入場時のセキュリティー対策は日本でも行っておりますが、荷物の持ち込み制限、爆弾検査犬に留まらず、空気テロ対策として空気感染チェックシステムが導入されています。我々が見に行ったアメフトの試合はほぼ満席でしたが、15分に1回検査をしていましたし、試合のない日でもオープン時は1日2回空気感染チェックが行われているということでした。それに加えてIPカメラによる監視システムの導入、インシデントマネジメントシステムの導入、センサーシステムの活用など、セキュリティー対策は非常に深く、厳しい仕組みをつくっていることが理解できました。

いかに企業から収入を得るかということは、広告収入がポイントで、そのためにはデジタル技術を活用したサイネージでどれだけお客様にプッシュできるかということがあります。US Bank Stadiumには2,200枚のIPTV(サイネージ)があり、飲みながらでも会場の競技の状況がわかり、それ以外のいろいろな情報も見られるという非常に魅力的な演出をしています。これが広告収入を上げるために非常に貢献しています。
いろいろな会場やゲートにはそれぞれ別の名前をつけて、ゲートでネーミング・ライツを取っています。細かいことですけれども、収入を上げるための方策としていろいろ考えられています。もちろんWi-Fiを使ったオーダーサービスでは、専用レーンで待たずに食べられる、とれる、買える、クレジット決済で完了するなど、Wi-Fiを使ったいろいろなサービスがされている競技場でした。ライブ・ストリーミング・サービスは、Wi-Fiを使ってリプレイシーンをもう1回見たいとか、その選手だけを見てみたいといったこともできる、新しい観戦体験が提供されていました。といったところがUS Bank Stadiumの話でした。

SAP Center

初日にアイスホッケーの試合を観戦したSAP Centerは17,000人収容のアリーナですが、その2日前には有名な女性歌手のライブイベントが開催されていたそうで、音楽イベントからアイスホッケーへと素早く変えることで回転を多くして収入を得ることができます。ここも580以上のWi-Fiアクセスポイントが導入され、短時間に効果的な情報の提供により新しい観戦体験を提供しています。
先ほどのUS Bank Stadiumと同じように企業向けのアピールが非常にたくさんできる、観戦体験ができるものがたくさんサイネージとして置かれていて、どこにいても見られることと、やはりここにも多くのスイートルームで企業の方が入ることができます。特にここはBMWのスペシャルランチがありましたが、いかに企業から収入を得られるかということの工夫がとてもよくされているアリーナでした。約750枚のサイネージ、テレビ画面のような物がたくさんあり、ファンエンゲージメントというファンの方に喜んでいただけるような環境が整えられていました。

今回、ツアーを振返って気づいた点を3つ挙げます。
第一に、スタジアム&アリーナの見学は、見るのはもちろん重要ですし、観戦体験がとても重要ですが、やはりチームの方々やオーナー、運用管理会社の方々の話を実際に聞くことがとても参考になったと思います。
第二に、今回参加いただいた方の中には、プロ野球関係の方々が含まれていましたが、アイスホッケー、アメフト、バスケットボールと野球以外の全く別の競技場を見ることから新しいヒントを与えてくれて参考になったという感想もいただきました。
三点目は、セーフティー&セキュリティーがベースにあり、その上でのインフラの検討を早期から進めることが最終的には無駄な投資をしなくなるというポイントがとても重要だと思いました。
弊社は、35カ国、350競技システム、スタジアム&アリーナに導入しています。つまり、そこにそれだけの数の営業やSEの人間が担当しているので、人脈があります。皆さんがこういったところで何かしたい、話を聞きたい、ディスカッションをしたいというところにさまざまなお手伝いができるではないか、インフラが重要だということで、ぜひ設計の段階、企画の段階から我々に声をかけていただければ、いろいろと何かお手伝いができるのではないかと思います。

▶︎本稿は、2017年12月14日(木)に早稲田大学国際会議場で開催された「緊急シンポジウム:スタジアム&アリーナの新展開」の講演内容をまとめたものである。

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