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日本におけるeスポーツの未来 テレビゲームからスポーツへ その2─ゲームの寿命とeスポーツ生態系の構築─

日本におけるeスポーツの未来 テレビゲームからスポーツへ
その2─ゲームの寿命とeスポーツ生態系の構築─
中村鮎葉│Twitch社

eスポーツの生態系

2005年までは、eスポーツとかゲームの大会は動画で見ていました。動画というのはどういうことかというと、ナショナルジオグラフィックで番組があるとか、ゲームの大会の結果のDVDを見ているとか、後日動画で公開するといった、そういう流れでしたが、2011年にアメリカでTwitchを作った後は、ライブで誰でも発信できるようになりました。生で見られる技術、情報特に映像情報を、 http形式であったり、RTMP形式の情報信号で世界中に生で映像を発信する。動画投稿ではなくて、生のライブストリームを発信する技術が拡充してきまして、より盛り上がりやすくなってきたこともあり、eスポーツが盛り上がってきました。
Twitch社ではeスポーツを“生態系”と呼んでいます。一番上にまずゲーム会社さんや公式大会があり、その下に主要大会、独立でやっている大会がある。さらにその下に学生リーグとか、地方の大会であったりとかの、より細分化された大会があって、それに参加するプレイヤー(ゲーマー)やそのファンが一番下の層となる“生態系”をつくっているのです。このeスポーツの生態系の全てにコミットするのがTwitch社です。もちろんゲーム会社さんとも一緒にやりますし、大きなイベントを自主的にイベントを開催している人であったり、地方の人であったり、また1プレイヤー、その全てとやりとりをすることが大事だというふうに思っています。
eスポーツタイトルには、順位というかランキングがあります。その根拠理論は必ずしも信用できないのですが、スマートキャストというアメリカのウエブサイトがeスポーツゲームタイトルのランキングを出していまして、どのくらい盛り上がっているのかが分かるのですが、“生態系”が存在して盛り上がったタイトルが上位にランキングされているように感じます。

eスポーツになる

ところで、eスポーツってゲームタイトルがeスポーツになるというか、eスポーツというくくりがあって、その中にゲームタイトルがあるというふうに考えられがちなのですが、そうではなくてゲームタイトルの中にeスポーツの要素があるのです。ゲームタイトルを無作為に1個選んで、「これはeスポーツなのかどうか」というふうになるのではなくて、プレイヤーがいる、見る人がいる、大会があるという1つ1つの生態系ができて、そのゲームをプレイしている人がみんな上を見ている、みんなeスポーツの大会を見るという生態系が成り立たないとeスポーツというふうには言えないのです。
こういう見方を基盤として、我々は「eスポーツになる(become esports、grow into esports)」という言い方をしています。新たなゲームが作られても、すぐにそれでビジネスが成り立つわけではありません。“eスポーツになる”ことを目指してゲームを成長させることが必要です。例えば、「ロケットリーグ」というゲーム。海外ではすごく売れていたインディゲームで、もともとは個人開発から始まってだんだん開発人数がふえてきたゲームなのですが、おもしろいゲームなので買っていく人、エンジョイで遊んでいる人は多かったのですが、競技としてやっている人や見ている人は少なかった。このゲームを2~3年かけて生態系を構築し、プレイヤー、観客が埋められるような大会をつくってきました。
ほかにもEVOやリーグ・オブ・レジェンドなども、ワールドチャンピオンシップの生放送で瞬間的なバズ量を大きくしたり、エクスペリエンスをみんなとシェアしたり、SNSにみんなでシェアしていったり、という方向性で盛り上げることに取り組んで世界でやってきたのがTwitch社です。

知的財産としてのゲームタイトル

もちろんeスポーツはゲームタイトルです。ここが特にスポーツと異なるところで、ゲームはゲーム会社の知的財産だということです。ゲームを盛り上げるとやはり一番喜ぶべきなのは、それを所有しているゲーム会社です。ここに利益があるべきなのです。ゲーム会社はeスポーツをやるとどんなメリットがあるのかというと、ゲームの長寿化ができます。昔はゲームは4~5千円で買う物でした。パッケージで買って遊んで完結という感じだったのですが、ゲームがeスポーツになることによって、ゲームを2千円くらいでダウンロードし、その中で徐々に課金をしていく。しかも、eスポーツとして競技としてやっているわけですから、みんな練習をしたり大会に出たりしているわけですね。
課金したら強くなるのかといえば、eスポーツサイドはそうじゃないもののほうが多いのです。限定のキャラのコスチュームであったり、その年の限定の武器の外見であったりとかで、自分がゲーム内でかっこよく見える。他の人に対して、「これはおれ昔からやっているから、この武器の飾りを持っているんだよ」みたいに自慢ができて、長年プレイしてお金を払うモチベーションになるというのが、ゲームをeスポーツにするメリットです。もし皆さんがeスポーツをやりたいなと思ったら真っ先にすべきことは、「こういうふうにやるとゲームが長寿化しますよ」というふうに言ってゲーム会社さんに営業に行くのが公式大会を開く場合は一番楽な方法、一番説得しやすい方法だと思います。
我々がゲーム会社さんと何かを取り組むという時に、 Twitchで公式大会を発信して、大会を見た人にゲーム内アイテムを与えるとか、というようなことをやったりしますし、親会社がアマゾンなので、見ている人にそのままアイテムを買ってもらったり、そのゲームを買ってもらうとか。スポンサーがゲームの大会についていたら、そのスポンサーの飲料を買ってもらう。そのスポンサーのキーボードを買ってもらう。ヘッドホンを買ってもらうとか、すぐに売り上げにつなげて利益に直結させることをやっています。ゲーム会社さんと取り組んで我々に映像コンテンツがあるというメリットもありますが、そこから一気に買ってもらうメリットでゲーム会社さんであったり、スポンサーさんであったりに直接還元する。そういうことが可能になっています。
知的財産があると取り組むのが大変かもしれないと思うかもしれないのですが、eスポーツは数が大きいですし、若い人が集まりやすい傾向があります。この数を生かしてスポーツチームを運営することもできます。例えばEcho Foxというeスポーツチームは、いろいろなプレイヤーを抱えながら、ニューヨークヤンキースから出資を受けています。サクラメント・キングスがeスポーツチームとして始めたのがNRGは、すごくファンが多い。特に若い人、コードカッター、ケーブルカッターと言われるテレビを見ない子供たちに波及するにはゲームを窓口にすることが効果的です。こういう取り組みをしているスポーツ団体がアメリカには既にありまして、奨学金が出ますよとか、高校の授業でゲームをやったりしますよという流れもあります。

eスポーツにおける教育的価値

補足ですが、僕はeスポーツこそ教育に向いていると思います。まず競技への姿勢、強くなること、遊びとしてではなくて強くなりたい、友達に勝ちたいという時にすごくやる気が出ます。そうすると調べ物をしなければいけません。そして、練習をするために人と会話をしなければいけないわけです。礼に始まり礼に終わるわけです。ゲーマーで態度が悪いやつがいたり、いきなりため口のやつがいたり、アクションをしないようなやつがいたら、「何だ、あいつは」というふうにネットに書かれてしまいます。そうなると大変なわけで、ゲームをやっている若い人というのは、そういうのを気にしながら、礼儀大事だなということを自主的に学んでいく。ゲームでeスポーツのイベントに行ったら、皆さん一斉に礼みたいなことはしませんが、みんな自主的に強くなるために礼を覚えていくという日本の美徳みたいなものがeスポーツにあります。そして、知識です。デバイスであったり、ソフトウェアであったりの知識が大事です。知識で負けることがあります。知識で実力差が出ます。特にPCゲーム、PCでやるので、PCの性能が実力に直結しています。また、このゲームだからこういうモニターのほうが強いなみたいなことを自分で考えたり、自分でブログを書いたりできなければいけません。そういう発信力であったり、デバイスを見る審美眼であったり、そういうところがゲーマーには求められています。そして、動画であったり、生放送、生配信の知識ですね。僕が長くつき合っているTSMというチームのZeRoという人がいるのですが、「ただ強いだけじゃだめなんだ。クリエイターとして、1人のパーソナリティとしてやっていかなければいけないんだから、発信することが自分でできなければいけない。プロフェッショナリズムも必要だし、言葉使いにも気をつけましょう」ということを長く布教しています。映像を出すとか、映像を編集する、生でファンとコミュニケーションをとる。それをするには知識が必要です。eスポーツをやる、eスポーツで上を目指すということには直接教育的な価値があるというふうに僕は断言できます。
2019eスポーツに興味があったら、今のゲームで遊んでみて欲しい。ゲーム友達をつくってみると。色々なことが見えてきます。ゲームをすることで調べ物をしたり、リサーチしたり、動画を見たり、色々なものが出てきて、eスポーツのことがわかるようになります。何よりもタイトル選びですね。自分の好きなゲームを探して遊んでみていただきたいと切望しています。(続く)

▶︎本稿は、2018年7月23日(月)に、早稲田大学で開催された第46回スポーツ産業学セミナー「テレビゲームからスポーツへ!日本におけるeスポーツの未来とは~無限の可能性を秘めるeスポーツのこれから~」の中村鮎葉氏の講演内容および質疑の一部をまとめたものであり、3回に分けて連載しています。

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