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スポーツ産業のイノベーション─㉙ 奪い合いの「競争社会」から 譲り合いの「平和な社会」へ

スポーツ産業のイノベーション─㉙
奪い合いの「競争社会」から 譲り合いの「平和な社会」へ
植田真司│大阪成蹊大学経営学部教授

21世紀になり、便利な世の中になったが、地球環境の変化やロシアのウクライナ侵攻、中国・台湾問題、国内では少子高齢化、貧困問題など、将来の不安は尽きない。
これらは、グローバルリズム、新自由主義の行き過ぎた競争により国や企業が環境を破壊しながら利益を奪い合い、格差を拡大したためと考えられる。世界が平和であるためには、今までの価値観を改めなければならない。今回は、競争社会による現状とその対策について考察した。

持続可能な社会とは

2015年の国連総会で採択されたSDGsは、「持続可能な開発目標」の略であるが、SDGsは正式名称ではない。正式名称は「Transforming our world(我々の世界を変革する)」であり、「Transform」は表面的な変化でなく、変身といった大きな変化をあらわす。我々の生活様式を、少し変えただけでは、持続可能な社会にはならない。すでに、現在の人類の生活様式では、地球1.8個分が必要なのである。人類が永遠に地球で生活するためには、何をしなければならないのか真剣に考えなければならない。
人類が生きるためには、水、酸素、食料が必要である。そのためには植物の光合成が必要であり、植物が実をつけるには昆虫による受粉も必要である。また、動物が死ぬと微生物が分解して、植物の養分をつくる。持続可能とは、これらの循環する生態系を守ることでもある。
にもかかわらず、多くの企業は地球の環境や生態系を軽視し、市場の奪い合い、顧客の奪い合い、利益の奪い合いをしている。他者を踏み台にした競争や一人勝ちを目的にした競争、これはもはや競争ではない戦争である。

様々な社会問題

2022年の世界銀行の発表では、1日あたり2.15ドルで生活する極度に貧しい人は22年末に6億8500万人に上るとしている。一方、フォーブスが発表した2023年版の世界長者番付によると、1位はLVMH(ルイ・ヴィトンなど)のベルナール・アルノー氏で資産額は2110億ドル、日本円で約30兆円、日本の1位はファーストリテイリングの柳井正氏で4兆9700億円である。この貧富の格差は異常である。
国内でも、非正規雇用が増え、物価が上昇し、低所得者層と富裕層の所得格差も拡大しており、多くの若者たちは、将来の不安から、結婚や子どもを作ることもあきらめているように考えられる。
日本財団が世界9カ国で実施した「第20回18歳意識調査」では、「将来、国が良くなる」と考えている人が、日本は9.6%で最下位であった。ただ、「自分の国が将来、どのような国になって欲しいか」の質問では、「平和な国」「国民の幸福度が高い国」が上位にあがっており、平和を望む気持ちは強いようである。

縄文時代に学ぶ

若者たちは、受験戦争、就活戦争(今や就活塾もあり戦争と言われている)を経て、就職後も年金を払い。健康保険料を払い。借りた奨学金を返済し、老後のために貯金をする。当然将来が不安であり、「平和で、幸福度が高い国」を求めるのは、当然かもしれない。
過去の歴史を振り返ると平和な時代があった。縄文時代である。1万年もの間、自給自足で家や道具を作り、罠や落とし穴で狩りをし、病人やケガをした人を看病した形跡もある。身分に大きな格差もなく、戦いに使った武器なども見つかっておらず、複雑な縄文土器やヒスイや猪の牙でできた首飾りなど、文化を楽しむ時間を持っており、平和に暮らしたと考えられている。
上田篤氏は、著書「縄文人に学ぶ」で「私たちが旬の味覚を楽しむのも(中略)、家々に神棚や仏壇を祀るのも、みなルーツは縄文にあり、驚くほど豊かで平和なこの時代には、持続可能な社会のモデルがある」。また、「縄文時代は、母系制社会であり1万年の長きにわたり争いが無く、婚姻の形態も無く土地への執着により危険の予知に優れた特性を持っていた。弥生時代は、父系制社会に変わり争いや格差が出来てきて現代につながっている」と述べている。

平和なスポーツへ

スポーツには、さまざまな楽しみ方があるが、その目的により我々が得る価値観も違ってくる。
例えば、近代オリンピックは、1896年の第1回大会は、スポーツを通じて平和な世界の実現に寄与することを目的とした「平和の祭典」であった。しかし、今やプロ化、ショー化により、平和よりビジネスを目的とした「金メダルを奪い合う競技大会」になってしまった。
また、アスリートにも、「目には目を歯には歯を」の精神で反則ぎりぎりで勝ちにこだわる人もいれば、「スポーツマンシップ」の精神で勝ちよりプレーの内容にこだわる人、自らの成長を楽しむ人もいる。
これから「平和な社会」を望むのであれば、「ゴルフ」「ボウリング」のようにハンディキャップにより誰もが勝つチャンスのある競技や、年齢・性別・障害にかからず誰もが一緒に楽しめる「ユニバーサルスポーツ」や「ゆるスポーツ」のような「平和なスポーツ」に注目したい。

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