部活動改革のフロントライン ―名古屋高等学校サッカー部のケース―

部活動改革のフロントライン
—名古屋高等学校サッカー部のケース—

名古屋高等学校サッカー部監督/一般社団法人SV名古屋代表理事
山田武久

少子化や教員の働き方改革、部活動の地域展開などを背景に、学校部活動は大きな転換点を迎えている。名古屋高等学校サッカー部では、2022年に一般社団法人SV名古屋を設立。学校という教育の場を基盤としながら、法人による財務管理、スポンサーとの連携、専門人材の活用、育成年代の組織づくりを進めている。「ガバナンスが競技力を変える」と語る山田武久氏。教員個人の献身に依存する部活動から、持続可能で地域に価値を還元する組織へ。その最前線で続く試行錯誤と、これからの部活動の可能性を語った。

部活動を取り巻く「スクランブル交差点」

私は名古屋高等学校で英語科の教員をしながら、サッカー部の監督を務めています。現在の学校部活動を取り巻く環境は非常に複雑になっています。教員は日々の校務に追われ、その一方でコンプライアンスへの対応も求められます。保護者、地域、子どもたち、それぞれからさまざまな意見が寄せられる。私は、今の部活動運営を「スクランブル交差点のような状況」だと感じています。
また、少子化が進み、チームそのものを維持することも難しくなっています。名古屋市内でも、公立中学校では十分な活動時間を確保できないケースが増えています。平日は週1、2回程度、土日にほとんど活動できないケースもあります。一方、私立中学校は従来に近い形で活動を続けています。その結果、大会の上位に私立校が多く残るという状況も生まれています。
これは単純に「公立が弱くなった」「私立が強くなった」という話ではありません。
そもそも子どもたちがスポーツをする環境そのものに差が生まれ始めているということです。
そうした中で、従来の学校の枠組みだけで部活動を維持していくことには限界があるのではないかと考え、2022年に一般社団法人SV名古屋を設立しました。 法人をつくった目的は、学校から部活動を切り離すことではありません。学校には教育の場として大きな価値があります。一方で、学校という枠組みの中だけでは柔軟に動きにくい部分もある。そこで学校と法人の役割を分けながら、責任の所在を明確にし、持続可能な形で運営していこうと考えました。

すべての土台になる「財務の透明化」

私たちが法人運営で重視していることは、大きく三つあります。第一が財務運営の透明化、第二が外部資金の確保、そして第三がガバナンスです。その中でも、財務の透明化は最も大切な土台ではないかと思っています。
部活動では、保護者から会費や遠征費などを預かります。
しかし、その管理が顧問個人や任意団体に依存し、外から見るとブラックボックスになっているケースは少なくありません。 以前であれば、それでも成り立っていたのかもしれません。しかし今は、すべてをクリーンな状態にして、外から見ても説明できる組織でなければ続けていくことが難しい時代です。
例えば、私自身が毎日出納帳をつけ、一円の間違いもないように管理していたとしても、保護者から見れば「本当に適正に使われているのか」という疑問を持つ可能性があります。実際に、そうした経験もありました。大切なのは、「悪いことをしていないから大丈夫」ではありません。悪いことをしていないことが、外から見ても分かる仕組みにすることです。
法人化したことで、外部の税理士に入ってもらい、きちんと決算を行うようになりました。当然、法人税も納めますし、決算も公開します。つまり、資金管理を顧問個人の誠実さだけに委ねるのではなく、制度として担保するということです。部活動に対してさまざまな意見やクレームが寄せられる中でも、資金管理に関する問題は組織の存在そのものを揺るがしかねません。だからこそ、クリーンな財務は「あった方がいいもの」ではなく、活動を続けるための最低条件だと思っています。
現在、一般社団法人では年間で約4,000万円のお金が動いています。会費や遠征費などの出入りも法人で管理しているため、その総額が大きくなっています。
それでも、これだけのお金を扱う以上、昔ながらの部活動会計の延長線上ではいけません。活動の規模に応じた組織と管理体制が必要になります。

スポンサーは広告主ではなく、教育活動のパートナー

活動を続け、指導環境を充実させるためには、当然、資金が必要です。学校から外部指導者に支払われる費用だけで、現在のスタッフ体制を維持することは現実的にできません。そこで私たちは、スポンサー企業との連携にも取り組んでいます。
ただ、私自身はユニフォームの胸に企業名を入れれば、それだけでスポンサーとしての価値が生まれるとはあまり考えていません。高校生のチームのユニフォームに名前が入ったからといって、それだけで企業を多くの人に知ってもらえるわけではないからです。それよりも大切なのは、スポンサー企業が教育活動を通じて何をしたいのか、その企業が持っている価値を私たちの活動とどう結びつけるかです。つまり、スポンサーシップの「アクティベーション」をどうつくるかだと思っています。
例えば、寝具メーカーのRISE東京とは数年にわたり連携しています。選手を対象に睡眠講座を開き、睡眠がなぜ必要なのか、パフォーマンスとどう関係するのかを教えてもらっています。最終的には商品の紹介もありますが、講座の大部分は睡眠そのものについて学ぶ時間です。
私は選手たちに、パフォーマンスを支えるものとして「トレーニング・栄養・休息」の三つがあると話しています。名古屋高校の生徒は勉強もしなければなりません。朝早く学校に来て授業を受け、サッカーをして、また勉強する。当然、睡眠に使える時間にも限界があります。それならば、睡眠の「質」をどう上げるかを考える必要がある。そこに企業の専門性を生かしてもらうわけです。
企業にもメリットがあり、私たちにもメリットがあり、何より生徒に教育的な価値がある。私は、そういう企業と一緒に取り組みたいと思っています。また、スポンサー企業からすると、任意団体よりも法人と正式な契約を結ぶ方が安心できます。外部資金を受け入れる「器」という意味でも、一般社団法人を持っていることは非常に重要です。

「ガバナンスが競技力を変える」

私たちが法人をつくったのは、経営そのものをしたかったからではありません。最終的な目的は、選手たちがより良い環境でサッカーに集中できるようにすることです。私は「ガバナンスが競技力を変える」と考えています。財務や契約、組織運営が不透明で、毎日のようにクレーム対応に追われていれば、指導者はサッカーの指導に集中できません。「保護者からこう言われているから、この子には少し優しくしようか」といったことまで考え始めたら、本末転倒です。財務や運営をきちんと整えることで、指導者が指導に専念できる。選手も、与えられた環境の中で100%トレーニングに集中できる。その環境をつくることこそ、私たち大人の仕事だと思っています。そのために、人材面でもスタッフを充実させています。現在は分析担当やフィジカルトレーナーが入り、メディカル面ではドクター2人、理学療法士4人、鍼灸師1人などに関わってもらっています。
現在、私たちの活動には約160人の選手が参加しています。これだけの人数を一人の監督、一人の顧問だけで細かく見ることは不可能です。指導者や専門家を増やすことは、子どもたちを「見る目」を増やすことでもあります。一人ひとりにアプローチできる環境をつくっていくことが大切です。
さらに大学との連携も進めています。
医学系の研究者による血液検査や身体的な状態の分析、大学と連携した栄養指導、筋肉と神経の働きを調べる研究など、さまざまな専門家に高校サッカーの現場を活用してもらっています。 スポーツを科学していく必要がありますし、高校生の段階からサイエンスに触れる機会をつくることにも意味があります。高校サッカーの現場を閉じた場所にするのではなく、研究者にも開く。それによって選手の競技力向上だけではなく、スポーツ科学そのものにも貢献できるのではないかと考えています。

多様な大人が出入りするグラウンドが、キャリア教育になる

質問の中で、「こうした外部とのつながりが、選手のキャリア意識にも影響しているのではないか」という質問をいただきました。私は、まさにその通りだと思っています。 私たちのグラウンドには、子どもたちからすると「知らない大人」がたくさん来ます。私やコーチの関係者だけでなく、スポンサー企業の社長が来ることもあれば、これからスポンサーになりたいという企業の方、研究をしたいという大学の先生、ドクターなど、いろいろな人がやって来ます。選手たちは、その姿を横で見ています。そこには、実はキャリア教育が存在しているのではないかと思っています。高校生の頃、自分の身の回りにどんな仕事があるかをどれだけ知っていたかと考えると、それほど多くありません。親の仕事や学校の先生、医師、弁護士、警察官といった比較的分かりやすい職業は知っていても、世の中にはもっと多様な仕事があります。スポーツに関わりたいと思った時も、プロ選手や監督になるだけが道ではありません。
ドクターになってスポーツに関わることもできます。一般企業に勤めながら、スポンサーという立場でスポーツを支えることもできます。研究者としてスポーツに携わることもできる。そういう大人たちを実際に目の前で見ることは、非常に大きなキャリア教育になっていると思っています。
名古屋高校では、練習時間も限られています。90分程度の中でどれだけ集中できるかということを大切にしています。文武両道を掲げる以上、勉強をせずにサッカーだけをするという選択肢はありません。限られた時間の中で考え、判断し、自分自身に矢印を向けられる選手を育てたい。私は、考える力や学ぶ力と競技力は決して別々のものではないと感じています。

外に流れていたお金を、もう一度チームへ

今後の課題として考えているのが、より自立した運営です。
現在、運営資金の大きな部分は会費です。スポンサー収入は年間300万〜400万円程度で、スポンサーだけで組織を運営できる段階ではありません。そこで、これまで外部に支払っていたお金を、可能な範囲で内部循環させられないかと考えています。例えば遠征です。遠征を旅行会社にお願いすれば、ホテル代などに加えて当然手数料が発生します。私たちが協業している企業には旅行業に関する機能もあるので、これまで外へ出ていたお金の一部を、自分たちのネットワークの中で循環させることができないか。現在、その仕組みを検討しています。
主催大会についても同じです。できるものは内製化し、そこで生まれた収益を再びチームの環境整備へ戻していく。まだ完成したモデルではありませんし、すでに大きな利益が生まれているわけでもありません。しかし、外部に流れていたお金を少しでも内部に戻し、それをスタッフや選手の環境に再投資できる仕組みをつくりたいと思っています。
会費を集めて、それを使うだけの組織から、自分たちの活動によって価値を生み、その価値を再び子どもたちに還元する組織へ。そう考えると、これからの指導者には「経営者の視点」も必要になります。サッカーを教える技術だけではなく、お金をどう管理するのか、人材をどう確保するのか、リスクをどう管理するのか。そして地域や企業に、こちらからどんな価値を提供できるのか。部活動を持続可能にするためには、そうした視点が必要になってくると思っています。

学校の「所有物」を、地域の「財産」へ

私たちが最終的に目指しているのは、名古屋高校やSV名古屋が地域のハブになることです。名古屋高校・中学校という枠を超えて、地域に開かれた学校、地域に開かれたクラブになっていきたいと考えています。
現在は、小学生年代のジュニア、中学生年代のジュニアユース、そして高校のサッカー部という育成の流れをつくり、それぞれのカテゴリーに関わる指導者が高校の指導にも携わるような体制を整えています。また、地域でのサッカー教室も行っています。
先日、名古屋高校出身の現役Jリーガー3人がオフ期間に戻ってきた際、小学生を対象としたサッカー教室を行いました。SNSで告知しただけでしたが、200人を超える応募がありました。小学生が名古屋高校のグラウンドに来て、高校生やプロ選手と一緒にボールを蹴る。私は、こういう風景をもっと増やしていきたいと思っています。
これまで学校のグラウンドや部活動は、ある意味では学校の「所有物」でした。しかし、それを「地域の財産」にしていくことはできないでしょうか。学校が持っている施設、人材、ノウハウ、ネットワークを地域に開き、そこに人が集まり、地域が活性化していく。部活動の地域展開を考える時、その先にこうした姿があってもいいのではないかと思っています。単に学校の部活動を地域クラブへ移すというだけではなく、スポーツを中心に地域の中に新しいつながりをつくっていく。それが私たちの考える地域展開です。

私がいなくなっても続く組織をつくる

私は現在51歳です。もう少しすれば定年を迎え、いつかは学校を離れます。その時に、「山田がいなくなったから終わりました」という組織では意味がありません。名古屋高校サッカー部には、これまで多くの先輩たちが残してきた歴史があります。それをそのまま守るだけではなく、時代に合わせて形を変えながら、どこまでサステナブルな組織にできるのか。その挑戦を今しているところです。自立した運営を行う。指導者が経営者の視点を持つ。リスクを管理する。そして、勝つことだけではなく、地域や企業にも価値を提供する組織になる。私たちはサッカー部ですから、もちろん競技力を高め、試合に勝つことを目指します。ただ、組織の価値を勝敗だけに置く必要はないと思っています。
スポーツをきっかけに地域が盛り上がる。若い世代が地域に集まる。企業や研究者、医療関係者がそこに関わる。スポーツをする人が増え、健康寿命が延びる。さらにその先には、地域や県、国への貢献もあるかもしれません。一つの高校のサッカー部から、そこまで広げて考えていきたい。部活動改革には、一つの正解があるわけではありません。私たちの形が、どの学校でもそのまま通用するとも思っていません。ただ、学校だけですべてを抱え込むのではなく、法人、企業、専門家、大学、卒業生、そして地域とつながりながら、子どもたちのスポーツ環境を持続可能なものにしていく。
学校の所有物だった部活動を、地域の財産へ変えていく。
名古屋高校サッカー部とSV名古屋の取り組みは、その可能性を探る一つの挑戦だと思っています。

 

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