Bリーグのクラブ経営と地域戦略の実践
Bリーグのクラブ経営と地域戦略の実践
Bリーグの成長を支えているのは、コート上の勝敗だけではない。地域社会との関係構築やアリーナを核としたまちづくり、そして持続可能な経営戦略が、いまプロスポーツクラブに求められている。本稿では、独自アリーナを活用した一体経営に挑むアルバルク東京と、「地域のために存在するクラブ」を掲げて京都の活性化に取り組む京都ハンナリーズの事例を紹介する。両クラブ経営トップの講演を通じて、プロスポーツクラブが地域にどのような価値を生み出し、人々をつなぎ、未来のまちづくりに貢献しようとしているのか。その実践と可能性を探る。
アルバルク東京
「スポーツビジネスとアリーナ運営との一体経営戦略」
林 邦彦(トヨタアルバルク東京株式会社代表取締役社長)
2016年にBリーグが発足し、その参入条件に必ず運営会社を設立することが明記されておりました。当時、私は三井物産株式会社で広島東洋カープをはじめ、プロ野球の運営に携わる仕事をしていたこともあり、白羽の矢が立ちました。とはいえ私自身、バスケットボールの経験は皆無でしたから、4つの観点から向き合うことにしました。
1つ目は「少子高齢化」です。少子化が非常に加速している中でも、バスケットボールは6人いれば3×3が、10人いれば5人制のルールでプレーができます。チームスポーツにおいて比較的少人数でできる点は他競技に比べて優位性があると感じました。
2つ目は「温暖化」です。近年の高温化で屋外の行動に制限がかかる背景の中、気候変動にアジャストしやすいインドアスポーツのメリットを覚えました。
3つ目は「シーズン」です。メジャースポーツの多くは当時、春から秋に実施されていましたが、バスケットボールの場合は秋から春にクラブシーズンが設けられており、時期に関する競争力が高いと踏みました。
そして最後に「グローバル」です。昨今、海外で活躍する選手が増えています。世界的にも競技人口が多く、人気のあるバスケットボールは大きな潜在能力を秘めていると考えました。
より高度な戦いへ移行するスポーツシーンの中で求められた
専門性や十分なサポート体制
アルバルク東京の母体はトヨタ自動車男子バスケットボール部で、今年で創部78年を数える歴史あるクラブです。トヨタ自動車が90%、三井物産株式会社の100%関係会社である三井物産フォーサイト株式会社が残りの10%の株を保有するかたちで発足し、Bリーグでは過去2度の優勝、またアジアクラブチャンピオンシップで1度の優勝と、今年1月には天皇杯を制しました。
企業スポーツがこれまでの日本のトップスポーツを長く支えてきたことはまぎれもない事実です。一方で企業スポーツの主たる目的は、集客や入場者収入の追求ではなく、企業内での福利厚生や自社の広告宣伝、リクルート活動への役割が非常に大きいと思います。同じ社員が競技を頑張っていることで、社内の士気を上げるといったエンプロイエンゲージメントに寄与するものでした。
現在、世界のスポーツシーンはより高度な戦いへ大きく移行しております。選手個々の力だけではトップカテゴリーで成長を成し遂げることは困難になり、十分なサポート体制を整備することが大切になりました。そうなれば従来のような企業スポーツの体制だけで運営していくことは非常に厳しく、競技に没頭できる施設や環境、チームを支える専門組織が必要です。
プロスポーツビジネスとは一般的に、高度な技術能力を持ったチームや個人による試合を売るという興行ビジネスになります。なかなか容易に踏み込めない業界のイメージがありますが、実際に携わってみると、様々な産業が複合的に関わり合っているコンテンツビジネスであり、その価値をチケットやグッズ、放映権やスポンサーといった商品で販売していく、極めて普通のビジネスモデルだと感じました。
スポーツは「筋書きのないドラマ」という表現が用いられるように、その商品自体に不確実性が伴います。ビジネス的にコントロールできない要素が根底にあるので、いかにリスクコントロールを図るかが、この業界における非常に大きなポイントになります。それらをマネジメントしていく中で、アルバルク東京が選んだのが「施設との一体経営」でした。
2025年に「TOYOTA ARENA TOKYO」を開業。
クラブとアリーナの一体経営が実現
クラブが運営面で抱えていた最大の経営課題は「ホームアリーナが固定しなかったこと」です。当初は「国立代々木競技場第二体育館」(東京都渋谷区)でスタートしましたが、東京オリンピック・パラリンピックの関係で改修工事を行う必要が出てきたため、立川市の体育館へ移転しました。そこで5年間ほど活動し、再び渋谷区へ戻ってきたわけですが、地域に根ざす観点からすれば、これは「根なし草の9年間」と表現できるものでした。
Bリーグは「アリーナの収容人数は5,000人以上」かつ「年間30試合のうち8割をそのホームゲームで開催しなければならない」という規定があり、どこでホームゲームを実施してもいいわけではありません。その点も踏まえ、昨年「TOYOTA ARENA TOKYO」(東京都江東区)をオープンしました。
建設・開業にあたって重要視したのは「勝敗や試合内容以外の楽しみをどれだけ提供できるか」ということです。試合だけに依存するモデルから多様な楽しみ方を提供していく複合型ビジネスでのエンターテイメントコンテンツに仕上げたいと考えました。これは私自身、三井物産株式会社時代に広島東洋カープのホーム球場である「MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島」(広島県広島市)での成功例があったからです。
実際に「TOYOTA ARENA TOKYO」もメインアリーナはどの位置からでもコートに正対して観戦ができる楕円形の観客席を導入し、またエンターテイメント性を高めるために天井の大型ビジョンに加え、国内では唯一となる2本のリボンビジョンを設置しました。さらにホスピタリティエリアではアリーナ内にスイートルームを設け、一方で屋外にはジョイントパークというイベントの有無に関わらず自由に足を運べる空間をつくしました。
立地的にも主要交通の駅や空港から概ね30分ほどで到着する場所にあり、将来的にはインバウンド需要なども取り込みながら競争力を高めていきたいです。さらに同エリアには様々なスポーツ・イベント関連施設があり、単体ではなく複数で地域全体を盛り上げて発展していこうと協議を進めています。
「TOYOTA ARENA TOKYO」の誕生によって、アルバルク東京が長年抱えていた課題も一旦は終止符を打つことができました。自社が運営できるアリーナを持つことは、プロクラブとしてビジネス上における大きな競争力を持っていることを意味する、重要な位置づけだと私は考えています。
京都ハンナリーズ
「プロスポーツクラブの役割と京都の未来への貢献」
松島鴻太(スポーツコミュニケーションKYOTO株式会社代表取締役社長)
私たち京都ハンナリーズは、地域に根ざした「地域密着クラブ」として歩みを進めています。ですが、これまでの道のりを振り返ると、かつては人気面・収益面においてB1のカテゴリーでは最下位に位置していました。
クラブは2008年に京都の医療機器メーカーであるアークレイ株式会社が自社のチームとして立ち上げたことがルーツです。当時のBjリーグを経て、Bリーグに参戦し、リーグ自体が発展を遂げていく一方で京都ハンナリーズは大きな遅れをとることになります。リーグ側はクラブに対して大型資本に入ってもらい、資金を投入することで成長してもらいたいという思惑がありました。しかし、当時のオーナーであったアークレイ株式会社は、株を分散させてでも地域に根ざしたクラブであってほしいという思いを持っていました。そんな中、私の兄が代表を務める会社が一部の株を保有したことをきっかけに、2022年からクラブの代表に就任することになりました。ほんとうに急な話でしたが、「京都の歴史を変えられる。京都を巻き込みながら日本一のクラブを作ったときにはどんな景色が待っているんだろう」とチャレンジに踏みきりました。
代表取締役社長に就任した当初、真っ先に明確にしたのがクラブの存在意義です。私は「プロスポーツの存在意義は街のためにあるべきもの」と考えました。例えば広島東洋カープは戦後復興の象徴としてチームがあり、地域の方々からの求心力とともに成長を遂げてきました。やがて街が活性化し、一体感が生まれています。それこそが理想の姿でしょう。
そこで私はクラブの存在意義として「街と人を結び、京都に夢と感動、熱狂を生み出し続ける」ことを掲げました。スポーツでしか得られない価値を創出し続け、京都の街をより豊かに元気にしていく、という思いをシンプルな言葉に込めました。大事にしたのは「共に、登る」というスピリットです。京都ハンナリーズは大資本を投入することで成長させるような手段を持っていません。では何が必要か。まずは「しっかりと応援してもらうこと」だと思います。私たちのクラブは京都の街のためにある、ということをスポンサーやファンの皆さまへ伝え、地方自治体を巻き込んで一緒になって成長していくスタンスを継続しており、今もまさに“登り”続けている最中です。
存在意義を果たすためには、Bリーグの最上位カテゴリーに入ることが絶対条件だと考えていました。代表取締役へ就任した際に、「絶対に最上位カテゴリーへ行く」と宣言しましたが、SNS上でファンの方々から「不可能だ」と言われて大炎上しました。これは今でも胸に深く刻まれています。ですが、結果的に達成することができました。
私がやったことは、存在意義を掲げたこと、そして「やるんだ」と声を上げことだけです。結果的にリーグの規定をクリアする入場者数や収益を上げることができましたが、そこまでに成長できた理由の一つはスポンサー企業の存在です。現在、320社の企業に支援をいただき、売り上げのうち半分をスポンサー企業が占めています。私自身、とにかく思いとクラブの存在意義を伝えました。もちろん、スポンサードの資金をいただいて終わりではなく、価値を還元する、価値を提供することにもこだわりました。今では「ハンナリーズを応援すること=地域貢献、社会貢献」というイメージができつつあります。
これは地域貢献活動も同様です。地域の皆さんに応援していただく前に、まずは自分たちから地域社会に貢献できることから始めました。社内でも専門部署を作り、人材を投資し、幅広い啓発活動や些細な運動まで地域の方々とコミュニケーションを取り続け、チームを応援していただく土壌を作っていきました。
ビジュアルやユニフォーム。
地域クラブだからこそ実現できる貢献の切り口
京都の誇りとなるようなクラブを目指すうえで、地域密着のもとに展開した例を幾つか紹介します。
まずはクリエイティブに関して、京都の寺社仏閣で選手の撮影を行い、ビジュアルとして発信しました。一見、「京都らしいな」という感想で終わってしまうかもしれませんが、選手個々のファンが「聖地巡礼」と称して、撮影された寺社仏閣に訪れるケースが見受けられます。京都とはいえ観光客が集まるのは有名な観光地が多く、その一方で歴史はあるものの人が集まらない場所もあります。そこにファンの方々が足を運べば、ツーリズムに伴う収益が発生し、それらを修繕などに充てる資金が生まれます。スポーツビジネスを活用しながら歴史文化の継承を生む、そんな貢献の実例になります。
また今シーズンのユニフォームは京都のシンボルである劇場「南座」とコラボしたデザインを採用しました。「南座」を象徴する赤色のカーペットや座席の色合いをユニフォームに落とし込んでいます。
京都の歴史や文化とスポーツクラブとがコラボレーションを展開していく。こうした取り組みは、地域に根ざしたクラブだからこそ実現できた京都という街で地域貢献する切り口の一つだと思います。
練習拠点も開業が決定。
持続可能な経営と、地域貢献で日本一のクラブを目指す
現在、新たに最大のチャレンジをスタートします。それが「Logisnext BASE」です。京都市南区の廃校跡地を利用し、クラブ専用練習場を作ります。また、公園などを併設し、人が多く集まる場所を設け、地域を明るくしたいと考えています。
本気で日本一を目指すという覚悟を持ち、自分たちで8億円を借入し、ここに投資します。これは京都ハンナリーズが始まって以来、一世一代の投資で不安もありますが、しっかりと活用し、皆様に愛されるクラブを目指していきます。
まだまだ実績もないですが、夢は日本一のクラブを作ることです。私たちのように株式を分散させながら運営と成長を図るクラブはBリーグにおいても珍しい立ち位置にあります。だからこそ価値があり、ロマンがあると私は考えます。サラリーキャップといった Bリーグの制度を活用しながら競技面で日本一のクラブになり、しっかりと利益を出すことで持続可能なクラブ経営で地域を巻き込みながら成長を遂げていく。そこに熱量を持って今後も取り組んでいます。



