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Sports Business Japan 2017 コンファレンス バスケットボールとアリーナビジネスのこれから

Sports Business Japan 2017 コンファレンス
バスケットボールとアリーナビジネスのこれから
村山正道│株式会社立飛ホールディングス代表取締役社長
坂井信介│株式会社滋賀レイクスターズ 公益財団法人滋賀レイクスターズ代表
日下部大次郎│早稲田大学スポーツ産業研究所招聘研究員

スポーツ未来開拓会議のスタジアム&アリーナ構想

日下部 安倍内閣が推進する日本再興戦略では、GDPを500兆から600兆へということが謳われ、スポーツ産業も成長産業として期待されています。その核になるのがスタジアム&アリーナで、その収益性の向上がキーになると言われているという流れがあります。一方、バスケットボール界の流れですが、昨年Bリーグが開幕し、5000人収容のアリーナを義務づけようということが決まったという大きな流れがあります。
スポーツ未来開拓会議の試算では、スポーツ産業の市場規模を5.5兆円から15.2兆円へと増やすことが目標とされ、スタジアム&アリーナでは2.1兆円から3.8兆円に増やそうという数字が出ております。その議論のポイントは、今まで教育の中に位置づけられてきたスポーツの産業としての役割に注目するということと、また、コストセンターからプロフィットセンターに変えていくためには何が必要なのかということ、さらに資金の部分などが議論されていました。
コストセンターからプロフィットセンターへという流れの中では、まずスポーツ人口を増やし、観戦人口を増やすということ。さらには、観戦に伴う顧客経験価値の向上、そのためのスタジアム&アリーナ関係の整備が重要だというようなことが、スポーツ未来開拓会議の中間報告では謳われています。また、スタジアム&アリーナの整備には大規模投資が必要であり、それがスポーツを核としたまちづくり、人口減少下での地域活性化、これを軸に波及効果を大きくさせていくインフラだというようなことが謳われています。
もう1つの軸はスマートベニューです。図は政策投資銀行がつくった資料で、スタジアム&アリーナ(多機能複合型施設)を核として、コンパクトシティーを形成し、まちづくりにおける社会的課題の解決を図ろうとする考え方です。いわゆる体育館というよりも、多機能でいろんなことに使えるものが必要だというのが考え方です。昔の日本における神社仏閣、こういったものが地域の町の核になっていて、祭りをやるときも、避難するときも、何かあるとみんなが集まる。そういうようなところに置きかえる、そういったイメージを持っていただくと良いのかなと思っています。
では、その2つの流れの中でバスケットボール界はどうだったのか。多くのスポーツ競技で、1970年台前後に“日本リーグ”が誕生しました。バスケットボールでは95年からJBL、2008年ごろからNBLというように少しずつ形を変えてきましたが、基本的には日本リーグは地方興行というスタイルでずっとやってきました。どこがホームということではなく、地方協会が興行権を持ち、日本協会がそれを買い取って、各地域の子供たちに最高のものを見せてあげる、そういうスタンスでずっと来たのが日本リーグでした。
この中で、バスケットボール界で変わったのは、2005年のbjリーグ設立です。サッカーでは既にホーム&アウエーが行われていましたが、Jリーグの次にホーム&アウエーを採用したのがbjリーグでした。bjリーグもホーム&アウエーをやるにあたって、アリーナビジネスをしっかりやらなきゃ
いかん、5000人のアリーナを建てたい、というようなことが設立当初の資料に書いてあって、「だからお金が必要だ」という雰囲気を醸し出そうとしていたのですが、やはり2つに分裂した状況では思うようにいかずに前には進みませんでした。ただ、ホーム&アウエー方式についてはしっかり根づき、施設が充実しながら他のスポーツがあまりない地方の都市、例えば秋田、沖縄とかでは地域一番のスポーツとしてのコンテンツ価値が生まれました。
2016年にBリーグが開幕したわけですが、Bリーグ開幕で大きな役割を果たしたのが、アリーナ検査要項(アリーナ規定)です。端的には5000人収容のアリーナを8割確保することがB1の基準で、B2の場合は3000人を6割という基準になっています。
ただ、収容人数が5000人を超えているアリーナは多くはありません。でも、例えば、実際には4000人くらいしか席がない会場を仮設も含めて4,500つくって、残り500は立ち見ということで「5000人クリア」というような形が実態としては行われています。ルールのためのルールになってもしょうがないですから、実質的にはB1のライセンスはオーケーになっています。

最近のアリーナの事例

近年オープンしたアリーナをいくつか紹介します。
まず、東京の墨田区総合体育館(2010年開館)。JR錦糸町の駅からすぐの絶好な立地ですが、墨田区民のための施設で、屋内プールもスタジオもあり、メインアリーナもバスケットボールコートが3面取れて、屋上にはフットサルコートがあり、フィットネスクラブが入っているような形になっています。2000人収容のメインアリーナで試合はできるのですが、お客さんが来る動線の横にスポーツクラブの入り口があったりとか、人のさばき方、大量の人が動いたときの対応が十分ではないので、興行をやるには難点があります。資金調達はPFI方式で、民間資金の活用をしながら建てました。
次に大田区総合体育館(2012年開館)。これは4000人収容で、蒲田の第一京浜沿いにあります。大きいアリーナにはコートの真ん中にスコアボードが常設で吊るされています。 2006年くらいに当時の設計事務所の方からbjリグの試合をやるうえでの意見を聞かれたときに、審判の動線とか、控室、トイレ、シャワーなどの設備や、体育館の床面はできるだけ狭くして観客席を近くつくったほうがいいとか、色々アドバイスしたことがかなり導入されてつくられています。大田区は、人口が80万人ほどですが、体育館が2つ体制で、スポーツを行う体育館とスポーツを見る体育館が区別されています。この場所は、古くからボクシングの興行な
どにも使われていた体育館だったこともあって、最初からスポーツ観戦に適した体育館にしたいということを意識されていましたので、運営側にもかなり使いやすい体育館と言えます。今、こちらは、アースフレンズ東京ZというB2のチームがホームにしております。
同じ2012年にできたのがアオーレ長岡。4000人収容(実際の席数はもう少し少ない)ですが、立ち見も入れて5000 人入るということでB1規定をクリアしています。市役所機能を一体化したJR長岡駅の駅前に立地しています。体育館に入る前のアプローチの部分(ナカドマ)のスペースに屋根がついていて、日々いろんなイベントをしながら、市役所に来る方を集客しています。新潟アルビレックスのバスケチームのホームです。
ゼビオアリーナ仙台(2 012年開館)も、4 000人収容です。ゼビオの名前が出ていますが、もともと仙台市が仙台89ERSと一緒に組んで、仙台89ERSのホームをつくろうということで話をしていく中で、ゼビオが手を挙げて建設されました。民設共営モデルということで、有限責任事業組合を使って、1社だけではなく皆で運営していくというスタイルをとっています。先ほどの大田区の体育館ですと大体60億から70億円かかったと言われていますが、このゼビオアリーナは民間(ゼビオ)がつくったこともあって、つり天井の8面のLEDなんかもあるのですが、トータルで30億円前後でつくったと言われております。
地方に転じると、昨年できた松江市総合体育館は3000人収容です。島根県は人口が80万人以下で、先ほどの大田区よりも人口が少ないのですが、立派な体育館をこのタイミングで建て替えたということです。老朽化した体育館を建て替えるというタイミングをうまく使って、県知事、財界みんなが一体となって、島根スサノオマジックというチームのホームをつくりました。
約1万人規模の大規模アリーナは、日本には20個くらいあります。これがアメリカに行きますと、NBAのチームが30 チームありますので、2万人規模のアリーナが30個あるとい うくらい差があるわけです。日本にはまだまだ伸び代があるということが言えるのではないでしょうか。
運営の形態で変わっているものとして、府民共済SUPER アリーナが挙げられます。大阪の舞洲に、2008年のオリンピック招致のときにつくった8000人くらい入る体育館なのですが、極めて交通が不便なところで、こんなところ誰が行くんだというようなところを実は大阪エヴェッサというB1のチームがホームにしています。ちょっと変わった形式で、もう既に建っているものを大阪エヴェッサが10年間1000万円/ 年で借り切った。そこをあとは収支を合わせるかどうかは、大阪エヴェッサ次第ということです。ヒューマンプランニングという会社が借りておりますが、電気代とかも含めると年間 1億円くらいはランニングコストがかかってしまいます。それを稼ぐというのはなかなか大変で、大阪エヴェッサのチーム(ヒューマンプランニングの社員)全体30人くらいの中に、それを貸し出すための営業人員だけで15~20人くらいいるというほど。Bリーグのチームの中では極めて大規模な営業体制を敷いていて、収支のほうはもう今は赤字は出ていないと聞いております。

県有地に建設する(仮称)びわこアリーナ

坂井 もともと、今回Bリーグで5000人の指定があったわけですが、我々が10年間やってきた地域クラブにとっては非常に切実な問題となりました。5年を目標にアリーナが必要だと地域内で訴えてきたのですが、地域活性化の中で起爆剤的な集客装置が必要というのを、地元の経済界、行政が非常に切実な地域の課題としておりました。そんな中、大津市の浜大津エリア(JR大津駅から徒歩10分、京阪浜大津駅前)に、ちょうど使われていない県有地がありまして、そこが良いじゃないかというふうに地元がまとまってきております。集客面とかでも、音楽興行の設定もしやすいというところが、手つかずのまま残っていたというのは非常にラッキーでした。敷地は8500平米で、5~6千人収容のアリーナをつくるということは十分可能です。
もともとはレイクスターズやBリーグの要望だったのです
が、今では大津の商工会議所が乗り出してくれまして、商工会議所の事業として取り組むようになってきました。スポーツ庁から助成金もいただいて、官民連携協議会みたいなものもスタートした上で、民設民営手法での事業計画づくりに入っております。
一昨年オープンした吹田スタジアムと同様、行政の用地の上に民間で建築するというようなやり方ですが、大きく違う面と言いますのは、滋賀県にはパナソニックがないということです。吹田スタジアムが集めた150億円の寄付金の半分以上がパナソニックの寄付と言われていますが、そのような大口の寄付が望めないような状況の中でどのようにスキームを立てていくか、その後の稼働をどう維持するかというところに今直面しております。
何と言っても重要なのは集客です。年間100回以上計40~50万人以上の集客装置をどのように地域に提供できるのか。レイクスターズのバスケ興行は恐らく30ゲームのみで、別に60~70の興行をしっかりと提供して、その集客を地域の起爆剤として提供した上で、行政から、もしくは経済界から支援を受けたいとなっております。
大津の場合、びわ湖ホールというクラシック、オペラホールで、恐らく14~15万人の年間集客ですので、40~50万人の集客装置は、なかなか地域単位ではないと思います。実際40~50万人が30万人の中核都市で集客招致できるということは大きな効果を見込めるかなと思っております。あとは、建築費を賄うための財務計画。稼働をベースにした上で、先ほどの舞洲アリーナなんかは1億円のランニングコストをどうするかというところでしたけれども、そこは非常にきれいな計画を持って回していけたら、かなり地域に伝播するような模範的な事例がつくれるんじゃないかなと期待しております。
弊社、滋賀レイクスターズは年間30興行ですが、これまで約5億円の売り上げの中で興行コストが8000万円超ですので、その全ゲームをこちらでやった場合は、8~9千万円の使用料を落とすことは可能です。他の音楽興行だったり展示会だったり、ネーミングライツとかの収入も含めますと、稼働については楽観視していますので、何と言っても建築のイニシャルコストをどのようにして集めるかという問題かなと思っております。

民有地の民設アリーナ・立飛

多摩モノレール立飛駅前に建設中のアリーナ

村山 立飛という会社の前身は立川飛行機と言いまして、戦前は主に陸軍の飛行機をつくっていた会社です。有名なところでは、九五式一型中間練習機「赤とんぼ」、中島飛行機のライセンス生産で「はやぶさ」など、約50機種、9600機ほどをつくっていました。
立川市のほぼ真ん中に、市の面積の25分の1に相当する98万平米、東京ドーム約20個分の敷地があり、一昨年12月にららぽーと立川立飛という商業施設を三井不動産との共同事業として立ち上げました。できれば、5年ごとにインパクトのあるものを投資していきたいと思っておりまして、立川駅の北側にある国有地3.9ヘクタールを一昨年落札して、2500人の入る音楽ホールと、グレードの少し高いホテルで屋上に温泉水を引いたプールを計画しております。アリーナ立川立飛は3000名の収容規模ですが、もともと立川にこういう施設がないものですから、果たしてここでどういう使われ方をするのか、どういう評価を受けるのか、いきなり大規模なアリーナというのも投資額の桁が違う話ですので、とりあえず3000人規模のアリーナをやってみようということになりました。たまたまアルバルク東京からアリーナを使いたいとの申し出をいただき、年間30試合の公式試合のうち26試合をアリーナ立川立飛で開催するということになりました。もう1件、府中本拠のフットサルチームが、ここでやる方向で進めております。
立川は非常にバスケットボールの文化が高いところで、商工会議所が立ち上げた3×3(スリーバイスリー)が良い成績を挙げています。スリーバイスリーも2020年のオリンピック、パラリンピックに正式競技に採用されましたので、スリーバイスリーの開幕試合をららぽーとの2階のイベント広場で開催することができ、我々が応援するチーム・選手が東京オリパラで活躍すれば、立川も盛り上がるなという期待があります。また、アリーナのすぐ脇にタチヒビーチという、敷地面積約6500平米のうち約半分に人工の砂浜とバーベキュー場があります。おかげさまで、今かなりの人の波が来ています。
アリーナ事業で儲かればいいんですけれども、あまり収
益にはこだわっていません。初めてのことなのでどうなるかわかりませんが、最終的には収支イーブンになって地域社会に貢献する施設であればいいなと思っています。テナントさんも相当いらっしゃいますので、特にウイークデーの9時から3時までは当面使用の計画があまりなさそうですから、曜日等を決めて市民の方に開放したいなと。総合型地域スポーツクラブを中心として、アリーナ発のプロスポーツチームをつくるという構想もあります。

アリーナ運営の展望

日下部 立飛さんは完全に民間でやっているのですが、滋賀ではこれを見て、何かイメージされることはありますか。 坂井 立飛さんの、私有地の中での民間会社のアリーナ建設というのは、我々とは対極に位置するのですが、ある意味、次の発展形は似てくる部分があるのかなと思っております。我々のアリーナができた後には、指定管理者なのか大阪エヴェッサのように賃貸をするのかということはまだわかりませんけれども、我々スポーツクラブの運営会社としましては、ぜひアリーナの運営そのものを手がけたいですし、運営というよりも、アリーナの稼働をよくしてチケットを売りたい。地域でプロモーター的に、イベントを主催していきたいと思っております。
イベント会社として見たときに、バスケットは30興行しか売る興行がないわけで、それが地元で運営も絡めた上で、例えば、10 0興行とかのチケットを取り扱えたり、もしくはアリーナそのものを運営管理していけたら、民間の営利会社としては非常に次なるステップになるかなと思っていますし、当然の成り行きかなとも思っております。
日下部 立飛の場合は、民間なので順次興行を受けつけていて土日はかなり埋まってきているというお話ですけれども、問い合わせ先が一般社団法人多摩スポーツクラブ*となっているのは、先ほどの総合型地域スポーツクラブが運営を受託してやるということでよろしいですか。
立飛 最初はバスケから始めてどんどん幅を広げていこうという思いで、3年後には自前のチームを立ち上げられたらと思っています。
日下部 ということで、今回はアリーナの最近の流れについて、一つは、行政も巻き込んで、地元も巻き込んで、プロスポーツチームを経営し、最近では見るサッカーチームなんかもやっている王道の滋賀レイクスターズ。それと全く逆に、そもそも広大な立川市の25分の1の土地、これをやはり社会的資本として生かさなくてはいけないという社会的使命を感じられて、アリーナにまず手をかけられて、さらにはその先、プロスポーツのほうに逆上陸と言っていいのか、そちらが正道なのかもしれませんが、違った道でやろうとしている。こういう2つを紹介させていただきました。
会場 アルバルク東京はB1ですが、立飛アリーナは3000人収容ということで、5000人という基準を満たさなくても良いのでしょうか。
村山 試合は3000人のアリーナでもいいそうで、そこは心配ないようです。
日下部 ライセンスを渡しているのはBリーグサイドですので、Bリーグがオーケーを出してB1ライセンスを与えてくれているという事実があると認識すれば良いのかなと思います。
会場 民設民営とはいえ、資産を市に寄付すると公園法における設置物になってしまい、様々な法規制がイベントの開催・運営の足かせになってしまうケースが多いのですが、法規制を緩和して、スポーツがもっと成り立ちやすくするというような動きは具体的に何かあるのでしょうか。
日下部 現状ではまだ法規制に関して、運営側が大きな声を上げておらず、その中でどうやって工夫して実現するかという取り組みが中心でしたが、これからは、チーム側も運営側もどんどん声を上げていかなければいけないということなのかなと思います。

▶本稿は、2017年9月12日(火)幕張メッセで開催されたSports Business Japan 2017コンファレンスの講演内容をまとめたものである。
▶*一般社団法人多摩スポーツクラブ☎042-536-5200(担当:原 宏樹)

 

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