eスポーツはリアルスポーツを超えるのか?

eスポーツはリアルスポーツを超えるのか?
平方 彰│一般社団法人日本eスポーツ連合専務理事
伊草雅幸│ビットキャッシュ株式会社代表取締役社長CEO、eスポーツコネクト株式会社代表取締役社長榎本一郎│株式会社サードウェーブ取締役副社長
醍醐辰彦│スポーツブランディングジャパン株式会社取締役
モデレーター 坂本広顕│株式会社日本政策投資銀行地域企画部課長

坂本 “eスポーツ”というのは、電子機器を用いた娯楽競技とかスポーツ全般を指す言葉で、いわゆるコンピューターゲームとかビデオゲームといった対戦型などのスポーツ競技を捉える際の名称として、定義されています。
eスポーツ市場規模としましては、民間調査会社によりますと、2017年の実績値が1670億円ぐらいで、2022年までに2567億円と、今後5年間で1.5倍ぐらい伸びてくる非常に成長性の高い分野と言われています。また、世界競技人口としましても、野球が大体3500万人ぐらいと言われている中で、eスポーツ人口は1億人以上とも言われていまして、サッカーの競技人口(約2.6億人)に次ぐぐらいの競技人口規模を持つ、非常に有望な産業であると思っています。
平方 先ごろまで、日本のeスポーツ関連の団体は、日本eスポーツ協会、eスポーツ促進機構、日本eスポーツ連盟という3つの団体がありました。これらを1つにした上で、さらに、ITフォーミュラであるCESA(コンピュータエンターテインメント協会)、さらにはJOGA(日本オンラインゲーム協会)を加えた5つの団体で、日本国内唯一無二の団体をつくろうということで、日本eスポーツ連合(JeSU)を立ち上げました。当面の1つの目標は、何とかJOCに加盟すること。JOCに加盟するためには、色々な主催大会を行って実績をつくる。そしてまた支部をつくる。さらには、競技者の教育も含めた様々な事業をやっていくという、eスポーツの競技者と環境整備を整えるべく鋭意努力しています。

eスポーツは本当にスポーツなのか?
坂本 恐らくリアルスポーツの方からすると、「eスポーツって本当にスポーツなのか?」と思われる方が多いのではないかと思いますが、欧米では勝敗のつく競技に関してはスポーツだというふうに認識されていますので、ダンスとかビリヤード、チェスなんかもスポーツと認識されています。このあたり、eスポーツのアスリート性については、どのようにお考えでしょうか。
平方 eスポーツ選手は完全なアスリートだと思います。
例を挙げると、先日、格闘技のプレーヤーが28歳で引退しました。「何で28歳で引退したの」と聞いたら、昔は、動くコマ数が1秒間に大体約30枚だったと。今は1秒間に60枚とか、120枚になった。鮮度が30枚のときは26〜27で相手のパンチをかわせたが、60枚に上がってから、54枚、 56枚とか、そこら辺が見えなくなってきたと。すなわち動体視力が落ちた。だから、僕はもう勝てないと思って引退したという話を聞いて、そのときは「何言ってるんだ、こいつ」という感じだったのですが、動体視力というのは年齢とともにやはり落ちます。逆に、そういう部分で鍛えることによっての本当にアスリート魂があるんだなということは感じました。
伊草 私どもが運営している「CYCLOPS athlete gaming」というマルチゲーミングのプロeスポーツチームでは、ストリートファイター、鉄拳とかドラゴンボールファイターズといった格闘ゲーム。また、PUBGとか、サッカーゲームであるFIFA、あとはコールオブデューティやレインボーシックスなどのシューティングゲーム。また、オーバーウォッチの日本代表選手を擁しています。
最近(2018年8月)ラスベガスで行われた「EVO」という世界最大の格闘ゲームの大会ではドラゴンボールファイターズで第2位と第3位。ストリートファイターでも世界大会で2連覇を果たした選手がいます。また、“たぬかな”という女性eスポーツアスリートは、鉄拳のプロプレーヤーですが、サウジアラビアに招待されて色々な大会で優勝しています。さらに、FIFAのシリーズでは、黒豆という選手が活躍しています。Jリーグ傘下のeJリーグで、ガンバ大阪代表として出場いたしました。オーバーウォッチという6人対6人でやるシューティングゲームのワールドカップ日本代表選手を輩出しました。
彼らは、大阪・野田のゲーミングハウスに合宿して、朝から夜までというか昼から夜中まで、日夜練習に励んでいます。選手に聞くと、1日練習を休むと勘も鈍るし手も動かなくなるそうです。ですから、毎日、例えば8時間ないしは10時間、多いときは12時間ぐらいの練習を必ずします。試合が終わった後も戦略会議や反省会、いわゆるPDCAをしっかり回していくということをやっていかないと、チームとしても全然勝てるようにならない。そのあたりではeスポーツもリアルスポーツと同じような特徴があると思います。坂本 ストリートファイターのように1人対1人でやるものもありますけれども、先ほどのオーバーウォッチのように複数対戦の場合には、チームプレイもリアルタイムに刻々と戦略を練り直しながら進めて行く必要がありますため、チームワークも大事になるのですね。リアルスポーツとの類似性について、醍醐さんはどんなふうに見ていらっしゃいますか。
醍醐 以前から、eスポーツは本当にリアルスポーツに似ているなという感覚を持っていました。例えば選手がいて、リーグがあって、チームの運営があって、そこにスポンサーがあって、ファンがいて、メディアがいて、放映権の売買などがある。これは「まさにスポーツだよね」というふうに思っています。
トップ選手がプレーしている、彼らの技術とかメンタルはすごいものがあるなと思ったんですけれども、ほかにも、チームプレイはもちろんですし、Blizzardさんがよく言っているのは、「フェアプレーの精神をeスポーツで」というふうに言っています。これはまさに、僕もずっとバスケットをやってきたのですが、フェアプレーの精神をバスケットで学んできたのと一緒だなというふうに思っています。

社会的なネガティブなイメージをどうすべきか?

坂本 eスポーツを扱う中で避けて通れないテーマとして「社会的なゲームのネガティブなイメージをどうすべきか?」という課題があると思っています。何かとeスポーツが話題になっている中で、今週初め(2018年8月26日)にアメリカ・フロリダ州で行われたeスポーツ大会の会場で銃乱射事件が起こりました。平方さん、この件についてはどう思われますでしょうか。
平方 非常に残念なことですけれども、これは“eスポーツだから起きた”ということではなくて、そういうイベントで起きてしまった。過激なファンによる同様の事件は、eスポーツに限らず起きていますし、昨今はeスポーツが話題になっているので取り上げられかたが大きくなったということではないかと思います。
伊草 これは決してもちろん肯定できるものではありませんが、eスポーツの話題性もさることながら、eスポーツ会場というのは人がものすごく集まるということの裏返しともとれるのではないかと思っています。
坂本 WHOから、「ゲームの依存症について」の指摘があったりするのですが、こうした点については榎本さん、どんなふうにお考えですか。
榎本 私自身は専門家ではありませんが、今後、整えなければならないレギュレーションがあると思っています。リアルスポーツでも、何時間以上やると逆に身体に悪いとか、トレーニングにとってマイナスとか、技能の向上にとってはネガティブなことが多くあります。これからeスポーツも、どういうレギュレーションでやっていくのが一番技能が高くなるとか、楽しむためのeスポーツはどうやっていくべきなのかなど、文化そのものの発展という点で見ると、まだまだ整えるべきことは多くあります。決してネガティブではなく、ポジティブに様々なことを捉えて解決していけばいい問題だと思います。
坂本 最近、「重度障害者のプロゲーマー無料養成所が群馬県の伊勢崎市に誕生」というニュースが報じられました(2018年8月27日)。そういうインクルーシブ(包摂的)な社会に向けて、eスポーツが今後、主体的に取り上げられてくる機会も非常に多くなると考えます。
榎本 少し視点を変えてeスポーツを見ると、良いことがたくさんあります。例えば、私自身、野球を20数年間していましたが、現役時代に女性チームと試合をしたことは一度もないですね。公式戦でシニアとあたったことも一度もない。ハンディキャップのある方とは、私たちは同じグラウンドに立てない。こういった方々が全て同じ土俵に立てて、同じスポーツを体験できる。あらゆる人達が一緒になって試合ができるという面白さにフォーカスされていくと、eスポーツは、「これまでとは違ったスポーツ」というふうに見えるのではないかと思います。
伊草 “所詮ゲームでしょ”という世の中のイメージを簡単に変えるのは難しいと思うのですね。プロ選手の多くはゲームが好きだからとことんやっていますし、ゲームをやっているだけで気がついたらプロになれたという方もいて、プロとしての自覚はなかなか最初は持てないですね。私どものチームでは、社会的に認められる存在にならなければいけませんので、例えば立ち居振る舞いですとか、人とのしゃべり方とか、インタビューの受け方だとか、そういうところも含めて、きちんと社会的に認められる存在になるような教育はしてきています。
一方で、キャリアパスの出口の部分が課題です。例えばうちの大学生のプロが卒業したら、ゲームは続けるけれどもeスポーツのプロとしてはやっていけないのではないかという不安があると言います。ゲームばっかりやってきた人は社会に出て普通のサラリーマン生活を送れないとか、事業を開始することもままならない。そういうイメージが定着していると思うのです。ですから、出口としては、プロ選手をやめてスポンサーさんの会社に就職をさせたり、あとはSHIBUYA GAMEというウエブメディアのライターになったり取材をしたりと、プロのあとのセカンドキャリア、サードキャリアというのをしっかり用意していく必要もあるかなと思っています。ただ、これは私ども1社だけでできることでもありませんので、ステップ・バイ・ステップで積み重ねていく必要があるのではないかと思います。 eスポーツの未来 坂本 そういった積み重ねの上で、eスポーツが決して一過性のブームではなく、文化として根づいていくためにはどうしていったらいいのかということで、最後に「eスポーツの未来」ということを議論できたらと思います。
平方 先ほど「eスポーツ文化を広げる」というお話がありましたけれども、まさに日本国内でeスポーツを文化にしていかなければいけないなというふうに考えています。
例えばダンス。我々若いころなんていうのは、ダンスをやっていると優等生というよりはちょっと不良とか悪いやつらがたまっているみたいなイメージがありましたけれども、ダンス甲子園とか、部活動になったりとか、そういうところで今や文部科学省が、柔道、剣道、ダンスという3つの必修科目の1つにしている。これはまさに文化になったというところだと思うのです。eスポーツも、単なるゲーム感覚を超えて文化になれば、みんなが認めてくれるのではないかと期待しています。
今回のアジア大会において、JOCの派遣ということで初めて日本選手を送り出すことができました(サッカー「ウイニングイレブン2018」では日本人選手チームが金メダル獲得)。さらには来年、2019年の茨城国体では、文化プログラムとして初めて47都道府県での予選を行い、それの勝者が茨城に集うという大会を行うなどいろいろ着手しております。JeSUとしても、そういう選手の輝ける場所をどんどんと増やしていき、それが文化につながるというような環境整備を頑張っていきたいと思っております。
榎本 先だって、我々と毎日新聞社とアライアンスを組みまして、「全国高校eスポーツ選手権」の開催を決定しました(2018年12月予選、2019年3月決勝)。当社はかねてより、eスポーツを文化にしたいという理念がありました。その理念が毎日新聞と合致し、大会を開催することにしましたが、それだけでは文化にならない。結果、高校にeスポーツ部があれば、仲間とも一緒に楽しみやすい、参画しやすい、文化に繋がるのではと考えたのです。私もリアルスポーツで経験がありますが、もし野球部がなかったら、同じ学校にこんなに野球好きがいるとも知らずに学生生活が終わっていました。今でも学生時代の野球仲間が多くいますが、とても良い付き合いをしています。それは高校生の時に、共に好きなことに打ち込んだ想い出があるからです。このようなリアルスポーツでの良い体験を、eスポーツでもあるべきだなと想い、高校の部活動支援を考案しました。部、もしくは同好会をつくり、大会に出場する学校には、3年間、無償で当社(サードウエーブ)のPCを5台レンタルすると決めました。  一方、「お笑い」という、1つの大きな文化をつくった浅井企画の浅井常務(当時、現・代表取締役社長)が当社の運営するコンピューターショップ・ドスパラの昔からのお客様で、「お笑い文化とeスポーツ文化をひとつに融合したい」ということで、当社が2018年春にオープンさせた都内最大級のeスポーツ施設LFS(ルフス)池袋eスポーツアリーナを部室に使っていただき、配信をとおしてeスポーツを盛り上げていただいています。  1社ではできないことが多くあるので、様々な企業の方たちとアライアンスを組み、eスポーツという文化のカテゴリーで、eスポーツを単なるブームに終わらせずに定着させたいと思っています。高校生文化との融合であったり、お笑い文化との融合であったり、地域密着型の施設によるコミュニティーの場の創出であったり、そういうことをイメージしながら一生懸命活動をさせていただいています。伊草 榎本さんも話されたとおり、学校の部活動になるというのが1つ大きなステップと思います。世界ではスポーツの1ジャンルとして正式に認定されているし、政府が認定している競技もいくつもありますので、例えば今後、世界選手権に出たら、いわゆるAO入試で入れる大学があるという動きが既に現れ始めています。やはりeスポーツプレーヤーの認知をもっと高めていく必要があると思いますし、親御さんも、「ゲームばっかりやっていないで勉強しなさい!」と言うのではなくて、「もっとゲームをやりなさい!」というような、そういう風土をつくっていかなければいけないと思うのです。時間はかかると思うのですが、世間も親御さんも含めて応援していただくというような形になっていければと感じています。
坂本 自分の子供がプロeスポーツゲーマーになりたいといったときに、「いいぞ、チャレンジしてみなさい」と言えるような環境整備が大事ということですね。
伊草 例えば今年、とある大企業と一緒にスポーツイベントを行いました。eスポーツという言葉はあえて使わずに、リアルなフットサルとウイニングイレブンというサッカーゲームを連携させたのです。親子競技だったのですが、フットサルはお父さんが息子さんに教える。ゲームになると息子さんがお父さんのお尻をたたくというような例もありまして、ゲームをきっかけにリアルなスポーツにもっともっと興味を持ってくれる、そんなような1つの光明は見えたと思っています。
もう一つ、私どものチームを組成したときに、17歳の高校生がプロ契約をしたいと親に内緒で申し出て来ました。18歳未満は親御さんの捺印がプロ契約に必要なので親御さんのところに出向いたのです。そうするとお母さんは、頼むからうちの子を入れないでくれと。その子は実は中学、高校といじめに遭って、ひきこもりになってしまった子なんですけれども、結果的にゲームをやり過ぎていじめられたのだというふうに親御さんは信じていたのです。ただ、実はeスポーツというのはこういう市場であって、私どもは決して怪しい会社ではございませんという話を、2時間も3時間も訥々とお話しさせていただいたら、最終的には、では夢にかけてみようということで折れていただいて、契約に至ったわけです。その年に日本リーグの第1回目で彼が優勝したんですね。それが新聞やウエブニュースにたくさん載ることで、親御さんも本当に涙して喜んでいただきました。
若者が、例えば今まで、勉強もできない、スポーツもあまり得意ではない、おもしろいことも言えないという子でも、世の中で輝ける可能性がまた新たに開ける1つの筋道ができたのだなということを実感したのです。ダイバーシティーとよく言いますけれども、そういう多様性を認めるということを社会が本気で取り組まないと、所詮ゲームと言う見られ方を変えていくのは時間がかかると思います。坂本 一方で、若者の認知が広まるとスポンサーの観点からも注目に値するようになると思うのですが、醍醐さん、eスポーツコンテンツというのは、今後どんなふうになっていくのでしょうか。
醍醐 特にOTT*の対象としてeスポーツのコンテンツ価値が高まるのは間違いないと思いますが、大事なのは、スポーツエンターテインメントの要素を加えていくことだと思っています。配信中心とはいえどスポーツと一緒だと思うので、現地の熱とか試合会場の熱とか一体感というのを高めていくというのは非常に大事です。
例えばFIFAワールドカップの決勝で、周りの観客がいて、その熱気がテレビなどから伝わって来る。それと一緒で、現地の熱を高めることが配信コンテンツの価値を高めていくということに直結しますが、演出にもこだわるし、ステージセットにもこだわるし、配信でいえばカメラアングル1つ、映像のスイッチングとかにとことんこだわって、eスポーツコンテンツの価値を高めていくというのが大切かと思います。場の熱を高めれば、プレーヤーが注目されますので、プレーヤーが成長する、競技レベルが上がる。注目される場がふえれば、選手はどんどん成熟されていって、子供たちにとってその選手が憧れの存在になるとか。そういう場を僕らとしても整えていかなければいけないなと思っています。
一方、世界的にも日本でも、どこのリーグでもそうですけど、プロスポーツのほうも、ファンの高齢化に苦しんでいる団体さんが本当に多いので、そこの解決策の1つとしてeスポーツと連携していくというのは大いにあるかなと思っています。どっちがどっちを超えるとかではなく、お互いがお互いを高め合っていくことができるという存在だなと思っています。
坂本 eスポーツの成長性を取り込んでリアルスポーツと共に成長していくというのは大事なことですね。加えて、国の「日本再興戦略」のスポーツの成長産業化においても、「スポーツ分野の産業競争力強化」の中で「新たなスポーツメディアビジネスの創出」や「他産業との融合等による新たなビジネスの創出」などが掲げられています。こうした政策を踏まえれば、eスポーツには国策の観点からも絶好のチャンスが到来していると言えるのではないでしょうか。プロスポーツでも、リアルスポーツチームの中にeスポーツチームを持つ動きもかなり活発化していますし、周辺産業という意味ではツーリズムもあります(例えば、佐賀県におけるゲームとコラボした商品発表や聖地化など)。またIoT活用という意味ではまさに放映権であったり、eスポーツの世界はリアルスポーツと同様に非常に多くの産業領域に関わっていて、これからも関わりはどんどん増えてくると思います。eスポーツとリアルスポーツとは避け合うのではなくて、お互い協力する中でいい形で相互に発展していけば良いのではないか、と願っております。 *OTT(Over The Top):インターネットを使った動画などのコンテンツサービスの総称。

▶︎本稿は、2018年8月30日に、「スポーツビジネスジャパン2018 together with スタジアム&アリーナ2018」で行われた同名セミナーの講演内容をまとめたものである。

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