スポーツ産業を測る  オリンピック・パラリンピックスポーツのSSAによる経済統計

スポーツ産業を測る 
オリンピック・パラリンピックスポーツのSSAによる経済統計
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部・助教

英国のSporting Future  

前回のシリーズでは、スポーツサテライト勘定(Sport Satellite Account; SSA)による欧州7カ国のスポーツ産業規模の比較を紹介しました。サテライトアカウント、というのは、従来の産業分類や経済活動の考え方では把握できなかったテーマや分野を計測するための勘定体系のことであり、SSAとしてスポーツに特化した勘定体系を開発しています。
さらに英国においては、開発したSSAを活用して、スポーツ産業全体からオリンピック・パラリンピックスポーツの経済規模を推計しています。英国のUKスポーツは、政府の新しいスポーツ戦略「Sporting Future」に対応するため、シェフィールドハラム大学のSport Industry Research Center(SIRC)に2014年のオリンピック・パラリンピックの経済重要性の数値化を委託しました(1)。Sporting Futureでは、「スポーツの経済的影響、雇用の創出、成長の促進、輸出の促進は新しい戦略の基盤である」とし、実際のスポーツ経済統計を重要視しています(2)。
ユニークな点としては、SIRCが推計している「オリンピック・パラリンピックスポーツ」の経済規模の考え方は、あくまでオリンピック・パラリンピックスポーツがもたらす経済活動の数値化であり、いわゆる大会開催によるイベント効果ではない点です。自国開催ではない場合でも、オリンピック・パラリンピックへの政府の支援が国内の経済活動にどれほどのインパクトがあるのかを測定する事を重視していると言えます。特に、スポーツ関連の雇用者数は、スポーツ資金の配分のための政府の重要な指標となっているようです。具体的な推計方法としては、SSAで推計した国全体のスポーツ産業経済規模を、オリンピック・パラリンピックスポーツの実施率や競技の機材に係る費用などの多くのファクターをもとに、種目ごとにSSAを分配する形で推計しています。したがって、この場合のオリンピック・パラリンピックスポーツの経済規模は、SSAの内数となっています。

英国におけるオリンピック・パラリンピックスポーツの経済統計

下の表に、その結果を引用しました。GVA(粗付加価値)は、オリンピック・パラリンピックスポーツで188.7億ポンド、雇用者数62.3万人、消費支出197.7億ポンドと推計されました。GVA(粗付加価値)、雇用者数ともに、SSAによるスポーツ産業全体の50%以上がオリンピック・パラリンピックスポーツによる経済活動であることがわかります。また、産業全体に占める割合は、1~2%台と経済活動全体に重要な位置を占めていることが明らかとなっています。種目ごとの数値は、(1)のレポートに詳細に記述されているのでぜひご参照ください。  現在、多くの研究機関から東京2020オリンピック・パラリンピック大会のイベントとしての経済効果の試算が出されています。当然、これからホスト国となる日本にとって、大会開催によるイベント効果の経済推計も重要な指標となります。一方、政府やスポーツ庁の施策を考えた時、オリンピック・パラリンピックスポーツとしての経済活動をきちんと把握する必要があると考えられます。とくに2020年以後、大会の盛り上がりがなくなってからのわが国のスポーツへの支援を考えていく際に、オリンピック・パラリンピックスポーツへの支援が、どれほどの経済効果を生み、どれほどの雇用への貢献があるのか、を明らかにしておくことは重要な課題であるかと思います。


▶(1)Sheffield Hallam University Sport Industry Research Centre, The Economic Importance of Olympic and Paralympic Sport,2017.
▶(2)HM Government, Sporting Future: A New Strategy for an Active Nation,2015. 他、SIRCへのe-mailでのインタビューを実施している内容も含まれる。

関連記事一覧