スポーツ産業を測る Withコロナ時代の情報技術を取り込んだ スポーツ産業の計測

スポーツ産業を測る
Withコロナ時代の情報技術を取り込んだ スポーツ産業の計測
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部准教授

新型コロナウイルス感染症によって、スポーツ産業は大きな変化を迫られています。例えば、フィットネスクラブは、オンラインによるレッスンを開発・市場投入していますし、スポーツ用品・小売業においてもオンラインでのマーケティングに注力しています。他にもスポーツに関連する教育、商業、金融、出版サービスなど、分野を問わずwithコロナの中心課題はインターネットを使ったデジタル化、情報化ではないかと思います。そこで本稿では、withコロナ時代のスポーツ産業の経済価値を推計するために、どのような課題があるのかを見ていきたいと思います。

1)インターネット取引
Withコロナになり、売買のプラットフォームが実店舗の対面売買からインターネット取引に移行することが主流であると思いますが、これがGDP推計にどのように影響するのかというと、推計の方法自体は何も変わりません。これは1次統計である工業統計等の供給側からも、家計調査などの需要側からも把握されています。そもそも店舗以外での販売は、テレビショッピングやカタログショッピングといった古くからの手法もあり、財・サービスについて、店舗での販売と通信販売との区別はなく、全体の額を捉えています。したがって、スポーツ関連の事業者が店舗販売からインターネットを使ったスポーツの財・サービスの売買に移行してもこれまで同様、スポーツGDPに反映されることになります。
1つ注意するべき点は、自前ではなく、「チケットぴあ」のような仲介業者を取引の中途に入れることでインターネット取引を実現している場合、チケットそのものの付加価値は増えませんが、仲介業者のマージンが商業部門に立つことで結果的にスポーツGDPにプラスになります。スポーツGDPではスポーツの財・サービスの商業マージンを計算することで商業部門のスポーツ寄与分を計算していますので、これまでのスポーツGDPにすでに計算され含まれているとみなすことができます。

2)YouTubeなど無料動画(無料デジタル生産物)
また、コロナ以前からではありますが、コロナによる自粛にともなってスポーツ関連の無料動画が増加しました。一見すると、無料動画は付加価値を生み出していないように思えますが、これら無料デジタル生産物と言われるサービスに関しては注意が必要です。内閣府によると、<無料のアプリや無料の動画配信そのものは、付加価値の増加には基本的に影響を与えないものの、当該アプリや動画配信に付随してなされる宣伝により喚起され、又は、それらの費用の価格転嫁により増加した産出額分だけ、GDPに影響を与える>と指摘しています。
スポーツGDP推計の実際問題として、有名アスリートの動画やトレーニング・健康などをテーマにした無料動画が増加している状況を見ると、近いうちにどのように推計すべきかを検討する必要があると思います。また、さらに複雑な問題としては、動画配信プラットフォームのYouTubeは米国籍企業のサービスですが、その場合、日本(語)のコンテンツは、上記の内閣府の指摘が当てはまるのかどうか、さらなる検討をする必要があります。

3)フリマアプリあるいは中古マーケット
メルカリやヤフオクなど、インターネットによって大きくなったのがスポーツの中古マーケットです。チケットの2次流通の法的問題は本誌においてこれまで松本泰介先生のシリーズで詳しく解説されていますが、ここでは中古マーケットがスポーツGDPにどのように影響を与えるかを見たいと思います。そもそも古くからスポーツ産業においては、ゴルフクラブなどは中古売買が活発です。ゴルフクラブは、新品であれば、その生産から販売までの過程で付加価値を付けて売られますが、それが中古となり、マーケットに出た場合、スポーツGDPは生まれるのでしょうか。ここで考えるべきポイントは、GDP統計で把握しているのは、資産ではなくフローである点です。例えば、土地の売買は、どれほど金額が大きくてもそれ自体はGDPに影響しません。同じように、中古マーケットの商材も、資産であって付加価値を生み出しているとは言えません。ただし、その仲介業者の手数料等の流通にかかる付加価値が生まれている場合、それはGDPにプラスとなります。したがって、中古マーケットにスポーツ関連品が出た場合、商品自体は付加価値を生み出さないけれども、手数料のような仲介業者の付加価値はスポーツGDPにプラスになる、ということになります。むしろ逆から見れば、GDPを生み出さない資産を、中古マーケットに出すことで、付加価値を生み出していると見ることも可能です。
1点補足すると、上記の考え方は、GDP統計の古くからの捉え方ですが、近年では、シェアリングエコノミーの発展とともに、中古品本体や生産の境界外(つまり個人to個人)の補足をするべきである、という議論がなされはじめています。

▶山岸圭輔,SNAのより正確な理解のために〜SNAに関し、よくある指摘について〜,内閣府経済社会総合研究所「季刊国民経済計算」,第162号,2017.

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