スポーツ産業のイノベーション 若者と女性の時代へ

スポーツ産業のイノベーション
若者と女性の時代へ
植田真司│大阪成蹊大学経営学部教授

2023年はどのような年になるのだろうか。このまま、紛争が続き、分断が強まり、格差も拡大するのだろうか?救世主は現れるのだろうか?今回は、2023年以降、すべての人が平和に暮らす社会を築くために、どのような価値観が望ましいのか考察してみた。

世界の現状

新自由主義とグローバル化による競争の結果、経済的格差が生まれ、経済的不平等がさらに分断や格差を拡大している。経済学者トマ・ピケティらが設立した世界不平等研究所が発表した「世界不平等レポート2022」によると、世界トップ10%の富裕層が、世界の所得の52%を占め、世界の財産の76%を所有しており、下位50%の人たちで、世界の所得の8.5%と世界の財産の2%を分け合っているという。そして、今も格差は拡大している。
なぜ格差や不平等を放置してはいけないのか?「平等社会」の著者リチャード・ウィルキンソンとケイト・ピケットは、社会の幸福を何より左右するのは、国の富ではなく、国内の不平等であることを発見したという。国際経済学者のジョナサン・デビッド・オストリーも、「不平等な社会ほど、経済成長は遅く、脆弱だ」といっている。
格差や不平等がない幸せな社会を築くためには、どのような価値観に移行すればよいのだろうか。

若者の価値観

山口周は著書「ニュータイプの時代」の中で、これから活躍するのはニュータイプの人材だとしている。従順で、論理的で、勤勉で、責任感の強い従来の優秀な人材(=オールドタイプ)でなく、自由で、直観的で、わがままで、好奇心の人材(=ニュータイプ)が、大きな価値を生み出し、豊かな人生を築くと述べている。具体的なオールドタイプとニュータイプの違いとして、「生産性を上げる」VS「遊びを盛り込む」、「ルールに従う」VS「自らの道徳観に従う」、「奪い、独占する」VS「与え、共有する」と説明している。
尾原和啓は著書「モチベーション革命」の中で、30代以下を「乾けない世代」、30代以上を「乾いている世代」とし、「乾けない世代」は、生まれた時から何もかも揃っていたので、お金やモノや地位のために頑張ることができない。「乾いている世代」とは働くモチベーションが異なり、稼ぐために働きたくない世代としている。例えば、「乾いている世代」の幸せは目標をクリアする「達成」にあり、「達成」することが「快楽」で幸せを感じる。一方、「乾けない世代」は「良好な人間関係」「意味合い」「没頭」により幸せを感じるとしている。
若者は、アメやニンジンなどの報酬を目の前にぶら下げても行動せず、その意味や仲間のことを考えて行動するのである。日々大学生と接して、確かに高齢の各界のリーダー達とは大きな価値観の違いを感じる。これからは、若者のような価値観が主流となるのだろう。

女性的な価値観

時代と共に、求められるリーダータイプも変化している。1970年代〜1980年代は、一般人とは異なる神業的な、ずば抜けた能力や資質が備わっている「カリスマ型リーダー」が求められた。1980年代〜は、ビジョンと戦略をつくりあげ社員のやる気を引き出し、組織学習を促進して変革を起こす「変革型リーダー」が、2000年代〜は、相手の上に立って部下を動かす「従来のリーダー」とは逆に、部下に対して思いやりと奉仕の気持ちで支援する「サーバント・リーダー」が、2020年代〜は、自分とはどういう人間か、自分が大事にする価値観は何かなど、倫理観を重視した「オーセンティック・リーダーが求められている。
そして、私が考える次世代リーダーは「女神的リーダー」である。ジョン・ガーズマとマイケル・ダントニオは、著書「女神的リーダーシップ」の中で、つながり、謙虚、素直、忍耐、共感、信頼、肝要、柔軟性、弱さ、調和といった女神的な感性を持ったリーダーと説明している。さらに、男性は好戦的で、女性は友好的で、男性的価値観はもう通用しない、未来を作り、世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性であると述べている。また、「男性がもっと女性のような発想をしたら、世界は好ましい方向に変わるだろうか」という問いに、グローバル調査で66%が賛成し、日本人男性の79%が賛成したという。
さまざまな問題を抱える社会において今後必要となる価値観は、競争で目先の利益を「奪い合い・独占する」価値観でなく、道徳観に従い「与え・共有する」価値観であり、若者の価値観と女性的な価値観が、この分断と格差の社会を変えてくれると考える。

これからのスポーツ

では若者と女性的な価値観を持った人たちが考えるこれからのスポーツとはどのようなものだろうか? まず、何のためにスポーツをするのかを考えてみることだ。勝つため、遊ぶため、健康のため、道徳を学ぶため、金銭を得るため、自己実現のため、さまざまな目的がありそうだ。一度、若者と女性を主役にし、ディスカッションすれば、今までとは違ったスポーツの楽しみ方が生まれてきそうである。

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