スポーツ産業を測る スポーツ産業の範囲をめぐる問題
スポーツ産業を測る
スポーツ産業の範囲をめぐる問題
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部・助教
多様化するスポーツ産業
ユニクロを展開するファーストリテイリングの売上高は、約1兆8,000億円であり、アパレル系小売業として世界第3位となっています。近年、錦織圭選手をはじめとして、トップスポーツ選手のスポンサーになったり、「ユニクロスポーツ」というカテゴリーで、スポーツ時に着用できるウェアやグッツを市場に投入しています。このように、これまで一般的にスポーツ産業に属するとは考えられていなかった企業が、スポーツ用の商品やサービスを展開する事例が増加しています。
また逆に、アシックスのオニツカタイガーに代表されるように、スポーツブランドが、スポーツのイメージや機能を保ったままで日用品としてのウェアやグッツを市場に投入しているケースも多くみられます。
つまり、スポーツ産業をスポーツ産業ならしめる境界線が非常に曖昧かつ複雑になってきていると言えるのではないでしょうか。スポーツ庁においても、スポーツ未来開拓会議にて、これまでスポーツ産業と捉えられていなかった「新ビジネスの創出や促進」「他産業との融合による新たなビジネスの創出」を目標に掲げています。これは1990年にスポーツビジョン21で定義されたスポーツ産業では捉えきれないものであり、新たなスポーツ産業の定義が必要とされています。
スポーツ産業の特殊性
スポーツ活動は、スポーツ用品用具などの製造・小売業、スポーツ施設などの建設業、スポーツクラブなどのサービス業など複数の産業があって初めて成立できます。また、「する・見る・支える」というスポーツ活動(スポーツ消費者)によって初めてスポーツ産業として定義されるという不思議な性質を持っています。これは生産と消費の同時性と言われます。つまり、人間の行為によってはじめて定義される産業だということです。これに似たような産業としては、他にツーリズム(観光)などがあります。これらは従来の産業区分にあてはまらないわけですが、こういった産業を計測するためにはどのように考えればいいのでしょうか。
概念としてのスポーツ産業連関モデル
このような考え方は、英国やEUのスポーツサテライトアカウントが参考になります。このスポーツサテライトアカウントは、一般の産業の中に、スポーツ産業が横断的に存在する、という概念が前提にあります。この概念をモデル化してみると以下のように産業連関表そのものとして表現できます。表に、産業×商品の表として提示しました。このスポーツ産業連関モデルは、行方向には消費構造、列方向は費用構造を示しています。例えば、スポーツ商品1は、横にたどると、最終的な生産額に辿り着くまでにスポーツ1次産業~n 次産業と最終需要(する・みる・支える)にどのように消費されたのか、を示します。そして最終需要の合計がスポーツGDP支出側となります。また、スポーツ1次産業を列方向にみると、最終的な生産額を生み出すために、スポーツ商品1~商品nまでどのようにコストがかかったのか、を示します。
そして生産—中間投入のスポーツ付加価値がスポーツGDP 生産側となります。
このように定義すれば、スポーツ商品やスポーツ○次産業の種類や割合を変えていくことで、進化・複雑化し続ける「スポーツ産業」を産業構造として把握し続けられると考えられます。実際の計測は、一般の産業連関表からスポーツのシェアを抜き出す作業が必要となるでしょう。
▶ファーストリテイリング、決算情報、http://www.fastretailing.com/jp/ ir/
▶アシックス、ホームページ、http://www.asics.com/jp/ja-jp/
▶スポーツ庁、スポーツ未来開拓会議中間とりまとめ(素案)概要、2016
▶通商産業省産業政策局、スポーツビジョン21-スポーツ産業研究会報告書-、1990
▶李 潔、入門GDP統計と経済波及効果分析、大学教育出版、2016