スポーツ産業を測る 欧州のスポーツサテライトアカウント

スポーツ産業を測る 欧州のスポーツサテライトアカウント
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部・助教

スポーツサテライトアカウントの考え方

前回のシリーズ③では、「英国のスポーツ産業」にてスポーツサテライトアカウント(Sport Satellite Account: SSA)によって、英国のスポーツ産業が試算されていることを紹介しました。S SAは、EUのスポーツ経済作業部会が、共通定義「スポーツのヴィルニュス定義」(Vilnius Definition of Sport)を定め、SSA作成に必要なデータを収集、作成するための土台としています。*1
サテライトアカウント、というのは、従来の国民所得勘定では把握できないテーマや分野に適応するための勘定体系のことです。スポーツ以外においても、例えば、観光のような従来の経済計算では対応が難しい経済を把握するために、旅行・観光サテライト勘定(Tourism Satellite Account:TSA)が開発されています。*2
SSAは、欧州の産業分類NACE、そして商品分類にあたるCPAをもとに、統計的定義(Statistical Definition)、狭義の定義(Narrow Definition)、広義の定義(Broad Definition)の3つで構成されます。統計的定義は、もともとNACE分類でスポーツ活動として存在する項目であり、狭義はスポーツのために必須な項目、そして広義は、必須ではないけれどスポーツに関連して存在する項目を示します。この関係性を図示すると、以下のようになります。*3



欧州のスポーツ産業統計値

上記のようなSSAの考え方によって試算された欧州7ヶ国のスポーツ産業統計値を表に示しました。雇用者数、粗付加価値(Gross Value Added:GVA)、消費支出の3つの観点で試算され国際比較が可能となっています。この7ヶ国で特徴的な国を見ると、オーストリアやドイツのスポーツ産業は、国全体の経済に占めるスポーツ産業の割合が高いと言えるでしょう。オーストリアは、ツーリズムの収益の半分がスポーツ関連(スポーツツーリズム)であり、特にオーストリア以外の国からの外国人によるウィンタースポーツの需要が大きいことが、国全体の経済に占めるスポーツ産業の割合が高くなる要因のようです。また、ドイツは、消費支出の割合が高いことが特徴的であり、個人のスポーツに対する消費意欲がスポーツ産業を牽引している大きな要因と言えます。またドイツは、GVAよりも雇用者数の割合が高いことは、生産に対して賃金の低いパートタイム労働者が多いことが推測されます。つまり、スポーツ産業の中でもサービス業が大きい比重を占めると考えられます。*3
以上のように、欧州においてはSSAを活用して各国のスポーツ産業を国際比較する動きが見られます。東京2020オリンピック・パラリンピック大会に向けてスポーツ産業の拡大が期待される現在、わが国でも国際比較可能で産業政策のベンチマークになるようなスポーツ産業統計値を整備する必要があると考えられます。

▶*1 European Commission, Implementation Guide,Sport Satellite Accounts, Manual on behalf of the European Commission,2015.
▶*2 観光庁, 旅行・観光サテライト勘定, 観光庁ホームページ, http://www.mlit.go.jp/kankocho/tsa.html.
▶*3 European Commission, Sport Satellite Accounts, A European Project:New Results, 2013.

 

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