sports scene

東京から南西へ1200km。2時間ほど空の旅を楽しむと、サンゴの砂浜に縁どられた緑豊かな島、奄美大島が見えてくる。
同じ南西諸島に位置する沖縄本島と比べ面積・人口共に小規模のこの島に直行便が就航したのは平成4年のこと。その頃から、冬は内地より温暖で夏は沖縄ほど暑くないという絶妙な気候に惹かれた人々がスポーツ合宿に訪れるようになった。それを受け奄美市は宿泊施設をはじめとした地元企業や他の自治体と連携し「奄美スポーツアイランド協会」を設立し、誘致活動に注力してきた。特に、気候のコンディションに左右されやすい競技である陸上長距離のチームからの人気は高く、ニューイヤー駅伝に参加する実業団チームはほぼ全て、奄美での合宿経験があるという。今年2月には東京五輪に出場内定しているマラソンの服部勇馬選手もトレーニングに来島。地元で合宿した選手の五輪での活躍に、島民は大きく注目している。
そんな奄美大島における今年のもう一つの関心事に、今年夏にも可否が決まる世界自然遺産への登録がある。世界的に見れば乾燥した地域が多い緯度帯にありながら一年を通して雨量が多い特殊な気候で、固有種も多く存在するという島の環境は大変貴重である。無事に登録がなされるよう、環境保全活動は急ピッチで進んでいるようだ。
スポーツ振興に伴う開発と、自然保護の考え方は往々にして対立する。東京では、日本野鳥の会などからの反対を受け、今年の五輪で使用予定のカヌー競技会場がより環境に影響が少ない場所への建設に変更されたというのも記憶に新しい。奄美市では、自然があってこその島の暮らしであるとの考えから、開発とのバランスを保つ方法を模索している。新たな施設を建てることで誘致を図るのではなく、既存の施設の改修などを中心に対応するという方針だ。ハード面にばかり重きを置かず、滞在期間中の移動手段の手配や困りごとのお手伝いを徹底し、合宿を終え内地へ帰った後は試合の応援に出向くなど、温かいサポートを心がけている。その結果、訪れたスポーツ関係者からの口コミは広がり来島者数も目に見えて増えてきているという。自然をむやみに侵さず、持てる範囲で暮らす。古来からの考え方を町興しにも活かし、自然と人との共存を目指す南の島。サステナブルなスポーツ振興の形が、そこにあった。

2月、温暖な気候を求めて訪れた多くの実業団女子陸上チームの幟旗が揺れる

▶︎伊勢采萌子

関連記事一覧