スポーツ産業のイノベーション 経済学から見た環境問題とスポーツにできること

スポーツ産業のイノベーション
経済学から見た環境問題とスポーツにできること
植田真司│大阪成蹊大学経営学部教授

今回は、経済学の視点から環境問題とスポーツの役割について考えてみました。

環境問題の現状
文明が進化し世の中が便利になる一方で、環境問題、異常気象、コロナ感染など、日々気になる問題が増えています。
環境問題では、天然素材と比較して、軽量かつ丈夫で、加工しやすく、コストパフォーマンスが良いプラスチックは、世界中で利用され、生産量は1950年の200万トンから、2015年には3億8000万トンと約200倍に増えました。この時点で累計約83億トンが生産され、うち約63億トンが廃棄され、リサイクルされたのは9%で、12%は焼却処分され、残りの79%がごみとして、埋め立てか自然環境に蓄積されています。1)
世界経済フォーラムの2016年の報告書によると、2050年までに海洋中に存在するプラスチックの量が魚の量を超過すると予測しています。本当に、驚かされます。
また、ストックホルム・レジリエンス・センターのヨハン・ロックストロームとオーストラリア国立大学のウィルステファンは、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)として、人類の活動が自然環境のある転換点を超えたとき、現在の均衡状態が崩れ、別の均衡状態に移り、不可逆的かつ急激な環境変化が起きると指摘しています。地球は、危機状態にあるといえます。

自然環境における経済学の問題
なぜこのような環境問題が進行したのでしょうか?
経済学では、経済活動を家計・企業・政府を三主一体とし、モノやサービスの生産と消費における「お金の流れ」と「人の活動」だけを考慮し、図−Aのような「閉じたシステム」として扱ってきました。この自然環境を無視した身勝手な経済モデルが、我々の地球を異常な事態にした主な原因と考えられます。

現在は、図−Bのように、自然環境も視野に入れ、使い終わった製品などをリサイクルする「開かれたシステム」として扱い、「資源を採掘し、製品をつくり、廃棄する」直線型経済システムから、「廃棄物を新たな資源として再利用する」循環型経済(サーキュラーエコノミー)に変わっています。
昨今の環境問題は、経済学が数字に目を奪われ、自然環境や人、倫理、哲学に目を向けず、地球の「水、空気、石油などの貴重な資源」を、「コストのかからない資源」として、大量に使ってきた結果だといえます。

スポーツになにができるのか?
このような環境問題や社会問題に対して、スポーツになにができるのか考えてみました。
一つ目は、情報発信により、人々の問題意識を高めること。
2015年の国連サミットで、発展途上国・先進国を問わず全人類が解決すべき共通目標として「SDGs」が採択され、そのアジェンダに、「スポーツも、持続可能な開発における重要な鍵となる」と記されています。しかし、スポーツには、平和、健康、教育への寄与だけでなく、人を引き付け、人に影響を与える力があります。チームやアスリート達が、地球の現状を情報発信することです。
二つ目は、地域の課題に主体的に取組むこと。
企業は利益を追求し、スポーツチームは勝利を追求します。人も生きるため、食物を追求します。しかし、人は、食物だけで幸福になれません。それは、企業もスポーツも同じです。
我々は、勝利を得るために、競争に合理性を求め、人の思いやりや弱者との助け合いを軽視して来たのではないでしょうか?大切なことは、地域のため、人々のために時間を使い、見て見ぬふりをせず、さまざまな問題に向き合い、お互いが協力し合うことです。
我々は、経済成長が幸福につながると考えていますが、便利なものが増え、新しい技術がどんどん進歩する一方で、格差も広がり、不安も増え、幸福とはいえません。どうも、我々が無駄と考え、排除してきた時間の余裕や遊びの中に、幸せが隠れているのではないでしょうか。 「経済は「競争」では反映しない」の著者で、クレアモント大学のポール・ザックは、我々を幸福にするのは、「愛」と「共感」と「信頼」であるといっています。
スポーツも、環境問題を解決し、我々が幸せになるために何ができるのか、もう一度考えてみる必要がありそうです。

▶1)Roland Geyer and Jenna R Jambeck and Kara Lavender Law (2017) “Production, use, and fate of all plastics ever made”,Science Advances,3(7).

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