スポーツ産業のイノベーション 日本の企業はイノベーションが苦手なのか?

スポーツ産業のイノベーション
日本の企業はイノベーションが苦手なのか?
植田真司│大阪成蹊大学マネジメント学部 教授

イノベーションは、かつて無いほどに注目を浴びている。内閣府では「重要政策に関する会議」のひとつとして「総合科学技術・イノベーション会議」を設置し、イノベーションを促 進している。また、2013年の「日本再興戦略」では、イノベーションの推進が経済成長の主要な柱とし、イノベーション力 (技術力)の世界ランキングを5年以内に世界第1位にするとしている。しかし、日本の企業は、イノベーションが苦手なようにも見える。そこで、イノベーションについて考えてみたい。

イノベーションとは?

今から約100年前、オーストリアの経済学者シューペーターが、著書『経済発展の理論』(1912年)の中で、「企業は、既存の価値を破壊して新しい価値を創造すること(創造的破壊)を続けなければ生き残ることができない」という理論を発表したため、イノベーションが注目を集めることになった。
日本では、1956年の「経済白書」においてイノベーションが紹介されたが、「技術革新」と翻訳したため誤解を招いている。イノベーションは、技術革新だけを意味するものでなく、新しい技術やアイデアが市場に導入され(実用化)、消費者がそれを受け入れ企業に利益をもたらし(事業化)、社会に新たな価値を提供することである。

イノベーターの存在

ここで、注意しなければいけないのは、イノベーションとインベンションの違いである。技術の変化や技術革新だけならイノベーションではなくインベンション(発明)である。イノベーションは、発明を実用化し、事業化し、社会に新たな価値を提供することである。発明する人、実用化する人、事業化する人がいて初めてイノベーションが興ると言える。 例えば、白熱電球を発明したのはジョゼフ・スワンであるが、発明だけではイノベーションは興らない。トーマス・エジソンが、各家庭で使えるように耐久性のある白熱電球を作り実用化し、発電所を作り、送電線を張りめぐらし事業化したので、一般家庭で使えるようになったのである。
蒸気機関をジェームズ・ワットが発明(1765年)し、蒸気
機関車をリチャード・トレビシックが発明(1804年)したが、これだけでは鉄道は普及しなかった。ジョージ・スチーブンソンが実用的な蒸気機関車に改良(1814年)し、レールを敷き、駅をつくり、料金システムをつくり、輸送する仕組みづくりに協力し事業化したので、人々が鉄道を使えるようになったのである。
ガソリン自動車も最初に発明(1870年)したのはジークフ
リート・マルクスであるが、彼はイノベーションを興していない。ゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツが自動車を商品として実用化し、販売店網を構築し事業化したからである。また、ヘンリー・フォードが、オートメーションという生産プロセスによって低価格で高性能の自動車を実現し、庶民の手に届くものにした(1908年)からである。
このように発明を実用化し、事業化する人が存在したからこそ、イノベーションが興せたのである。エジソン、スチーブンソン、フォードは発明家と言うより、社会に新たな価値を提供したイノベーターであり、起業家・経営者である。現在では、スティーブ・ジョブズがイノベーターにあたるだろう。

日本の企業はイノベーションが苦手なのか?

日本は2016-2017年の世界経済フォーラム(WEF)国際競争力ランキングによると、138カ国中「総合(12項目)」で8位、
「イノベーション」項目で8位である。この「イノベーション」はイノベーション能力、研究機関の質、研究開発支出、産学連携、技術者活用、特許件数等で決まるが、近年5位→4位→5 位→8位と順位を下げている。しかし、人口当たりの国際出願件数は第1位など、高い技術力を持っているといえる。日本でイノベーションが興らないのは、この技術力を利用して、利益をもたらす仕組みづくりや事業を実行するイノベーターを育てる環境が調っていないからではないだろうか。私が尊敬する水野利八氏や鬼塚喜八郎氏のように、身を挺してでも世の中を変えようとする志や起業家精神を持ったチェンジリーダーが育っていないからではないだろうか。現に、日本の大学生で事業や会社を興そうと考えている学生は、欧米に比べてはるかに少ない。日本でイノベーションが興らないのは、我々大学教員にも責任があるのかもしれない。

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