スポーツ産業のイノベーション スポーツマンシップによってイノベーションが生まれる

スポーツ産業のイノベーション
スポーツマンシップによってイノベーションが生まれる
植田真司│大阪成蹊大学マネジメント学部 教授

今回は、イノベーションが生まれる組織とはどのような組織なのか?そのような組織をつくるには何が必要なのかを考えて見ました。そこで出てきた答えが、スポーツマンシップでした。なぜ、スポーツマンシップによってイノベーションが生まれる組織になるのか説明していきましょう。

スポーツマンシップとは

スポーツマンシップとは、小学館の国語大辞典によると「スポーツマンとして求められる、明るく正々堂々と全力をつくして競技をする態度・精神」、三省堂の新明解国語辞典によると「フェアプレーをし、勝負にこだわらない、明るい健康な態度・精神」と説明されています。しかし、私は「尊重する精神」が重要と考えています。対戦相手を尊重するからこそ、ルールを守り、勝った時に誇らない、負けた時に悔やまない態度が生まれるのではないでしょうか。
19世紀、イギリスのオックスフォードやケンブリッジなどの学校では、子どもが倫理・道徳を修得するためにスポーツを活用していました。スポーツマンシップとは、「スポーツを通じて身につける、社会で求められる人格、品格、人間力」といえるのではないでしょうか。

イノベーションが生まれる組織とは

新しい組織として、指示命令しない管理しない組織が注目されています。「ティール組織」(1)の著者フレデリック・ラルーは、組織の進化段階を、①狼の群れのような力の支配組織、 ②軍隊のような上意下達の組織、③機械のように効率的を重視した階層組織、④家族のように多様性を尊重した組織、 ⑤信頼で結びついた指示命令が無い組織と表現しています。
ティール組織とは⑤のような、「社長や上司がマイクロマネジメントをしなくても、組織の目的実現に向けて、進むことが出来ている独自の工夫に溢れた組織」「各個人が色々な仕事にチャレンジできるように工夫されている組織」と言われています。実際に、ザッポス(アメリカ)、セムコ社(ブラジル)、未来工業(日本)など信頼関係で結びつき、管理しない組織が存在しています。挑戦し易く、失敗しても仲間が助けてくれ、安心できる組織。儲けることが目的ではなく、働く人のことを一番に考えている組織。だからこそアイデアも出る、イノベーションも生まれるのでしょう。従業員を疑い、ルールで縛り、指示命令する組織とは180度異なる組織です。

イノベーションが生まれない組織とは

一方、多くの日本企業は、上意下達や効率を重視し、管理や指示命令で人を動かしているのではないでしょうか。失敗は許されない、だから新しいことに挑戦しない、主体的に動かない、仕事も楽しくない。結果イノベーションも生まれないのでしょう。書籍「管理しない会社がうまくいくワケ」(2)の中に、「管理型マネジメントから、自分から動く部下は生まれない」と書かれています。また、「マネジメント信仰が会社を滅ぼす」(3)の著者深田和範氏は、「管理に頼りすぎると、新しいビジネスが生まれない」といっています。管理は、イノベーションの敵といえます。
スポーツチームの場合、各メンバーは一つの目標を共有し、仲間を信じ励まし合い、自分の意志で動く組織になっています。監督やコーチも、指示命令する支配的リーダーから、メンバーを支援するサーバントリーダーに代わりつつあります。図で示すと上記のような組織になります。

まとめ

ノベーションが生まれる組織に共通するのは、管理や指示命令に縛られず、メンバー全員が一つの目標に向って、お互いに信頼し、助け合い、励まし合い、仕事を楽しむ組織です。その条件として、メンバーの人格、品格、人間力が求められます。また、スポーツマンシップでは、勝利よりフェアプレーを優先するように、ビジネスにおいても、利益より人を大切にすることを優先します。
スポーツを通じて、スポーツマンシップを身につけることで、信頼関係が築かれた組織が実現し、安心して新しいことに挑戦でき、イノベーションも生まれるのではないでしょうか。

▶(1)フレデリック・ラルー;ティール組織,英治出版,2018
▶(2)アービンジャー・インスティチュート;管理しない会社がうまくいくワケ,大和書房,2017
▶(3)深田和範;マネジメント信仰が会社を滅ぼす,新潮新書, 2010

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