超人スポーツ~「創る」スポーツの提案~

超人スポーツ~「創る」スポーツの提案~
上林 功│超人スポーツ協会事務局長代理 株式会社スポーツファシリティ研究所代表取締役

超人スポーツとは

超人スポーツとは、スポーツとテクノロジーを組み合わせた「する・観る・支えるスポーツ」、そしてそれらを生み出す「創るスポーツ」を加えた次世代のスポーツです。昨今、パラリンピックの選手がオリンピックの選手の記録を凌駕する例がみられます。2 016年、走り幅跳びのマルクス・レーム選手は義足の選手で、リオパラリンピックにおいてオリンピック記録を超えたことが話題となりました。そしてその際に弾力性のあるブレード型の義足が記録延伸の要因となっているのではないかと議論の的になりました。本来、人間の身体能力のみを競うスポーツにおいて、道具のチカラを借りることがフェアではないとの意見です。ところがよく考えてみると、ランニングシューズ、ウェアをはじめ、スポーツにはウェアラブルな道具による身体能力の補助は日常的におこなわれており、そのアシストの大小によって許容するか否かを決めるという、恣意的な「身体の限界」が設定されていることに気が付きます。
私たちは、身体能力を拡張するテクノロジーを肯定的に捉え、スポーツとテクノロジーの組み合わせによって新たなスポーツの可能性を引き出せないかと考えています。極端な例を言えば、ブレード義足どころか電動義足をつけて、人はどこまで速く走れるのか、跳躍できる限界はどこまでかを突き詰めてもいいのではないか、そのような発想から「超人スポーツ」というアイデアが生まれました。
超人スポーツのキーワードは「拡張」です。単純にスポーツを「拡張」するといってもそのベクトルは様々です。まずは「身体の拡張」。義手や義足、身体能力の拡張はもちろんながら、動物の身体を模倣した拡張をおこなうことで、空を飛べたり、海を速く泳げたりするかもしれません。「道具の拡張」、「フィールドの拡張」が行われることは既存のスポーツ競技に新たな価値を付加するほか、全く違う競技も生み出す可能性を秘めています。また、拡張技術を通じて、競技者、観戦者だけにとどまらず、これまでスポーツに参加できていなかった人々を引きつける「ダイバーシティの拡張」に結びつくことによって、スポーツに関わる人全体を増やすことが可能ではないかと考えています。
超人スポーツをひとことで示すなら、“人機一体”の新たなスポーツと言えます。私たちは、超人スポーツの普及・振興を目的に2 015 年6月に超人スポーツ協会を設立いたしました。ここでは、超人スポーツについて以下の3 原則を掲げ、全ての人が競技者に、あるいは全ての人が観戦者として楽しめるスポーツを目指しています。
1) 技術とともに進化し続けるスポーツ
2) すべての人が競技者として楽しめるスポーツ
3) すべての人が観戦者として楽しめるスポーツ
多産業の展開を通じて「拡張」を進めることで、2 020 年以降に向けた盛り上がりに貢献できるのではないかと期待しています。

創るスポーツ

従来のスポーツと異なり、積極的にテクノロジーを組み合わせる超人スポーツの大きな特徴として「創るスポーツ」の側面があります。この「創る」という発想は実は既存スポーツにも見られる考え方です。パラリンピックの会場となるスタジアムには作業スペースを備えた調整室が備えられていることが知られています。これは車椅子や義肢、装具の調整をおこなうための工房で、F1レースにおけるピットスペースのようなメカニック機能を併せ持つ施設です。高度に発達したパラスポーツでは身体管理のほかに義肢装具、車椅子といった拡張器具の管理が必須であり、メカニックの帯同があるという事実があります。この「創る」という発想を飛躍させるとモータースポーツの他にも、自転車競技やヨット競技などが好例として浮かんできます。「創る」部分であるメカニックそのものもルール化することで、如何に優れたマシンをつくるかもスポーツの一部として組み込まれることとなります。

“人機一体”の拡張した身体で競い合う。(写真:超人スポーツ協会)

選手の鼓動や競技の衝撃を手元に伝える応援デバイス。スポーツを観るだけでなく体感させる「観戦の拡張」によって、観戦価値そのものを変革する。(写真:超人スポーツ協会)

拡張技術と超人スポーツ

超人スポーツを支えている考え方には拡張技術が深くかかわっています。
東京大学の舘暲(たち すすむ)先生は人工知能などを利用して自律的に動くのではなく、センシング装置をつけた人の動きと、全く同じ動きをするT ELE SA R(テレサ)と呼ばれるロボットを研究・開発しています。実際に操作すると、あたかも自分がロボットになったかのようにシンクロし、没入感を得られることで知られています。カメラを通じてロボットが見ている視覚を共有する、映像による没入感のみならず、触覚を伝送することで、ロボットが触れた感覚をフィードバックするなど、複数の知覚によってロボットの「体験」そのものを操作者の体験として伝送する技術です。ロボットのパワーを獲得したり、離れた場所で行われている出来事について臨場感をもって体験するなど、これらの技術や考え方は、身体の拡張や観戦の拡張など超人スポーツにも大きく関わっています。これらの技術はテレイグジスタンス(遠隔臨場感)と呼 ばれています。遠隔操作によるロボットの活用例はありましたが、遠隔での知覚伝送をおこなうことで、離れた場所であっても、あたかもその場にいるかのような体験を得ることを指し、これまでその場に行かなければわからなかった体験をリアルタイムで体験できる仕組みをつくり出します。
さて、話を超人スポーツに戻しましょう。伝送を介してロボットと繋がれた操作者は、出力の調整をおこなうことで自分の力を超える力で作業したり、拡張された鋭い知覚によってより繊細な動作を行うことが可能となります。こうした技術は超人スポーツにおける「身体の拡張」に繋がる技術で、伝送を介して操作者のチカラの調整が可能と考えています。
これまでのスポーツは身体能力を競うことを前提としてきましたが、自分の身体能力に拡張を加え、競技者間の身体能力を等しくした場合、スポーツは成り立つでしょうか?我々は成り立つと考えています。等しく能力を高めることで、むしろよりレベルの高い白熱したゲームがおこなわれると考えます。誰しもを超人に押し上げ、ハイパフォーマンスで高レベルなスポーツをおこなえるようにすることは、「する」人にとっても楽しいものとなりますし、これは「観る」人にとっても満足の高いゲームになると考えます。
また「観戦の拡張」に目を移すと、スタジアムやアリーナへの実装が考えられます。例えば、現在行われているロボット技術の事例として、韓国のスタジアムで導入された観客ロボットがあります。ハンファ・イーグルスの観客席に設置された「ファン・ロボット」は、SNSなどを通じて応援メッセージを掲げたり、応援動作をするロボットです。これは、単純な応援動作をする賑やかしロボットですが、先述のテレイグジスタンスの技術を組み込むとどうなるでしょう。応援動作だけでなくロボットが得た体感、スタジアムの雰囲気などを伝送できれば、これまでにない放映によるスタジアム体験を提供できるのではないかと考えます。まさに「観戦の拡張」です。

超人スポーツの未来

スポーツはこれまで「する」、「観る」、「支える」の三角形の関係があると言われてきましたが、「創る」スポーツはこの3つの頂点にそれぞれつながることで、三角錐の立体構造をつくり出し、これまでにない産業に対してもアプローチできると考えています。すでにこれまで機械工学的なプロダクトぐらいにしか販路がなかった素材メーカーからの打診や、出版社などコンテンツメイキングをおこなっている企画者からも問い合わせをいただいています。「創る」スポーツ~スポーツクリエイション~は、これまでにリーチできていなかったクリエイティブ産業全体に訴求力を持つと考えています。
2020年、またそれ以降に向けた良いレガシーを生み出したいと考えています。将来振り返ってみたときに、「今のクリエイティブな社会は思えば2 020年がきっかけだったんだよね」と思えるような未来を目指して、超人スポーツ協会では常に新しい発想でスポーツを「創り」だしていきたいと考えています。

https://superhuman-sports.org

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