スポーツ産業のイノベーション 顧客を創造するヒント
スポーツ産業のイノベーション
顧客を創造するヒント
植田真司│大阪成蹊大学マネジメント学部 教授
スポーツ市場拡大のため、顧客を状況に合わせ分類する
レジャー白書から、競技別に年1回以上のスポーツ参加人口を、平成5 年を100として、平成2 7年までの推移を表わすと上のグラフになる。ジョギング、マラソンを除き、平成25年まで減少していることが分かる。
この減少しているスポーツ参加人口を増やし、市場を拡大するには、収穫の前に、畑を耕し、種を蒔き、芽を育てるように、スポーツをしていない潜在顧客(ニーズに気付けば顧客になる人)に、スポーツの役割や価値を伝え、スポーツへの誤解を解き、興味を持たせ、見込顧客、さらに新規顧客、優良顧客(リピーター、ファン)に育てる必要がある。
また、「スポーツをしている人」は、その頻度によって分類できるが、「スポーツをしていない人」も、スポーツをする可能性によって分類できる。(下表)
「今後もスポーツをする気がない人」、「今後するかもしれない人、迷っている人=潜在顧客」、「スポーツをしたいと思っている人、行動に移せていない人=見込顧客」、「昔やっていたが、今は何らかの理由でしていない人」などである。それぞれの顧客の状況に合わせて、アプローチの方法が異なるのである。
顧客の声に耳を傾け、ニーズをしっかり把握する
マーケティングで有名なセオドア・レビットは著書の中で「4分の1インチ・ドリルが100万個売れたが、これは人びとが4分の1インチ・ドリルが欲しかったからでなく、4分の1インチの穴が欲しかったからである」と述べている。穴が欲しいという顧客の課題を理解せずに、ドリルの性能を一方的に説明しても、顧客の課題を解決することは出来ない。そこで顧客のニーズを聞き出すには、次のような質問をするとよい。
①穴を開ける素材は?
②穴は、1個か? たくさんか?
③自分で穴を開けたいのか? 開けてほしいのか?
④ドリルを買いたいのか? 借りたいのか?
⑤穴を空けるのは、ドリルでないといけないのか?
⑥なぜ、穴が欲しいのか?(穴の代わりはないのか?)
スポーツの場合も、「なぜ、スポーツをするのか?」「スポーツに、どのような結果や効果を求めているのか?」見込顧客や潜在顧客の声に耳を傾け、ニーズをしっかり把握することである。
下の絵は、「若い女性と老婆」が描かれた隠し絵で、漫画家 W.E.ヒルによって改作されたものである。
「若い女性」と「老婆」が描かれていることは、周知の通りであるが、大切なことは、我々が普段から、二つの絵を見ようと心掛けているかである。
人は、自分と違う考えを持っている人がいたら、その人の意見に耳を傾けようとしない。若い女性に見える人は、老婆が見えると人のことを「変な人」と決め付け、話を聴こうとしないのである。
そうではなく、なぜその人には「老婆」が見えるのか、理解できない話に耳を傾けることである。すると、新しいモノの見方が出来るようになり、老婆が見えるようになり、新たな発見や自己の成長に繋がるのである。
スポーツが嫌いな人、やらない人がいれば、「考え方が違う」「意見が合わない」で終わらせず、「なぜ、嫌い
なのか?」「なぜ、やらないのか?」その人の話を聴くことで、見えなかったものが見えるようになり、その解決策も見つかるのである。