スポーツ産業のイノベーション 西洋的思考から東洋的思考そして日本的思考へ

スポーツ産業のイノベーション─㉗
西洋的思考から東洋的思考そして日本的思考へ
植田真司│大阪成蹊大学経営学部教授

今や生活の中に西洋文化が根付き、東洋の価値観、日本の価値観から西洋の価値観で、モノゴトを判断する傾向にある。しかし、現実として様々な課題も見えてきた。今回は、その思考の特徴について考察する。

西洋思考と東洋思考の特徴
西洋思考は、ギリシャ、イギリス、 アメリカを中心とし、東洋思考は、中国、韓国、日本を中心とした思考法である。キリスト教の「人間中心主義」や仏教の「自然と人間が一体となった自然観」などが、我々の思考にも大きく影響していると考えられる。
また日本では、明治以降の文明開化により西洋の生活スタイルへと変化し、戦後はさらに、ビジネス、スポーツ、食生活においても欧米化が進んだといえる。
「ぶれない軸をつくる東洋思想の力」の著者田口佳史は、著書の中で、西洋思考は、区分して専門化し、枝葉まで細部を見る思考法であり、東洋思考は、全体の関係性や根本に還り、本質を見る思考法であると述べている。また、西洋思考は、見える数字を重視するために「効率主義」をもたらし、「教育」や「医療」の現場においても、効率主義がはびこり、本質より結果を重視するようになってしまったと述べている。

▶水中アニメーションの様子を再現した図

 「木を見る西洋人 森を見る東洋人」の著者リチャード・E・ニスベットは、著書の中で、図のような水中のアニメーションを日本人学生(京都大学)とアメリカ人学生(ミシガン大学)に見せ、「何を見たか」と質問すると、大きい魚についての回答数はほぼ同じだったが、小さい魚やカエルなどの目立たない生き物や水草、石、泡についての回答数は、日本人はアメリカ人より6割以上も多く、前景にあるものと背景にあるものの相互関係について話す割合は、2倍も多かったと述べている。
理由として、西洋の「物事は環境から切り離して分析できる」という伝統的な考え方と、東洋の「相互依存性や関係性を重視し、物事は複数の力が働く場のなかで起きる」という伝統的な考え方の違いであるとしている。また、西洋人は、個人主義で、競争や目的達成、人よりも秀でることを重視し、東洋人は、集団主義で、集団の目標や協調的な行動、互いの関係性を重視する傾向にあるとしている。

西洋的思考から東洋的思考へ

これまでの大量生産大量消費の時代は、西洋的思考の「効率」、「競争に勝つこと」、「人より秀でること」が重視されてきた。資源がたくさんある時代は、それでも問題なかったが、今や環境問題など持続可能な社会を構築する時代であり、人間と自然が共存する東洋的思考が見直されている。
我々は、見えるものばかりを細分化して分析してきたが、細分化しても全体でしか見えないものがある。例えば、人間の身体を細分化しても、命は見つからない。全体にこそ意味があるのだ。アリストテレスも「全体とは部分の総和以上のなにかである」といっている。
また、「競争に勝つこと」や「人より秀でること」で、社会が平和になればよいが、格差が生まれて不安定な社会になっている。東洋的思考の「関係性を重視」し、「互いに助け合う」ことの方が、人類を幸せにするのではないだろうか。

東洋的思考から日本的思考へ

さらに、日本的思考は、天地万物に神が宿ると考え、モノを大切にし、供養の精神で無生物にも感謝する思考である。
また、カバンと風呂敷、洋間と日本間、洋画と水墨画、噴水と滝のように、西洋のものは便利だが汎用性がなく、日本のものは不便だが汎用性がある。これからは、不便だが頭を使い、少ない資源で生活する知恵を身につける必要がある。
スポーツも、勝ち負けや秀でることを重視する西洋的な楽しみ方だけでなく、日本のスポーツである柔道、剣道、相撲などの、勝ち負けより互いの関係性や礼を重視する武道に注目したい。柔道は、精力善用と自他共栄。剣道は、ガッツポーズが反則、大相撲も、ガッツポーズを良しとしていない。
少なくとも、スポーツの語源は、気晴らしや遊びであり、英国では、学生の倫理や道徳の修得にフットボールやクリケットなどのチームスポーツを導入していた。秀でることを重視するスポーツだけでなく、協調や関係性を重視する新たな楽しみ方があるのではないだろうか。2022年にスタートした第3期「スポーツ基本計画」では、①スポーツを「つくる/はぐくむ」、②「あつまり」、スポーツを「ともに」行い、「つながり」を感じる、が重点施策とされている。今こそ、日本的思考でスポーツ産業や社会に新たなイノベーションを興したいものである。

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