今後のスポーツ産業の発展
髙橋義雄
日本スポーツ産業学会運営委員長/スポーツ庁スポーツ審議会臨時委員
今後のスポーツ産業の発展には、次の世代を見据えた制度設計が不可欠だと考えています。制度が脆弱であれば、正当な投資や評価を受けられないからです。例えば企業スポーツにおいては、関わるすべての人がボランティアや副業扱いではなく、業務として対価が支払われる仕組みが必要だと感じます。
アマチュアリズムという名のボランタリーな「遊び」のままにしてしまうと、スポーツはビジネスになり得ません。これまではその線引きがあいまいなまま成立している部分がありましたが、今後はインテグリティや透明性を担保するガバナンスの整備と、デジタル化による資金・データの可視化が投資を呼び込みます。これらが、スポーツを「業務」として成立させる鍵だと考えます。企業スポーツや大学スポーツにとって、ここが産業化の次のポイントだと思います。
制度設計が進めば、スポーツが企業経営の核になる未来も想像できます。スポーツがあるからこそモノが売れる、という価値構造への転換です。たとえば「スポーツ観戦のために車を買う」「そのチームを応援したいからオーナー企業の商品を購入する」といった消費行動が生まれるでしょう。
そうした未来が訪れたとき、競技連盟や統括団体は、自分たちが社会に提供している価値を再認識し、磨き上げる必要があります。国際大会の運営や配信といった従来の活動だけでは普及が不十分で、これらを広告代理店任せにしてきた面もあります。自分たちのユニークポイントと企業の強みが合わさることで、スポーツを核にした新たなプロダクトが生まれ、企業がコンテンツホルダーとなって好循環を生むはずです。
日本スポーツ産業学会には、学術発表の場にとどまらず、産学官をつなぐハブとして制度設計や政策提言、実証プロジェクトの仲介といった実務志向の役割を期待します。エビデンスに基づくインキュベーション支援や標準化、倫理指針の提示を通じて現場に知見を還元することが、学会の使命ではないでしょうか。まさに我々日本スポーツ産業学会が先陣を切って産業化を推進することが、今後のスポーツ発展にとって重要だと考えます。
プロフィール(たかはし・よしお)博士(スポーツウエルネス学)。東京大学教育学部体育スポーツ科学科卒業後、同大学院教育学研究科修士課程修了。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。1998年名古屋大学総合保健体育科学センター助手、2002年名古屋大学総合保健体育科学センター専任講師、2003年文部科学省在外研究員(エジンバラ大学教育学部客員研究員)、2008年筑波大学体育系准教授、2024年早稲田大学スポーツ科学学術院教授。スポーツ庁スポーツ審議会臨時委員、公財)日本卓球協会評議員、一社)日本女子ソフトボールリーグ機構監事、一社)日本スポーツツーリズム推進機構監事などを歴任。