スポーツ産業学研究第34巻第1号

【フォーラム】

川崎競輪場にスケートパークが開設された経緯
今泉睦
JSTAGE


日本のスポーツ用品業界と東京オリンピック(1964)
―業界紙『日本運動具新報』にみる製造業・卸売業・小売業の「三層」の動向―
村井友樹
JSTAGE


【レイサマリー】

川崎競輪場にスケートパークが開設された経緯
今泉睦 (一般社団法人日本青少年ストリートスポーツ振興協会JYSS)

この論文の目的は、2020東京オリンピックで金メダルを取った種目スケートボードの施設作りの道筋経緯を明らかにすることである。
川崎市は、アーバンスポーツを推進する都市である。2014年から2021まで市内には、1か所のスケートパーク施設であった。この施設は、川崎駅から自転車で20分以上かかり、若い施設利用者からは位置的に利便性に欠けるという声があった。50名のスケートボーダーやBMXライダーに川崎駅周辺において困っている点のアンケートを取ったところ、「パークが足りない」、「駅周辺に欲しい」という調査結果が出た。JYSSは、川崎市民の公園施設内にある「川崎競輪場」の管理者である川崎市と指定管理者に新規のスケートパーク開設を提案した。競輪場は、公営競技施設としていくつかの悩みを抱えていたからだ。顧客の高齢化、来場者売上の減少、来場者の減少などがあり、スケートボードの潜在的集客力はこの問題を解決する可能性があるからだ。しかしながら競輪場として開設をするにはいくつかの問題が上がった。それは、根本的施設の老朽化によるリニューアル計画との兼ね合い、老朽化した下水管問題、近隣住民との騒音問題などであった。JYSSは、施設問題は市や管理者と話し合い、騒音問題については近隣住民と話し合いを持ち、実際に簡易パークを作り、スケートボーダーに滑走、ジャンプ、着地をさせ、騒音テストを検証した。結果WHO作成の環境騒音ガイドラインに従い、レベルは「普通」という結果なため問題なしと認められた。これらの問題を川崎市、指定管理者、地域住民と話し合い解決できたため着工に進んだ。
2022年8月に川崎競輪パークがオープンしいくつかの成果が出た。川崎競輪パークは川崎駅から徒歩15分、以前からの施設大師河原公園パークへ川崎競輪パークからは近く、混雑に合わせて回遊できる相乗効果が上がった。副次効果でパークのスクールに来場する、ベビーカーに赤ちゃんを乗せた若い夫婦が競輪場内の飲食店を使うようになり売上げが上がった。その若い夫婦は、実際に来場すると競輪場のイメージが変わったと伝えてくれた。若いスケートボーダーからスケートボード歴30年以上という方々も来場し、集客面でも増加が証明された。競輪場の売上げ面でもスケートパーク使用者が車券を購入していると聞いている。
本研究では、川崎市周辺のアーバンスポーツ対象者に対し、問題を話し合いと検証実験し解決することにより、必要とされているスケートパークができたことの経緯を明らかにした。


日本のスポーツ用品業界と東京オリンピック(1964)
―業界紙『日本運動具新報』にみる製造業・卸売業・小売業の「三層」の動向―村井友樹(武蔵野美術大学)

日本のスポーツ産業の歴史に大きな影響を与えた出来事の一つとして、1964年に東京で開催された第18回オリンピック競技大会(以下「東京オリンピック」と略す)を挙げることができます。東京オリンピックを契機とした需要増加により日本のスポーツ産業は本格的に発展することになったのです。これまでに東京オリンピックに向けて様々な産業が総力を結集して臨み遺産を生んだことが知られていますが、スポーツ産業界においてはどのようであったのでしょうか。本稿では、東京オリンピックの招致運動から開催までにおけるスポーツ用品業界の動向を、特に製造業、卸売業、小売業のいわゆる「三層」の業界団体による取り組みに着目して検討しました。
スポーツ用品業界では東京オリンピックに向けて「三層」が結束して取り組もうとする動きが起こりましたが、それはそれぞれの立場や思惑の違いから難航しました。そこにはスポーツ用品業界が東京オリンピックを絶好の商機として捉える認識の乏しさがあったと考えられます。事態が進展したのは東京オリンピック使用用具に日本製が採用されることが決まってからであり、日本製スポーツ用品に対して国内外から強い関心が向けられる好機を逸しないために「三層」結束の機運が高まり、卸売業の主導により日本運動具業者連合会が設立されるに至りました。日本運動具業者連合会は、聖火記念スポーツ用具全国セールを実施したり、選手村に売店および無料修繕所を設置したりしました。前者は国内のスポーツ熱を高めること、後者は日本製スポーツ用品を国外にアピールすることが目指され、これら日本運動具業者連合会の活動は国内市場の需要喚起と国外市場の開拓に寄与したものと考えられます。ただし、これらの評価は東京オリンピック前後の市場を分析する必要があると思われ、個別の企業や業種の取り組みなども含めて、今後さらなる研究の進展が望まれます。

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