日本スポーツ産業学会 第9回冬季学術集会リサーチカンファレンス 研究発表(J6-J10)

小学生の運動人口・頻度の増加を目指すイベント
同志社大学 スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科 3年 池谷 雄紀、右田 美佳

1.背景
日本の中学生の運動部活動の加入率は 2013 年の 66.2%に比べ、2018 年は 64.4%と年々微量に減少している。さらに中学生全体の人口は 2013 年の 353.6 万人に比べ、2018 年は 325.2 万人と年々大幅に減少している。1このことから中学生の運動部活動者は約 24.6 万人 減少していることがわかる。
2.目的 小学生の運動人口が増えるようなスポーツイベントを調査する。小学生をターゲットにした理由は3つある。1 つ目は、小学生は中学生に入る前の準備期間であり、小学生の期間 に運動する習慣をつけることで中学校の運動部活動に入部する生徒が増えると考えたから である。2 つ目は、小学生は運動神経が発達しやすいゴールデンエイジだからである。3 つ 目は小学生のスマホ所持率が 2020 年時点で 53.1%と過半数の小学生がスマホを所持する ようになり、スマホ使用時間により運動する時間が減少したと考えたからである。2
3.スポーツイベントの現状 各種イベントのカテゴリー別での消費規模の大きさで、スポーツイベントは 3 位に位置している。加えて、近年大幅に増加したカテゴリーは、スポーツイベントの前年比 149.1% で、「ラグビーワールドカップ 2019」など 2019 年度の特徴的なイベントばかりでなく、市 民マラソンなどの自己参加型やプロスポーツチームのファン感謝デーなど、エンターテイ メント性の強いスポーツイベントも多く開催された事が大きな要因となっている。3
4.方法 子ども向けスポーツイベントを行っている企業ホームページから現状行われているスポーツイベントを調べ、成功しているスポーツイベントの共通点を見出す。なお、成功してい るスポーツイベントの定義を「複数回、継続的に行われているイベント」とする。
5.成功スポーツイベント例
調査したスポーツイベントは約 3500 であり、その中からイベントの開催範囲、規模が大きいものをピックアップする。
・全国少年少女野球教室
日本プロ野球OB 会が行っている教室は 47 都道府県で開催されており、25 年間で 35 万人の子どもが参加している。こどもたちに野球の魅力や楽しさを伝えるとともに、心のふれあいができる場を提供することにより、競技人口の底辺拡大、スポーツの普及・振興及び青
少年の健全育成に寄与することを目的として行っている。4
・運動能力向上かけっこ教室 CORD ATHLETE CLUB 陸上において豊富な経験や実績を持つコーチが個々に合った確かな指導を行う。子どもたち一人ひとりの感覚や意識を読み取り、理解し、指導する「伝える力」を重視し、子ども に向き合って指導をする。5
・小学生・中学生向けサッカー教室 プロサッカー選手から学べるイベント
EPARK は現役の J リーガーや日本代表選手、J リーグ発行のライセンス保持者などを講 師としたサッカー教室を開催している。小学生低学年から年長の上級者まで参加できるように、個々に必要な課題に合せた様々なサッカー教室が用意されている。6
6.結果・考察 上記のスポーツイベントの共通点として挙げられることは、競技レベルの高い指導者の指導がある点、初心者から上級者まで参加できる点である。競技レベルの高い指導者からの 指導は、競技力向上やスポーツへの関心向上に繋がり、指導に対する経験価値が高いことか ら、イベント参加者が増えていると考えられる。次に初心者から上級者までの参加が可能な ことによって、さまざまな目的を持つ子供の参加に繋がり、特に初心者にスポーツの楽しさ を伝えることができる機会になると考えられる。
7.参考引用文献
・笹川スポーツ財団、「スポーツ白書 2020」、20201
・ 内 閣 府 、 青 少 年 の イ ン タ ー ネ ッ ト 利 用 環 境 実 態 調 査 結 果 、 2021 、 https://www8.cao.go.jp/youth/kankyou/internet_torikumi/tyousa/r02/net- jittai/pdf/sokuhou.pdf 2
・JACE、2019 年の国内イベント市場規模、2020、https://www.eventbiz.net/?p=67811 3 ・公益社団法人全国野球振興会日本プロ野球 OB クラブホームページ 全国少年少女野球 教室|日本プロ野球 OB クラブ (obclub.or.jp) 4
・EPARK グループホームページ https://sports.epark.jp/events/2621 5

複合型スタジアムとその隣接施設の関係性-広島市民球場とルネサンスの事例研究から-
同志社大学 スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科 3年 安井 賢佑、松岡 咲季

【本文】
1.背景・目的
2016 年、政府が掲げる成長戦略である日本再興戦略 20161) の「官民戦略プロジェクト 10」に、「スポーツの成長産業化」が位置づけられた。その一環としてスポーツ庁2)は 「スタジアム・アリーナ改革」を進めている。そして、スタジアム・アリーナ 改革ガイ ドブック3)(注:以後「ガイドブック」)にて多機能複合型のスタジアムの導入を進めること を示している。しかし、スタジアム・アリーナ改革において、多機能複合型の施設間にど んな契約があるか、どのように影響しあっているかについて言及される場面がなかった。 そのため、本研究ではスタジアムとスタジアムに複合化されている施設の関係性やどのよ うに影響を与え合っているかについて調査し、考察することを目的とする。
2.方法 そこで、実際のスタジアムを調査するため、広島市民球場(注:以後「広島球場」)を研究
対象に選定した。選定理由は 2 つある。1 つ目は広島球場がガイドブックにてコンテンツ ホルダー運営型のスタジアムの成功例として挙げられているためだ。2 つ目は広島球場に スポーツクラブ&スパ ルネサンス 広島ボールパークタウン 24(注:以後「ルネサンス」)が 隣接しており、ガイドブックにて複合化・周辺の地域開発の例として挙げられているため だ。また、ルネサンス内のジム4)は一面がガラス張りとなっており、広島東洋カープ(注: 以後「カープ」)の試合を観ながら運動をすることができるため、カープとの関係性が強い と考えられる。本研究では、ルネサンスに訪問し、同店のフィットネスセクションチーフ である M 氏にインタビュー調査を行った。さらに、株式会社広島東洋カープ チケット販 売部の M 氏に zoom でインタビュー調査を行った。
3.結果 カープとルネサンスの職員へのインタビュー調査の結果、ルネサンスは広島球場内に建てられているのではなく、三井不動産が所有する土地に経っていることが分かった。ま た、ルネサンス内のジムから広島球場を一望できる権利に関する契約は無かった。つま り、カープは試合を観られる権利を無償で提供しているということである。
また、双方に複数のメリットと相乗効果が生まれていることが分かった。カープ側のメ リットは主に 3 つある。1 つ目は、カープはルネサンスに駐車場を借りることで土地を所 有するリスクを回避し、試合観戦者のニーズに答えることができていることである。2 つ 目は 24 時間営業のジムが隣接していることで選手がスタジアム施設にないトレーニング 器具やプールを時間に囚われず、利用することができることである。3 つ目は全面ガラス 張りのジムで走りながら試合観戦をしている人がスタジアム内の観客やテレビ観戦者などに対してマツダスタジアムの特別感を演出する一要素となっていることである。一方、ル ネサンス側のメリットは主に 4 つある。1 つ目はカープから観戦チケットやサイン入りユ ニフォームを受け取り、それを会員に還元するなどカープに関連したキャンペーンを行う ことで、他店との差別化が図れることである。2 つ目は現役選手や OB がルネサンスを利 用することもあり、顧客へのアピールポイントにもなることである。3 つ目は球場を一望 できるジムがあり、利用者は非常に特別な体験をすることができることである。4 つ目は 試合観戦者がルネサンスの駐車場を利用するため、ルネサンスにとって大きな収入源にな っていることである。双方、3 つ目のメリットとして記述したように、互いが隣接するこ とでスタジアム観戦者とジム利用者の両方がスポーツを通してそこでしか味わえない特別 な経験価値を演出している。
そして、カープとルネサンスで与えている利益の認識にずれがあることが明らかとなっ た。というのもカープは試合を直接観ながら運動ができる権利を提供しており、試合観戦 者への広告にもなっていることからルネサンスへの利益提供は大きいと考えている。しか し、ルネサンスは試合を観ながら運動をする人はカープの成績によって左右され、現在は 数年前に比べてジム内の試合観戦者が減ったことを確認している。さらに、試合観戦者へ の広告効果も 10 年前の開業当時に比べて現在ではほとんどないと考えている。このよう な認識のずれが生まれた原因は売上の推移の違いだと考えられる。というのも、カープが セリーグを 3 連覇した 2016~2018 シーズンに比べて成績が落ちた 2019 年からルネサン スの駐車場売上も減少している一方、カープは直近 6 年間観戦チケットが完売しており、 経営が順調である。
4.考察 広島球場を事例とした調査から、隣接する施設はスタジアムを本拠地とするプロチーム
の成績によって利用や売り上げに影響を受けると考えられる。スタジアム側から見ると、 施設と隣接することによる売り上げや入場者数の向上への直接的な影響はあまり見られな い。しかし、隣接する施設の取り組み方によっては隣接する施設がチームやスタジアムの 認知度向上の場になると考える。そのため、施設とスタジアムが隣接することでお互いに どのようなメリットを求めているのかについて明確にしておく必要があると考える。これ らは今後、多機能複合型のスタジアムを建設する際に考慮すべき事項だと言える。
今回の調査はサービスを提供する側の 2 つの企業に絞って行った。そのため、サービス を受ける側である利用者の認知度や意識については分かっていないため、ジムの会員やス タジアム入場者を調査対象にし、スタジアムとルネサンスが隣接することの影響を企業と 顧客の両面から判断することが今後の課題である。
5. 参考文献
1)内閣官房日本経済再生総合事務局,日本再興戦略 2016 これまでの成果と今後の取り組 み, pp19,2016
2)スポーツ庁, 経済産業省,スタジアム・アリーナ改革ガイドブック,2018
3)スポーツ庁, 経済産業省,スタジアム・アリーナ改革ガイドブック,pp25,2018 4)スポーツクラブ&スパ ルネサンス 広島ボールパークタウン 24,施設紹介,2022-02-04

帝京大学における部活動と学習意欲の関係性の顕在化-勝利至上主義に対する今後の大学スポーツの在り方-
帝京大学 経済学部 経営学科 3年 中村 颯

[緒言] 筆者は小学生からサッカーを始め、帝京大学の体育局サッカー部に所属しており、今年で
競技歴は 15 年目となる。1967 年に設立された同部は「競争と共創」を活動理念に、健全な ライバルと共に切磋琢磨し合えるチームを創り上げている。現在、同部は東京都 1 部リーグ に所属しており、関東リーグ昇格に向け部員数 125 名が 3 つのカテゴリーに分かれ、1 日 2 時間の練習を週 6 日間行っている。また、本学では、サッカー部の他に 26 の部活動が活動 をしており、その学生は約 1,200 人に上るものの、その人数は全学生数の約 8%に止まって いる。
一方で 2019 年、スポーツ庁により、UNIVAS(大学スポーツ協会)が設立された。同協会 は、活動理念として「大学スポーツの振興」と「大学スポーツ参画人口の拡大」の 2 点を掲 げ、大学や競技団体が更なる発展を遂げ、大学スポーツに関わる人々を性別や障がいの有無 等に関わらず平等に増やしていくことを目指している。筆者は、同協会が掲げている活動内 容である「学業との両立」より、学業を修める事と部活動を通してより良い成果を創出する 事の両立が必要であると考える。
そこで本研究では、帝京大学の体育会学生における「学業との両立」の現状の把握ととも に、本学における部活動と学習意欲の関係性について明らかにする。また、本研究結果を踏 まえて今後の大学スポーツの在り方について考察を行う。
[研究方法] 〇帝京大学における部活動と学習意欲の関係性の顕在化に向けた調査の実施
1 帝京大学の部活動に所属している学生へ活動状況や学習調査に関する定性調査
2 1の定性調査によって抽出された項目を基に部活動に所属している学生へ学習意欲に 関するアンケート調査
・調査期間:2021年8月20日~2021年9月5日 ・調査対象:帝京大学の部活動に所属している学生より無作為抽出した 374 名 ・調査方法:インターネットによるアンケート調査 ・主な質問項目:部活動の練習環境などに関する質問 8 項目
部活動の練習時間などに関する質問 6 項目
学習意欲に関する調査 5 項目
3分析方法:上記 19 項目のアンケート結果よりダミー変数を用いた重回帰分析を行う。
なお分析については、IBM SPSS Statistics26 を用いて行った。
[研究結果および考察]
本調査結果より学習意欲への関係性について図 1 に示した。図内の重点改善領域において、学生が空きコマを有効に活用することができていない現状が明らかとなった。部活動で は、1 日の生活時間が制限されることや帰宅時間が遅くなることも考えられる為、学内での 時間を有効に使う事が求められるのではないか。改善領域における「授業の公欠」や「テス ト期間中に練習」が顕在化された点については、大学の暦と大会のスケジュールが噛み合っ ていないことが原因として挙げられるのではないか。また、部活動の公式戦を行う際に公共 施設を活用することがあり、プロスポーツリーグや他団体と日程が重なる課題もある。さら に「2 部練習」や「練習時間が増加」において、大学スポーツの勝利至上主義の実態が存在するのではないだろうか。大学側は部活動が強化され全国大会に出場するとメディアの注 目度が高まることで入願志望者数の増加につながることが期待される。そのために、練習時 間にも影響が及ぼされていることも考えられる。

[結論] 本来、学生は大学での施設を十二分に活用して自身の学業の促進が求められるはずである。しかし、本研究結果より部活動が学習意欲に影響を及ぼしていることが示唆された。そ の要因の一つに試合スケジュールの問題が挙げられる。今後は UNIVAS が中心としたガバナ ンスの徹底に期待したい。例えば、大学の暦を考慮した上で大会スケジュールの設定、練習 時間の上限の設定と報告の義務化、各体育会学生の成績基準の設定などが考えられる。これ らによる、UNIVAS・大学・学生の三位一体となる事で学生の学習意欲を向上させ、学業とス ポーツの両立の実現を促進するものである。しかしながら、一番重要な事は、学生1人 1 人 が当事者意識を持つことである。学生 1 人 1 人が日々の生活で意識を高く持つことは今日 から始める事ができる。さらに、部活動と学業を両立する自覚を持つことが自分自身の成長 となり、わが国の大学スポーツの変革につながるものと考える。
[参考文献]
スポーツ庁公式サイト 「UNIVAS」 https://www.univas.jp/ (2022)

ハンドボール未経験者の阻害要因解明に関する一考察 -わが国ハンドボールの普及・発展と競技人口拡大に向けて-
帝京大学 経済学部 経営学科 3年 後藤友哉

[緒言] 先般、わが国ハンドボールにおける世界最高峰のハンドボールリーグ実現に向けた「次世代型プロリーグ構想」が発表された。しかし、現在のわが国ハンドボールの競技人口は 約 9 万 5 千人、競技愛好者人口は約 10 万人、日本ハンドボールリーグへの興味・関心度 は 26 競技中 2 番目に低い 3.6%(n=2,880 人)に止まるなど、ハンドボールは身近なスポ ーツであるとは言い難い。
また、筆者はフューチャー株式会社の傘下となるジークスタースポーツエンターテイン メント株式会社が運営する日本ハンドボールリーグ所属の「ジークスター東京」にてイン ターンシップ生として同チームの運営に携わっている。さらに、八王子市北西部を中心に 活動する総合型地域スポーツクラブ「アローレ八王子スポーツクラブ」にて所属ゼミがプ ログラム監修しているシーズン制スポーツプログラム「スポーツ探検隊」の一種目として ハンドボールを実施した。
そのような活動を通じて、日本ハンドボールリーグに対する国民の興味や関心の低さと 子供達が自発的にハンドボール行う環境が整っていないことから、わが国でハンドボール が普及、発展していない厳しい現状を肌で感じた。
筆者はハンドボールを少しでも普及、発展させるために効果的な手段として「競技人 口」の増加が必要であると考える。既存競技者の維持と並行して、新規競技者の取り込み に尽力することが競技人口を増加するための一手段であるが、新規競技者すなわち未経験 者を競技者として誘導するためには、ハンドボール未経験者を対象とした、「ハンドボー ルを行わない要因」を明らかにする必要があると考える。
そこで本研究は、ハンドボールの未経験者を対象に「ハンドボールを行わない要因」を 明らかにするとともに、わが国ハンドボールの普及、発展と競技人口拡大に向けた今後の モデル提案について考察を行う。
[研究方法] 1)ハンドボール未経験者へ「ハンドボールを行わない要因」に関する定性調査の実施 2)1)の抽出された要因を基にハンドボール未経験者の「ハンドボールを行わない要因」 に関する定量調査の実施
〇調査期間:2022年1月27日~2022年1月31日 〇調査対象:ハンドボール未経験者より無作為抽出した 10 代~50 代の男女 107 名 〇調査方法:インターネットによるアンケート調査 〇主な質問項目:「ハンドボールを行わない要因」に関する要因事項
※尚、本研究では受動的である「体育」での経験は含まないとした 1ハンドボールの個人的状況に関する質問 9 項目 2ハンドボールの対人的状況に関する質問 3 項目 3ハンドボールの外的状況に関する質問 7 項目
〇分析方法:上記 19 項目のアンケート結果よりダミー変数を用いた因子分析を行う。 尚、分析については、IBM SPSS Statistics 26を用いて行った。
[研究結果及び考察]
因子分析を行った結果、2 つの因子が測定され、第1因子は「魅力を感じない、面白くないと思ったから」「運動要素が多く複雑だと思ったから」「興味がないと思ったから」 「屋外競技か屋内競技か分からなかったから」の項目が明らかになったため「ハンドボー ルへの興味関心度」と命名した。第 2 因子は「行う(する)施設環境がなかったから」 「チーム(部活、サークル含む)がなかったから」の項目が明らかになったため「ハンド ボールの環境的制限」と命名した。クロムバックα係数は第 1 因子で 0.816、第 2 因子は 0.607 となった。

本研究結果より、未経験者の「ハンドボールを行わない要因」としてハンドボールへの興味関心度と ハンドボールの環境的制限が結果として挙げられた。
これらの結果から、第 1 因子は、「魅力を感じない、面白くない」、「興味が無い」の項 目が高く、日本ハンドボールリーグへの興味や関心の低さが反映された結果であると考え られる。第 2 因子は、「行う(する)環境がない」の項目が高く、日本ハンドボール協会 のミッションと日本ハンドボールリーグの理念の一部分である「ハンドボールをする環境 を作ること」を実現しているとは言えない現状にある。さらに、近年の同協会における施 策を振り返ると「ジュニアオリンピックカップ(1993 年)」や「ナショナルトレーニング システム(2000 年)」「プロジェクト 21(2003 年)」などオリンピック出場と選手育成、輩 出を目的とした高度化を図る施策が多く存在する。一方で、大衆化すなわち普及と発展を 目的とした競技人口増加の施策はほとんど存在しない。故に、2010 年度から 2019 年度の 競技人口の推移はわずか 1.2%増に終わっている現状にあることから、ハンドボールの新規 競技者に対してアプローチが不十分であると考えられる。
これらを踏まえて、今後わが国でのハンドボールの普及と発展において明らかにされた ハンドボールの興味関心度と環境の促進及び拡充は不可欠であり、協会とリーグが共同し た施策や方向性のモデルを打ち出す必要があると考察する。尚、今後のモデル提案の詳細 は学会当日に発表する。
[参考文献] ・日本ハンドボールリーグ公式ホームページ
https://japanhandballleague.jp/new-philosophy2024/(2022) ・杉山茂(2020)「物語 日本のハンドボール」 グローバル教育出版

メガスポーツイベントが国民の生活満足度に与える影響
中京大学 スポーツ科学部 3年 手塚和希、若松梢太、川﨑駿

1. 研究背景 日本のスポーツ推進に関する法律であるスポーツ基本法(2011)には、「スポーツ選手の不断の努力は、人間の可能性の極限を追求する有意義な営みであり、こうした努力に基 づく国際競技大会における日本人選手の活躍は、国民に誇りと喜び、夢と感動を与え、国 民のスポーツへの関心を高めるものである」と書かれている。本当にこうした効果が認め られるのか疑問と関心を持ち、メガスポーツイベントの開催や日本人選手の活躍が国民に 与える影響を分析した。
Kavetsos and Szymanski(2010)はヨーロッパの 12 カ国のデータを用いて、メガスポ ーツイベントにおける選手の活躍が国民の生活満足度に与える影響が有意ではないことを 明らかにした。Dolan et al.(2019)は 2012 年ロンドン五輪の開催がロンドン市民の幸福 感に与える影響を分析した。ロンドン、パリ、ベルリンに住む 26000 人を対象に集めたデ ータを用いて、五輪開催中にロンドン市民の幸福感が上昇したことを示したが、その効果 は持続的でなかった。Gassmann et al.(2020)はサッカーW 杯期間中のドイツ代表のパ フォーマンスが国民の誇りに与える影響を分析し、大会中、特に開会式と閉会式の前後に のみに誇りが上昇することを示した。これらの先行研究の結果をまとめると、メガスポー ツイベントの開催や選手の活躍が国民に与える心理的な影響は短期的であるといえる。し かしながら、日本において、スポーツイベントと生活満足度の関係性を分析した研究はま だないことに着目してこの研究を開始した。
2. 研究目的 本研究は、日本におけるメガスポーツイベントの開催や、それらのイベントにおける日本人選手の活躍が国民の生活満足度に与える影響を検証することを目的とする。
3. 方法
3.1. 従属変数
従属変数は、内閣府による「国民生活に関する世論調査」において公表されている国民 の「現在の生活に対する満足度」を用いた。このデータは、全国の市区町村に居住する満 18 歳以上の日本国籍を有する者が、現在の生活に対して「満足」(「満足している」+ 「まあ満足している」)と回答している割合を集計したものであり、本研究では 1963 年 1 月調査から 2019 年 6 月調査までの 58 件のデータを分析対象とした。
3.2. 独立変数 独立変数にはメガスポーツイベント(夏季・冬季五輪、サッカーW杯)の国内開催や当該イベントにおける日本代表の活躍に関するデータを作成した。まず、メガスポーツイベ ントの国内開催に関するダミー変数(調査月の 3 ヵ月以内に開催があった場合を 1、それ 以外は 0)である。次に、調査月の 3 ヵ月以内に開催された夏季・冬季オリンピックにお ける日本選手団の獲得メダル数である。そして、日本代表のサッカーW 杯出場ダミー(調 査月の 3 ヵ月以内に出場している場合を 1、それ以外は 0)である。メガスポーツイベン トの心理的効果は一時的であると報告している先行研究を参考に「3 ヵ月以内」という区 切りを設けた。なお、「1 ヵ月以内」と設定した場合は 1 を取るデータが少なくなる。
3.3. 共変量
共変量としては、Kavetos and Szymanski(2010)を参考に、完全失業率(%)、消費者物価指数(前年比)、および一人当たりの GDP(千円)を用いた。いずれもデータの出 典は、「経済財政白書」における長期経済統計(内閣府)である。
3.4. 分析手法 メガスポーツイベントの国内開催や当該イベントにおける日本人選手の活躍が、生活満
足度に与える影響を重回帰分析によって推定した。
4. 結果
表 1 の推定結果から、サッカーW 杯出場変数は 10%水準でプラスに有意であったが、その他のスポーツイベント関連変数の係数は有意ではない。この結果から、メガスポーツ イベント開催や選手の活躍は、国民の生活満足度に影響を与えるとはいえない。共変量の 係数については、一人当たりの GDP 千円は 1%水準でプラスに有意、完全失業率、消費 者物価指数(前年比)は 1%水準でマイナスに有意であった。

5. 考察と結論
本研究は、夏季・冬季五輪とサッカーW 杯の自国開催とそれらの大会における選手の活躍に関するデータを用いて、メガスポーツイベントが国民の生活満足度に与える影響を検 証した。推定結果によると、有意な影響は認められなかった。 これは、メガスポーツイベ ントが与える心理的効果は一時的であるという先行研究(例えば Dolan et al., 2019)の結 果を支持するものである。研究の限界としては、「国民生活に関する世論調査」の調査月 による分析の制約があげられる。

参考文献
‐ ‐ ‐
Dolan, P., Kavetsos, G., Krekel, C., Mavridis, D., Metcalfe, R., Senik, C., … & Ziebarth, N. R. (2019). Quantifying the intangible impact of the Olympics using subjective well-being data. Journal of Public Economics, 177, 104043. Gassmann, F., Haut, J., & Emrich, E. (2020). The effect of the 2014 and 2018 FIFA World Cup tournaments on German national pride. A natural experiment. Applied economics letters, 27(19), 1541-1545. Kavetsos, G., & Szymanski, S. (2010). National well-being and international sports events. Journal of economic psychology, 31(2), 158-171.

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