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NTT東日本が企業スポーツを持つ意義 ──企業スポーツの苦労と魅力、その先の挑戦

NTT東日本が企業スポーツを持つ意義
──企業スポーツの苦労と魅力、その先の挑戦
飯塚智広│NTT東日本野球部前監督

NTTグループは、NTTグループ各社が「シンボルチーム」として呼称し、企業スポーツ活動を継続実践している。NTT東日本のシンボルチームは、野球部・バドミントン部・漕艇部と個別認定選手(パラ陸上)から成り立っており、いずれも輝かしい足跡を残しているが、何故NTT東日本は、シンボルチームを持ち続けているのか。

NTT東日本のスポーツ推進室の事務局を担当しております。二松学舎沼南高校から亜細亜大学を卒業し、98年に入社後、2000年シドニーオリンピック出させてもらいました。2007年に現役を引退し、野球部コーチを15年、2017年から野球部監督に就任し、2017年に第88回都市対抗野球大会で優勝しました。21年に退任し、現在はNHKの甲子園で解説などをしております。

1986年以降の都市対抗戦からみる企業スポーツ

企業スポーツはアマチュアスポーツですので、考え方によっては優勝しても何試合やってもお金が出て行くばかりで、1円も入ってきません。図1は都市対抗戦の1986年からの数字になります。青い数字が試合の観客動員数、オレンジが日本選手権の観客動員数、グレーがチーム数です。ピーク時の昭和38年は237の企業が登録しておりますが現在は86になっています。高度成長期とともにいろいろ名前を変え続いて来ましたが、91年のバブル崩壊から93年ぐらい、この辺から企業の数がどんどん下がっていくのがわかります。それに連れ、観客動員もどんどん下降し、各企業もスポーツから撤退して行きました。企業スポーツはコストでしかありませんので、経営が傾けば、スポーツからバッサリと行くというのが常識だと思います。

図1│1986年以降の都市対抗戦

このようにコストでしかない組織を、なぜNTTグループが持つのか、その意義と、目まぐるしく変わっていく情勢の中で、我々の働き方、企業スポーツの挑戦もお話します。
活動目的としては士気高揚一体感の醸成、企業イメージ・企業ブランドの向上、リーディングカンパニーとしての社会的使命への貢献と、ここまでが今までのNTTとして企業スポーツを持つ意味でした。今後は企業スポーツとして「スポーツ市場・地域の活性化、会社事業運営への貢献」が新たな挑戦になります。

ソーシャルイノベーション企業へと領域を拡大するNTTグループ

NTTは電話会社から地域の課題解決に向けた通信事業へとシフトチェンジし、地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業へと領域を拡大しているところです。電話会社からの脱却というか、電話だけではなくて、地域を支えながら仕事をして行く企業に生まれ変わろうとしております。(図2)

図2│NTTはソーシャルイノベーション企業へと領域を拡大

NTT EAST Sports Academy(仮称)の創設

図3│NTT EAST Sports Academy(仮称)の創設について

その中で、文化教育の一つのスポーツテックとして会社事業運営への貢献が2022年度からスタートしました。
これまでの社内向け取り組みに加え、地域社会やスポーツ産業を支援する組織へ変容し、新たな創造価値創造を目指しています。自チーム自社の保有するスキル/アセットを活用して「1.地域、スポーツへの貢献」「2.データ活用による競技力向上」「3.メディアコンテンツ連携」に着手し、最終的には地域振興・スポーツ産業の活性化に繋がるビジネス展開を模索していきます。(図3)
データ活用についてはAiを使った分析をチーム強化に繋げるような方法や、メディアコンテンツ連携はドローンを使用するなど新しい競技の見せ方に挑戦しています。

遠隔指導を交えた、地域スポーツへの貢献

地域、スポーツへの貢献としては、中学校、高校、大学、少年野球に向けて出張コーチをするなど、レベルの高い練習メニューの提供や、スポーツアカデミーを設立し、地元の小中学生はもちろん、指導者向けのクリニックを提供しています。
アカデミーは各部で実施しており、野球部がある船橋市は指導者不足と指導スキル不足、働き方改革の問題があります。また、公園で野球ができ無いので、子供達の為に練習環境を与えることができないかと考えています。
同じく野球部のある富良野市では部活動支援がスタートしています。中学校部活の地域移行により、クラブ化しようという動きがあり、我々のアセットリソースを活用して部活動支援ができないかと考えました。昨年の10月から、富良野市と船橋のグランドを繋いで遠隔で部活動指導しました。チームの課題、例えばバッティングが弱い、守備が弱い、先生の指導スキルが足りないなどを指導者と打ち合わせて、こんな練習をしたい、こんなふうに進めて行きたいと話ながら行いました。毎日毎日できるわけではないですが、野球で言えばゴロの取り方、バッティングや、ピッチングの基本の動画を見てもらい、自分の映像を撮影してもらいます。我々指導者が送られてきた映像に対して添削する流れで3ヶ月程度行いましたが格段に強くなります。(図4・5)

 

図4│遠隔で実施した部活動支援

図5│実際の遠隔指導の様子 ▶部活動支援に関する NTTNTTNTT東日本の報道発表より

上手になったと実感している子どもや、練習メニューを考えてくれるので良かった、負担が軽減されましたという指導者の感想があり、我々が狙っているところかなと思います。
また、都心部とのスポーツリテラシーの格差解消につながるのではないかという嬉しい言葉もあり、我々としては生徒の技術向上が手に取ってわかりましたので嬉しかったですし、結構感情も入りました。現地で選手たちが頑張っている姿も見たいとも考えるようになりました。
デジタルならでは付加価値として、例えば画面でスイングをしたら、スピードは何キロといった分析ソフトを作るなど、ブラッシュアップする所はたくさんあります。遠隔指導のメリットは地方であっても専門性の高い指導が受けられることで、他の学校との練習メニューやノウハウの共有が可能になります。また、実業団を活用すれば、企業スポーツを持つ企業にとっての課題が解決できるのではないかなと思っています。
私が富良野市でオンライン指導をした中で感じたものは、野球部の部員数が2名だったり、野球部が無い学校もありました。時代背景や情勢によって、様々なことが厳しくなるのは理解できますが、自分たちがやれることをやりたいなと思いました。

企業スポーツに必要なこと

我々が今回のオンライン指導のようなことを継続して実現できていければ、今回教えた選手から、もしかしたら諦めずにプロへと進んでいく選手が出てくるかもしれません。野球が大好きなのに指導者がいない、野球部が無いという理由だけで競技を諦めるということにも歯止めが効くかもしれません。WBCが盛り上がりましたが、大谷選手は岩手で育ったと聞いております。このような才能が何らかの理由で諦めさせるようなことがもしあって、日本中、世界中が心を動かすような存在が出てないかと思うと、世界の損失につながると思います。何とか我々がやれることで歯止めを効かせ、日本全国どこからでもスター選手が生まれるというところ、格差解消に向けて取り組んでいきたいです。
そのためにも、事業運営の一つのパーツだというところも強く意識しながら、この三つの円(図6)を考えながらの活動することが必要です。民営化前後は社員の士気高揚のためにあったチームでしたが、組織再編に伴い、1円の利益も生まない、存在そのものがコストだった所から考え直さ考えなければいけません。現在、事業構造の転換ということで電話会社から卒業し、新規成長事業の創出ということで、我々スポーツチームも新たな付加価値の創造や企業チームのあり方を模索している状態です。
日本でスポーツビジネスを立ち上げるとなると、スポーツでお金を取るのかという文化があります。越えなければならない壁やご批判等あると思いますが、しっかり価値のあるものにして認められて行きたいですし、スポーツを持続可能な企業活動の必須アイテムとなるような新しい世界を目指したいと思います。

図6│企業スポーツに必要な3つの円

Q&A

Q.スポーツビジネスの今後の可能性を飯塚さんなりにお答え頂ければ幸いです。
A.部活動の未来を考えた時に、我々がその未来を潰さないという価値を考えればビジネスとイコールになっていく可能性があると思います。例えば、オンラインを利用することで登別にいながらバトミントンの桃田選手のレッスンを受けられた子どもがおります。これまでだと北海道にお住まいだと、プロの選手と話すことはなかなか無かったと思いますが、地方にいてもこれからはチャンスがあるように思います。地方だから指導が受けられないとか、地方だからちょっと競技を諦めるようなことが、スポーツだけではなく、文化や芸能、芸術でも言えることだと思っています。まだまだ走り出したばかりですが、遠隔指導、遠隔ビジネスがモデル事業になっていけば、産業も発展していくのではないかなと考えています。

Q.最初コストという表現に違和感がありましたが、少しずつパラダイムシフトを図ろうとしていることが分かりました。
A.選手、指導者は重要なコンテンツですが、これまでは企業におんぶにだっこで野球をやらせてもらっていると意識がありました。我々なりのメッセージとしてコストというワードをあえてスポーツ推進室は使っています。社員の誇れるシンボルでありますので、そういった意味で軽視しているつもりはございません。

Q.野球部やバドミントン部などの企業スポーツチームが事業運営のパーツの一つとなる中で生まれた課題はありますか?
A.これまでは社内向けの活動が主でした。事業運営への貢献するためのノウハウがないため、チームと事務局が一つの方向に進んでいくことが課題だと思っていますね。

Q.遠隔指導者はNTT東日本の選手やコーチに限定することなく、プラットフォームをNTTグループが提供し、指導する側とされる側を増やした方が良いと思いますが、いかがでしょうか?
A.確かに今はNTT東日本のリソース不足なところもあります。人材バンクのようなものを立ち上げてリソースを確保し、対面やオンライン、ハイブリッドで遠隔指導も行っていかないと日本全国に届かないと思っています。
A.遠隔で地方のコーチ不足や、指導者不足を補えるような環境をNTTが提供できたら、選手の引退後のキャリアにとってもとても素晴らしいことだと思いました。

Q.社内で企業スポーツに新規投資や継続を判断する場合に、コストは金額換算できますが、ベネフィットは判定しにくいように思います。このベネフィットを説明するときに。定性的な評価以外に、何か定量的な評価などをされている。または今後して行くような予定はありますか?
A.今目指しているところは都市対抗の観客がどのくらい入っているかなど、大会ごとに社内アンケートを取り、シンボルチームの見え方は行っていますが、そこは課題です。

Q.ROIの拡張としてソーシャルの考え方があり、SROIと言います。スポーツに関してもそういう部分を分析しようと取りかかっている人も居ますし、スポーツ産業学会としても、そういうことをやってくれる人も出てくるのではと思っています。
SROIというような尺度で分析していくようなことが今後の発展に繋がるのでは無いでしょうか。企業振興は、NTT自体が盛り上がり、社員の士気を上げる、一体感を醸成する等のベネフィットがあるだろうし、例えば、桃田さんの活躍がバドミントン界にとって、大きな貢献を果たすこともソーシャルなリターンがベネフィットとして考えられます。また、指導者育成もそうでしょう。単に選手がエネルギーを使っているだけではなく、チーム活動の中で指導者が育成されていくわけです。
それがまさに遠隔スポーツ教室という形で発展しているわけで、それがリターンだと評価できる部分があると思います。
インベストメントに対するリターンという考え方があり、コストという言い方だと、コストに対して売上とか利益が対応関係にあります。このコストという言い方で聞くと、なんか寂しいって言うのはありますが、逆に、本当に売り上げ上げるためのコストというふうに、そろそろ考えられるようになっているのでは?ということを飯塚さんがお話されたんだと思います。
つまり、遠隔レクチャーを事業化するというお話があり、企業スポーツはすでに売上を想定した投資や、研究開発経費として位置づけられるような要素があるように思います。
NTTがスポーツ組織を持って、スポーツ界で実績をあげて貢献していること自体、地域貢献もあるし、スポーツ界への貢献もある。それが事業化し、売上を上げ事業運営に貢献できるっていう風になる可能性を秘めているとしたら、今回のお話をきっかけに研究のスタートになればいいなと思いました。

Q.現役選手は社業にどのような形で携わってんでしょうか?
A.弊社としましてはシンボル規定というのがあり、午前中は社業、午後は練習という体制をとっております。80年代とあんまり変わらない形です。

Q.80年代当時は日本一になるという目標で、もちろんそのことも重要だけど、いろいろな価値を秘めているということに気が付き始めたわけですよね。今後は、午前中は部署ごとにそれぞれの仕事をするけれども、午後はグランドで仕事をするみたいな仕事の形態だと会社も選手も思えるようになってくるんじゃないかなという気がします。
A.遠隔始動を始める前はどんなもんなのかなと思っていましたが、初めてみたら、すごく手応えがありました。今回もお話しさせてもらい、みなさんの意見をもらうと可能性が多分にあるんだと感じ取れました。

▶本稿は2023年3月14日(火)に開催されたスポーツ産業アカデミー(ウエビナー)の内容をまとめたものである。

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