The trend of the Stadium and Arena ── Monetization model for effective use of ICT

The trend of the Stadium and Arena
── Monetization model for effective use of ICT
Ken Martin│Cisco Systems USA HQ, Director Sports & Entertainment Business Unit

私が2007年にシスコでスポーツエンターテイメントの業界に関わり始めたときには、その技術は戦略的とは思われていなくて、コストセンターだと言われていました。ほとんどのIT関係者は一番暗い部屋に閉じこもっていましたし、スタジアムの中では、必要ではあっても必ずしも欲しいものではなかったということです。ところが、そこに変化が生まれました。ここで言う技術というのは、実際には “ゲストの体験をリードするもの”という意味です。Wi-Fiも重要ですが、デジタルの力、デジタルの意味合い、また、市場への意味合いも大きく変わってまいりました。
このような技術の変化をどのように活用できたのか。そして多くの会場のお手伝いができたのかということが重要です。ただし、技術自体が重要なのではありません。その技術によって何が実現できたのかということが重要なのです。第一に、技術への投資に対して収益がなければいけません。また、それはゲストの体験をより良くするものでなくてはなりません。最後に、インテリジェントプラットフォームを標準化することによる効率化によって会場をより良く運営し、コストを削減していくこと。この3つが揃って技術に価値が生まれるのです。

1.パーソナル化した体験の提供

最初に我々は接続というところから出発しています。この業界では「うまく機能しないWi-Fiを提供することはWi-Fiを提供しないことよりもっと悪い」と言われています。つながるだろうという期待を持たせてWi-Fiを体験させる。しかしそれがうまく機能しないと人々の期待は満たすことができません。そのため、我々は接続性から出発します。
そして、つながって、お客様のエンゲージメントをよく分析し、誰がこの会場にいて、どこからつながっているのか、データをアップロードしているのかダウンロードしているのか、時間をどこにかけているか。そして、モバイルのデバイスに展開した広告のどういったところに反応しているのかといったことを見なければなりません。
これらのデータをとることによって、パーソナル化された体験を提供することができるようになり、それによってつながりを強めることができます。メッセージを一人ひとりのユーザーに合わせて調整することができれば、それだけよい反応を得ることができます。
我々は誰が会場に来ているか知りたい。しかしそれまでには知りようがなかった。Wi-Fiを使う事でそれを特定する事ができるので、まずは繋がって、そして個人の情報を提供してもらう事によって、誰が会場に来ているのかを知る事ができます。
もちろんWi-Fiにつながっていなければ誰が来ているか知ることができませんし体験をパーソナル化することもできませんので、まずは来場者がWi-Fiを使うように促進することに努めます。いったん来場者が接続すると、体験が重要になります。ホテルに宿泊してWi-Fiにつなぐときには部屋番号や氏名の入力を求められることがありますが、我々のWi-Fiでも同じようなことをします。単純な情報を得ることで、誰がWi-Fiに接続しているか知ることができます。
いろいろな統計からわかることは、アプリケーションはあまりダウンロードされていないということ。北米での調査によると、あるスポーツイベントに参加した人の中でアプリケーションをダウンロードしたのは10%以下となっています。
では、アプリケーションをダウンロードしない人の情報をどのようにとるかというと、接続を提供する際に最初にスプラッシュページを示しますが、それがアプリケーションのようなものであって会場の情報を提供し、イベントで何が起きているかや広告、ビデオオンデマンドを再生のために提供したりすることで来場者のエンゲージメントを保ちます。Wi-Fiへの接続、そしてスプラッシュページの閲覧によって我々は来場者の情報を知ることができます。モバイルデバイスを通じてWi-Fiにつながった場合にはいろいろなデータを集めることができます。それらのデータをCRMのシステムにつなぎ、情報を後から参照できるデータベースに保存します。
こういうことがなぜ重要かというと、営業やマーケティングの際にメッセージに微調整を加えて配信することができるようになるからです。会場に誰が来ているかを知ることによって体験をパーソナル化することができ、それを次回の来場に活用することができるのです。

2.デジタルプラットフォームとスポーツビジネス

デジタルプラットフォーム(シスコビジョン)は、最も強力なIP-TVシステムとして市場で展開しています。設計するうえで重視したことは、ブランドやチーム、会場がユニークな形で自分たちのマーケティングをすることができることです。スポンサーは、単にブランドを示すだけでなくストーリーを語ることができます。
シスコビジョンは、デジタルメディアプレイヤーだけでなく、ユーザーインタフェース、スポンサー企業、マーケッターなどが営業と連携し、チケット販売の部門と連携してファンにユニークな提案ができます。また、メッセージのプッシュ通知により、ユーザーが関心を持っている情報を積極的に提供することができます。スポンサーシップの展開だけでなくハードウェアもありますし、ネットワークにつながらなければならないし、ソフトウェアによる管理も必要です。ユニークな形でログインし、画面上に表示されるコンテンツをコントロールしなければいけないのですが、 IP-TVの問題だけではありません。ライブフィードをいつでもどこでも高精細な4K画像で表示させることができるようになっています。ライブフィードを通じてユニークなコンテンツをいつでもどこでも配信することができます。パーソナル化されたプラットフォームでこれらの情報を利用することができます。
Wi-Fiや接続性の重要性を申し上げているのは、これは完全に統合されたデジタルプラットフォームであると考えているからです。Wi-Fiが設置され、それを通じてパーソナル化されたエクスペリエンスを提供するためには、ポケットの中に入るような画面で表示できなければなりません。壁にかかった大画面で表示される内容が、皆さんが持ち歩いているデバイスの画面に表示できないといけないということです。それを実現することで、シスコは世界中の会場で来場者を助けています。
これらのことを具体的に実現するためには、まずはスポーツビジネスについてよく理解していなければいけません。いろいろなチームや会場、リーグの皆さんがどういうところから収入を得ているのか、その収入の流れがビジネスにどういうインパクトを与えているか、どのように改善することができるのか。何よりもゲストエクスペリエンス、 ROI(投資効果)が重要です。投資していただくためには、我々は投資効果をどのように実現するか考えなければなりませんが、そのためにはまずは収入の流れを理解しなければなりません。
我々は、売店の飲食の事業に対してもポジティブな影響を与えることができました。またグッズ販売の売上増もパーソナル化によって実現できました。来場者はスポーツを見に行くわけですが、スポーツで熱狂することは人々の行動に影響を与えます。ヨーロッパで最初に行われたNBAの試合で、ゴールデンステート・ウォリアーズのトンプソン選手が1クオーターで37点取りました。スタジアムにいた誰もが興奮しました。トンプソンが活躍したので、画面上でトンプソンのジャージを買えることがわかるようなプロモーションを始めたところ、グッズ販売が35%アップしました。私たちはアリーナにジャージを買うために入ったのではなく、バスケットボールの試合を見るために行ったのですが、私の部下も225ドル支払ってトンプソンのジャージを買っていました。

3.LEDのインパクト

Staples Centerのコンコース内に設置されたLEDパネル。天井から吊るされた2×3のスクリーン(左)

サンノゼ・シャークスという北カリフォルニアのアイスホッケーチームは、Staples Centerをホーム会場としていますが、そこでは5つの異なるデジタルプラットフォームを使っていました。このチームに対して我々はWi-Fiを提供することで接続性を提供したのですが、もう一つ重要なことはプラットフォームの標準化を行ったことです。  このアリーナには850のスクリーンがありました。このデジタルメニューはすべてシスコビジョンが提供していますが、LEDの掲示板を導入してコンコースに設置しました。これは私の知る限り、世界初の導入だと思います。LEDはサッカーやクリケットなどのピッチ上で使われていましたが、それをコンコースに持ってきたのです。それによってユニークな形の広告ができます。シャークスのマスコットはサメですが、マスコットがコンコースの中を泳ぎます。泳いでいるうちに、鼻がガラスにぶつかります。コンコースを歩いていると大きな白いサメが鼻をぶつけてきますから、インパクトがあります。
多くのスクリーンがあれば、さらにインパクトのあるエクスペリエンスを提供できます。NBAのアリーナでは17,000 〜19,000の座席数に対して900個のスクリーンがあるところもあります。メジャーリーグのスタジアムは40,000〜45,000席の規模ですが、通常は1,100〜1,200のスクリーンがあります。NFLの60,000〜70,000席のスタジアムには最大で3,000のスクリーンを導入したことがあります。スクリーンを導入すればエクスペリエンスが向上し、それがマネタイズできることがわかっているので投資できるのです。スクリーンを導入することでいろいろな場面で売上を伸ばすことができるということです。
ただしこれは、Wi-Fiを導入してモバイルの接続性を確保するだけではなく、IP-TVを設置すればよいというものでもありません。それによって何をするかということが重要です。サンノゼ・シャークスはBMWをスポンサーとして獲得することができました。このBMWの広告はドライビング体験をストーリーで語っています。すばらしい映像ですが、この映像を人々が見て、地域のディーラーに足を運んで試乗してもらう必要があります。試乗することで自動車の購買率は高まるからです。
そのためにどうしたか。デジタルプラットフォームを通じて究極的なドライビング体験が得られるようなものをつくりました。VIPエリアのコンコース全体を使い、BMWの広告を見るとコードが表示されるようにしました。そのコードをディーラーに持っていくと、特別なVIPとして無料で試乗することができるということです。そういう仕組みを導入することによって、BMWはその広告による効果を測定することができます。
屋内の広告で重要な点は、BMWのロゴを掲示するだけでなく、BMWの広告に人々が反応してもらうということです。メジャーリーグであれば、1,200個のすべてのスクリーンで「BMWに試乗してみましょう」というメッセージを出せば大きなインパクトがあると考えられます。
シスコビジョンはプラットフォームであり、高密度Wi-Fiが接続性を提供します。それから、オンボーディングの体験。またネットワークのためのルーターやスイッチ。PCソリューションを使ってデジタルサイネージを見る場合、データやコンテンツを画面に表示することによってリスクにさらされます。シスコはシステムのセキュリティを大切に考えています。ラグビーやクリケットの試合を見るために6万人が来場したとします。そのときにコンテンツがハッキングされるとどうなるでしょうか。不適切なコンテンツを表示したらどうなるでしょうか。ですからセキュリティはどうしても大事なのです。誰であっても、システムをハッキングすることで不適切な配信ができたりしないようにしなければなりません。そのために、これらのテクノロジーはすべて連携し合うようにつくられています。

4.施設運営の観点から

Staples Centerは、クリッパーズ以外にロサンゼルス・レイカーズや他のチームの会場としても使われますし、コンサートなども含めて年間250のイベントに使われています。ほぼ毎日、何かのイベントが行われているということになります。センターの運営者はデジタル化したいと考えていました。もちろん収益を増やすことも重要ですが、彼らがデジタルプラットフォームに望んでいたのは、ファンに対してユニークな体験を提供できることです。
そこで、我々のプラットフォームを使うことで来場者にメディアパスを提供することにしました。コーチや選手は試合後にロッカールームやメディアルームでインタビューに答えますが、メディアパスを持たない人は参加できません。我々のデジタルプラットフォームを導入することで、来場者はライブビデオフィードを使ってパスを獲得できるようにしました。
また、そのようなサービスの提供によって、ステープルズセンターは168のVIP席の料金をより高く設定することができるようになりました。そのほかにもデジタルメニューの導入によって売上を増やすなどして、デジタル化に対する投資を最初のシーズンで回収することができました。このソリューションは7年前に導入されましたが、最初の1年で投資回収はできていますから、このテクノロジーを通して6年分の利益を得ることができたことになります。かつてはデジタル化はコストセンターであり必要悪と考えられていましたが、いまやビジネスに貢献できるものとなっています。
よく考えてみると、これはスポーツの世界でしか使えないというものではありません。例えば会議場があったとします。そこにはたくさんの人が来ますし、人々は携帯電話を持っています。そこに誰が来ているかわかれば、ターゲットメッセージを配信することができます。そういうソリューションをTモバイルアリーナで展開しています。ラスベガスに行かれた方はご存じかもしれませんが、853の画面がこのソリューションを使っています。すべてWi-Fiがつながっていて、LEDは同じシステムからパワーを受けています。
柔軟性があるシステムですので、これによってAEGやMGMはユニークな形で広告することができます。非常に大きなメリットがあり、MGMは9つのホテルを所有していますが、デジタルプラットフォームでユニークなコンテンツを体験することができます。空港のエスカレーターを下りて荷物を受け取るところから映像は始まります。レストランは350の小売店でも同じシステムが使われていて、データを収集しています。例えばタッチスクリーンの道案内もすべて同じシステムです。これらの設計はすべて同じ思想に基づいていて、誰が会場に来ているか、誰がお客様かわかっています。それによって体験をパーソナル化しています。
我々のシステムで駆動しているLEDは、アリーナの前面から一人ひとりのSNSのスクリーンまで完全に同期化されています。また、我々のパートナーもこの画面を使っています。ウェイト・タイムという会社はこの画面を使って、いま売店に行くと列の長さはどのくらいか、トイレの待ち時間はどのくらいかといったことをモバイルデバイスに表示します。それを見れば、待ち時間の少ない売店はどこかわかります。ユニークな広告を出すこともできます。
売上を増加させる、ゲストに異なった体験を提供する。技術を活用して人々のスポーツの見方を変えることもできます。スポーツのエンターテイメント性を高めることは売上の増加につながりますし、会場のコスト削減にもつながります。
IoTの進化も大きなトピックです。我々はセンサーを活用して、さまざまなことを測定しています。ビールはどのくらい残っているか。売店にはビールが6万ガロンあり、そのビールの温度はどうか、漏れはないか、ビール樽の圧力は適正なものか。ビール樽が空になったらすぐにわかります。ドアの開閉や照明を制御したり、揚げ物の装置をコントロールすることもできます。それによってコストを削減することもできますので、IoTはスタジアムのコスト削減に大きな役割を果たしますが、シスコのプラットフォームを使うことでそのメリットを提供することができます。
最後に、「技術そのものよりも、技術からどんなメリットが得られるかという点が重要だ」ということを申し述べて、私の講演を終わります。

本稿は、2018年6月5日(火)に早稲田大学国際会議場で開催された「スタジアム&アリーナの新展開~エンターテイメントから街づくりまで~」の講演内容をまとめたものである。

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