日常生活での消費と地球環境のバランスを考える

スポーツ産業のイノベーション─⑳
植田真司 │ 大阪成蹊大学経営学部教授

新型コロナウイルスにより、経済にも大きな打撃を与えていますが、ワクチンのお陰で年内には、日常の生活に戻れそうです。しかし、今までの大量生産、大量消費、大量廃棄の日常生活に戻ることが良いことなのか、疑問に思っている人もいます。今回は、日常生活と経済が地球に与える負荷について考えてみました。

日常生活が大量消費に

 街には多くの車が往来し、渋滞を起こしています。さらに便利にするために、山を切り開き、トンネルを掘り、道路を増やします。国内の道路の総延長は、道路統計年報2020によると128万㎞になり、地球と月の距離約38万㎞の3倍以上になっています。

 家の中には、TV、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、携帯電話など、便利な電気製品が多数あり、数年たつと部品の在庫をやめ修理ができなくなったり、修理代の方が高かったり、故障していなくても新製品に買い換えたりします。企業も、売上を増やすために、マーケティング戦略や広告によって購買意欲を刺激し、新しい製品の購入を促します。

 まだ使える製品の寿命を人為的に短縮する戦略を「計画的陳腐化」と言います。具体的には、壊れやすく製品をつくる「物理的陳腐化」、よりよい機能を持った製品をつくる「機能的陳腐化」、流行遅れを感じさせる「心理的陳腐化」があります。私が、メーカーでゴルフクラブの企画開発をしていた頃、機能は同じでも、モデルチェンジするだけで、販売数量が増えていました。

人類の地球への負荷

 我々の生活がどれだけ地球に負荷を与えているのか、資源の再生産および廃棄物の浄化に必要な面積を表した数値をエコロジカル・フットプリントと言います。

 通常、人類の地球に与える負荷は、地球1個分の範囲内で生活をしなければならないのですが、すでに1970年代に地球1個分を上回り、2019年に地球1.75個分の負荷を与えています。もし世界の人々が日本と同じレベルの生活をすれば地球が2.8個必要になるわけです。我々の日常生活が地球に大きな負荷を与えているから、結果として、気候変動、資源枯渇、環境破壊につながっているのです。

 我々の日常生活が、どれだけ無駄な消費をし、地球に負荷を与え、どのような問題につながっているのか、十分理解できていないのでしょう。ここで20世紀最大の環境破壊と言われているアラル海の環境問題をご紹介します。

消えたアラル海

 アラル海は、カザフスタンとウズベキスタンにまたがる面積64,100㎢の塩湖です。かつて世界第4位の湖で、琵琶湖の面積670㎢の96倍の大きさでした。この塩湖が1960年からわずか50年で10分の1まで干し上がりました。原因は、ソ連が乾燥地帯を綿花や水稲の農地に変えるため、アラル海につながる川をせき止めて水を引いたからです。

 農地は約4.5万㎢から8万㎢に広がりましたが、その代わりにアラル海の湖面が9割減り、塩を含んだ砂漠となりました。乾燥した湖は塩分濃度が高くなり、魚が死に、漁師の仕事がなくなり、湖は「船の墓場」になりました。

 また、川をせき止めたために周辺の生態系が崩れて、天敵がいなくなった畑では、害虫が異常発生し、対策のため大量の殺虫剤を散布し、農地が汚染されました。

 さらに、乾いた湖底から塩の混じった砂が吹いてくるため、約7000万人の周辺住民のうち約500万人に呼吸器疾患、食道疾患、喉頭がん、失明などの被害が出ています。1)

 このように、綿花をつくるために水の流れを変えたことで、様々な問題が連鎖的に発生しているのです。

 貴重な資源で作られる衣服ですが「GLOBAL FASHION AGENDA」によれば、2015年は世界で1.54億t生産され、6割が使用されず廃棄されています。2030年には、2.5億tが生産され、6割の1.48億tが廃棄されるとしています。 

 日常生活や経済を維持し、地球環境を維持するために、廃棄物を出すことなく資源を循環させる循環型経済のビジネスモデルが提案されていますが、本当にこのままの消費を続けても大丈夫なのでしょうか?スポーツ用品や用具も例外ではありません。今一度、身近な人と一緒に、消費と環境について考えてみてはいかがでしょうか。

▶1)朝日新聞デジタル,アラル海-20世紀最大の環境破壊、https: //www.asahi.com/eco/chikyuihen/aralsea/(2021年5月閲覧)

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