スポーツ産業のイノベーション スポーツマンシップでスポーツの品格を高める

スポーツ産業のイノベーション
スポーツマンシップでスポーツの品格を高める
植田真司│大阪成蹊大学マネジメント学部教授

スポーツマンシップとは

スポーツは、勝たなければ幸せになれない、一番でなければ意味がないようなものではなく、勝っても負けても、誰もが楽しめるものだと考えています。もしそれが出来ないとすれば、スポーツマンシップを忘れているのではないでしょうか。相手のことを思いやり、尊重し、すること自体を楽しめば、勝っても負けても最後は笑顔で気持ちよく握手できるものです。
スポーツマンシップの意味を学生に聞くと、多くの学生が「ルールを守ること」と答えます。「ルールに違反していないから、問題ないと」考えますが、ルールだけ守ればよいのでしょうか。ルールで規制していないアンフェアーな行為は許されてよいのでしょうか。ルールだけでなく、相手のことを考えてプレーすることが大切です。
ルールを守る意味として「遵守」を使いますが、私は「尊守」を使います。辞書で調べても出てきません。どうも「遵守」の誤記、誤変換のようです。しかし、「尊守」には、「ルール・マナーを尊重し、自らの意思で守る」というルールや相手を尊重する気持ちが入っています。
スポーツマンシップとは、相手を思いやるからこそ、ルールやマナーを自らの意思で守るのです。
「人生とは、一着にならなければならないような愚かな生存競争ではない」の著者、デニス・ウェイトリーは、「真の勝者は、敗者を作らない」と言っています。真の勝者はおごらない。だからこそ、誰もがスポーツを楽しめるのではないでしょうか。

勝利至上主義の問題と対策

しかし、現実のスポーツ界は、体罰やパワハラ、モラハラ、セクハラなどの問題が後を絶ちません。今もどこかで行われているでしょう。2012年に桜宮高校バスケットボール部の問題があり、文部科学大臣は、スポーツ指導における暴力根絶へ向けてのメッセージを発信しましたが、その後も、柔道女子日本代表のパワハラから、レスリング女子、アメリカンフットボール、ボクシング、体操、テコンドー、先日もアイススケートのモラハラ問題がニュースで流れてきました。次から次へとスポーツ界の問題が出てきます。
原因は様々考えられますが、最も大きな問題は勝利至上主義にあると言えるでしょう。モラルや人の幸せよりも勝利が優先であり、その勝利がこの先に何をもたらすのか真剣に考えていないのでしょう。
桜宮高校では事件後、再発防止として全校生が「スポーツマインド(=スポーツマンシップ)」という授業を受けることになりました。私も、アドバイザーとして関わらせていただき、全校生に向け「スポーツマインド」の話をさせて頂きました。再びこのような問題が起こらないように私たちは何をすればよいのか、何を学べばよいのか。私が考えたのは、①指導者だけでなく、周りを取り巻くフォロワーも、リーダーシップを持つこと。②スポーツの在り方、勝利の意味、勝利よりも大切なものは何かを、クリティカルシンキング(=批判的思考)で考えること。そして、③チーム(クラス・組織)の中で、誰もが自分の意見を言える環境(言える化)を整えることでした。
今でも、いじめや、体罰のニュースを聴くたびに、だれか声を出す人がいなかったのかと残念に思います。早く対応していれば、被害者だけでなく、その加害者も救うことが出来たからです。

スポーツの品格を高める

周りを見渡して思うことは、スポーツ界に限らず日本の社会全体が、自分の利益や目先の損得ばかりで、「自他共栄」を考えていないことです。
教育の現場でも同じです。ある高校は、「文武両道」を掲げていますが、実際は、スポーツクラスの学生がスポーツで活躍し、進学クラスの学生が学びで活躍する「文武分道」です。
ある高校の野球部は、甲子園で準優勝しましたが、地元では全く盛り上がっていなかったそうです。理由は、地元の選手がスタメンにいなかったからです。高校の宣伝のためか、全国から優秀な選手を集めて勝利を手に入れていたのです。
大学でも、優秀な選手を特別枠で入学させることが、堂々と行われています。このようなことまでして勝利を手に入れることが「感動」や「自他共栄」につながるのか疑問です。
選手、コーチ、監督だけでなく、コーチ・監督を任命する組織の責任者の価値観が変わらなければ、スポーツの品格は向上しないでしょう。
一向に減らないスポーツ界の不正、体罰、パワハラ、モラハラなどの問題。スポーツの品格が向上し、人々からスポーツは素晴らしいと称賛してもらえる真のスポーツ立国になるのはいつのことでしょうか。
最後に、8月に晃洋書房から共著で「スポーツマンシップ論」を上梓しました。私は、「人生を幸せにするスポーツマンシップ」を担当しています。スポーツの品格向上の参考になれば幸いです。

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