2010年代におけるスポーツGDPの推移

スポーツ産業を測る
2010年代におけるスポーツGDPの推移
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部准教授

スポーツGDPは、スポーツ産業が1年間に生み出した付加価値の総計のことです。スポーツ産業とは、スポーツに関連する事業性を有する経済取引のサプライチェーン全体のことであり、スポーツに関連する財・サービスの生産をする「スポーツ部門」、スポーツ部門で生産された財・サービスを流通させるための小売や流通などの「流通部門」、スポーツ部門の生産を支える上流の産業に当たる「投入部門」の3つの部門から成ります。
本年9月、株式会社日本政策投資銀行は、スポーツ庁と経済産業省の監修のもと、2011〜2019年までの2010年代のスポーツGDPの推計値を公表しました(図)。この結果を見ると、日本のスポーツGDPは、2011年が7.21兆円から2019年には9.19兆円となり、2010年代におよそ2兆円のプラス成長をしていることがわかりました。また、スポーツGDPが日本全体のGDPに占める割合は、2011年の1.45%から安定的に推移し、2019年には1.65%となり、日本の産業に占めるスポーツ産業の役割が大きくなっていることが明らかとなりました。また、2010年代の国全体のGDPは名目も実質もプラス成長でありましたが、スポーツ産業はGDP成長を上回るプラス成長であったといえます。部門別では、スポーツ部門は全体の6〜7割を占めるものの、2011-2019年の推移では、流通部門と投入部門の成長率が大きく、部門割合に変化があることがわかります。
2010年代のスポーツ産業のプラス成長に関する要因としては、2011年にスポーツ基本法が制定され、2013年に東京オリパラ招致が決まり、2015年にはスポーツ庁の発足、2016年に日本再興戦略にスポーツが取り上げられ、2019年にはラグビーワールドカップ開催が大きく盛り上がったことなど、世界的なスポーツイベントの開催と期待、そして政治、行政、法制度のスポーツへの支援が展開されたことが挙げられます。ただし、この後、2020年は新型コロナウイルス感染症で東京オリパラの延期をはじめ、する見る支えるスポーツ産業に甚大なマイナス影響があったと予想できます。スポーツGDPの最新の推計は2年前に遡る必要があることから、2020年を対象とした推計はこれからとなりますが、コロナの影響がスポーツ産業にどのような影響を与えたのかスポーツGDPの観点で評価する必要があると思います。
また、スポーツGDPの注意すべき点について述べたいと思います。スポーツGDPとは、スポーツ活動を生み出すための財・サービスの生産で新しく生まれた経済価値のことであり、企業会計で言えば粗利(売上総利益;売上マイナス売上原価)に相当します。この粗利を生み出す主体はスポーツ産業ですが、スポーツ産業の構成の最小単位は、法人格を持った組織や事業所です。よって、本稿で述べたスポーツGDPは、生産の主体となれる組織や事業所しか捕捉の範囲に入れることができないのです。何が言いたいかというと、学校運動部活動や地域スポーツなど、任意団体が主体となって行う非営利のスポーツ活動に関しては、スポーツGDPの生産が行われているとみなすことができず、経済計算上は、スポーツ用品の購入や交通費、参加費などの取引があっても、単に個人消費が行われているに過ぎないとみなす他ありません。学校運動部活動や地域スポーツは、任意団体である限り、スポーツ活動に付帯して生じる事業費は他の産業に紛れてしまい、現在のスポーツGDPが過小評価されている可能性があると考えています。マネジメントの観点でよく言われるように、法人格を取得することは、組織の利益確保と再投資ができる主体になるわけですが、それがマクロ経済的には、産業のプレーヤーとしてスポーツGDPを生み出す主体になると言えます。
なお、非営利であっても地方自治体や、NPO法人、学校法人、行政の公務など、法人格を持っている場合は、事業として付加価値を生み出しているとは言えないものの、主に人件費を生産額とみなすことでGDPに算入できます。そのため、学校の保健体育やスポーツ庁などの公務は、人件費からスポーツGDPに算入されています。

▶1)株式会社日本政策投資銀行地域調査部,スポーツ庁 経済産業省監修,わが国スポーツ産業の経済規模推計〜日本版スポーツサテライトアカウント2021〜 2011〜2019年推計,新型コロナ影響度調査,2022

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