日本スポーツ産業学会第31回大会 一般研究発表(1-1~2-2)

今こそ、2004 年のプロ野球球団合併を考える1
―合併球団オリックス・バファローズに関する調査のメタ分析―
発表者: 松原弘明(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)2 共同研究者: 橋山智訓(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)3 キーワード: 大阪近鉄バファローズ4 オリックス・ブルーウェーブ5
1 Now is the Time to Think about the Merger of Professional Baseball Teams in 2004
2 MATSUBARA Hiroharu: The University of Electro-Communications, Graduate School of Informatics and Engineering
3 HASHIYAMA Tomonori: The University of Electro-Communications, Graduate School of Informatics and Engineering
4 Osaka Kintetsu Buffaloes
5 Orix BlueWave

【緒言】
2021 年にパシフィック・リーグで優勝したオリックス・バファローズは,2004 年にパ・リーグ所属の2球団が合併して誕生した球団である.2004 年のプロ野球球界再編問題では, 神戸のオリックス・ブルーウェーブと,大阪の大阪近鉄バファローズの2つの市民球団が 合併した.この2球団の合併に際しては,ファンや選手らの反対運動が全国的に展開され, 120 万以上の反対署名が集まったにも関わらず,合併が強行された経緯がある.
本報告では,2004 年の合併以後,オリックス・バファローズのファン・球団関係者に対する調査を行った論文とアンケート調査を総覧し,合併球団への研究動向,特に合併球団 のファンへの影響に関する調査のメタ分析を行うことを目的とする.
【研究の方法】
分析対象としたのは 2004 年の合併以降に発表された論文 29 本,アンケート調査 3 件だった.論文は CiNii(国➴情報学研究所学術論文データ➴ース)およびNDL-OPAC(国➴国会図書館データ➴ース), google scholar にて「プロ野球」「オリックス」「近鉄」「応援」などの組み合わせで検索を行いヒットした論文 28 本と,2005 年 5 月に大阪と神戸の本拠地球
場にて各 750 名以上のファンへ調査を実施した未公刊論文 1 本の計 29 本を対象とした. アンケート調査は,(1)4 年以上に渡って継続的に行われている,(2)標本の規模が 1000サンプル以上ある,(3)調査方法・調査日についての記述がある,(4)オリックス・バファローズのファンに関する項目がある,の 4 つの基準を満たした調査 3 件を対象とした.
【結果】
合併球団オリックス・バファローズに関する調査・研究動向は,次の4つにまとめられ た(表 1).表中の太字は合併の影響についての言及やファンのコメントを含むことを表す.
① 2000 年代,特に 2004 年の合併問題の最中から,翌 2005 年の合併初年度に行われた,
来場したファンに対するアンケート調査や,球場での観察(6 本)
② オリックス・バファローズ以外のプロ野球ファンやスポーツファンを含めた調査(8 本,
3 件)
③ 球団関係者へインタビュー調査や,親会社の球団経営に言及したもの(5 本)
④ 2010 年代に一軍や二軍の試合にて行われた,来場したファンに対する調査(10 本)


【考察】
以下では,オリックス・バファローズに関する調査・研究の内容について述べる.
①2000 年代に発表された,ファンに対して行われた調査に関する論文のうち,合併初年度の 2005 年,球場での 400~800 人規模のアンケート調査が複数回行われていた(山下, 2006; 石田ら, 2007; 永田ら, 2007).また,合併により消滅する近鉄ファンへの質的な聞き取り調査(藤本, 2006)や,試合中での応援団の観察(永井, 2007)が行われていた.
②オリックス・バファローズのファンのファンを含んだ,プロ野球ファンやスポーツフ ァンに対する調査では,ファンが自球団や他球団に対してどのようなイメージを抱いてい るかを調査していた(小城ら, 2005; 広沢ら, 2006; 岩井ら, 2006; 井上ら, 2006; 坂田ら,
2009; 和田ら, 2017; 2020; 和田, 2017; 中央調査社, 2005~2021; 鈴木, 2009~2022; スカ
パー, 2017~2020).鈴木の調査では,合併の影響について直接調査を行ってはいないが,
「その球団のファンになった理由」に関する自由記述欄において「元近鉄ファンだから」 などの記述が見られ,間接的に 2004 年の合併の影響が伺えた.
③球団関係者へインタビュー調査では,合併後のオリックス球団の関係者に対する調査 が行われていた(竹田, 2007; 田中, 2007; 2014; 眞鍋, 2009).また,近鉄球団の元関係者への聞き取り調査を行った田中(2007; 2014)や,南海と近鉄の球団経営を比較した廣田
(2009)は,親会社との非対称な関係など,近鉄球団の経営環境の難しさに言及していた.
④2010 年代に行われた調査は,オリックス・バファローズと近隣の大学との連携事業として行われていた.持永らと郭は,球場のファンに対してアンケート調査を行っていた(持 永ら, 2014; 2015; 2016; 郭, 2017; 2020).山内らは,合併前の関西私鉄沿線時代のファン
を取り込むための,二軍戦での施策を扱っていた(山内ら, 2012; 2013; 山内, 2016; 2017).
なお,合併によるファンへの影響に直接・間接的に言及した調査・論文は 15 本だった.
【結論】
2004 年のプロ野球球団合併による「ファンへの影響」に関する研究の蓄積は,社会的影響の割に少ないと言える.プロスポーツの発展にはファンの存在は欠かすことが出来ない. 応援する球団の消滅といった,ファンを置き去りにする事のないような姿勢が必要である.


戦力均衡と人気選手がNPB の入場者数に与える影響*
発表者:刑部 磁音(名古屋大学大学院経済学研究科)**
キーワード:NPB 戦力均衡 CBR***
* Impact of competitive balance and popular players on NPB attendance
** Jion Osakabe : Graduate School of Economics, Nagoya University
*** NPB, competitive balance, CBR
本研究は、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム JPMJSP2125 の財政支援を受けたも
のです。この場を借りて「東海国立大学機構融合フロンティア次世代研究事業」に御礼申し上げます。

1. イントロダクション
プロスポーツリーグの分析では、試合前から勝敗が予想されるような試合は魅力的ではないとの考えから、リーグ内の球団間の戦力均衡と観戦需要の関係は重要なトピックである。優れた選手は球団の戦力を強化することで観客を惹き付けるだけでなく、選手自体が持つ人気も観戦需要を高めるため、資金が豊かな少数の球団が優秀な選手を集めリーグ内の戦力のバランスが悪化することが懸念される。特に、日米のプロ野球など一部のリーグでは戦力の一極集中を防ぐ目的で、ドラフト制度や保有権制度などによって選手の移籍の自由を制限しており、両者の関係を分析することはその制限が必要なものかを考える際に重要である。
本研究では、日本プロ野球(NPB)の 2012 年~2017 年の試合毎データを用いて、
NPB において戦力均衡と選手人気が観戦需要に与える影響を分析する。

2. 研究の方法
観戦需要を表す指標として、各試合の観客動員数を目的変数として回帰分析を行う。試合毎データは、2012 年から 2017 年までの NPB のレギュラーシーズン(5166 試合)について、NPB の公式ホームページの試合結果に掲載されているものを使用する。戦
力均衡の指標には、前年度を基準に各年の勝率分布と各球団の勝率変動から導出されるWatanabe(2010)の Dynamic Competitive Balance Ratio(DCBR)を用いる。DCBR は 0 から 1 までの値をとり、1 に近いほどリーグ内の戦力が均衡していることを示す。選手
に関する指標としては、予告先発投手について Berri, Schmidt & Brook(2004)を参考に各年のオールスターゲーム(♙S)のファン投票の各得票数のうち公表されている上位選
手のものを用いる。その他の観客動員数に影響を与えると考えられる各試合の属性の変数、および選手人気の指標の補助としてフリーエージェント(F♙)権を行使した選手の延べ獲得数を説明変数に加えて線形回帰分析を行った。なお、事前に年間勝率を目的変数、各年のF♙ 選手の延べ獲得数を説明変数とした線形回帰分析を行ったが、有意な相関は見られなかった。

3. 分析の結果
試合毎データによる分析に先立ち、まず各球団の年間総観客動員数を目的変数とした分析を行った。その結果、DCBR の値、および F♙ 選手の延べ獲得数と総観客動員数には有意な正の相関が見られた。続いて、試合毎データによる分析を行った結果が下表で ある。戦力均衡の指標である前年の DCBR、および選手の人気の指標である予告先発投
手の ♙S 各得票数、F♙ 選手の延べ獲得数はいずれも各試合の観客動員数に有意な正の
相関を示した。観客動員数の増加がこれらの指標に仮に先発投手の各年 ♙S 得票数上位10 名の平均の票数(101562.45)を集めた投手が予告先発の場合、観客が 945.19 人増加する計算になる。
次に、ホーム開催球団毎の試合毎データの回帰分析を行った結果、12 球団中 11 球団について、前年 DCBR との有意な正の相関が見られた。その係数はセ・リーグの球団のものがパ・リーグの球団のものより小さい傾向にあり、その他の指標からもセ・リー
グの球団の観客動員数はパ・リーグの球団よりも球団やリーグの状況からの影響を受けにくいと推察される。一方で、予告先発投手の ♙S 得票数とF♙ 選手の延べ獲得数については、有意な結果を得られたのは 2 球団のみであった。

4. 結論
NPB の観客動員数と、リーグ内の戦力均衡、および選手の人気や実力は相関するこ
とが示された。したがって、資金力が高い球団が観客動員数の増加につながる選手の獲得を行うことは合理的な行動であり、リーグ全体の利益から見れば、戦力のバランスを保つために選手の移籍に制限をかけることは、必要な措置といえる。

主要引用・参考文献

Berri, David & Schmidt, Martin & Brook, Stacey. “The Impact of Star Power on NB♙Gate Revenues”. Journal of Sports Economics. 5(1). pp.33-50. 2004
Watanabe, Nicholas Masafumi. “The Dynamic Competitive Balance Ratio as a NewMethod of Understanding Competitive Balance and Fan ♙ttendance”. Dissertation.Graduate College of the University of Illinois at Urbana-Champaign. 2010.


プロサッカーリーグにおけるインタンジブルズが戦略に与える影響 について*
発表者 : 野中直人( 東京都立大学)**
共同研究者: 細海昌一郎( 東京都立大学)***
キーワード: プロサッカーリーグ、インタンジブルズ、業績格差、戦略
* The impact of intangibles on strategies in professional soccer leagues.
** Naoto Nonaka : Tokyo Metropolitan University
*** Shoichiro Hosomi : Tokyo Metropolitan Univeristy
Keywords : Intangibles, Sports Management, Human Capital, Strategy,

【緒言】
今日、グローバルな業績格差の進展は著しい。グローバル業績格差の要因として、オンバランスされていない無形資産であるインタンジブルズが挙げられる。近年、無形資産の重要性がますます認識される中、オンバランスされた無形資産のみならず、インタンジブルズへの注目が集まっており、定性的・定量的な研究が蓄積されている。本質的に非排他的・非排除的無形財であるプロダクトを供給しているプロスポーツ産業もまた、インタンジブルズを起因とするグローバルな業績格差が拡大している産業だと考えられる。
しかしながら、スポーツマネジメントの領域において、インタンジブルズに着目した実証研究は非常に少なく、特に、国内においては皆無と言える。そこで、認知的プロセスであるインタンジブルズとして人的資本に着目し、欧州と国内とで異なる会計処理のされているインタンジブルズと戦略、パフォーマンスの関係に関する実証分析を行う必要があると考えた。

本研究の目的は、国内プロサッカーリーグにおける、インタンジブルズ、戦略、パフォーマンスの関係を分析・考察するため、以下の仮説を検証する。
H1)競技パフォーマンスは、人的資本に正の相関がある
H2)営業収入は競技パフォーマンスと正の相関を持つ
H3)各クラブの競技パフォーマンスと財務パフォーマンスは負の相関がある
H4)人的資本は、戦略の影響を受ける
H5)業績は、戦略の影響を受ける
H6)戦略は、地域指標の影響を受ける
H7)人的資本は、地域指標が大きいほど大きい
【研究の方法】
Ⓒデータセット:
a) 2005 年― 2019 年の公益財団法人日本プロサッカーリーグにより公表されたデータ
b) 2008 年-2019 年の Transermakt.jp により公開された移籍金の金額
②分析手法:パネルデータ分析
Ⓒ変数: Revenue Efficiency、Wage Efficiency、営業収入、OPMARGIN、チーム人件費、勝ち点、昇降格ダミー、所属ダミー、地域別平均観戦率、多角化度指数、リーグ平均入場者数、TQI、PQI

【結果】
本研究では、H4)を除く、上記、仮説 H1)-H7)は支持された。本研究の結果からわかることは、J リーグにおいて、J リーグで蓄積されたインタンジブルズ、本研究における人的資本である TQI、は地域指標の影響を受けるものの、戦略の影響は受けていない。
【考察】
J リーグにおいて、J リーグで蓄積されたインタンジブルズ、本研究における人的資本である TQI、は地域指標の影響を受けるものの、戦略の影響は受けていないということである。このことは、J リーグが、ホームタウン制度をとっていることが表れているのではないか、と考えられる。また、H4)と H7)の結論か
ら、J リーグが、戦略と無関係に TQI を蓄積していることが海外リーグとの格差が拡大している要因なのではないか、と考えられる。
【結論】
分析の結果、戦略は、業績パフォーマンスには影響を与えているが、インタン ジブルズには影響を与えていないということがわかった。本研究は、これまでの先行研究と異なり、クラブ、選手、消費者を中心とする B to B to C モデルから実証研究を行った点で、スポーツマネジメント研究、ならびに、インタンジブルズ研究に貢献できた点で意義があると考える。


地域課題解決型のスポーツコミッションの考察*
発表者: 藤本 倫史 (福山大学)**
キーワード: スポーツコミッション 地域課題 スポーツ行政 地域活性化
* A study about the sports commission of the solving regional issues
** FUJIMOTO Norifumi

【緒言】
現在、国内でコロナウィルスが蔓延する中で、スポーツコミッションの活動や支援が 鈍化している。スポーツコミッションは 2010 年に文部科学省と観光庁等が連携してスポーツツーリズムを推進し、2011 年にスポーツコミッションが設立された。また、2015 年にスポーツ庁が設置され、第 2 期スポーツ基本計画を策定。その中で地域スポーツコミッションの設立の促進が明記された。このような経緯とゴールデン・スポー ツイヤーズ等の要因が重なり、2020 年 10 月には全国に 159 団体まで増加している。その中で活動領域に注目するとスポーツ庁 HP では「スポーツツーリズムの推進やスポーツ合宿・キャンプの誘致など域外交流人口の拡大に向けたスポーツと地域資源を 掛け合せたまちづくり・地域活性化のための活動を主要な活動の一つとしていること」 とある。もう一つ広範通年活動要件として「単発の特定の大会・イベントの開催及び その付帯事業に特化せず、スポーツによる地域活性化に向けた幅広い活動を年間を通 じて行っていること」とも記しており、活動領域を限定していない。
ただ、現状としては地域スポーツコミッションの活動としては観戦旅行やスポーツと観光を組み合わせた取組であるスポーツツーリズム型が中心となり、その関連の域外 から参加者を呼び込む「地域スポーツ大会・イベントの開催」、「スポーツ大会の誘致」、
「スポーツ合宿・キャンプの誘致」、「地域スポーツクラブの運営」、「健康増進・地域交 流イベントの開催」などのスポーツイベント型が多数を占める。この傾向の要因とし てコロナ前の来日観光客が 250 万人を超え、スポーツツーリズム関連消費額が 3800 億円と推計されていることが大きく、実際に上記のさいたまスポーツコミッションは 世界的な自転車レースツールド・フランスを誘致し、来場者は 95000 人として成果をあげている。その他にも合宿誘致型や県単位や広域レベルのものも存在する。
しかし、上記のコミッションはコロナウィルスの影響で活動が制限・縮小されている。 その中で 2020 年 4 月に広島県で地域課題解決型のスポーツコミッションが設立された。これまで国内で主流であるスポーツツーリズム型とスポーツイベント型かつ広域 である県単位の事例を比較することで今後のあり方を検討することが本研究の目的で ある。

【研究の方法】
本研究では、まず国内のスポーツコミッションに関しての先行研究や文献調査を行う。 そして、事例研究として地域課題解決を目的に、広島県スポーツ推進課の中に設立さ れたスポーツアクティベーションひろしま(略称 SAH)の活動事例を分析する。また、 筆者は活動の参与観察も行い、他都市とのスポーツコミッションの活動比較を行った。

【結果】
先行研究をみるとスポーツコミッションの役割や必要性について研究したものとして、 原田(2002)などがある。さらに、スポーツコミッションの現状と課題について考察 を行ったものに柳(2014)があり、スポーツコミッションが「スポーツを消費する際 に観光という新たな要素をいかに統合、付加できるのか、またその他のツーリストに スポーツという要素をいかにして統合、付加できるのか最後に、そのような取り組み が地域の課題解決にどれほど貢献できるのか注視していく必要がある」と述べている。 また、細田・瀬田(2018)では地域活性化の視点でさいたま、十日町市、宇部市のス ポーツコミッションの比較を行っている。この研究はほとんどがスポーツツーリズム もしくはスポーツイベント型かつ市単位に関するもので、広域的な範囲かつ地域課題 解決型の考察を行ったものは少ない。また、実際に山口県下関市のスポーツコミッシ ョン推進係に 2021 年 6 月にインタビュー調査を行ったところ、推進していた東京 2020 オリンピック競技大会事前キャンプや関連事業の活動が新型コロナウィルス感染症の 影響により制限されるなど、今後の活動展開に苦慮をしていた。この中で、SAH の設立経緯等を分析すると、まず 1 つにスポーツ行政機能の変化が挙げられる。広島県は2018 年に教育委員会からスポーツ行政機能(スポーツ振興等)を知事部局に一元化し、スポーツを通じた地域・経済の活性化の政策が重要になった。2 つ目に広域自治体としてのスポーツ行政の変化である。これまでは広島県の単独事業もしくは市町の要望を ヒアリングした上での補助事業だけの一方向の関係性であったが、相互もしくは産学 官民の関係者を入れての事業効果と戦略的視点が重視された。3 つ目にスポーツイベントやスポーツツーリズム事業とスポーツコミッション事業の差別化を行った。広島 県では 2018 年からアーバンスポーツの世界大会「FISE」の開催や東京オリンピック・パラリンピックのメキシコ選手団の事前合宿受入れを行っており、従来型のスポーツ コミッションを設立素地はあった。しかし、そこを差別化し、R4 年度から 8 市町のプ ロジェクトが進行させ、他団体が制限される中、成果をあげている。

【考察】
コロナウィルスの蔓延でスポーツコミッションのあり方の転換が迫られている。現状、 スポーツツーリズム、スポーツ大会の開催・誘致などの効果を急激にあげるのは困難 である。ゆえにスポーツコンテンツの効果だけでなく、地域課題をみつめ、そこにス ポーツで何ができるかを考えるコンサルティングやファシリテーションに重きをおい た活動も効果をあげる手法の1つではないか。特に県と市の中で起こる二重行政など 広域行政は活動効果をあげるのは難しい中で、広域行政主導のスポーツコミッション は客観的な視点で各市区町村の課題を探り、助言や支援を行うことができる強みがあ る。今後の研究課題としてはスポーツコミッションの研究課題でもある成果指標の設定、特に社会的効果の調査を行いたいと考える。

【参考文献】
1 原田宗彦「スポーツイベントの経済学」,平凡社,2002
2 柳久恒 「スポーツコミッションの現状と課題」, 神戸学院大学経営学論集,2014
3 細田隆、瀬田史彦「地域スポーツコミッションによる地域活性化のあり方に関する研 究」, 都市計画論文集,2018


「ご当地スポーツ」の伝播と受容
-ドラゴンボート(ペーロン)が地域に及ぼす価値の視点から-*
発表者:菅 文彦(大阪成蹊大学)**
キーワード:地域活性化、ご当地スポーツ
* Propagation and acceptance of “locally-oriented sports” – From the perspective of the value that the Dragon Boat (Peron) has on the region –
** KAN Fumihiko:Osaka Seikei University

1. 緒言及び目的
「ご当地スポーツ」とは、学術的な定義は定まっていないが、「地域資源(自然・文化・歴史・産業等)を活用することで考案され、地域活性化やまちづくりを目的として普及・展開される独自性の高いスポーツの総称」といえる。たとえば「金魚すくい 選手権」(奈良県大和郡山市)や「ガタリンピック」(佐賀県鹿島市)、「スポーツ枕投げ」(静岡県伊東市)などは多くの参加者や観衆を集めており、交流人口の拡大、自治体の認知度拡大、住民の増進増進、コミュニティの活性化など、地域に正の影響を及ぼしている可能性が指摘できる。
折しも第 3 期スポーツ基本計画(2022)は、①スポーツを「つくる/はぐくむ」、
Ⓒ「あつまり」、スポーツを「ともに」行い、「つながり」を感じる、Ⓒスポーツに「誰もがアクセス」できる、との新たな視点を提示しているが、「ご当地スポーツ」はそれを具現化するコンテンツとして注目に値する。
「ご当地スポーツ」の一種に「ドラゴンボート(ペーロン)」がある。江戸時代に長崎に伝来して年中行事として定着したのち、現在では国内各地の祭事やイベントなどでレースやデモンストレーションが行われている。このように、ある特定地域の「ご 当地スポーツ」が伝播して別の地域が受容する場合、別の地域にはなんらかの価値意 識の働き、換言すればそのスポーツを受容することを望ましいとみなす要素が見出さ れていると考えられる。
本研究では「ドラゴンボート(ペーロン)」の伝播と受容に注目し、受容する地域の側がいかなる価値を見出していたのかを明らかにする。こうした動態を分析すること は、「つくられた」スポーツが、地理的な広がりを得ながら「はぐくまれる」局面にお いて、スポーツのいかなる本質的な価値が作用しているのかを探究することであり、 いわゆる地域活性化におけるスポーツの特異性や優位性を浮き彫りにする一途となる。

2. 方法
日本ドラゴンボート協会及び同都道府県協会(大阪府・京都府・滋賀県・和歌山県・静岡県・東京都)関係者、相生ペーロン協会関係者、横浜ドラゴンボートレース実行委員会関係者を対象とする半構造化インタビュー調査を行った。
主な聞き取り項目は、①ドラゴンボート(ペーロン)の導入の契機・要因 Ⓒ祭事・レース運営概要 Ⓒ参加チームの概要 ④地域に及ぼす影響、とした。

3. 結果及び考察
「ドラゴンボート(ペーロン)」の伝播・受容の全体像は(図 1)に示される。相生ペーロンに代表される「祭事・伝統行事」としての受容が歴史的に古く、その後、港湾や河川・湖沼にまつわる地域イベントでの集客性の高いコンテンツとして受容され るパターンと、IF・NF 設立による競技大会開催地として受容されるパターンに大別された。「ドラゴンボート(ペーロン)」の伝播において、歴史的に古い長崎、相生からの伝播の形跡がみられるのは南大隅、天草、須崎など限定的で、むしろ IF・NF 設立に伴う「競技スポーツ化」が国内各地への伝播に強い影響力(都道府県協会の設立、大会開催の推進など)を及ぼしていることが明らかになった。
「ドラゴンボート(ペーロン)」はその名にもある、伝統行事としての「ペーロン」が「スポーツ」としての「ドラゴンボート」に変質することを契機に各地に伝播した 様相といえる。


受容する地域の側は、「祭事・伝統行事」「イベントコンテンツ化」の事例では、教育的価値(学校単位でのレース参加)、コミュニケーション的価値(職域・地位コミュニティ単位での参加)、経済的価値(域外参加者や観衆による消費活動)、対外的価値
(地域の知名度・イメージ向上)、精神的価値(イベント実施による快感情)、文化的価値(地域独自の文化の形成・保持)、地域資源価値(海・河川・湖沼など自然資源の有効利用)などが抽出された。「競技化」の事例では、加えて健康的価値(スポーツ実施率向上)などが見出された。
「ドラゴンボート(ペーロン)」の伝播・受容のプロセスでは、受容する地域では、ステークホルダーの合意形成を得やすい「価値」の側面を意図的に見出す試みがなされている。スポーツの多面的な価値は中立的に存するのではなく、利用する立場に応じた「解釈」や「読み替え」を経て実地に定着している。この点は地域活性化にスポーツを活用する際に留意すべきであろう。


 

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