日本スポーツ産業学会 第9回冬季学術集会リサーチカンファレンス 研究発表(M6-M10)

J リーグ胸スポンサー業種の変遷
早稲田大学 スポーツ科学研究科 修士課程1年 札野 顕

1 背景
1993 年に開幕した J リーグ(日本プロサッカーリーグ)は 2021 年までの間に 1 カテゴリ
ー制(10 クラブ)から 3 カテゴリー制(57 クラブ)までリーグ規模を拡大し、多くの企業がス ポンサーとして J リーグに参画している。各クラブの胸スポンサーの業種を分析すること で参画してきた企業の業種の変遷を明らかにする。
2 目的
本研究では、1993 年から 2021 年の間に J リーグクラブの胸スポンサーとして参入した企業をカテゴリー期(1カテゴリー期/2 カテゴリー期/3 カテゴリー期)ごとに分析し、Jリーグの胸スポンサーとなっている企業業種の変遷を明らかにする。
3 方法
(1) J リーグのスポンサー業種を文献調査
J 各クラブ公式ホームページ及び文献調査より、1993 年から 2021 年までの胸スポンサー
企業のデータを収集し、業種を企業 HP やウィキペディア上の業種を参照し、分類した。 (2) 分類方法
業種分類は総務省統計局「日本標準産業分類 (大分類・中分類)」を用いて分類し、以下 の様に再定義し区分けした。

(3) カテゴリー期別業種比率の分析
1993 年から 2021 年までの J リーグ 28 シーズンを三つに期分けし、J リーグ全体の企業
数推移と各期の初年度と最終年度の業種比率を分析した。
「1 カテゴリー期(1993 年~1998 年)」/「2 カテゴリー期(1999 年~2013 年)」/「3 カテゴリ ー期(2014 年~2021 年)」
4-1 結果 1「J リーグ全体の変化」
1993 年~1998 年は、クラブ数は 10 クラブから 18 クラブに増加し、胸スポンサー企業 数は 9 社から 15 社に増加した。1999 年~2013 年は、14 年間で 26 クラブから 40 クラブ に増加し、胸スポンサー企業数は 21 社から 37 社となった。2014 年~2021 年は、7 年間 でクラブ数は 51 クラブから 57 クラブに変化した。胸スポンサー企業数は、41 社から 55 社になった。(表 1)
4-2 結果 2「カテゴリー期ごとの変化」
1 カテゴリー期の全体の業種比率を比較すると A が 33%から 60%に増加し、D が新た
に 7%に増えていた。一方、C が 44%から 13%に減少した。2 カテゴリー期の業種比率の比較では、J1 では C が 21%から 33%に、D が 14%から 28%増加した。一方 A が 50% から 28%に、B が 14%から 11%に減少した。
J2 では、B が 14%から 32%に増加、D が新たに 26%増加した。A が 71%から 51%に減 少した。3 カテゴリー期の業種比率の比較では、J1 では C が 13%から 26%に増加した。 一方 A が 47%から 37%に、B が 13%から 5%に減少した。
J2 では、A が 40%から 50%に増加し、B が 20%から 14%、C が 7%から 0%に減少し た。J3 では、B が 50%から 79%に増加した。一方、A が 30%から 21%、C が 20%から 0%に減少した。(表2)

5 考察
1993 年に 10 クラブから始まった J リーグは、A と D が伸びており、通信・電気機器・食 料品の業種が J リーグクラブの胸スポンサーとして参画が顕著であることが分かった。特 に通信・電気機器は、IT 化が進む社会の産業構造を支え、市場が拡大する業種であり、日 本では、これらの業種の参画が J リーグのリーグ拡大に寄与していると示唆される。また 各カテゴリー期で比較すると、2 カテゴリー期初年度の 1999 年から J2 において A の業種 比率が上昇し、3 カテゴリー期初年度の 2014 年に J3 で D の業種比率が上昇しており J リ ーグの中で、J2 と J3 が新規のスポンサー企業が参入しやすいと推察される。
6 結論
J リーグの胸スポンサーは、通信・電気機器といった近年の産業構造の変化を支える業種 の参入が顕著であり、新リーグが設立される時にその時代に市場が拡大している業種や今 まで参入してこなかった業種の参画が行われやすくなると言える。

アメリカ4大スポーツおよび、MLS の審判制度に関する研究
早稲田大学スポーツ科学研究科 修士課程1年 小林 拓矢

1. 背景
スポーツ発展にとっての重要な要因の 1 つとして審判員がある。これまで欧州のスポーツの
審判制度に注目した研究は行われてきたが、アメリカのスポーツを対象に行われた研究は、ほと んど見られない状況である。特に、NBA が FIBA とは別にコートのサイズやリングの高さ等独 自のルールを設けて運営がされていることが顕著なように、アメリカ 5 大スポーツでは欧州の 審判員制度とは異なり独自の制度運用が行われていることが予想される。
2. 研究目的 本研究は、アメリカ5大スポーツ(NBA、MLB、NHL、NFL、MLS)の審判制度及び、育成プ
ログラムを明らかにすることを目的とする。
3. 研究方法
1.対象:NBA、MLB、NHL、NFL、MLS の審判制度、育成プログラム 2.集めるデータ:各スポーツの審判ライセンス制度、育成プログラム 4. 結果
1)各スポーツにおける特徴 各スポーツの特徴として、年齢制限、学歴による制限、ライセンス取得時及び、トップリーグ担 当となった際の審判員の所属先、初期の活動方法、セーフスポーツ・トレーニング・プログラム の 7 項目をまとめた(表1)

2)各スポーツごとのステップアップ
NBA と NFL においてはレクリエーションレベルから活動を始め、その後高校・大学レベルの
試合を担当するための必要がある。高校・大学を担当する際には、NFHS(全米高等学校連盟)ま たは、NCAA(全米大学体育協会)へ審判登録を行う必要がある。大学レベルを担当し、NCAA デ ィビジョン I を担当する審判員の中で評価の高いものが推薦を受けトップリーグ担当に向けて 試験を受けることができる。試験内容はバックグラウンドチェックを含む書類審査と実技試験 の評価を元に合否の判断がされる。各リーグのサテライトリーグなどで経験を積み NBA、NFLそれぞれトップリーグ担当へステップアップするための時期を待つ事となる。
MLB ではアンパイアの育成全般のことは、NAPBL の独立子会社である MiLB などが統括を している。アンパイアを始めるにあたり、アンパイアスクールの卒業が必要となる。MLB を担 当するための重要なステップは、MiLB デベロップメントコースへの参加である。参加するため には、アンパイアスクールで成績上位者となり推薦をしてもらう必要がある。その推薦を元に MilB スタッフが評価を行い、合否が決定する。デベロップメントコースの中で、アドバンスコ ース、上級コースとステップアップしトリプル A での経験がある審判員が、NAPBL の試験を受 け MLB 担当アンパイアとなることができる。一般的にはデベロップメントコース参加後 8 年以
上の経験が必要とされている。
NHL は 6 段階、MLS に関しては 4 段階のライセンス制度となっており、それぞれ最上位の
ライセンスを取得することで NHL または MLS を担当することが可能となる。NHL ではレベ ル 3 までは前資格取得後 1 年の活動と筆記試験で合否が決まり、レベル 4 への昇格は筆記試験、 実技試験、試合評価で合否が決まり、レベル 4 以上は 1 シーズンの試合評価をもとに判断され る。MLS ではいずれのレベルへの昇級も筆記試験と体力試験が実施される。NATIONAL 以上 への昇級は 1 シーズンを通した試合での評価が元となり合否の判断がされる。MLS の特徴とし て競技団体とは別組織のため、最も低いライセンス保有者であっても将来の可能性などを加味 して P.R.O.の育成カテゴリーで活動するケースもある。
5. 考察 1)競技団体の役割
トップレベルを担当する審判員の統括は MLB や MLS のように、専門団体が行うことで審判 員のレベル向上などにこう影響を与えると考えられる。一方で、MLB を除く 4 スポーツにおい ては、審判を始める際には各競技団体が統括を行なっていることから、裾野を広げると言う普及 の面から考えると、地域や州の競技団体のサ統括が重要になると考えられる。 2)トップリーグ担当の第一歩
NBA、NFL に関しては大学レベルの試合を担当しなければプロレベルを担当することができない。アメ リカにおける大学スポーツの発展と注目度も影響もあると考えられるが、大学スポーツが選手の育成だけ でなく、審判員の育成にとっても重要な要素となっていると考えられる。
3)審判に求められる役割
セーフスポーツクリニック等の受講を求められていることから、審判員は試合における判定 にのみ注力するのではなく、幅広い知識を身に付け、スポーツ環境をより良くするために注力す ることが求められていと考えられる。
6. 結論
各スポーツごとに育成リーグの発展などに影響を受けながら審判員の育成制度も変化しており、それぞ
れにあった発展を遂げている。
判定など結果に関わることに注目されることが多いが、スポーツの発展と共に幅広い知識の獲得と、役
割が広がっている。

高校野球のネット中継プラットフォームの Twitter 公式アカウントの内容分析
早稲田大学 スポーツ科学研究科 修士課程1年 陶 宇凡

1. 研究の背景
日本高校野球の試合中継は従来のテレビ放送のみから、2015 年に、朝日テレビの高校野
球の公式サイトとしての ABC 高校野球とバーチャル高校野球の協力でネット中継が始ま った。2021 年までには夏の甲子園全国大会全試合、29 地方大会全試合、全部 2400 試合以 上の放送に達した。ネット放送と伴い、SNS も徐々に高校野球のメディア露出の主要なと ころになっている。ABC 高校野球(@koshienasahi、26.9 万)、バーチャル高校野球(@ asahi_koshien、20.9 万)(2021 年 7 月まで)である。投稿内容において、ABC 高校野球と バーチャル高校野球は中継プラットフォームの公式アカウントとして、主に試合速報、結 果、関連ニュースが投稿された。
2. 研究の目的
本研究の目的は、高校野球のネット中継プラットフォームの Twitter 公式アカウントの内
容分析を通じて、高校野球に対する注目度を上げる要因を明らかにすることである。 3. 研究方法
NVivo12 を用いて、「ABC 高校野球」、「バーチャル高校野球」の公式ツィーターアカウ ントから、2021 年 7 月までの各アカウント最新の 3000 件程度のツイートをキャプチャー した。そして、NVivo 付きのデータ統計ツールを用いて、リツイートされた(以下 RT) 数、ハッシュタグ数、および頻出語を統計して分析した。
4. 先行研究
NVivo におけるメディア分析に関する研究について、辻ら(2013)は、コーディング分類
を用いて新聞紙分析を行い、本研究の参考となった。そして、これまでの高校野球における メディア研究は、主に新聞・テレビにおける研究である。例として、木原ら(2012)は、高 校野球における新聞報道の面積とテレビ報道の時間をはかり、報道量が増加しており、他ス ポーツより非常に多く、ファンの注目度に影響していると述べている。高校野球における SNS アカウントの研究はまだされていない。
5. 結果
(1). 投稿内容(ハッシュタグ)
ハッシュタグにおいて、「高校野球」、「甲子園」などの基本的なタグ以外には、以下の 結果である。ABC 高校野球は「大阪桐蔭」、「履正社」、「星陵」、「仙台育英」、「八戸学院光 星」のような高校名、「千葉」、「石川」、「京都」、「大阪」のような地域名や「奥川恭伸」、 「佐々木朗希」の選手名等に関する 27 個のタグは 21.41%である;バーチャル高校野球は 高校、地域、選手名およびプロ野球に関するタグは 24.55%である。具体的には、「東海大 相模」、「天理」、「神奈川」、「千葉」、「秋田」、「佐藤輝明」、「阪神タイガース」がある。 (2). 投稿内容(頻出語)
頻出語において、最小文字数を 2 に設定し、無意味な単語を捨て、各アカウントのツイ ートの頻出語は表 1 に示す。

表の中に、「速報」、「結果」、「無料」などの基本単語以外、灰色の「タイムリー」、「ホームラン」、「エース」、「ゴールド」、「逆転」、「監督」、「主将」、「速報」、「サヨナラ」のよ うな試合自体および試合の見どころの出現頻度が高いことが見られる。
(3). リツイート内容
キャプチャーされたツイート数において、ABC 高校野球 3250 件、バーチャル高校野球 は 3245 件である。平均 RT 数(標準偏差)において、ABC 高校野球 181.44 回(438.13)、 バーチャル高校野球 17.32 回(144.28)である。
投稿内容において、ABC 高校野球では上記以外、センバツ組み合わせ決定と U-18W 杯 (韓国)に参加する高校日本代表選手が発表(奥川、佐々木選手が注目)の RT 数が多く、 3191 回と 2484 回に達した;RT 数 500 回以上の 29 件の中に、大会事務に関するニュース 12 件、U18 日本代表 3 件、試合予定・結果 14 件がある。試合予定・結果に関するツイー トは全部常連校出場またはサヨナラ勝ちの結果である。
バーチャル高校野球では、千葉大会のある延長 13 回のサヨナラ満塁ホームラン試合の 速報の RT 数が一番多く、7225 回である。そして、RT 数 200 回以上の 18 件の中に大会事 務に関するニュース 3 件、試合予定・結果 14 件がある。試合予定・結果に関するツイー トは全部常連校出場またはサヨナラ勝ちの結果である。
6. 考察
まず、ハッシュタグと頻出語において、全体的に「高校野球」のようなタグ以外、高校
名と地域名のタグが多い。その中に、強豪校かどうかの定義が必要だが、高校名の中でも 95%以上が「大阪桐蔭」「履正社」などの強豪校・伝統校である。そして、「選手」、「エー ス」、「ホームラン」、「サヨナラ」のような単語の出現頻度が高い。つまり、カウントがス ーパースターや豪強校などの内容を重点的にツイートしている。これに対して、リツイー トされているツイート内容と一致するものは「豪強校の出場」、「U18 日本代表の選手」、 「見どころあった試合結果」であったことから豪強校、スーパースター、サヨナラ勝ちま たは満塁ホームランが出た見事な試合内容は、RT させる基本的な要因だと考える。
7. 結論
大会開催期間、スーパースター選手、豪強校チーム、見事な試合表現を含める投稿は、
大部分の試合中継を見るコア高校野球ファンの注目度を上げる要因だと考える。

新型コロナウイルス感染拡大のため無観客試合となったブンデスリーガのホームアドバンテージに与えた影響-審判の判定に着目して-
早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科 修士課程1年 岡田 真和

1.背景
新型コロナウイルス感染拡大のため無観客試合となった
ブンデスリーガのホームアドバンテージに与えた影響
-審判の判定に着目して-
早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科 修士課程1年 岡田 真和
欧州 4 大リーグであるイングランド・プレミアリーグ、スペイン・ラ・リーガ、ドイ ツ・ブンデスリーガ、イタリア・セリエ A は新型コロナウイルスの流行によって中断を余 儀なくされたが、ブンデスリーガは 5 月、プレミアリーグ、ラ・リーガ、セリエ A は 6 月 から無観客試合でリーグ戦を再開した。無観客試合の影響として、ホームアドバンテージ の効果が低下することが懸念される。
先行研究では、ホームアドバンテージに関して審判の判定に着目した研究が行われてい る。安部(2017)によると、2008 年から 2009 年にかけて行われたメキシコサッカーリーグの 無観客試合では、審判の判定は観客の有無によって警告数に一部差が認められることが明 らかとなった。また、Unkelbach ら(2010)は、ホームチームの観客が送る声援が入ったビデ オを再生した時に、審判はホームチームよりもアウェイチームに対して多くのイエローカ ードを提示したことが明らかとなった。
先行研究から、ホームチームを応援する観客の存在が審判の出す警告数に影響を与え、 ホームチームの有利、アウェイチームの不利をもたらしていると考えられる。しかし、従 来の研究では、無観客試合は規則違反などの制裁措置として一部のチームの試合を対象に 無観客試合が行われてきたため、分析の対象とするサンプル数が少ない状況や実証実験と いう形で検証がされてきた。2019-2020 シーズンはコロナ禍の影響によって、シーズンの 途中から無観客試合となったことから、サンプル数を確保した中での分析を行うことが可 能であり、当該シーズンを対象にホームアドバンテージの検証を行うことに意義があると 考える。
2.研究目的
ブンデスリーガを対象に、2019-2020 シーズンにおいて審判がホームチーム、アウェイ チームに対して下した判定を有観客試合と無観客試合に分けて比較し、観客の有無がホー ムアドバンテージに与える影響を明らかにすることを目的とした。世界のサッカーリーグ の中でブンデスリーガは平均観客動員数が 1 番多く、無観客試合になったことで観客の存 在によって生じる影響を明らかにできるため、ブンデスリーガを採用した。
3.研究方法
2019-2020 シーズンのブンデスリーガの試合データを使用し、同一対戦相手の有観客試合 と無観客試合の判定を比較するため、2 回戦いずれも有観客試合で実施された試合を除外し、 残りの全 166 試合を対象とした。分析項目は先行研究に則り「ファウル回数」「イエローカ ード枚数」「レッドカード枚数」と、新たに「ファウル回数に対するカード枚数」を加えた
4 つの変数から平均値を求め、有観客試合と無観客試合でホームチームとアウェイチームの 比較をするために 2×2 の分散分析を行なった。
4.結果
図 1,2,3,4 は有観客試合と無観客試合におけるホームチーム、アウェチームの「ファウル 回数」「イエローカード枚数」「レッドカード枚数」「ファウル回数に対するカード枚数」を 示した。「イエローカード枚数」において、交互作用効果は有意であったが (F(1, 328 ) = 5.09, p < .05),観客条件による主効果は有意ではなく,(F (1, 328) = .03, p = .87),チーム条件によ る主効果でも有意ではなかった(F (1, 328) = 1.57, p = .21)。交互作用効果が有意であったた め,チーム条件において単純主効果の検定を行ったところ,有観客試合で有意差がみられた (F (1, 328) = 6.15, p < .05)。

コロナ禍により無観客試合で行われた 2019-2020 シーズンのブンデスリーガでは、有観 客試合の期間においては審判の判定にホームアドバンテージが生じていたが、無観客試合 になって以降はホームアドバンテージが低下したシーズンであった。観客の存在が、審判 の判定に対してホームアドバンテージをもたらすことが明らかとなった。
引用文献
安部健太;観客の有無によるホームアドバンテージへの影響-サッカーの無観客試合を手掛かりに-,
対人社会心理学研究, Vol.17, pp.53-60, 2017.
Unkelbach, C. and Memmert, D.; Crowd noise as a cue in referee decisions contributes to the home advantage, Journal of Sport and Exercise Psychology, Vol.32, No.4, pp.483-498, 2010.

東京オリンピックボランティアによる SNS コメントの定量分析
筑波大学大学院 人文社会ビジネス科学学術院 人文社会研究群 人文学学位プログラム博士前期課程2年 佐野 晃

【本文】
1. はじめに
2013 年に東京オリンピック・パラリンピックの開催定からコロナ渦の延期による 2021 年の開催まで多くの問
題が指摘されてきた。ボランティア活動も例外ではなく、募集や待遇の点で様々な点が報道された。そこで本 研究ではテキストマイニングという文章データの解析手法で、ボランティアスタッフが SNS に投稿したコメント を計量分析し、ボランティア参加者の東京 2020 大会に対する見解を明らかにする。
2. データ
オリンピック・パラリンピックボランティアの参加者は、大会期間中 SNS に数多くの投稿をしており、特に東
京大会におけるボランティアの愛称「Field Cast」をハッシュタグが付いたコメントが目立つ。よって本稿では 「#Feildcast」や「#フィールドキャスト」といったハッシュタグを利用して Twitter と Facebook の投稿を収集す る。活動が始まった 2021 年 7 月の第 3 週からパラリンピックが終了した同年 9 月の第 2 週までの Twitter からの収集データは、ツイート数が 7083 件で、総抽出語数は 397867 語である。同期間の Facebook から の収集データは、記事の投稿数が 190 件で総抽出語数は 37251 語である。
3. 分析手法
本稿では、立命館大学の樋口耕一教授が作成したソフトウェアである「KH Coder」及び統計解析のオープ
ンソースである「R」を使用して、テキストマイニングによる分析を行う。実施した分析手法は「多次元尺度構成 法」と「対応分析」及び「感情分析」で、Facebook の投稿者年齢や性別や過去の経験は目視で確認している。
4. Twitter コメントの分析結果
図表 1 が示す通り、多次元尺度構成法による分析結果から、Twitter の投稿は内容別で 5 種類に分類で
き、図表 2 が示す通り、対応分析の結果から、投稿の内容は時系列別で 5 種類に分類できる。
この 2 種類の分析結果から、「研修」や「シフト」また「連絡」などの単語を含む「ボランティア活動の事務連 絡に関する投稿」がオリンピックとパラリンピックの開催前である「7/11-7/20」及び「8/11-8/20」に多いことが分
かる。また「アイス」や「弁当」また「休憩」や「楽しい」などの単語から「休憩中にボランティア活動を楽しむ投稿」 がオリンピック開催中の「7/21-7/31」から「8/01-8/10」の間で多いことが分かる。
そして「ありがとう」や「嬉しい」また「仲間」や「お疲れ様」などの単語から「ボランティア活動への感謝を伝え る投稿」がオリンピックとパラリンピックの終了時期と重なる「8/01-8/10」及び「9/01-9/10」に多いことが分かる。 加えて図表 3 が示す通り、感情分析の結果から、Twitter の投稿に関して、ネガティブな内容よりもポジティ ブな内容が非常に多いことが分かる。
5. Facebook コメントの分析結果
図表 4 が示す通り、対応分析による分析結果から、Facebook の投稿は「年齢別」で 3 種類に分類できる。
「18 歳-24 歳」から「25 歳-35 歳」までの若い世代には、「素敵」「すごい」「思い出」といった「東京大会への肯 定的な単語」が多いことが分かる。一方で「35 歳-45 歳」から「45 歳-55 歳」の壮年世代や「55 歳-65 歳」の高齢世代には、「ラグビー」や「バスケ」また「ロードバイク」といった「具体的な競技運営に関する単語」が多いこ とが分かる。つぎに図表 5 が示す通り、対応分析による分析結果から、Facebook の投稿は「性別と海外経験 のあり・なし」で 3 種類に分類できる。「男性の海外経験あり」と「女性の海外経験あり」には、「ありがとう」「思い 出」「恵まれる」といった「東京大会への肯定的な単語」が多いことが分かる。また点線の枠が示す「女性の海 外経験あり」と「女性の海外経験なし」の間にも、「素敵」や「うれしい」など「東京大会への肯定的な単語」が多 いことが分かる。さらに図表 6 が示す通り、対応分析による分析結果から、Facebook の投稿は「性別とスポー ツ経験のあり・なし」で 4 種類に分類できる。「男性のスポーツ経験あり」と「女性のスポーツ経験あり」には、 「自転車」や「ハンドボール」と「ラグビー」といった「具体的な競技運営に関する単語」が多いことが分かる。ま た「女性のスポーツ経験なし」には「うれしい」や「ありがとう」など「東京大会への肯定的な単語」が多いことが 分かる。
6. 考察
Twitter のコメント分析からは、ボランティア参加者の東京 2020 大会に対する満足度は高く、報道で頻繁
に指摘されていた待遇に関する不満はほとんど見られない。無料で提供されたアイスやピンバッジ交換、ボラ ンティア活動に参加できたことへの感謝など報道では触れられていない話題が多く抽出されている。 Facebook のコメント分析からは、スポーツ経験がある参加者が競技運営に関する投稿をしており、加えて年 齢層が上の世代にその傾向が見られる。特定のスポーツに対するキャリアの長さが、ボランティアの担当業務 振り分けに影響している可能性がある。また海外経験のある参加者は Twitter でも頻出したボランティア活動 への感謝や好意を表す投稿をしており、特に女性にその傾向が見られる。
以上を踏まえると、第一に報道と参加者の声が大きく異なる点は、今後の東京オリンピック・パラリンピックを 振り返る上で重要な意味を持つと考える。第二に、参加者の経歴や年齢・性別によってボランティア活動へ抱 く感想や印象などの見解が異なる点は、今後のスポーツボランティア募集やマーケティングにおいて実益の ある示唆であると考える。

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