日本スポーツ産業学会第30回大会 一般研究発表-A

日本スポーツ産業学会第30回大会
「スポーツとファイナンス~地方からの発信」
一般研究発表

プロスポーツ組織における持続的な環境への取り組み: 消費者の知覚と意図的ロイヤルティの関係性*
発表者: 林悠太(東日本国際大学)** 共同研究者: 舟橋弘晃(中京大学)***
間野 義之(早稲田大学)****
キーワード:持続可能性 意図的ロイヤルティ
* Environmental sustainability initiatives in Professional Sports Organizations: The Relationship between Consumer Perception and conative loyalty
** HAYASHI Yuta:Higashi Nippon International University
*** FUNAHASHI Hiroaki:Chukyo University
**** MANO Yoshiyuki:Waseda University
Key word:Sustainability Conative Loyalty

1 緒言
近年,環境の持続可能性は世界的な現象であり,気候変動の原因について活発な議論を呼んでいる(Trail & McCullough,2020).国連気候変動枠組条約は,パリ気候協定の目標を達成するためにスポーツは重要な役割を果たすとしているが,プロスポーツ組織(以下,PSO)において持続的な環境への取り組み(以下,ESI)は例外的であることが指摘されている.
ESI を推進するためにPSO におけるアウトカムを検討することは重要な課題と考えられる.
2 目的
本研究の目的は消費者における ESI の知覚と意図的ロイヤルティの関係を明らかにすることである.
3 方法
3.1 調査対象クラブの選定
調査対象は J リーグディビジョン 2(2021 年現在)に所属しているヴァンフォーレ甲府
(以下,V 甲府)とした.多岐にわたる継続的な環境への取り組みから本研究の調査対象事例
に選定した.
3.2 調査の実施
既存のインターネット調査会社の登録モニターを対象に調査を実施した.V 甲府のホームタウンである山梨県在住の 18 歳以上の男女,スクリーニング条件はV 甲府の認知とした.なお,回収された当初のサンプルのうちデータクリーニングを経て解析に用いたサンプル数は 1297 名であった.
3.3 測定項目
人口統計学的変数に加え,V 甲府の 3 つの ESI に関する活動(エコスタジアムプロジェクト,LTO プロジェクト,CO2排出量の見える化)の認知,メディア利用(インターネット,テレビ,ソーシャルメディア,新聞,ラジオ),心理的尺度については環境に対する意識,ESI の知覚,PSO における環境の重要性,チームID,クラブ支援意図,観戦意図であった.
4 結果
階層的重回帰分析の結果,クラブ支援意図ではモデル 2 に独立変数を投入したところ, R2 値は有意に増加しクラブ支援意図の 79%を説明する結果となった.また,観戦意図ではモデル 2 に独立変数を投入したところ,R2 値は有意に増加し観戦意図の 52%を説明する結果となった.
ESI の知覚,PSO における環境の重要性がクラブ支援意図に正の有意な影響を与えていた.また,PSO における環境の重要性が観戦意図に正の有意な影響を与えていた.
5 考察
ESI が既存の消費者だけでなく潜在的な消費者に知覚されることは,意図的ロイヤリティであるクラブ支援意図に影響を与える重要な要因であった.加えて PSO における環境の重要性はクラブ支援意図,観戦意図に影響を与えることが示された点は ESI がマーケティング戦略に一定の方向性を与えるという実践的示唆を示すことができた.本研究の結果は PSO が ESI の推進を後押しする根拠を示し,ESI を通して新たな消費者の創出に貢献できることを示した.そのためには戦略的に ESI を計画し,各種メディアを通して発信する必要がある.
6 結論
ESI の知覚および PSO における環境の重要性は消費者の意図的ロイヤルティの先行要因になることが明らかになった.

引用・参考文献 Trail, G. T., & McCullough, B. P. (2020). Marketing sustainability through sport: testing the sport sustainability campaign evaluation model. European Sport Management Quarterly, 20(2), 109–129

 

在日コリアンサッカー選手の社会に与える影響についての研究
-J リーグ発足前後の意識変化を中心に-
発表者 : 宋修日(朝鮮大学校)1
キーワード : 在日コリアン2 J リーグ発足3 日朝スポーツ交流4

【緒言】
近年、J リーグでプレーする在日コリアンのサッカー選手の数は増加しその存在は少なからず注目を集めている。本国と日本、2つのアイデンティティーをもつ在日コリアンサッカー選手の行動変容に 1993 年のJ リーグ発足は大きな影響をもたらしたと言える。また国家間関係が悪化する中でもサッカーを通した日朝・日韓の相互理解と交流に在日サッカー選手が果たした役割も少なからずあったと考える。
【研究目的】
本研究発表では在日コリアンとしての自身の立場から在日コリアンサッカー界の歴史に着目し 1993 年のJ リーグ発足前と後を比較しながら、日本サッカーのプロ化が在日サッカー選手の意識と行動にどのような変化をもたらしたのかを明らかにし、在日コリアンサッカー選手が日本社会に与える影響についてもアプローチを試みたい。
【研究方法】
① 在日コリアンサッカーの歴史に対する考察(先行研究、在日本朝鮮人蹴球協会への聞き取り調査)
② 在日コリアンサッカー選手へのヒアリング調査
J リーグ発足前(1980 年代)、発足後(1990 年代)、日本サッカー隆盛期(2000 年以降~現在)
③ 上記選手と接した日本サッカー関係者へのヒアリング調査
【考察】
① Jリーグ発足、日本サッカー『プロ化』の影響は在日コリアンサッカー界にどのような変化をもたらしたのか。またそれは本国(朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国)と
1 SONG. Suil : KORE♙ University (in J♙P♙N)
2 Koreans in Japan
3 The bigining of J league
4 Sports exchange of Japan and DPR.Korea
の関係においてもどのような影響があったのか。
② Jリーグ発足前・後で在日コリアンサッカー選手に意識変化があったのか。『本国志向から在日志向への意識変化』に対する仮説研究、類型化
③ サッカーを通した交流が相互理解にもたらしたもの。
【結論】
日本におけるサッカーリーグのプロ化によって在日コリアンサッカー選手を取り巻く環境に大きな変化をもたらした。『本国重視』、『対抗』意識から『在日重視』、『共存・共栄』の意識変化をもたらし、Jリーガーを志すサッカー選手の数を増加させた。また在日サッカー選手が持つ価値観においても多様化の傾向が顕著になったと考える。その他にも日朝間の国家関係が悪化する中でも在日コリアンサッカー選手の日本社会、地域に与える影響を考える時、その存在が相互理解・交流の大きな架け橋になりえると考える。

【引用・参考文献】(主要)
琴 栄進『在日朝鮮人スポーツ史年表』第 1 版、現代総合出版、2014 年慎 武宏『祖国と母国とフットボール』第 1 版、朝日文庫、2013 年
白 宗元『朝鮮のスポーツ 2000 年』第 1 班、拓殖書房、1995 年

 

コロナ禍におけるスポーツ観戦需要*
―「スポーツ観戦需要等に関する調査」の二次分析―
発表者: 舟橋弘晃(中京大学スポーツ科学部)**
共同研究者: 古川拓也(大阪成蹊大学経営学部)***
佐藤晋太郎(早稲田大学スポーツ科学学術院)**** キーワード: 観戦需要 COVID-19 スポーツリーグ
* Sport Spectator Demand during COVID-19 Pandemic
** FUNAHASHI Hiroaki: School of Health and Sport Science, CHUKYO University
*** FURUKAWA Takuya: Faculty of Management, OSAKA SEIKEI University
**** SATO Shintaro: Faculty of Sport Sciences, WASEDA University Key word: spectator demand, COVID-19, sports league

1. はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを契機に,スポーツイベントを含めたマスギャザ リングによって地域の感染症伝播状況が悪化するというエビデンスが蓄積されつつある(e.g., Ahammer et al., 2020).それでは,COVID-19 はスタジアム・アリーナでの観戦離れを生むのだろうか.コロナ禍のスポーツ観戦需要を検証した先行研究からは,COVID-19 の脅威が収まらない中で観戦者数が回復する「コロナ慣れ」の兆候が示されている(Reade et al., 2020).本研究は,よりマクロな視点で,COVID-19 の国内発生動向が家計全体のスポーツ観戦需要にどのような影響を与えたのかを分析することを目的とした.
2. 方法
2.1. データ
分析に使用するスポーツ観戦需要に関するデータは,2020 年に早稲田大学スポーツビジネス研究所, 同志社大学スポーツマネジメント研究センター,日本スポーツ産業学会が共同で実施した「スポーツ観戦 需要等に関する調査」から得られたものである.当該調査は,全国 18 才以上の男女約 2,500 名を対象とし,2020 年5月から実施されているインターネットを利用した反復横断調査である.本報告の分析には, 2020 年 5 月 15 日(t1)から 12 月 25 日(t17)まで計 17 回分の 2 週間間隔のデータを使用するi.
i このうち 13 回分のローデータは早稲田大学スポーツビジネス研究所の事務局を通じて提供されている.
プロと実業団 13 リーグの直接観戦需要についての設問(i.e., 今後,スタジアムやアリーナでスポーツの直接観戦をしたいと思いますか.開催状況にかかわらず,直接観戦したいと思うものをすべて選択してください.)の個票データを,時系列集計データとリーグ別パネルデータに変換した.還元すると,t1 からt17 の家計全体のスポーツ直接観戦需要と t1 から t17 の家計全体の各リーグに対する直接観戦需要についてのマクロ集計データを再整備したということである.
2.2. 変数と実証モデル
国内の COVID-19 の発生状況が各種リーグの直接観戦需要の変動に与える影響を推定した.
従属変数は上記のスポーツ観戦需要,独立変数は国内の COVID-19 感染状況(感染者数,死亡者数) である.共変量として,国内の景気動向(景気ウォッチャー調査)と外生的イベントダミー(緊急事態宣言) を含め,分析対象期間内における観戦需要の傾向変化をコントロールするためにタイムトレンドとその平方根を加えた.リーグ別のパネルデータ分析では,各リーグの固定効果と開催状況ダミー変数も加えている.
3. 結果と考察
図1は COVID-19 の感染者数と直接観戦需要との関係性を表している.感染者数は,7~9 月(t5~9)の「第2波」や 11 月以降(t14~)の「第3波」と大きく変動するデータであるのに対して,各時点間でのスポーツ観戦需要の変動は僅少であった.分析期間内におけるスポーツ 観戦需要は平均 44.7%(SD=1.6; Max=42.0; Min=47.0) であった.
リーグ別の観戦需要の集計では,NPB が 27.7%(SD= 1.3; Max = 29.4; Min = 24.9)と最も高く,次いでJ リーグ(Mean = 14.0%; SD = 0.9; Max = 15.4; Min = 12.3),ジャパンラグビートップリーグ(Mean = 8.1%; SD = 0.8; Max = 9.5; Min = 6.8),V リーグ(Mean = 6.8%; SD = 0.8; Max =7.9; Min = 5.0),B リーグ(Mean = 6.2%; SD = 0.8; Max =7.8; Min = 5.2)であった.コロナ前の参考統計として,「スポーツライフ・データ 2018」と比較をすると,NPB(27.7% vs 26.3%),J リーグ(14.0% vs 11.5%),B リーグ(6.2% vs 5.5%)の観戦需要はコロナ禍の方が高値であった.
表 1 は,COVID-19 の感染者数や死亡者数がスポーツ観戦需要に与える影響の推定結果である.モデル(1)と(2) は,全 13 リーグの直接観戦需要についての時系列データを分析したもので,モデル(3)と(4)は,各プロリーグ(NPB,J リーグ,B リーグ)の観戦需要を従属変数とする固定効果モデルである.観戦需要の時間トレンドは t10~ 12 を起点に U 字型で回復傾向であった.いずれのモデルにおいても,COVID-19 の感染者・死亡者数が観戦需要に与える影響は有意ではない.
これにはいくつかの理由が考えられる.まず,本研究ではスポーツ観戦行動を実行しようとする意図が 集計されたものであるためである.つまり,「適当な機会がくれば」という条件が含まれた需要である.次に, 家計全体を一単位としたマクロデータによって,感染状況と観戦需要との関係性を観察したことも挙げられる.「国内のCOVID-19 感染状況は家計全体の(今後の)スポーツ観戦意図に影響を与えるとはいえない」というのが正確な解釈であろう.
これは,観戦型スポーツ産業が少なくとも潜在的顧客を「失客」する可能性が低いことを表しており,関係者たちが奮闘してきた感染予防対策の成果とも表現できるかもしれない.スポーツ産業としては,スポ ーツ興行の「完全開催」に制限される中,観戦需要を消費に結びつけるための技術投資(e.g., バーチャル観戦技術など)を検討することが重要である.


図1 COVID-19 感染者数とスポーツ直接観戦需要との関係性表

1 COVID-19 の感染状況が観戦需要に与える影響の推定結果

<主要参考文献>
Reade, J. J., & Singleton, C. (2020). Demand for public events in the COVID-19 pandemic: a case study of European football. European Sport Management Quarterly, 1-15.

 

野球における投球誤差のフィードバック効果に関する検証*
発表者:林卓史(朝日大学)**
共同研究者:佐野毅彦(慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科)*** キーワード:野球投手 コントロール能力 投球誤差 フィードバック
*A Study on the Feedback Effect of Error› in Baceball Pitch
** ASAHI Univer›ity
*** *raduate School of Health Management, KEIO Univer›ity
Key word : Pitcher, 3ontrol Ability, Pitching Error, Feedback

【緒言】
野球の投手にとってコントロールが重要であることは論を俟たない。先行研究として、高校生投手のストライク率や捕手の構えに正確に投球した割合を調査した研究(川村・ 島田・高橋・森本, 004)や、主観的努力度がリリース速度およびコントロールに与える影響に着目した研究(大岡・前田, 013)、ターゲットからの誤差(投球誤差)の分布と投球フォームとの関係に着目した研究(進矢, 01V)がみられる。しかし、コントロール能力向上を目的とした指導方法に関する研究はみられない。
【研究の目的】
本研究では、コントロール向上に有効な指導方法を探求することを目的として、投球誤差の即時フィードバックが投手のコントロール向上に寄与するという仮説を立て、これを検証するための予備的研究を実施する。
【研究の方法】
 対象:大学生の右投げ投手 10 人
 投球の計測および投球誤差のフィードバック:屋外練習場にて、アウトコース低めを狙って 10 球ずつ投じてもらい、1 球ごとに動作数値解析システムで測定した投球誤差をフィードバックする。介入前後で測定した投球誤差を比較してフィードバック効果を検証する。
【結果および考察】
当日報告する。
【参考文献】
川村卓・島田一志・高橋佳三・森本吉謙. 野球の投手における試合の制球力に関する研究. 大学体育研究, 6, 15- 1. 004
大岡昌平・前田正登. 野球の投球における主観的努力度がボールの初速度と正確さに及ぼす影響. コーチング学研究, 6( ), 1VV-185. 013
進矢正宏. 野球における投球誤差分布. 日本神経回路学会誌, 4(3), 116-1 3. 01V

 

陸上競技会におけるパフォーマンス発揮と競技運営について*
-世界陸上競技選手権大会(6 大会)の男女 100m を対象として-
発表者:長野史尚(九州医療スポーツ専門学校)**
共同研究者:三原徹治(元 九州共立大学)***
磯貝浩久(九州産業大学)****
キーワード: 陸上競技会、パフォーマンス発揮、競技運営
* Relationship between performance and competition management in athletics competition
** NAGANO Fumihisa : KYUSHU MEDICAL SPORTS Vocational school
*** MIHARA Tetsuji : Formerly KYUSHU KYORITSU University
**** ISOGAI Hirohisa : KYUSHU SANGYO University
Key word : Athletics competition, Performance , Competition management

【はじめに】
陸上競技の競技会では、他者との順位を争う事の他に、自己記録への挑戦という目的があり、競技者が良い記録を出すこと、つまりパフォーマンス発揮できる競技会の開催が求められる。しかし、これまでパフォーマンス発揮という視点で競技運営が行われているかについては研究されてこなかった。競技会全体の盛り上がりを考えても、パフォーマンス発揮可能な競技会を運営することは重要であると考える。
【研究の目的】
本研究の目的は、これまでの競技会がパフォーマンス発揮可能な競技運営であったかを検証することにある。本研究での競技運営とは、直接競技に関係するもの(競技日程やルール、審判法など)とする。
【研究の方法】
1. 研究対象
本研究では、世界陸上競技選手権大会第 11 回(2007 年)~第 16 回大会(2017 年) 6 大会の男子 100m(339 名、511 データ)、女子 100m(283 名、458 データ)を対象とした。
2. 研究方法
まずパフォーマンスが発揮されているかを評価するために、長野ら(2011)の陸上競技会におけるパフォーマンス評価方法に基づき、パフォーマンス発揮度(PF)を選手個々の競技結果(R)と自己記録(BR)の相対評価と捉え、PF=(-1)n・(BR-R)/BR(n はトラック競技では 0)を用いて数値データ化した。本研究では自己記録(BR)を該当大会エントリー時の資格記録、つまりエントリー時のシーズンベスト記録とした。
また、大会ごとの傾向を分析するために、PF分布のばらつきの統計量として四分位範囲(IQR)を、中心傾向代表値として Median(Me)をそれぞれ用いた。
【結果と考察】
1. パフォーマンス発揮の評価
男子の予選と決勝を比較すると、どの大会も予選より決勝の方がパフォーマンス発揮度が高かった。決勝において最も高かったのは、第 12 回大会(ベルリン)で、8人中6 人であった。最も低かったのは第13回大会(大邱)で、7人中1人であった(大邱大会は決勝進出8名1名が不正スタートによる失格)。
女子の予選と決勝を比較すると、第 13 回大会(大邱)を除いて、決勝ラウンドの方がパフォーマンス発揮度が高かった。また、決勝種目において最も高かったのは第 12回大会(ベルリン)で8人中5人であった。
2. ラウンドごとのばらつきの傾向
パフォーマンス発揮度の分布傾向を分析するために、Me~IQR 関係を各大会のラウンドごとに散布図に示した。
男子は、第13回大会(大邱)のデータを除外すると、Me~IQR がラウンドごとに見事にクラスタを形成することがわかった。また、クラスタの位置から準々決勝(準々決勝の無い大会は予選)、準決勝と比べて決勝では高いパフォーマンスが発揮されていることがわかった。
女子では、第13回大会(大邱)の準決勝および決勝のデータを除外すると、Me~ IQR がラウンドごとにかなり明確なクラスタを形成することがわかった。またクラスタの位置から男子ほど明確ではないが、準々決勝(準々決勝の無い大会は予選)、準決勝と比べて、決勝では比較的高いパフォーマンスが発揮されていることがわかった。
3.第13回大会(大邱)のパフォーマンス発揮が低い理由
第13回大会のパフォーマンス発揮の低さには、以下の影響が考えられる。
① 準々決勝ラウンドの廃止:第12回大会までは、予選-準々決勝-準決勝-決勝の4ラウンド制だったが、競技者の負担を減らすことを目的として、準々決勝を廃止した。
② スタート合図の共通化:IAAF のルール改正により、スタート合図が「On your marks」「Set」が世界で統一された。
③ 不正スタートに関するルール変更:IAAF のルール改正により、2010 年から、混成競技以外のトラック種目では、1 回目の不正スタートで失格というルールを適用することになった。
【まとめ】
本研究の目的は、パフォーマンス発揮可能な競技会の検証であった。今回の結果から、男女ともに第 13 回大会(大邱)が他の大会と異なる傾向を示したが、これはルール変更に伴うもの、とりわけ100m における、コンマ何秒を競う種目特性から、スタート合図や不正スタートルールなど、パフォーマンス発揮に直接影響のある変更であったと考えられる。その他の大会では、予選ラウンドより決勝ラウンドで高いパフォーマンスが発揮されており、望ましい形での競技運営であることが示唆された。
【主要参考文献】
長野 史尚・三原 徹治・杉山 佳生・磯貝 浩久(2019)陸上競技会におけるパフォーマンス評価方法の提案.健康科学,41,41-49

 

陸上競技兼用スタジアムからサッカー専用スタジアムへのリニューアル前後におけるスタジアム雰囲気・知覚経験の比較検証 ∗
発表者:山本達三 (びわこ成蹊スポーツ大学***) †
共同研究者:吉倉秀和 (***) ‡
細谷圭吾 (***) §
安部洋一郎 (***) ¶
八畑汰介 (***) ∥
菅文彦 (大阪成蹊大学) ∗∗
大河正明 (***)††
キーワード:2 時点間比較,スタジアム評価,効果量
∗ Comparison of Sport Stadium Atmosphere and Sensory Experience before and after renovation from a dual-purpose athletic stadium to soccer-specific stadium
† Tatsuzo YAMAMOTO (Biwako Seikei Sport College***)
‡ Hidekazu YOSHIKURA(***)
§ Keigo HOSOYA (***)
¶ Yoichiro ABE (***)
∥ Tasuke YAHATA (***)
∗∗ Fumihiko KAN (Osaka Seikei University)
†† Masaaki OKAWA (***)

1. 緒言
スタジアム・アリーナはスポーツの成長産業化の起爆剤となる潜在力の高い基盤施設として位置付けられ(スタジアム・アリーナ改革指針, 2016),(1) スタジアム内の経済効果,(2) 飲食・宿泊・観光等の周辺産業への経済波及効果,(3) スタジアム・アリーナ内外での雇用創出効果,などが期待されている.こうしたスタジアム・アリーナの改革には,コストセンターからプロフィットセンターへの転換が不可欠であるが,そのため には,陸上競技兼用スタジアム(以下「兼用スタジアム」)からサッカー専用スタジアム (以下「専用スタジアム」) に伴う観戦者のスタジアム評価がどのように変化しているのかを明らかにしておく必要がある.
Uhrich and Benkenstein (2010) は,兼用スタジアムと比較して専用スタジアムは,ピッチと観客席の距離が近く,観客が臨場感を得やすく,「スタジアム雰囲気がスポーツビジネスの成功要因となるだけでなく,スポーツイベントの価値向上や観客の観戦意図につながる」ことを示唆している.こうしたスタジアム評価を測定する尺度として,Parasuraman et al. (1985) のサービス評価尺度をベースにした(Jae-Ahm, Park et al., 2016; Lee, Cand Hur, Y., 2019)などがあるが,Chen et al.1) はチーム要因や観戦者要因を含んだスタジアム雰囲気尺度を開発している.Jensen et al.2) とC¸ evik3) は,Chen et al. の開発したスタジアム雰囲気尺度を用いた実証研究を実施し,スタジアム雰囲気は行動意図に直接的な影響を与えたり,満足を媒介して行動意図に影響を与えることを報告している.細谷・山本(2021)は J リーグに所属するクラブのホームゲーム観戦者を対象に,兼用スタジアムと専用スタジアムで観戦者調査をおこないスタジアム雰囲気とサービス満足が チーム ID や行動的ロイヤルティ,再観戦意図にあたえる影響の比較検証をおこなった.その結果によると, 兼用スタジアム,専用スタジアムのいずれにおいても,スタジアム雰囲気は再観戦意図に直接有意な影響を与えず,再観戦意図の先行要因として加えたロイヤルティ項目の「チーム ID」,「行動的ロイヤルティ」を媒介して再観戦意図に間接的に影響を与えていることが認められた.一見すると兼用・専用スタジアムで差がないようにおもわれるが,消費者関与別に比較を行うと,兼用スタジアムでは低関与群の方がスタジアム雰囲気の ロイヤルティ項目に与える相対的影響が大きいが,専用スタジアムでは高関与群の方が相対的影響は大きくな る.チームID の標準得点を従属変数,スタジアム雰囲気とPCM の標準得点,および両者の交互作用項を独立変数にした階層的重回帰分析を実施したところ,交互作用を加えたときの説明力の変化量は 1% 水準で有意であることが確認され,関与別及びスタジアム間で影響の与え方に違いがある可能性が認められた.
2. 研究目的
本報告では,(1)J リーグに所属する同チームの兼用スタジアムから専用スタジアムへのリニューアル時の観戦者のスタジアム評価(スタジアム雰囲気),および心理的特性(サービス満足,チーム ID,行動的ロイヤルティ,再観戦意図)の違いを比較するとともに,(2) 要因を組み合わせた場合に交互作用が存在するかを確認することを目的とする.さらに,経験価値は常にエンターテインメントビジネスの中心にあるとの指摘(Barlow and Maul, 2000) があるように,兼用スタジアムと専用スタジアムを比較すると,観戦者のスタジアム内での知覚経験に違いがあることも予想される.そこで,(3) 観戦者の知覚経験(小木曽, 2019)の比較もあわせておこなう.
3. 研究方法
3.1. 調査概要および調査項目
(1) 調査対象者:関西圏に本拠地を置くJ クラブの陸上競技兼用スタジアムからサッカー専用スタジアムへのリニューアルに伴う,ホームゲーム観戦者.(2) 調査実施日:2019 年 11 月 16 日,2020 年 11 月 11 日.(3)調査方法:両スタジアムでGoogle フォームを用いたアンケート調査を実施した.兼用スタジアムでは有効回答 465 票のうち欠損データを除く 272 票を,専用スタジアムでは有効回答 200 票のうち欠損データを除く 140 票を分析に使用した.(4) 調査内容:基本属性 6 項目,スタジアム雰囲気尺度 (Chen et al., 2013:エンターテインメント性,電子デバイス,施設,チームの伝統,チームパフォーマンス,チーム競技力,観戦者の熱意, 観戦行動,専門スタッフ,応援行動),消費者関与 (Funk and James, 2001: 3 因子 9 項目) ,サービス満足(Yoshida and James, 2010: 1 因子 3 項目) ,チーム ID (態度的ロイヤルティ: 久保田, 2010: 1 因子 6 項目),行動的ロイヤルティ (出口ら, 2018: 1 因子 5 項目) ,再観戦意図 (Park et al., 2016: 1 因子 3 項目).(5) 分析方法:兼用スタジアムと専用スタジアム間での観戦者の心理特性に t 検定,Mann-Whitney の U 検定, スタジアム要因と関与レベルの 2 要因分散分析を適応し,さらに効果量 (Pearson’s correlation coefficient r, Cohen’s d,η2) の算出もおこなった.
4. 結果および考察
4.1. 陸上兼用スタジアムからサッカー専用スタジムへの観戦者心理の比較
表 1 のように,スタジアム雰囲気,知覚経験については Welch のt 検定を,それ以外の項目は Mann-Whitney のU 検定を適応した.いずれも p<.001 水準で有意な差があることが認められた.両スタジアムの実質的な差を確認するために,効果量を算出したところ,スタジアム雰囲気と知覚経験で実質的な差が大きく,サービス満足,チーム ID,行動的ロイヤルティは中程度の差が確認された.一方,再観戦意図の実質的な差は小さいことが認められた.ここでは示さないが,さらに下位項目で確認すると,スタジアム雰囲気では電子デバイス, 施設の 2 項目で効果量が大きく,知覚経験では視覚経験の効果量が大きく向上していた.専用スタジアムへのリニューアルでは,スタジアム雰囲気や知覚経験に有意で実質的な向上はみられるものの,サービス満足, チームID,行動的ロイヤルティ,再観戦意図が大きく改善するわけではなさそうである.
4.2. スタジアム別・関与レベル別からみた観戦者心理の比較
表 2 のようにスタジアム要因(兼用・専用)および消費者関与要因(低関与:awareness, attraction,中関与: attachment,高関与:allegiance: Funk, 2001)別にスタジアム雰囲気,知覚経験,サービス満足,teamID,行動的ロイヤルティ,再観戦意図について 2 要因分散分析をおこなった結果,スタジアム条件で有意差が,ま た関与条件で有意な差が認められた.しかし,2 条件間での交互作用は認められなかった.また効果量でみるとスタジアム条件よりも関与条件の影響が相対的に大きいようである.
以上の結果から,兼用スタジアムから専用スタジアムに改修により,スタジアム雰囲気や知覚経験が大きく変容する可能性が認められたが,スタジアムのリニューアル直後は,観客がそれまでの旧スタジアムで長年体験した心理状態や経験を新スタジアムで同じように得られない(Edensor, 2013) や,コロナ禍の観戦制限の中での限られた調査結果であったことなどを考えると,今後さらに大きく変容する可能性も考えられる.

参考文献
1) Chen, C.Y., Lin, Y.H., and Chiu, H.T. (2013). Development and Psychometric Evaluation of Sport Stadium Atmosphere Scale in Spectator Sport Events, European Sport Management Quarterly. 13(2), 200-215.
2) Jensen, R.W., Limbu, Y.B., and Cho, J.J. (2015). The Influence of Sports Stadium Atmosphere on Behavioral Intention: the Mediating Role of Spectator Satisfaction, BAASANA International Conference Ptoceedings, 62-79.
3) C¸ evik, H. (2020). The Effect of Stadium Atmosphere on the Satisfaction and Behavioral Intention of Spectators: New Eski¸sehir Stadium Case, Sportif Bakı¸s: Spor ve E˘gitim Bilimleri Dergisi, 7(1), 75-92.

 

観戦者コメントからみた⽇本フェンシング協会のイノベーション*
−第 72 回全⽇本選⼿権および 2019W 杯の来場者調査から−
発表者: 福⽥拓哉(九州産業⼤学)**
キーワード: ⽇本フェンシング協会 イノベーション 観戦者 混合研究
* Innovation of the Japan Fencing Association based on spectator comments
** FUKUDA Takuya : Kyusyu Sangyo University
Key Word : Japan Fencing ♙ssociation, Innovation, Spectator, Hybrid research

【研究の目的】
本研究は、⽇本フェンシング協会が進めるイノベーションを、観戦者調査の⾃由記述の内容分析を通じて評価することを⽬的としている。
【背景】
2017年8⽉に同協会の会⻑に就任した太⽥雄貴⽒は、様々な改⾰を推進する中で、特に主催⼤会のエンターテインメント性向上に経営資源を集中させた(太⽥、2019)。その結果、⼊場者数は全⽇本選⼿権(以下、全⽇本)で2016年の約300⼈から 2019年は3,198⼈(産経新聞、2019.12.14)に、⽇本開催のワールドカップ(以下、W杯)では、2017年の600⼈弱から2019年は5,248⼈にまで増加するに⾄った(太⽥、2019)。
⼀連の改⾰がメディアで数多く報道される⼀⽅、学術的な観点から同協会のイノベーションを評価したものは皆無に等しい。また、両⼤会の運営⽅針が⼤きく異なる(全⽇本=チケットの有料化、劇場の使⽤、演出の強化;W 杯=チケット無料、⼊退場⾃由、限定的な演出)中で、実際の観戦者評価を把握する必要も同協会内に⽣じることとなった。そこで、太⽥会⻑から依頼を受けた発表者等による研究チームは、2019 年に開催された両⼤会で観戦者調査を実施し、次に⽰す結果を報告した。
【先行研究】
福⽥・今泉(2020)では、両⼤会における観戦者の満⾜度(100点満点)が全⽇本で86.8点、W杯で78.4点と統計的にも有意な⼤きな差が⽣じていることが報告された。この結果は、上述した全⽇本における⼤会運営⽅法がW杯よりも観戦者に⽀持されたことを⽰唆している。⼀⽅で、この差の源泉を明らかにするためには、質的な内容分析が必要であることが指摘された。本研究はこれを受け継いだものである。
【研究方法】
福⽥・今泉(2020)で使⽤された調査データのうち、未検証であった⼤会評価における⾃由記述欄のテキスト(全⽇本;n=486, W 杯;n=234)を分析に⽤いた。まずは内容を研究者が判断した上で「肯定的」「否定的」「両論併記」「判別不能」の 4 種類にわけ、SPSS Statistics 22を⽤いてその割合を明らかにした。次に、NVivo 1.3を⽤いて、各種類の頻出語を数値化し、そのビジュアル化を⾏った。その際、⽤語の最⼩⻑を2と4の2パターンに設定し、探索的な分析を⾏った。
【結果と考察】
表 1 は両⼤会におけるコメントの内容内訳である。全⽇本における肯定的コメント割合が W 杯よりも⾼いことは、福⽥・今泉(2020)が⽰した両⼤会における満⾜度の差がコメントにも如実に反映されていることを⽰している。図1は両⼤会の肯定的コメントをワードクラウド化したものである。双⽅とも「フェンシング」「楽しめる」「かっこいい」というキーワードがより多く登場している点が共通しており、観戦者が競技⾃体に強い興味関⼼を抱くと同時に、⼤会⾃体を楽しみ、ポジティブなイメージを抱いた様⼦が⾒て取れる。⼀⽅で、演出により注⼒した全⽇本では、「素晴らしい」「テクノロジー」という⽤語が頻発しているが、世界⼤会の運営⽅法に準じたW杯では「オリンピック」という⽤語が⽬⽴つ。この点は、双⽅の⼤会運営のあり⽅がそのまま観戦者の評価に影響を及ぼしたことを表していると考えられよう。
【結論】
分析結果からは、日本フェンシング協会が取り組んできたイノベーションの方向性が競技自体の興味関心度向上に貢献していることが読み取れる。また、有料化の上、よりエンターテインメント性に注力した全日本で「楽しめる」「素晴らしい」という用語
が多く出ていることから、その方向性が観戦者により強く支持されたと言える。発表当日は、否定的コメントの分析結果を含め、本研究全体の詳細を報告する。

表1:両大会におけるコメント内容の内訳

図 1:両大会における肯定的コメントのワードクラウド(最小長 4) (左:全日本、右:W 杯)
【参考文献】
福⽥拓哉・今泉直史、「観戦者から⾒た⽇本フェンシング協会のイノベーション: 第 72 回全⽇本選⼿権の調査結果から」、⽇本スポーツマネジメント学会第12回⼤会⼤会号、2020 年

 

民間企業と自治体によるJリーグクラブの新たな経営形態―モンテディオ山形の経営の事例研究―*
発表者: 土屋和之(立命館大学大学院 スポーツ健康科学研究科)**
共同研究者: 種子田穣(立命館大学 スポーツ健康科学部)***
宮内拓智(立命館大学 BKC 社系研究機構客員研究員)****
キーワード: スポーツビジネス、株主と経営者、コーポレートガバナンス
*A New Form of Management for J-League 3lub› by Private 3ompanie› and Local
*overnment› -♙ ca›e ›tudy of the management of Montedio wamagata-
** WSU3HIw♙ Ka×uyuki : RIWSUMEIK♙N *raduate School, Sport and Health Science
*** W♙NED♙ Joe : RIWSUMEIK♙N Univer›ity, Sport and Health Science
**** MIw♙U3HI Wakuji: RIWSUMEIK♙N Univer›ity, BK3 Re›earch Organi×ation of Social Science›
Keyword: Sport› Bu›ine››, ›tockholder and manager, 3orporate governance

【緒言】
本研究の対象であるモンテディオ山形は 2013 年まで J リーグ加盟クラブの中で唯一、公益社団法人が運営母体であったが、2013 年6月に地域の問題解決を中心に経営診断や組織改革事業を専門に行っているコンサルティングファームのアビーム・コン サルティングがモンテディオ山形に株主として出資・運営に参画することが決定し、2013 年 8 月に株式会社モンテディオ山形が誕生した。コンサルティングファームが直接、チームの経営を担っているクラブは J リーグに例がなく、山形県を含む官民の株主構成の中で経営を担うコンサルティングファームの機能は注目される。
公益社団法人が運営していた 2013 年における営業収入は10億4100万円、純資産は2500 万円であったが、2019 年には営業収入で過去最高の18億4500万円、純資産でも過去最高の1億3900万円を記録しており、財政面において結果を残している。このような結果として、株主と経営者の関係性が良好であり、双方の目的が明確かつ 共通化していることが考えられる。
【研究の目的】
本研究の目的は、モンテディオ山形における株主と経営者の関係性に着目し、コー ポレートガバナンス論を用いて、健全なチームマネジメントの在り方を解明すること である。
【研究の方法】
① 経営・運営を行っているモンテディオ山形と株主・運営者であるアビーム・コンサルティングに対し、それぞれの関係性についてインタビュー調査を行い、従来のプロスポーツクラブ経営とどう違い、どのように上手くいっているのかを解明した。
② インタビュー調査で得られた内容から、モンテディオ山形とアビーム・コンサルティングの関係性についてコーポレートガバナンス論を用いて分析を行った。
【結果】
モンテディオ山形ではアビーム・コンサルティングの意向に沿って株主が経営者の意思を尊重し、経営者は経営に関する意思決定や経営判断、株主のリソースを活かした経営施策が推進できる環境であることが明らかになり、それがモンテディオ山形の 経営に良い影響を及ぼしていることがわかった。
また株主、コンサルタント企業、スポンサーの3つの顔を持つアビーム・コンサルティングはモンテディオ山形の経営状況の分析を綿密に行っており、特に財政面において、モンテディオ山形の経営状態がデータを用いて可視化することによって、より経営の現状を経営者や現場に伝えることが出来たといえる。またモンテディオ山形の代表取締役社長や他の株主である山形県とコミュニケーションを積極的に行うことに よって双方の意向が一致していることがわかった。
【考察】
昨今において、J リーグの経営が注目されており、様々な視点で研究されている。しかしながら、経営において、慢性的な赤字や債務超過によって、過去には経営破綻等によるチーム消滅があり今後もその可能性が考えられる。
モンテディオ山形の場合、株主と経営者の双方の目的が定められていることによって、株主と経営者が一体となって経営判断やしっかりとしたコミュニケーションが行われており、双方にとって良い結果を生み出しているといえる。
【結論】
モンテディオ山形において、株主と経営者がお互いにコミュニケーションを行い、 経営改善を取り組むことによって、健全なチームマネジメントを行っていることが明らかになった。
【参考文献】
• 江川雅子「現代コーポレートガバナンス」.日本経済新聞社.²018.
• 加護野忠男・砂川伸幸・吉村典久「コーポレート・ガバナンスの経営学 –– 会社統治の新しいパラダイム」.有斐閣.²010.
• J リーグ.2019 年度Jクラブ個別経営情報開示資料.
• J リーグ.2013 年度(平成 ²5 年度)J クラブ個別情報開示資料.

 

我が国の国内中央競技団体における経営人材の副業・兼業限定の外部登用による組織変革: 組織文化論の視座からの考察
発表者: 駒田惇(東京都立大学大学院 博士後期課程)*
キーワード:組織変革,組織文化,国内中央競技団体
*KOMADA Atsushi: Tokyo Metropolitan University Graduate School Doctor Course
Key word: Organizational Change, Organizational Culture, National Federation

1. はじめに: 問題提起と本報告の目的
本報告の目的は,組織文化論の知見から我が国の国内中央競技団体(以下,NF)の事例分析を行うことで,NF における組織変革(経営基盤の強化)を実現する管理者行動を明らかにしていくことにある。近年,NFの組織変革(経営基盤の強化)が求められ,経営人材
の導入が進められている。しかしながら,経営人材をキャリア採用した NFの全てが,その後に経営基盤を強化できているとは言い難い。なぜなら,組織内の制度や組織構造は,その組織が歴史的に形成してきた価値観を反映しているため,単なる経営人材をキャリア採用しただけでは十分な組織変革が実現しないからである。
この問題に対して,NFの環境状況,戦略,組織特性,組織成果間の相互関係を解明し, NFのマネジメント特徴を分析した赤岡(2009)は,NF を対象とした事例研究の必要性を述べている。他方で武隈(1994)は,我が国におけるスポーツ組織の研究について,極めて 低調で特に経験的研究は欧米に比べて著しく立ち遅れていると指摘する。そこで本報告では,組織文化論(e.g., Schein, 1985)の理論的視座に基づき,NFの組織変革について,組織文化をコントロールする管理者行動から捉える分析視角を提示し,日本バスケットボ ール協会及び日本フェンシング協会の経験的調査をおこなっていく。
2. 調査方法と対象
「文化の創造とマネジメントのプロセスこそがリーダーシップの真髄である」(Schein, 1985)ことから,事例として取り上げる両団体の会長又は事務局長へのインタビューを実施し,さらに「文化は観察可能な人工の産物レベル,または共通的に信奉される価値観,
規範,行動のルールのレベルにおいてその姿が表明される」(Schein, 1985)ことから,両団体の組織文化を把握するために職員へのインタビューも実施した。インタビューによって得た情報から,組織のリーダーが組織文化を変革するにあたり,Scheinの組織文化変革モデルの各段階において,副業・兼業限定で外部登用した人材をどのように利用したのか, 管理者行動を分析した。
3. 結果
日本バスケットボール協会では,Ⓒ協会の意思決定機関である理事会を構成する理事の総入れ替え,②役・職員を対象とした非公式の勉強会の開催,③役・職員が気軽にコミュ ニケーションをとる「語りま食堂」の開催と役・職員間の橋渡し役の存在によって,組織文化の「解凍」が促進された。続いてⒸ中期経営計画であるJAPAN BASKETBALL STANDARDの策定,②B.MARKETING 株式会社の設立,③監督者(理事者)と執行者(事務局)の完全分離によって,組織文化の「変革」が促進された。そして①川淵三郎氏と三屋裕子氏のカリ スマ人材のリーダーとしての利用,②国際バスケットボール連盟による制裁の解除によっ て,組織文化の「再凍結」が促進され,組織文化の変革が円滑に進められたと考えられる。他方で日本フェンシング協会では,①太田雄貴氏の突然の会長就任,②経営戦略アドバイザリーコミッティーの新設とそこへの外部登用人材の配置によって,組織文化の「解凍」が促進された。続いて①旧来の職員の外部登用人材からの学習,②外部登用人材及びその同僚並びに非採用者による大会の運営とその成功により,組織文化の「変革」が促進され た。そして,太田雄貴氏の会長就任直後の大会において成果を実現したことで,組織文化の「再凍結」が促進され,組織文化の変革が円滑に進められたと考えられる。
4. 終わりに: 本報告の発見事実と理論的貢献
Schein(1985)に代表される組織文化論の理論的視座に基づき,日本バスケットボール協会と日本フェンシング協会の事例から NF における副業・兼業限定の外部人材を用いた組織文化の変革を促進する管理者行動を明らかにした。
1つ目は,組織文化変革を進めるうえで生じるサブカルチャーのコンフリクトの解消方法である。日本バスケットボール協会では,意思決定機関である理事会を構成する全ての理事を外部人材と入れ替えることで,多様なサブカルチャーで構成される組織であったとしても,サブカルチャーによる組織文化変革の抵抗を抑え,組織の変革を促進させる手法があることが明らかになった。他方で日本フェンシング協会では,外部人材を組織のスタッフ側に登用し,外部人材によって組織文化変革の成果をあげさせることで,理事者やスタッフが学習せざるを得ない状況を作り出し,各サブカルチャーからの組織文化変革の抵抗を抑え,組織の変革を促進させる手法があることが明らかになった。この手法は,日本フェンシング協会のように,本来,意思決定機関である理事会が,事実上,承認機関となっており,理事者と執行者が脱連結(Decoupling)の状態にあるときに有効な手法である。
2つ目は,組織文化を伝播するカリスマと組織文化を変革する新しいリーダーに相応しい人材の条件についてである。両団体の事例から,NFにおいてはオリンピック競技大会でメダルを獲得した人物か,引退後に日本スポーツ界に大きく貢献した人物であることが,カリスマやリーダーの条件であることが明らかになった。
本報告で明らかにした組織文化を利用した組織変革における副業・兼業限定の外部人材 の活用方法と,組織文化の伝播,変革を行うカリスマ,リーダーの条件については,旧来の組織文化を利用した組織統制・変革の研究を土台にしつつ,これまで行われてこなかったNF の組織変革を促進する管理者行動を提示した点に理論的貢献があると考えられる。

<引用文献>
赤岡広周, 中央競技団体の戦略と組織, 經濟學研究, 第 59 巻, 第 2 号, 257-264 頁, 2009.
Edgar H. Schein, Organizational Culture and Leadership, Jossey-Bass, 1985(梅津祐良・横山哲夫訳, 組織文化とリーダーシップ, 初版第 4 刷, 白桃書房, 2017).
武隈晃, スポーツ組織研究の動向と展望 ―組織論的研究を中心に―, 鹿児島大学教育学
部研究紀要 人文社会科学編, 第 46 号, 65-75 頁, 1994.

 

新型コロナウイルスの感染拡大とスポーツチームの収入構造の変革*
発表者:井上俊也(大妻女子大学)**
キーワード:新型コロナウイルス 収入構造 フランスのプロスポーツチーム
* The COVID–19 and the re£orm o£ sports teams’ income structure
** INOUE Toshiya : OTSUMA Women’s University
Key Words : COVID–19, income structure, Erench pro£essional sports team

【緒言】
新型コロナウイルスの感染拡大はプロ、アマチュア問わず、スポーツチームの活動を制限した。活動制限は競技面だけではなく、財務面にも影響を与えている。これらのスポーツ団体の活動継続のために、主にアマチュアチームに対しては、スポーツ庁によるスポーツ活動継続サポート事業など公的な資金が投入された。一方、プロのスポーツチームは入場料収入、放映権収入などが大幅に減少したが、これを機に、収入構造を変化させることが、プロのクラブとして事業の持続性を確保するために必要であるという問題意識で本研究に取り組んだ。
【研究の目的】
プロスポーツチーム(本研究では活動によって会費、助成金以外に興行収益を得ているスポーツ団体)において活動の制限により入場料収入という興行収入、そしてそれに付随するテレビ放映権収入、さらにはスポンサー収入の減少が想定される。また、競技の特性ならびに収入構造の違いにより、新型コロナウイルス感染拡大による影響も違いがある。欧州で有数の球技王国であるフランスにおける競技ごとの収入構造の研究を基礎として、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けにくい収入構造を提言することを目的とする。
【研究の方法】
世界屈指の球技大国であるフランスの五大球技(サッカー、ラグビー、バスケットボール、ハンドボール、バレーボール)のプロチームの収入構造を比較し、新型コロナウイルスの感染拡大による各競技の新型コロナウイルスの感染拡大の影響を比較する。
【フランスにおけるコロナウイルスとスポーツ】
フランスにおいても新型コロナウイルスの感染は拡大し、²0²1 年 5 月下旬現在での感染者数は 590 万人、死者は 10 万 8000 人に上る。感染拡大が本格化した²0²0 年 4 月にプロスポーツの試合は完全に中止となり、²0²0 年 8 月からガイドラインに従った感染対策を講じた上で再開し、プロスポーツの場合はほとんど無観客で行われた。しかし、プロ、アマチュアを問わず、スポーツ界でクラスターが発生し、競技人口にも連動するが、サッカー、ラグビー、バスケットボール、ハンドボールというプロチームのある団体球技でのクラスターが多いことが保健当局から指摘されている。
【アマチュアスポーツと新型コロナウイルス】
資金力が豊富ではないアマチュアのチームは、感染対策に費用をかけることができず、スポーツ全体のクラスターのうち8割がアマチュア部門で発生している。試合を行うことが困難になり、アマチュアチームも出場するサッカーのフランスカップ(日本の天皇杯に相当)はアマチュアチームが試合を消化できず、例年と大会方式を変更し、プロの部とアマチュアの部に分けてトーナメントを実施した。アマチュアリーグは 3 部以下に相当するが、全国的なリーグは2020年10月を最後に試合が行われていない。アマチュアの場合は、入場料収入やテレビ放映権料という収入減によって経営が左右されること が小さいことも試合や大会の中止という判断につながった。
【プロスポーツと新型コロナウイルス】
入場料収入、テレビ放映権料などの収入のあるプロスポーツにおいてはラグビーが最も影響を受けた。競技面については、ラグビーは比較的感染者数の少ない西南部で盛んな競技であるにも関わらず、コンタクトスポーツであることからクラスターが発生した。また、フランスでトップレベルのリーグである T0P14 に所属するプロのラグビーチーム は、その収入の3割近くが入場料収入、広告収入が5割であり、テレビ放映権料は2割 に過ぎない。近年は人気が出てきたこと、収容人数の多いスタジアムを有する大都市を本拠地とするチームが増えてきたことから、観客動員数も増加し、これと同期して広告 収入も増えてきた。しかし、無観客での試合に加え、スポーツに対する広告は、新型コロナウイルスの感染拡大以降、全体として 3 割減少した。サッカーのプロチームの場合は収入の 6 割をテレビ放映権料が占めるが、ラグビーは2割であり、主たる収入源が新型コロナウイルスの影響を受けたラグビーは、競技面に加え、財務面でも打撃を受けた。
さらに、サッカーは、2019–20シーズンは欧州主要国で唯一リーグ戦を途中で打ち切ったが、2020–21シーズンは新たなテレビ放映権契約を結び、グローバルなテレビ放映に合わせた時間帯に試合時間を変更し、原則として無観客で試合を開催した。
【結論】
アマチュアチームについては感染防止対策に対して十分な資源(予算、人材)が不足しているために、試合や大会を開催することができなかった。クラブとして試合や大会が営利を目的としていないことから、感染防止に重点を置いて試合中止という判断に至った。プロチームを支える位置づけからも公的資金の投入により、活動の正常化を図ることが必要である。
一方、プロスポーツに関しては、入場料収入の減少、広告収入の減少に対してどのように対応するかが、課題である。感染拡大初期においてはコストカットということで選手の人件費を大幅にカットすることが行われたが、無観客でも収入の確保できるテレビ放映権料収入の維持拡大、さらには新たな収入源の確保に取り組むことが必要である。

 

「FIFA グローバルシリーズeJ.LEAGUE」視聴者の特性に関する研究*
-Jリーグクラブファンにおける視聴者と非視聴者の比較分析-
発表者:菅野雄太(大阪体育大学大学院 **
共同研究者: 藤本淳也(大阪体育大学)***
キーワード:eスポーツ比較分析JリーグeJ.LEAGUE
* Comparison analysis between viewers and non- viewers of FIFA global series eJ.LEAGUE among J-League Club Fans
** KANNO Yuta: OSAKA UNIVERSITY OF HEALTH AND SPORT SCIENCE
*** FUJIMOTO Junya: OSAKA UNIVERSITY OF HEALTH AND SPORT SCIENCE
Key word: e-sport, Comparative analysis, J.LEAGUE, eJ.LEAGUE

【緒言】
2021 年、オリンピック公式ライセンスで行われる初めてのeスポーツイベント「Olympic Virtual Series(OVS)」が開催予定であり、2022 年に杭州で行われるアジア競技大会ではeスポーツが正式な競技としてプログラムに組み込まれることが決定している。日本のプロスポーツからのeスポーツへの注目度は年々増加している。例えば、一般財団法人日本野球機構とプロ野球 12 球団は、2018 年から「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ」を開催している。Jリーグは、2018 年から「FIFAグローバルシリーズeJ.LEAGUE」、2019 年から「eJ.LEAGUE ウイニングイレブン」のeスポーツの大会を開催している。そして、Jリーグの各クラブは、地域の協力のもとにeスポーツ大会の開催やeスポーツ体験コーナーを設けるなどによって、クラブのファンがeスポーツを通じてファン同士の交流やクラブとの関係性の構築へ向けての機会創出に取り組んでいる。
一方、eスポーツ研究への取り組みも増えてきている。例えば、Hamari and Sjöblom(2017)による既存のスポーツ観戦尺度を用いて、eスポーツオンライン観戦に適用させた研究、Pizzo ら(2018)によるサッカー、FIFA、StarCraft の3群の観戦動機に関する比較研究や Neus(2020)によるオフラインとオンラインの eスポーツ消費の比較研究である。今後、プロスポーツがeスポーツを活用して新たなファンを獲得の可能性を探るには、eスポーツ視聴者の特性を把握することは非常に重要である。
【⽬的】
本研究の目的は、J リーグクラブファンを「FIFA グローバルシリーズ eJ.LEAGUE」の視聴者と非視聴者に分類して比較分析し、その特性の違いを明らかにすることによって、新たな視聴者とファンの獲得可能性を探ることである。
【⽅法】
本研究は、J クラブファンを対象に、2021 年 2 月に J1 リーグ所属の 1 クラブにオンライン観戦者調査を 10 日間実施した。総回収数は 1212 部、質問紙の回答に欠損があるものを除外して有効回答と判断したところ、有効回答数は 1155 部であった。
分析は、1155 部の中から J リーククラブファンであり、eJ.LEAGUE の名称を認知し、FIFA グローバルシリーズ eJ.LEAGUE のクラブ推薦選手のプレイヤーネームを認知している回答者(n=275)に分析対象を絞り込んだ。FIFA グローバルシリーズ eJ.LEAGUE の観戦経験に関する項目に対して、視聴者(n=91)と非視聴者(n=184)の両者を比較した。比較には個人的属性や観戦特性、「チームの愛着(3 項目)」、e スポーツにおける「チームアイデンティティ(3 項目)」、「社会貢献の評価(3 項目)」などを用いた。「チームの愛着」、eスポーツにおける「アイデンティティ」、「社会貢献の評価」の測定には5段階尺度を用いた。そして、その3要因は得点を合計した合成変数を算出して以後の分析に用いた。統計処理には SPSS を用い、t検定とx2検定を行った。
【結果】
1)回答者の特性
視聴者の男性は 71 人(78.0%)、女性は 20 人(22.0%)、非視聴者の男性は 127 人(69.0%)、女性は 57 人(28.0%)、x2 検定の結果、有意な違いが認められなかった(x2=2.446,n.s)。
平均年齢は視聴者が 40.7 歳、非視聴者は 43.5 歳、x2 検定の結果、有意な違いが認められなかった(x2=10.004,n.s)。
2)比較分析の結果
視聴者と非視聴者でクラブ応援年数を比較した結果、視聴者の平均値は 8.72 年、非視聴者の平均値は 9.08 年と非視聴者の方が高い値を示し、t 検定の結果、有意な差が認められた(t= 1.366,p<.050)。次に 2019 年の J1 リーグ戦スタジアム観戦頻度を比較した結果、視聴者の平均値は 12.71 回、非視聴者の平均値は 13.27 回と非視聴者の方が高い値を示したが、t 検定の結果、有意な差は認められなかった(t=.858,n.s)。
「チームの愛着」を比較した結果、視聴者の平均値は 4.564、非視聴者の平均値は 4.561と僅かながら視聴者の方が高い値を示したが、t 検定の結果、有意な差がみられなかった(t=-.035,n.s)。視聴の有無が「チームの愛着」に関係していないことが考えられる。さらに e スポーツにおける「チームアイデンティティ」を比較した結果、視聴者の平均値は 4.05、非視聴者の平均値は 3.60 と視聴者の方が高い値を示し、t検定の結果、有意な差が認められた(t=-4.095,p<050)。視聴の有無が e スポーツにおける「チームアイデンティティ」に関係していると考えられる。
【考察】
「FIFA グローバルシリーズ eJ.LEAGUE」における視聴者を増やし、新たな J クラブファンの獲得の可能性を広げるためには、各クラブを代表する e スポーツ選手やチームに焦点を当て、宣伝を行うことが重要だと思われる。

 

小規模プロスポーツ創成によるスタジアム建設、クラブスポーツの活性化*
―独立プロ野球リーグ・九州アジアリーグの事例から―
発表者:石原豊一(関西福祉大学)**
キーワード:小規模プロスポーツ、独立プロ野球リーグ、地域創生、ブラック部活
* Stadium Construction and Revitalization of Club Sports by Creating Small-scale Professional Sport Team―From the Case of the Independent Professional Baseball League, Kyushu-♙sia League―
** ISHIH♙R♙, Toyokazu (Kansai University of Social Welfare)
Key word: Small-scale Professional Sport, Independent Professional Baseball League, Regional Revitalization, Sweatshop School Sports

【緒言】
1990 年代以降の我が国における実業団スポーツの激減は、それに代わるアスリートの受け皿としてのクラブチームの増加、小規模プロスポーツの勃興という現象を生んだ。我が国のスペクテイタースポーツとして最も衆目を集めている野球においても、2005 年から独立プロ野球リーグが開始され、紆余曲折を経ながら、現在ではビジネスモデルに道筋をつけ、学卒後の選手のプレー継続、セカンドキャリアへの移行の場、トッププロリーグNPB への人材供給の場としての地位を確立させたかに見える。
本発表においては、2021 年に新たに発足した独立プロ野球リーグ、九州アジアリーグの事例を取り上げる。
【目的】
バブル経済が崩壊した 1990 年代後半以降、企業スポーツに支えられてきたトップアマチュアスポーツが苦境に立たされている。とくに野球の場合、学卒後のプレーの場としてプロとの橋渡しの役割を果たしてきた実業団チームが激減し、独立リーグという小規模プロスポーツが誕生することになった。このようなプロ化の流れは他のスポーツでも起こっているが、その多くは財政難に悩まされ、その存在意義さえ問われているもののある。本研究は、単なるエンタテインメント産業としてでなく、地域の公共財としての小規模プロスポーツの存在意義を求めるべく事例を検証するものである。
【方法】
リーグ立ち上げに関わったリーグ代表理事、熊本球団社長、大分球団社長に実施した半構造化インタビューを本研究は土台にしている。
【考察】
既存の独立プロ野球リーグが、学卒選手の競技継続の場、あるいは上位プロリーグである NPB への選手送出の場を作るべく発足したが、この九州アジアリーグの発足の経緯には、既存リーグの目的を継承はしながらも、新たなアプローチが関わっている。熊本球団は、新球場建設を目指す地元グループが、自治体にはたらきかけるひとつのきっかけとしてプロ球団設立を思い立ち、そこに社会人実業団チームの活動に限界を感じていた実業家が実業団チームのプロ化というかたちで合流するというかたちで新球団が発足した。
一方の大分球団は、長らく部活指導に携わってきた元教員が、昨今「ブラック部活」とも揶揄されている教員の超過勤務の大きな要因となっている部活からの脱却を思い 立ち、自ら総合スポーツクラブを立ち上げた延長線上に、施設の有効活用の観点とクラブのシンボルとしてプロ野球チーム設立を計画。熊本球団が構想するリーグ設立案に加わるというかたちで球団が設立された。
【結論】
このリーグに加盟した 2 球団が設立された経緯を探ってみると、地方におけるスポーツ施設建設と学校スポーツから地域スポーツへの移行という、スポーツ界に存在する 2 つの課題が浮かび上がってくる。従来にない視点からのプロ球団設立には、新たな小規模プロスポーツの可能性が秘められていると言える。

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