日本スポーツ産業学会 第9回冬季学術集会リサーチカンファレンス 研究発表(J1-J5)

わが国におけるプロスポーツチームを通じた地方創生に向けた一考察 -シビックプライドの喚起を促し消滅可能性都市の解消を目指す-
帝京大学 経済学部 経営学科 3年 篠崎友

[緒言]
筆者は、大学 2 年時に J2 リーグ所属の水戸ホーリーホックと当研究室とのジョイントスタディを通じて水戸市へ視察に行った。その際に見た同クラブのホームタウンで展開す るクラブ活動、クラブスタッフの街に対する熱い思いを聞き、プロスポーツクラブと地域 の関わり方について興味や関心を抱くようになった。
北陸財務局によると、「地方創生とは少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に 歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住み よい環境を確保して、将来にわたって活力ある社会を維持していくことを目指すこと」と 明記されている。内閣府は、様々な地方創生政策を行う中で、平成 26 年に開催された日 本創生会議にて、2040 年に全国 896 の市区町村が「消滅可能性都市」に該当すると明言。 消滅可能性都市とは若年層の流出や、それによる人口減少や少子化によって、存続するこ とが出来なくなり、最終的には消滅してしまう市区町村のことをいう。筆者は高校 3 年 間、消滅可能性都市である山梨県北杜市で暮らしていた経験から、同問題を解消するに は、人口の減少や転出を防ぐことが必要不可欠であると考える。ついては消滅可能性都市 の解消こそが地方創生に寄与するのではないか。
人口減少の主な要因として、大都市圏への人口移動が挙げられる。筆者は、この問題を 解決する策としてシビックプライドという概念に注目した。シビックプライドとは、牧瀬 (2019)によると「都市に対する市民の誇り」と定義されており、期待する効果の 1 つとし て、定住の促進(転出抑制や転入促進)があげられる。このシビックプライドを喚起する方 法として地域の誇りになることができるプロスポーツチームを活用すべきだと考える。
間野(2015)によると、FC 今治のホームタウンである愛媛県今治市は消滅可能性都市に指 定されているが、同クラブの試合観戦や地域への活動を通して今治市民の定住意欲が向上 しているようだ。
そこで本研究は、プロスポーツクラブによる消滅可能性都市の解消を目指すべく、筆者が暮らしていた山梨県北杜市や甲府市を拠点に活動を行うヴァンフォーレ甲府(以下、「VF 甲府」)の諸活動を事例に、両市におけるシビックプライドの喚起要因を明らかにするこ とを目的とし、プロスポーツクラブを通じた地方創生について考察を行う。
[研究方法] 1)プロスポーツクラブと市民との関わり方に関するインタビュー調査(定性調査)
2)VF 甲府の活動を通した「あなたの街へのイメージ」に関するアンケート調査(定量調査) ○調査期間:2021年1月29日~2月5日
○調査対象:VF 甲府を認知しており、甲府市および北杜市に居住経験のある男女より
無作為抽出した 152 名(甲府市 78 名北杜市 74 名) ○調査方法:インターネットによるアンケート調査 ○主な質問項目:1VF 甲府の様々な活動との関わり方に関する質問 15 項目
2VF 甲府が行う活動を通して、甲府市(北杜市)に対するイメージに関する質問 5 項目 3)分析方法:上記 20 項目のアンケート結果によりダミー変数を用いた重回帰分析を行う。
なお分析においては、IBM SPSS Statistics26 を用いて行った。 [研究結果及び考察] この項目については重点的に改善すべきである。
重回帰分析の結果、VF 甲府が行う活動は両市の市民へ市への「誇り」を喚起させ、「定 住意欲」の向上に寄与していることが分かった。図 1 は「VF 甲府が両市民に与える誇りへ の影響度」、図 2 は「VF 甲府が両市民に与える定住意欲への影響度」をポートフォリオ化 したものである。

両市への「誇り」や「定住意欲」に影響を与える項目は異なること、ホームタウンの中 心である甲府市は北杜市に比べて同クラブの活動に積極的に参加していることが分かっ た。
甲府市民は、スタジアムで VF 甲府の試合を観戦する、VF 甲府のスポンサーの商品を好 んで購入することが「誇り」となり、定住意欲に対して強い影響度を与えていることが示 唆された。
一方、北杜市民は、共通して参加回数が少ないがホームタウン活動やファン感謝祭に参 加することは同市への「誇り」となり、また「定住意欲」に対して強い影響を与えている ものの、改善の余地が見られる。
「誇り」や「定住意欲」に良い影響を上げる活動の項目はより多くの市民に参加しても らえるようにクラブ側がアンケートの結果を鑑みて、「関わる頻度」が高いことから、街 に掲載されるポスターやクラブ公式 SNS で積極的に宣伝するなど工夫をする。そして改善 すべき項目をホームタウンの市民の心を満たすことを一番に考え目的や内容を修正するこ とで、市民のシビックプライドを喚起させ、それが人口減少や転出に繋がりひいては消滅 可能性都市の解消、地方創生へとつながっていくのではないかと筆者は考える。 [参考文献]
○北陸財務局公式サイト http://hokuriku.mof.go.jp/soumu/pagehokurikuhp013000091.html (2022)
○「日本におけるシビックプライドの動向整理」(2019) 牧瀬 ○「スポーツによる地方創生」 (2015)早稲田大学 間野ゼミ

ランニングシューズ消費者の知覚リスクがブランド・ロイヤルティ,製品購買意図に 与える影響
びわこ成蹊スポーツ大学 スポーツ学部 スポーツ学科 3回生 藤岡峻

キーワード:知覚リスク,ブランド・ロイヤルティ,製品購買意図,消費者関与
1.緒言
レジャー白書(2019)の報告では,2019 年から 2020 年にかけて「ウォーキング」の人口が 60 万人増加し,「ジョギング,マラソン」を行う人口が余暇活動種目の上位 14 位に上 昇している.また,2021 年に東京オリンピックが開催されたこともあり,今後の日本にお けるスポーツ用品市場は回復傾向にあると考えられる.また,Sports Business Magazine(2022)によると,外資系上場スポーツ企業(Adidas, Under Armour, PUMA)は一 昨年 12 月期にコロナの影響により業績が落ち込んだと報告しているが,昨年 12 月期では 業績が回復し利益が去年を超えている企業も存在している.そのため,今後スポーツ用品産 業は活発化してくものと考えられ,コロナ禍でのスポーツ用品の消費者心理を解明するこ とは非常に重要なことである.
消費者の購買行動を測定する上で,知覚リスクという概念がある.Emad Y. Masoud(2013)によると,知覚リスクはオンラインショッピングの購買意図において負の影 響を与えるとしている.また,製品への関与度の違いが購買意図やブランド・ロイヤルティへ異なる影響を与えると先行研究は指摘している(Prateeksha, 2018).そこで本研究ではラ ンニングシューズを扱うブランドを対象に消費者行動における製品関与に着目し,製品関 与度の違いによる知覚リスクがブランド・ロイヤルティや製品購買意図に与える影響を解 明することを目的とする.
2.研究方法 調査対象者:関西の運動系クラブに所属している大学生(n=119).対象ブランド:現在使用しているランニングシューズのブランドを答えてもらい,調査項目もそのブランドを 想定して回答.調査項目:基本属性5項目.知覚リスク(15 項目, Emad Masoud, 2013) ブランド・ロイヤルティ(3 項目, Yoo&Donthu, 2001), 製品関与(16 項目, Laurent&kapferer, 1985), 製品購買意図(5 項目, Nancy&Surenda, 2004).すべて7段階のリッカートスケール を使用.
3.結果および考察
○信頼性の検証
分析を行う前に尺度の信頼性を検証した.その結果,Risk Importance(α=.485)と機能的 リスク(α=.439),経済的リスク(α=.340),の信頼性が確保されなかった.そのため,上記の 変数を仮説モデルから削除しその後の分析を行った.
○重回帰分析の結果
図は Laurent&kapferer, (1985)の IP スケールを調整変数として用いた仮説モデルの検 証結果である.低製品関与群における社会的リスクのみがブランド・ロイヤルティに有意な正の影響を与えており,両関与群における時間的リスクは影響を与えなかった.これは,ブランド・ロイヤルティを従属変数とした場合の独立変数間に高い相関(多重共線 性)が確認されたため,相対的に時間的リスクがロイヤルティに影響を与えなかったと考 えられる.また,決定係数が量関与群ともに低い(R2=.085, R2=.093)ため,独立変数にお ける予測精度があるとは言えない結果となった.

一方で,低製品関与群における社会的リスクは購買意図に正の影響を与えず,反対に高製 品関与群は購買意図に有意傾向ではあるが負の影響を与えていた.一般的に知覚リスクは 購買意図に対して負の影響を与えるとされているが(Jacoby, 1972),本研究では低製品関 与群における社会的リスクは購買意図に影響を与えなかった.つまり,自分の購入する予定 であるシューズに対して関与の高い消費者は,友人や家族からの評価を気にし,購買意欲を 抑制する可能性がある.そのためランニングシューズを扱う企業は,消費者の独自性を認め るようなプロモーションに注力し,高関与群における社会的リスクを下げることで購買意 図を向上させることができるかもしれない.また,両関与群ともブランド・ロイヤルティが 購買意図に正の影響を与えており差はほとんどなかった.そのため,関与の違いによらず顧 客のロイヤルティを高めることは,そのブランドの購買意図向上につながると考えられる. 参考文献
1) Emad Y. Masoud(2013) The Effect of Perceived Risk on Online Shopping in Jordan European Journal of Business and Management www.iiste.org ISSN 2222-1905 (Paper)Vol.5, No.6, 2013

スター選手の獲得がクラブ経営におけるトリプルミッションモデルに与える影響 -ヴィッセル神戸の事例研究から-
同志社大学 スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科 3年 末常 たみ、池田 幹、大江 彰紀

【本文】 I.背景
プロスポーツクラブ経営における成功要因として、平田(2008)は「勝利」「市場」「普 及」の循環が不可欠であるとしており、これをトリプルミッションと名付けている。クラブ経営を始めとするスポーツビジネスにおいては、「利益」ばかりではなく「勝利」も求 められる。「勝利」を積み重ねることで、そのクラブやチームの知名度が上がり、「普及」 に繋がる。そして最終的な結果として「収入」が増えることになる。このようにクラブ経 営を考える上で、「勝利」「市場」「普及」の3つが好循環することがクラブ経営の理想の 姿であり健全な姿と言える。そこで本研究では、ヴィッセル神戸のクラブ経営に着目し た。ヴィッセル神戸は、2015 年に楽天株式会社に経営権が譲渡され、それ以降 2017 年の ポドルスキ選手の補強や、2018 年のイニエスタ選手の補強など、J クラブでトップのチーム人件費を計上する積極的な動きを見せている。これらの選手補強は、トリプルミッションモデルにおける「勝利」を追い求める過程に当たるものであると考えられる。そこで本 研究は、このようなスター選手の獲得は順位の向上に関係していると仮説づける。そして この仮説を確かめるために、スター選手の獲得が順位に与える影響を明らかにする。また、前述したトリプルミッションモデルにおける「勝利」以外の、営業収入や入場者数が あたる「市場」「普及」に与える影響についても明らかにする。これらの点について調 査・分析を行ない、スター選手の獲得が「勝利」「市場」「普及」のどの要素に大きな影響 を与えるのか検討する。
II.方法 そこで、今回の研究を行なうに当たってヴィッセル神戸におけるスター選手の設定が必
要になるが、今回はスター選手をイニエスタ選手のみとして検討する。その理由として、 在籍期間と出場試合、ヨーロッパでの実績を始めとする国内での人気がある。他にも実績 のある外国人選手が加入したことはあったが、イニエスタ選手とは異なり、在籍期間が短 くデータ数が少ないことから今回は選外とした。本研究はイニエスタ選手の加入が順位の 向上に与える影響、および「勝利」以外の「市場」「普及」に与える影響について検討す る。「勝利」においては 2014 年から 2019 年までの J1 における順位、「市場」においては 営業収入、「普及」においてはホームゲーム入場者数のデータを採用する。これらのデー タを集計・分析し、イニエスタ選手の獲得前と獲得後で各項目にどのような変化があるの か分析を行なう。
III.結果
本研究によって明らかになったことは以下の 2 つである。1我々が仮説とした「イニエスタ選手の獲得が順位に正の影響を与える」は支持されなかったこと。2仮説は否定されたが、イニエスタ選手の加入が「市場」「普及」に正の影響を与えたこと。 「勝利」に関して、イニエスタ選手は 2018 年途中に加入したが、2016 年から 2021 年までの順位推移は 7 位、9 位、10 位、8 位、14 位、3 位となっている。2021 年に順位は 向上しているが、今回はイニエスタ選手に着目して調査しているため、イニエスタ選手の 加入がチームの「勝利」に正の影響を与えたとは言えないと結論づけられる。次に、「市 場」「普及」に関して回帰分析を行なった結果についてである。まず目的変数を営業収入 とし、説明変数をイニエスタ選手とした時、t=6.43、p-値=0.007 を示した。そして次に、 目的変数を入場者数とし、説明変数をイニエスタ選手とした時、t=4.53、p-値=0.02 を示 した。ここから、イニエスタ選手の獲得は、営業収入・入場者数ともに関係しており、大 きな正の影響を与えていることが分かる。以上のことから、本研究によって、スター選手 の獲得は「勝利」にあたるチーム順位に与える正の影響は小さく、その一方で「市場」「普及」には大きな正の影響を与えることが明らかになった。
IV.考察 本研究では、スター選手の加入がトリプルミッションモデルにおける「勝利」「市場」「普及」のそれぞれに与える影響を明らかにするものであった。内田ら(2008)は J リー グクラブにおいて、選手賃金によってチーム成績が決定される傾向にあることを示しているが、本研究ではそれ以上に「市場」「普及」に与える影響の方が大きいという結果にな った。この結果になった理由には 2 つ考えられる。1 つ目はデータ分析期間の短さであ る。本研究では 2014 年から 2019 年までの期間でしか検証できておらず、チーム成績にス ター選手加入の効果が十分に反映されなかったと考えられる。実際に内田ら(2008)も短 期間より長期間で成績を見た方が、選手賃金が成績に与える影響度は大きくなるとしてい る。2 つ目の理由は、本研究ではスター選手としてイニエスタ選手ただ 1 人を取り上げた からである。内田ら(2008)はクラブの平均選手年俸を分析対象にしている。サッカーは 11 人で行なうスポーツであり、突出した選手が 1 人いたとしてもチーム成績は中々向上し ないということも本研究から言えるのではないかと考えられる。このようにサッカーは他 の選手のコンディション状況や、監督のマネジメント力などの数値化できない要素が数多 く存在しており、たった 1 人の選手の力だけではチーム成績に大きな影響は与えられない ことが考えられる。本研究ではイニエスタ選手が在籍中に調査が終わってしまったため、 イニエスタ選手の退団後といった長期的にチームに与える効果・影響について更なる調査 が必要であると考えられる。
V.参考文献 ・平田竹男、佐藤峻一、浦嶋亮介、柴田尚樹、梶川裕矢『浦和レッドダイヤモンズの自律 的経営と成長要因』2008 年スポーツ産業学研究第 18 巻 p59-77 ・内田亮、平田竹男『プロスポーツクラブにおける成績と選手賃金(推定年俸)の関係- J リーグクラブにおける分析-』2008 年スポーツ産業学研究第 18 巻 p79-86
・J リーグ HP J リーグ経営情報
https://aboutj.jleague.jp/corporate/management/league/

健康経営を普及させる施策-サービス業に着目して-
同志社大学 スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科 3年 岩名 颯太郎、塩川 満里奈、前川 玲奈

【本文】 I.背景

昨今、労働者不足問題が日本で重要視されている中、国を挙げて働き方改革が推進され ている。しかし、労働生産性の向上を実現するためには働き方を変えるのみならず、全て の従業員が心身ともに健康な状態で活き活きと働くことのできる土台作りにも力を入れな ければならない。従業員一人ひとりの労働生産性を高めることができなければ、労働力人 口の減少とともに GCP(社内総生産)も減少していくばかりである。健康経営を通じて個々 のパフォーマンスを高い状態で維持し、魅力的な企業を作り上げることによって、多くの 求職者が希望する強い企業を作り上げることができると考えられる。このような背景か ら、従業員の健康に配慮することで企業の継続的な成長の実現を目指す手段として、健康 経営が用いられており、様々な企業で導入が進められている。
日本の健康経営をさらに普及させるためには、全人口の 75%が働く第三次産業の企業に 対して健康経営を取り入れる施策を考案することが必要である。(1)しかし、電気・ガ ス・水道・運輸・通信・小売・卸売・飲食・金融・保険・不動産・公務等のサービス業界 においては、他の業界と比べて健康経営の導入はあまり進んでいない。本研究では、日本 で健康経営を促進させるために、普及していないサービス業界において、健康経営を取り 入れる方法を検討する。
II.方法 初めに、経営コンサルティングファームへの聞き取り調査を行う。質問項目は、大きく分けて「健康経営を取り入れた目的」「健康経営を取り入れるメリットとデメリット」の 2つである。そこで、サービス業が健康経営を取りいれる際の課題を明確にし、他サービ ス業者の事例を参考に、今後のサービス業への健康経営の取り入れ方を検討する。
III.結果 健康経営のコンサルティングファームへのインタビュー調査の結果、大手小売業者の健康経営の導入には、大きく2つの目的があることが分かった。1 つ目は、リクルート効果 である。対象企業は健康経営を始めて 1 年目である為、数値として新卒の採用率や採用母 数等のデータは出ていない。リクルート効果は、健康経営の広告を経た認知度の向上や親 世代が子供をホワイト企業に入社を進めることを理由に母数が増加するために、中期から 長期で出るものとされている。そのため、健康経営を始めて 1 年ではその効果は不明であ るが、継続することで効果が見られることを期待している。2 つ目は、投資戦略(ESG 投 資)へのアプローチである。ESG 投資とは、「従来の財務情報だけでなく、環境 (Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資」のこ とを指す。特に、年金基金など大きな資産を長期で運用する機関投資家を中心に、企業経営のサステナビリティを評価するという概念が普及している。オーナーは、この ESG 投 資を利用して、新たな収益創出の機会や外国市場との結び付きを図っている。(2)
さらに、サービス業は肉体的労働が多く、腰痛や怪我、転倒等の労災の可能性が高い。 労災が多いと行政からの調査が行われるが、健康経営の取り組みが労務管理として認証さ れる可能性が高くなるメリットがある。また、人数が少ない中小企業では、生産性が高ま ることよりも福利厚生の一環として社員の満足度を上げることができる。
しかし、健康経営のデメリットとして、健康経営を取り入れることによる総務、人事の 作業負担が増えることや健康経営への投資が企業の財務的な負担になる可能性があり、中 長期的なメリットを見越しての予算配分ができないことが挙げられた。
IV.考察 健康経営コンサルティングファームへの聞き取り調査から、日々の業務がルーティン化されなかったり、勤務時間がシフト制で労働時間が不規則なサービス業においては、従業 員の健康意識を高めさせる広報活動が最も重要であると考えられる。
大手コンビニエンスストア、ローソンでは、食事管理アプリを活用し、日々の活動を記 録して生活リズムを整え、タスク実行のたびに現金として使えるポイントが付与された り、スポーツ大会を実施している。7 つの新幹線コースから 1 つ選択し、目的地に向かっ てチームで56日間歩く「新幹線ウォーキング」も実施しており、結果として全体的に食 事管理アプリの稼働率や平均歩数、スコアが向上した。さらには参加従業員が各自の取り 組みの様子をリアルタイムで投稿できるようにコミュニケーションツールを活用し、海外 や全国各地の従業員同士のモチベーション維持、向上にも繋がった。部活動を発足し、健 康活動を継続する部署も見られたとのことだ。(3)
これらの事例より今後、サービス業で健康経営を取り入れる際は継続的に楽しく参加で きるようなものとして、興味が湧くような計測会であったり、ツーリズムやスポーツイベ ントなどの開催のみならず、従業員同士のコミュニケーションを根本から深める取り組み を模索することが今後の課題である。
<参考文献>
(1)経済省統計局 III 変化する産業・職業構造 2005 年 国勢調査 https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2005/sokuhou/03.html
(2)経済産業省 ESG 投資 https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/esg_investment.htm l
(3)ローソングループ 健康白書 2021
210618_lawson_kenkohakusho_a4_dataol

格闘技のビジネスモデルと将来性
同志社大学 スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科 3年 今野 隼輔、加藤 充流、佐藤 主宜、森内 春葉

【本文】
1.背景
現在、日本のプロスポーツは野球1)や J リーグ2)、B リーグ3)などのスポーツはビジネス モデルが研究され、先行研究も多々存在する。しかし、格闘技、中でもプロレスは 1854 年 に最初の興行が行われたという歴史がある4)にも関わらず、ビジネスモデル5)が研究され ていない。そのため、150 年以上の歴史をもつプロレスのビジネスモデルを明らかにするこ とでスポーツビジネスにも貢献できるのではないかと考えた。そこで、世界でもっとも大き な売上を誇る「WWE」と日本の「新日本プロレス」の 2 団体のビジネスモデルを比較し、 明らかにすることで、今後の格闘技界の発展、そしてスポーツビジネスの発展につながるの ではないかと考えた。
2.目的
本研究の目的は2つある。1 つ目は、プロレス団体である WWE と新日本プロレスを比較 し、ビジネスモデルの違いを明らかにすることである。2 つ目は、その違いをもとに格闘技 全体における理想のビジネスモデルはどのようなものであるかを考察し、今後のスポーツ ビジネスに与える価値を検討することである。
3.方法
世界で最も大きな売上を誇るプロレス団体である WWE と日本で最も大きな売上を誇るプ ロレス団体である新日本プロレスの収入源の内訳とステークホルダーとの関係を調査し、 それを図示する。具体的には以下の4つの収入源と、ステークホルダーとの関係について調 査する。
収入源内訳:1チケット収入 2グッズ収入 3デジタル関連収入(PPV,YouTube)4ライセンス収入
ステークホルダー:選手や団体、顧客などのとの関係を調査する。
4.結果 本研究より次のことが明らかになった。1収入源内訳について新日本プロレスと WWE を 比較した際、最も顕著だったのがデジタル関連における売上比率の差である。新日本プロレ スの総売上におけるデジタル関連の割合が約 12%であるのに対し、WWE のデジタル関連 の割合は約 65%であることがわかった。また、チケット収入とグッズ販売を合計した割合 は新日本プロレスが約 75%であるのに対し、WWE は約 25%であった。6)また、新日本プ ロレスは PPV 収入(放映権料)が約5憶円、YouTube 登録者数 45.8 万、視聴総回数 2.88 平均視聴回数 2.34 万、推定月収 55.73 万―176.5 万7)であるのに対し、WWE は PPV 収 入(放映権料)480 憶円、YouTube 登録者数 8320 万、視聴総回数 639.12 億、平均視聴回数 10.97 万、推定月収 1.28 億円―3.95 億円、動画数 5.77 万8)という結果が出た。2ステ ークホルダーに関しては、新日本プロレスと WWE どちらも興行収入とファイトマネーを 団体が一括管理する方式をとっている。選手にはそこから給料という形で支払われる。個人 としては、スポンサー収入、テレビ出演料などを得ることができる。現状、両団体の収益に は大きな差があるため、給料にも大きな差が出ている。しかし、両団体ともにビジネスモデ ルに関して大きな差はみられなかった。
5.考察
結果より、新日本プロレスと WWE では同じビジネスモデルであり、運営会社が試合の興 行を開催することで放映権料やチケット収入、PPV といった収益を企業や顧客から確保し ていることがわかった。これらの調査から PPV やサブスクリプションを積極的に導入す ることが理想的であり、これから先団体を継続させていくうえでの軸として確立するべき だと考える。また、新日本プロレスに関しては、チケット収入、グッズ収入において WWE よりも高い割合を示しているため、そういった強みに関して継続して利益を上げる ことも大切だと考える。ステークホルダーに関しては、WWE や新日本プロレスという一 つの会社の社員として、選手に給与が支払われる形態をとっている。そのため、選手個人 の活躍がそのまま給与に反映されるわけではなく、世間からの人気や団体からの信頼がな ければ 1 人のプロレスラーとして報酬を多く得ることができない仕組みなのではないかと 考える。その点、YouTube などは選手各個人が動画を配信し収益を上げられるようになる こと、選手の知名度向上による興行成績の向上が期待されると考えられる。 6.参考文献
1)福田 拓哉「我が国のプロ野球におけるマネジメントの特徴とその成立要因の研究」 2011 年 3 月 be49_6_fukuda.pdf
2)萩谷 宏樹「Jリーグとの比較から考える日本プロ野球のビジネスモデルの問題点」 2014 年 129.pdf (u-hyogo.ac.jp)
3)「男子プロバスケットボール BLEAGUE が考える競技人口・ファン拡大について」 2015 年 11 月 6 日 000401429.pdf (soumu.go.jp)
4)「日本プロレス全史:1854 年~2013 年の闘いの記録」2014.6 ベースボールマガジ ン社
5)アレックス・オスターワルダー&イヴ・ピニュール 著 小山龍介 訳 「ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書」翔泳社, 2012,p14 6)収益分布とみる WWE と新日本プロレスの COVID-19 の対策とその違い。 https://www.pwanalysis.com/entry/2020/03/26/120000
7)WWE YouTube チャンネルアナリティクスとレポート https://jp.noxinfluencer.com/youtube/channel/UCJ5v_MCY6GNUBTO8-D3XoAg 8)新日本プロレスリング株式会社チャンネルアナリティクスとレポート https://jp.noxinfluencer.com/youtube/channel/UCWHkw0DdTCtbMpzeUkqtGRA

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