日本スポーツ産業学会第31回大会 一般研究発表(5-1~6-3)

兼用スタジアムからサッカー専用スタジアムリニューアル時の観戦者心理・態度の変化: スタジアムと関与からみた知覚経験,満足,チーム ID,再観戦意図,ロイヤルティ ∗

発表者:山本 達三 (びわこ成蹊スポーツ大学∗∗∗) †
吉倉 秀和 (∗∗∗) ‡ 細谷 圭吾 (Oncampus London) § 八畑 汰介 ¶
安部 洋一郎 (バディ企画研究所) ∥ 菅 文彦 (大阪成蹊大学) ∗∗ 大河 正明 (∗∗∗)††
∗ Changes in spectator psychology and attitudes at the time of the renewal of a soccer-specific stadium from a dual-use stadium:Perceived experience, satisfaction, team ID, revisit intention, and loyalty from the perspective of stadium types and consumer inchangesolvement
† Tatsuzo YAMAMOTO (Biwako Seikei Sport College∗∗∗)
‡ Hidekazu YOSHIKURA(∗∗∗)
§ Keigo HOSOYA (Oncampus London)
¶ Tasuke YAHATA
∥ Yoichiro ABE (Buddy Planning Institute Co.)
∗∗ Fumihiko KAN (Osaka Seikei University)
†† Masaaki OKAWA (∗∗∗)
キーワード:PCM(心理的連続モデル),一般線形モデル,主効果,交互作用効果,バーギング

1. 緒言
スタジアム・アリーナは,スタジアム内外での経済効果や雇用創出効果などが期待されている(スタジアム・アリーナ改革指針, 2016). その主眼は,兼用スタジアムと比較して専用スタジアムは,「ピッチと観客席の距離が近い」,「観客が臨場感を得やすい」,などから「スタジアム雰囲気がスポーツビジネス の成功要因となるだけでなく,スポーツイベントの価値向上や観客の観戦意図につながる」(Uhrich and Benkenstein, 2010) からである.しかしながら,陸上競技兼用スタジアム(以下「兼用スタジアム」)からサッカー専用スタジアム (以下「専用スタジアム」) への移行に伴い,観戦者の知覚経験,満足,チーム ID,再観戦意図,行動的ロイヤルティなどが時間経過とともに実際にどのように変化しているのかはよくわかっていない.Edensor(2013) によれば,スタジアムのリニューアル直後は,観客がそれまでの旧スタジアムで長年体験した心理状態や経験を新スタジアムではすぐに得られるようにはならないこと が指摘されている.例えば,知覚経験(視覚経験・聴覚経験など)は即座に向上するのかもしれないが, サービス満足,チーム ID,再観戦意図などは旧スタジアムと同様のレベルになるのに時間を要する可能性も考えられる.また,新スタジアムでのチームの失敗やクラブマネジメントが新スタジアムのプラスの 効果を相殺してしまうことも可能性としては考えられる.
そこで本報告では,J リーグに所属する同チームの兼用スタジアムから専用スタジアムへのリニューア
ル時の観戦者の知覚経験,満足,チームID,再観戦意図,行動的ロイヤルティの 3 時点間の変化を,スタジアムタイプと関与ステージ(Funk and James, 2001)の 2 要因を固定因子として比較し,各心理変数や態度変数,行動変数がどのように変化しているのかを明らかにすることを目的とする.

2. 研究方法
【調査概要および調査項目】
(1) 調査対象者:関西圏に本拠地を置くJ クラブの陸上競技兼用スタジアムからサッカー専用スタジアムへのリニューアルに伴う,ホームゲーム観戦者.(2) 調査実施日:2019 年 11 月 16 日,2020 年 11 月11 日.2021 年 11 月 14 日.(3) 調査方法:スタジアムで Google フォームを用いたアンケート調査を実施した.兼用スタジアムでは欠損データを除く有効回答 280 票を,専用スタジアム 1 年目では有効回答 183 票を,専用スタジアム 2 年目では有効回答 248 票を分析に使用した.(4) 調査内容:基本属性 6 項目,知覚経験 (小木曽ら,2019),消費者関与 (Funk and James, 2001) ,サービス満足 (Yoshida and James, 2010) ,チーム ID (態度的ロイヤルティ: 久保田, 2010) ,行動的ロイヤルティ (出口ら, 2018)
,再観戦意図 (Park et al., 2016).(5) 分析方法:兼用スタジアムと専用スタジアム 1 年目,専用スタジアム 2 年目の 3 時点の調査データに対して,スタジアムタイプと消費者関与ステージ(快楽性,中心性, 記号性の合成変数を 4.5,5.75 を閾値として,Low スコア,Medium スコア,High スコアの組み合わせ により認知: Awareness, 魅力: Attraction, 愛着: Attachment, 忠誠: Allegiance の4ステージへ分類する Funk らの PCM 理論を用いた)の2要因を固定因子とし,スタジアムタイプの主効果,関与水準の主効果,両者の交互作用効果,さらに効果量 (η2) の算出をおこなった.

3. 結果・考察
陸上競技兼用スタジアム,サッカー専用スタジアム 1 年目,サッカー専用スタジアム 2 年目のデータに対して,スタジアムタイプと関与水準の2要因を固定因子として,知覚経験,サービス満足,チームID,再観戦意図,行動的ロイヤルティの2要因分散分析を行なった.知覚経験はスタジアムタイプ(効果 量中)と関与水準(効果量大)の主効果が有意,サービス満足はスタジアムタイプ×関与水準の交互作用
(効果量小)が有意,チーム ID は関与水準(効果量大)の主効果が有意,再観戦意図はスタジアムタイプ
(効果量小)と関与水準(効果量大)が有意,行動的ロイヤルティはスタジアムタイプ×関与水準の交互 作用 (効果量小) が有意であった.それぞれの従属変数に関するスタジアムタイプの主効果,関与水準の主効果,両者の複合効果を示したのが表の下段である.昨年の 2 点間での報告では,専用スタジアムの主効果,また関与水準の主効果が従属変数への強い効果を与えていたが,スタジアムタイプと関与水準の交互作用は認められなかった.今回の 3 時点の結果報告によると,サービス満足と行動的ロイヤルティで, スタジアムタイプと関与水準の複合効果(交互作用効果)が確認された.ここでは図示しないが,表上段の平均値と標準偏差をプロットしていくと,スタジアムタイプ要因と関与水準要因それぞれが従属変数へ与える効果,もしくは両者の複合効果のしくみを視覚化することができる.
兼用スタジアムから専用スタジアムにリニューアルされて,どの関与水準に所属する人でも一律に効果が高まるのは,知覚経験だけであるようだ.ただし,兼用スタジアムから専用スタジアムへの変化にした がい,低関与者に該当する認知ステージの高まりと,高関与者に該当する忠誠ステージが高い傾向があ る.一方,中関与者に該当する魅力・愛着ステージの観戦者の反応は鈍い傾向が認められた.また,専用スタジアム 1 年目と 2 年目の変化も鈍くなる傾向が認められた.傾きに変化が認められず一定の向上が認められたのは魅力ステージであった.次に特徴的であったがチームID である.スタジアムタイプの主効果が認められず,関与水準間でのみ強い効果が認められた.これらの傾向は,兼用スタジアムから専用 スタジアムにリニューアルしても,チームID は高まらないことを示唆している.再観戦意図を高めようと,スタジアムを改修し,先行条件の一つであるチームID の強い効果を期待するクラブや自治体もあるかもしれないが,そう簡単にはいかない可能性も示唆される.次に再観戦意図について見てみると,交互 作用は認められず,スタジアムタイプ(効果量小)と関与水準(効果量大)の主効果が確認できた.やはりスタジアムタイプの効果よりも,関与水準の効果が大きいようである.さらに,気になるのは専用スタジアム 1 年目と 2 年目の間に有意な差が見られないことである.特に認知ステージにおいては,専用スタジアム 2 年目の効果が低まる傾向が認められる.こうした低い関与水準の認知ステージや,魅力ステージの観戦者の心理効果が専用スタジアム 2 年目で低まる傾向は,サービス満足や行動的ロイヤルティにも共通して認められる.いずれもスタジアムタイプと関与水準の複合効果が確認された変数である.共 通した傾向としては,コロナに関係なく高関与水準の忠誠ステージの観戦者のサービス満足や行動的ロイ ヤルティへの効果は有意に高まっているが,認知・魅力・愛着ステージの観戦者のサービス満足・行動的ロイヤルティの効果は専用スタジアム 1 年目よりも 2 年目に低水準方向へ低まっていることである.特に昨年は J1 へ昇格が実現した年でもあり,にわかファンである認知・魅力ステージの観戦者がスタジアムに一時的に増える「バーギング」現象がみられ,コロナ禍のなかで,入れ替わり立ち代わりスタジアムに訪れた層が行動的ロイヤルティやサービス満足,再観戦意図を引き下げた方向で作用した可能性も考えられる.引き続き,脱コロナ禍まで,継続的にリニューアル後の観戦者動向を観察していきたい.

参考文献
1) Edensor,T.(2015).Producing atmospheres at the match: Fan cultures,commercialisation and mood management in English football.Emotion,Space and Society,15,pp.82-89.
2) Funk,D.C., and James,J.D. (2001). The Psychological Continuum Model: A conceptual framework for under- standing an individual’s psychological connection to sport.Aport Management Review, 4, pp.119-150.
3) Uhrich,S.,and Benkenstein,M. (2010). Sport Stadium Atmosphere: Formative and Reflective Indicators for Operationalizing the Construct.Journal of Sport Management,24,pp.211-237.


D33Q-♙ 日本語版の開発1
石川勝彦(大阪大学)*,幸野邦男(山梨学院大学)**,束原文郎(京都先端科学大学)***,上田滋夢
(追手門学院大学)****,萩原悟一(九州産業大学)*****,江原謙介(阪南大学)****** キーワード:学生アスリート,デュアル・キャリア・コンピテンシー
1 Witle: Developing Japane›e ver›ion of D33Q-♙
*I›hikawa Kat›uhiko, O›aka Univer›ity, **Kono Kunio, wamana›higakuin Univer›ity, ***W›ukahara Fumio, Kyoto Univer›ity of ♙dvanced Science, ****Ueda Jim, Otemon *akuin Univer›ity, *****Hagiwara
*oichi, Kyu›hu Sangyo Univer›ity, Ehara Ken›uke, Hannan Univer›ity
Keyword›: ›tudent athlete›, dual career competency

初めに
本研究はアスリートのデュアル・キャリア・コンピテンシーを包括的に捉え,その個人差を測定することを目指した D33Q-♙(Dual 3areer 3ompetency for ♙thlete›:De Brandt et al., 018)の日本語版を開発することを目的とする。
アスリートの引退後の生活と競技生活の接続を成功させるための要因について,エリートスポーツからの引退の場面を見てみると,オリンピアンの 5 年後の職業威信を条件づけているのは学歴,引退時の経済力,そして「アスリート就職・雇用の現況・政策動向を理解する能力」であった(Robnik et al., 0 )。世界ランカーのキャリア・トランジションの満足度を左右する要因は「計画的に引退すること」であった
(Küttel et al., 2016)。加えて,D33 をサポートするプログラムがアスリートにキャリアだけでなく心理社会的な側面な望ましい影響を与えうることも示されつつある(e.g. ♙quilina, 013)。そんな中,10 代の学生アスリートにキャリア・トランジションを果たす上での障壁を尋ねてみると,疲労,心理的ディストレス,経済状況,キャリア・トランジションに対する困難感,学業と競技の両立は望ましくないとする心情などの心理的要因に加え,指導者との人間関係,サポート・プロバイダーの不在などの社会的要因が表明されている(Flore›, 0 1)。若年アスリートのデュアル・キャリア形成には未だ多様な障壁が立ちはだかっていることが見えてきている。D33Q-♙(De Brandt et al, 018)はこのような厳しい現況を突破するコンピテンシーの要素のリストを包括的に取り出すことを目的に開発されている。特に,デュアル・キャリア・サポートの専門家がほとんど存在しない我が国において,学生アスリートが自己の将来へのトランジションを果たす上で,どのようなコンピテンシーを備えるべきかを多様なステークホルダーが知ることは重要である。本研究では D33Q-♙ の日本語版を開発することを目的とする。

方法
回答者 最終的に 90 人の現役学生アスリートからの回答を分析に利用した男性:M=19.5,SD=1.0; 女性:M=19.V,SD=1.0)。大学の授業中に回答 URL を示し,回答の自由及び個人情報の取り扱い,回答をもって調査に同意したとみなされる旨を説明した。

項目 ①D33Q-♙ (De Brandt et al., 018):デュアル・キャリア・コンピテンシーを測定する尺度。第一著者が日本語版を作成,第2著者がバックトランスレーションを担当した。日本語版は D33Q-♙-J と略記する。②自己成長主導性尺度:回答者が自律的に行動を起こしていく程度を測定する尺度(P*IS-Ⅱ: 徳吉・岩崎, 014)。③キャリア選択自己効力感尺度:キャリア選択に関する自己効力感の個人差を測定する尺度(33SES:花井ら, 014)。

結果と考察
原尺度(De Brandt et al., 018)の4因子構造の本データへのフィットを確認したところ適合度は不良だった(3FI=.880, WLI=.868, SRMR=.049, RMSE♙=.06 [.056, 0.068])。そこで探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行い,因子負荷量に基づく項目削除を繰り返したところ, 3 項目 4 因子構造で 解 釈 可 能 か つ 許 容 可 能 な 適 合 度 が 得 ら れ た (3FI=.961, RMSE♙=.046, deviation=.936, χ (df=16V)= 60.0 , p<.000)。第1因子の項目は、他者と良好な関係を築き、必要なときに学業とスポーツの両面において必要な心理的・道具的支援を探索する能力を反映していた。第1因子は、建設的な対人関係という能力因子としてラベル付けされた。第2因子は、困難や挫折を乗り越え、それを柔軟かつ建設的に成長の糧とするアスリートのコンピテンシーで、レジリエンスと命名した。第3因子は、アスリートが将来のビジョンを持ち、学業やスポーツの面で具体的な目標を設定するコンピテンシーを反映した項目である。第3因子は、キャリア・ビジョンと命名された。第4因子は、日常生活や自己、感情を安全で持続可能なものとして維持するために必要なアスリートのマネジメント能力を構成していた。第 4 因子は、セルフ・マネジメントと名づけられた。自己成長主導性尺度(P*IS-Ⅱ:徳吉・岩崎, 014)及びキャリア選択自己効力感尺度(33SES:花井ら, 014)とそれぞれ十分な相関関係が示されたことから
(表 1),D33Q-♙-J は一定の収束的妥当性を有するといえる。
原尺度との因子構造の違いを質的に観察してみると,D33Q-♙-J の「建設的な人間関係」「レジリエンス」は概ね原尺度の「社会的な知性と適応」「情動の知覚」と対応した。他方「キャリア・ビジョン」「セルフ・マネジメント」は対応する因子を持たなかった。回答者の年齢構成が大きく異なっていることが原因の一つ考えられる。
興味深いのは,デュアル・キャリア支援のシステムが整っているヨーロッパにおいても,アスリートが自ら支援者を生み出す能力である「社会的な知性と適応」が重視されていること,そして支援制度が未整備な我が国においても対応する因子である「建設的な人間関係」が析出されたことである。このことは支援制度が整っているかどうかに関わらず,アスリートが「支援者を生み出すこと」は,競技・学業・キャリアの両立において不可欠の能力であることを示唆している。


スポーツイベントプロデューサーの資質・能力についての研究
―女子プロゴルフトーナメントを事例として―
発表者: 田島幸雄(株式会社博報堂)
共同研究者: 髙橋義雄(筑波大学体育系准教授)
キーワード: スポーツイベント,プロデューサー,人材,ゴルフ
 ♙ ›tudy on the individual qualitie› and abilitie› of ›port› event producer›: ♙ ca›e
›tudy of women’› profe››ional golf tournament
 W♙JIM♙ wukio: Hakuhodo Incorporated
 W♙K♙H♙SHI wo›hio: Univer›ity of W›ukuba, Faculty of Health and Sport Science Keyword›: Sport› event, Producer, Human re›ource, *olf

【緒言】
スポーツ庁が掲げるスポーツの成長産業化には,オリンピックをはじめとするメガスポーツイベントだけでなく,小規模のスポーツイベントなど,あらゆるスポーツイベントを企画・運営する ことができるスポーツイベントプロデューサーの育成が必須である.そこで,スポーツイベントプロデューサーの育成のために,スポーツイベントプロデューサーがどのような資質,能力をもっ ているのかを明らかにしていくことは重要であると考えられた.本研究では,女子プロゴルフトーナメントのスポーツイベントのプロデューサーにインタビュー調査し,得られたデータから資 質,能力と推察されるものを抽出することを目的とした.

【対象と方法】
最初にスポーツイベント関連の現場で活躍されているスポーツイベントプロデューサーに予備調査を実施し,担当競技毎にスポーツイベントプロデューサーの特徴などをヒアリングし,ど の競技に着目すべきなのかを検討した.対象は広告代理店のスポーツイベント関連担当 4 名(A 氏,B 氏,C 氏,D 氏).予備調査の結果,プロデューサーの資質,能力を検討するには, 多くのステークホルダーの中心にいて幅広い知識,人脈等を必要とするプロゴルフトーナメントのプロデューサーが適切ではないか,という示唆を得られた.加えてプロゴルフツアーの現 状について調べて,試合数,賞金額が増加している女子プロゴルフツアーの大会プロデューサーを対象とした.
多標本をサンプルとして量的研究のアプローチではなく,得られたデータをカテゴリー化し て構造化することに適した質的研究のアプローチを採用した.JLPGA(一般社団法人日本女子プロゴルフ協会)ツアーの大会プロデューサーの内,9 名に対して半構造化インタビューを行った.対象者は,機縁法により抽出し,競技団体所属 1 名,テレビ局所属 4 名,広告・イベ
ント会社所属 4 名とした.

【分析】
女子プロゴルフツアーの大会プロデューサーを調査対象として,プロデューサーの資質,能力がどのようにものがあるかを分析することとした.調査データのグループ分け,叙述化のプロセスで,新たな発想や仮説を生み出すことができる研究法の KJ 法を採用した.スポーツイベントプロデューサーの資質,能力をインタビューの中から抽出されたもので再構成しカテゴリー化を図った.

【結果と考察】
「プロデューサーに求められる力」「プロデューサーの心理的特徴」「対人関係」「大会運営組織能力」の4つのカテゴリーにわけられ,カテゴリーそれぞれには中カテゴリー,小カテゴリ ーにわけられた.先行研究で示された資質,能力以外に本研究で新たに明らかになったのは,
「探求心・積極的に学ぶ姿勢」,「使命感」,「責任感」,「達成欲」,「自尊心」,「関係構築力」,
「チームビルディング力」,「コミュニケーション力」,「競技会場設営能力」,「リスク管理能力」であった.考察の結果,エンタメ,ビジネス分野のプロデューサーと相似的なものと本研究により 明らかになった資質,能力が見うけられた.

【結論】
本研究の対象者へのインタビューの結果,スポーツイベントプロデューサーの資質,能力は, 間宮ら(2010)が示した,「予測力」,「調整力」,「バランス感覚」,「メディアとの協調体制」,「大会運営組織能力」,「収支計画の作成と財務責任」,「観客動員能力」に加え以下の資質,能 力が明らかになった.「プロデューサーに求められる力」として,「探求心・積極的に自ら学ぶ姿 勢」,「プロデューサーの心理的特徴」として「責任感」,「使命感」,「自尊心」,そして「対人関 係」として「関係構築力」,「チームビルディング力」,「コミュニケーション力」,さらに「大会運営 組織能力」として「観客動員能力」,「リスク管理能力」,「メディアとの協調体制」,「競技会場設 営能力」,「収支計画の作成と財務責任」が示された.なかでも特徴的なのは,「大会運営組織 能力」の一つとしてゴルフにおける競技会場となる「ゴルフ場」並びに競技を行う「ゴルフコース」 をセッティングする「競技会場設営能力」がプロデューサーに必要な能力であると対象者の多 くが語っていた.この能力は,常設のスタジアム・アリーナを競技会場とするスポーツイベントで は必要とされない,と推察される能力である.今後,スポーツイベントプロデューサーの育成に つなげる教育プログラムづくりにむけた示唆を本研究で得られた.

【参考文献】
間宮聰夫・野川春夫;スポーツイベントのマーケティング.市村出版,2010


プロサッカークラブ経営におけるファンの位置づけの変化
~イングランドの事例~*
発表者:西崎 信男(東京国際大学)**
キーワード***:ファンの経営参加、地域社会、重要事項事前相談、クラブ株式取得、サポータートラスト、英国政府のサッカーへの積極的介入
*Fans’ Active Participation Into Management At Professional Football Clubs In England
**NISHIZAKI, Nobuo,:Tokyo International University
***Key words: Fans’ Participation, Communities,Dialogue, Fans’ Share, Supporters Trust, Government Involvement

1. はじめに
2000 年前後に英国に端を発したファン(サポーター)によるクラブ経営に対する参加(サポータートラスト)は欧州全体で、プロ、アマ問わずうねりが大きくなってきているが、英国ではその影響力は中下位のクラブにとどまっていた。そこへ昨年のビッグクラブによるヨーロッパ・スーパー・リーグ構想騒動や、ウクライナ問題に関連してチェルシーFC のロシア人オーナーが制裁逃れでクラブを売りに出す事態等が発生した。その過程でビッグクラブに とって、今まで歯牙にもかけなかったサポータートラスト経由のファンの声が経営に大きく反映される流れとなってきた点が注目される。ファンが単なる顧客(customer)、抗議者
(protester)からクラブ経営に大きな影響を与える利害関係者(stakeholder)になってきた のである。協会(FA)に代わる新たな独立自主規制機関(a new independent regulator)設立の動きもある。サポータートラストの背景・仕組と最近の動向、及び課題をまとめてみたい。

2. 研究の方法:サポータートラストの根拠法の変遷に見る英国政府の地域振興の方針
(IPS 法 1965 からCBS 法 2015 への改正)と近年におけるクラブ経営におけるファンの位置づけの変化を法律、政府指針、支援組織、クラブ HP、サポータートラスト HP、ヒアリング等で裏付ける。

3. サポータートラストの仕組み及び現状
サポータートラストとは、プロサッカーをはじめとするプロ・アマのクラブにおけるク ラブ支援組織(相互組織)及びその民主主義的活動を指す(一人1票)。近年、英国政府はサポータートラストのような相互組織の自立運動(voluntary work)を支援するためにIPS 法 1965 から新法 CBS 法 2015 への改正を行い、「組織会員相互の利益」ではなく、
「地域社会の利益」のために存在する組織と再定義して、運動を推進している。
サポータートラスト(相互組織)は株式会社ではないため、リーグの規制でクラブとトラストの中間組織(株式会社)をはさみ、その組織がクラブの株式を持つスキームをとっている(先進的な AFC Wimbledon の事例)。一般的には、クラブ経営者がクラブ株式をサポータートラストに譲渡する事例は稀有で、トラストのクラブ経営に対する影響力は特にビッグクラブでは限定的であった。(ただしクラブは株式会社であり、英国会社法 の規定で経営内容開示は進んでいる)

4. ヨーロッパ・スーパー・リーグ騒動とチェルシーFC 競売問題
2021 年春、欧州のビッグクラブによるヨーロッパ・スーパー・リーグ創設の動きに対して、欧州のファンが一斉に反発、ファンの利益を損なう動きと反対運動盛り上がった。その運動に影響を受けて、マンチェスター・ユナイテッドの CEO が辞任する、クラブ株式をファンに譲渡する意向と発表した。衝撃的な内容であった。
それに加えて、2022 年2月ウクライナ侵攻に関連して、チェルシーのロシア人オーナーが英国政府からの制裁を逃れるために、全額出資のチェルシーを売却するとの発表を行った。これに対して、英国政府、英国サッカー協会(FA)、リーグ、クラブからサポータートラスト経由、ファンの意向をヒアリングする動きがでた。ビッグクラブはファンの意向を聞くことはないと思われていたので、象徴的であった。
5. 英国におけるサッカーと英国政府の考え方・動きまとめ
(1)国民の自立運動を支援(市場の効率性を重視しつつ政府による公正の確保)
1965 IPS 法:相互組織を支援
2014 CBS 法:相互組織の目的を会員相互の利益から地域の利益が唯一の目的へ
(2)政府のサッカー(the national sport)のガバナンス強化への取り組み
All Party Parliamentary Group for Football Supporters(AAPG)(議会における政党横断的自主組織)2015
Fan Led Review Of Football Governance(FLROFG)創設 2021/11
・イングランドのサッカーへの独立規制組織の創設(Independent Regulator for English Football):クラブ財政規律の維持、オーナーの資格チェック
・サッカークラブは地域コミュニティの重要な存在、ガバナンス強化
・ファンに対してクラブの重要事項について事前相談必要(“黄金株”をファン組織へ) Queen’s Speech 2022/5/10
・サッカークラブは地域コミュニティーにおける重要な存在、クラブ資産維持必要
(3)個別クラブ(マンチェスター・ユナイテッド)での取り組み事例
・ファンとクラブ経営トップとの定期的意見交換(dialogue)(Fans’ Forum)
・クラブ株式をサポーター・トラストに譲渡意向(議決権種類株式)
6.チェルシーFC の売却
Todd Boehly グループが落札した。最終候補者は全員米国のスポーツビジネス所有者で、イングランドサッカーの米国ビジネス化が鮮明となった。
課題:
サッカーが地域振興の重要な存在であり、ファンが重要なステークホルダーと認識され、政府、協会、リーグ、クラブで体制整備が進んでいる。その中で、プロサッカーが巨大ビジネス化しており(チェルシー等)、所有者が地域振興と利益のバランスをどうとるか、ファンのクラブ株式取得をどう進めるのか、政府等の規制、支援が課題である。

(参考文献)
西崎信男(2020)「英国プロサッカークラブのサポータートラストの法的位置づけ明確化に見る『地域振興』」日本経営診断学会第 53 回全国大会予稿
西崎信男(2021)「スポーツファイナンス入門~プロ野球とプロサッカーの経営学~」税務経理協会、pp.110-121
HP:Queen’s Speech ’22,Manchester United Supporters Trust,Chelsea Supporters Trust 他


日本の高等学校における e スポーツ活動の実態、および e スポーツ部設立の課題と解決策の検討*
発表者: 清野 隼 (筑波大学体育系/スマートウエルネスシティ政策開発研究センター)**
共同研究者:坪山 義明(北米教育 e スポーツ連盟日本本部)*** 内藤 裕志(北米教育 e スポーツ連盟日本本部)****
高橋 義雄(筑波大学体育系/スマートウエルネスシティ政策開発研究センター)*****
キーワード:e スポーツ部活動、web 調査、フォーカスグループインタビュー
* The Actual State of e-Sports Activities in Japanese High Schools and Challenges in Establishing e-Sports Clubs
** SEINO Jun : Faculty of Health and Sport Sciences, R&D Center for Smart Wellness City Policies, University of Tsukuba
*** TSUBOYAMA Yoshiaki : North America Scholastic Esports Federation JAPAN
**** NAITO Hiroyuki : North America Scholastic Esports Federation JAPAN
***** TAKAHASHI Yoshio : Faculty of Health and Sport Sciences, R&D Center for Smart
Wellness City Policies, University of Tsukuba Key word : e-Sports Club Activities, Web Survey, Focus Group Interviews

1.諸言
小孫(2021)が行った教職を志望する大学生を対象とした調査によれば、e スポーツを学校に導入することへの賛成が 135 名(50.2%)、反対が 134 名(49.8%)と大きく二分された。一方で、高校では、e スポーツ部や同好会、パソコン部などでの課外活動が広がりをみせている。茨城県の公立高校で初の e スポーツ競技部が創部された大洗高校では、生徒の発案をうけた校長が「部活は学校に来たくなる要素の一つ」として e スポーツ部を提案したところ、教員の一人は学校教育においてゲームをすることに抵抗 があると反対し、公費でのゲームソフト購入などに強い抵抗感を持つ教員がいること がメディアで報じられた(田蓑,2021,p.6;越田,2019)。それに対して生徒は、「学業を優先し学業成績の維持向上に努める」、「学校の校則に従い高校生としての本分に 従って活動する」、「体力の向上や健康に留意して活動する」という 3 つの活動方針を掲げて活動の認可を訴えている(茨城県教育委員会,2019)。ほかにも高力・橋本(2019)は、愛知県立城北つばさ高校の「eスポーツ部」では「学校に興味を持っていなかった子も居場所ができた」との教頭の話を紹介している。
以上のように、e スポーツ部には期待と課題がある捉えられるものの、そもそもの活動実態や e スポーツ部の設立に向けた課題を把握することができていない。そこで本研究は、日本の高等学校における e スポーツ活動の実態と、e スポーツ部を設立するための課題を明らかにし、その解決策を検討することを目的とした。
2.方法
本調査は、web 調査(研究1)とフォーカスグループインタビュー(研究 2)の 2 つの研究から構成された。
(研究 1)
対象者の抽出条件は、北米教育 e スポーツ連盟日本本部に加盟する 319 校の顧問教員とした。調査方法は、web 調査を採用し、2022 年 5 月 9 日から 5 月 18 日までを期間とした。調査項目は、学校の基本的情報、学校部活動の基本的情報、e スポーツ部または e スポーツ愛好会の活動実態、e スポーツ部または e スポーツ愛好会の指導者の実態、そして部や愛好会の設立に向けた課題と課題解決方法で構成した。回収数は 103 校(32.3%)であり、回答に不備があったデータを統合し、最終的な有効回答数は 84
(26.3%)となった。得られたデータは、有意水準を 5%未満として解析を行った。
(研究 2)
研究 1 で得られた結果より、e スポーツ部設立に向けた課題解決策を検討するために、インタビューガイドを設計し、web 調査に回答した対象者の中から同意を得られた顧問教員に対して、フォーカスグループインタビューを実施した。得られたデータ は、「e スポーツ部設立に向けた課題解決策とは」をリサーチクエスチョンに据え、KJ 法にて解析を行った。
3.結果
e スポーツ部(または同好会)設置に向けて課題であったことは、全日制学校かそれ以外かによって異なることが示され、特に「顧問教員の不足」は、全日制学校が 35.3%、それ以外が 8.3%(p=0.018)、「同僚教員の反対」は、全日制が 20.6%、それ以外が 0%
(p=0.017)であり、それぞれに関連も示された(V=0.317,V=0.316)。また、課題の実態や解決策について、自由記述で回答を得たところ、「コロナ前の教職員による反対が、コロナ過によって、意見が 180 度変わった」、「企業と連携し、その企業からの紹介で指導者を派遣していただいた」といった回答事例が得られた。一方で、「未だ課題は解 決されず、解決に向けて模索中」という回答も多く得られた。さらに、競技レベル(国際大会、全国大会、地方ブロック大会、都道府県大会)を規定する要因を分析したところ、土曜授業日の活動時間と部活動(または同好会)としての指導方針の有無によって異なることが明らかとなり(p=0.035,p=0.006)、年間費用額(学校からの部費・助成、生徒の個人負担)も関連があることが示された(V=0.310,V=0.464)。
これらの研究 1 の結果を踏まえて、研究 2 のインタビューを実施した結果は、現在分析中である。
4.考察
研究 1 の結果のみではあるが、e スポーツ部設立に向けた課題は、学校タイプや学校規模によって異なり、競技性を伴うには活動時間や指導方針の有無、年間費用額も関連するものと考えられる。これらの課題を解決する、またはすでに解決した顧問教員 はどのように実現したのか、研究 2 の結果を踏まえて発表までに考察し、結論付ける。引用文献
小孫康平(2021)eスポーツを学校に導入する際の課題と情報モラル教育.AI 時代の教育論文誌,第4巻, pp.13-18.他


大学スポーツのメディア観戦における聴覚的刺激が視聴者のチームアイデンティフィケーションに及ぼす影響
―実況と解説の有無に着目して―
発 表 者: 棟田 雅也(鹿屋体育大学スポーツ人文・応用社会科学系)共同研究者: 北村 尚浩(鹿屋体育大学スポーツ人文・応用社会科学系)
川前 真一(鹿屋体育大学スポーツアドミニストレーター)松木 圭介(株式会社南日本放送)
キーワード: メディア視聴者 実況と解説 大学スポーツ チーム ID
 The Effect of ♙uditory Stimulation on Team Identification of College Sport Media Spectators: Focusing on the Presence or ♙bsence of Live Commentary
 Masaya Muneda: Department of Sports Humanities and ♙pplied Social Science, National Institute of Fitness and Sports in Kanoya
 Takahiro Kitamura: Department of Sports Humanities and ♙pplied Social Science, National Institute of Fitness and Sports in Kanoya
 Shinichi Kawamae: Sport ♙dministrator, National Institute of Fitness and Sports in Kanoya
 Keisuke Matsuki: Minaminihon Broadcasting Co., Ltd.
Key word: Media spectator, Live commentary, College sport, Team identification

【はじめ➴】
近年✰情報通信技術(ICT)は、パソコンやスマートフォンなどを普及させ、観戦型スポーツ
✰産業➴も大きな役割を担っている。これ➴よりメディア観戦市場は急速➴拡大し、スポーツ観戦方法✰選択肢が多様➴なった(徳山・出口, 2021)。一方で、メディア観戦と直接観戦
✰違い✰ 1 つとして実況や解説を聞きながら観戦できること➴あると考えられる。しかしながら、これまでメディア観戦➴おける実況と解説✰効果を検証した研究は見当たらない。
スポーツ観戦行動➴おいて重要な概念として研究✰蓄積がなされてきたチームアイデンティフィケーション(以下、「チーム ID」と略す)は、社会心理学➴おける社会的アイデンティティ理論を背景とした概念である(出口他, 2017)。チーム ID を用いたスポーツマーケティング研究✰多くはプロスポーツ➴おける直接観戦者➴焦点が当てられ、スポーツ消費✰様々 な行動意図と✰関係性があることを明らか➴している(e.g., Matsuoka et al., 2003; Yoshida et al., 2015)。これら✰研究➴加えて、大学スポーツ✰コンテクスト➴チーム ID を取り入れた研究では、学生✰社会心理的健康(Wann et al., 2008)や大学 ID(Kats and Heere, 2016) など➴ポジティブな影響を及ぼすことも分かっている。ICT ✰革新や COVID-19 ➴よるメディア視聴者が増加していることから、大学スポーツ✰メディア観戦➴おいてもチーム ID ✰ 概念を援用した議論を進めることで、今後✰大学スポーツチーム✰ファン拡大➴貢献できると考えられる。そこで本研究✰目的は、大学スポーツ✰メディア視聴者✰チーム ID が実況と解説✰有無➴よって、ど✰よう➴異なる✰か➴ついて明らか➴することとする。

【研究方法】
1.実験対象者
実験対象者は、2021 年 9 月 26 日(日)➴行われた硬式野球部✰試合を直接観戦、もしくはYOUTUBE ✰ LIVE 配信を中継視聴していないA 大学➴所属する115 名✰大学生とした。

2.実験方法
実験方法として、まず初めに、性別、学年、部活動、そしてスポーツ経験などの基本的属性を回答してもらうスクリーニング調査を実施し、録画された試合の解説がある動画を視聴する「解説有群」と解説が無い試合を視聴する「解説無群」の 2 群に分類を行った。スクリーニングの実施によって、解説有群が 58 名、解説無群が 57 名となった。これら 2 群の実験対象者に対して試合動画の視聴前後にインターネット調査を実施することとした。
3.調査項目
調査項目は、基本的属性(性別、学年、部活動、スポーツ経験など)および菅他(2018) のチーム ID 尺度 6 因子 24 項目の中で大学スポーツに適さないと判断された 1 項目を除外した大学スポーツチーム ID 尺度 6 因子 23 項目を用いることとした。

【結果・考察】
まず、解説有群および解説無群の独立性を検証するために基本的属性(性別、学年、部活動)においてχ²検定を実施した結果、各項目に有意差が認められなかった(χ²性別=.004, n.s.; χ²学年=.391, n.s.; χ²部活動=1.203, n.s.)。よって、両群に偏りがないことが明らかとなった。次に、大学スポーツチーム ID 尺度の信頼性および妥当性の検証において確認的因子分析を行った結 果、 収束 的 妥 当性(視聴前/ 後 : λ =.56-.97/.60-.99, AVE=.59-.84/.60-.85, CR=78-.96/.83-.96 )およびモデル適合度(視聴前/ 後:χ²/df=1.65/1.61, CFI=.947/.952, NNFI=.935/.942, RMSEA=.076/.074)の基準値を全てで満たした。したがって、尺度モデルのデータへの適合度は妥当であると判断し、次の分析に移った。
解説有群と解説無群において、動画視聴前後のチーム ID の平均値を比較するために 2 要
因分散分析を実施した結果、「心理的結びつき」(F(1, 113)= 7.63, p < .01)、「依存意識」(F
(1, 113)= 18.44, p < .001)、「行動的関与」(F(1, 113)= 14.62, p < .001)、そして「認知・気づき」(F(1, 113)= 20.69, p < .001)において、大学スポーツチーム ID の視聴前後の変化に統計的に有意な主効果が認められた。しがたって、メディア観戦を経験することによって、大学スポーツ視聴者のチーム ID は高まることが窺える。また、「公的評価」において、解説の有無に統計的に有意な主効果が認められた(F(1, 113)= 5.28, p < .05)。メディア視聴者は、アナウンサーや解説者からの発話によって知識を得て学習していると言われており
(岡田, 2002)、実況と解説を加えることによって、大学スポーツ視聴者のチームの一般的な評価や評判に対する認識は、高まりやすいことが示唆された。大学スポーツのメディア視聴 者を対象に、解説の有無の影響を検証した本研究の成果は、直接観戦者やポジティブな口コ ミ行動の増加につながるとともに(e.g., Chang et al., 2018; Park and Kettmore, 2014)、大学が所在する地域にも愛着を持つ可能性を秘めており(菅他, 2018)、大学スポーツビジネスの拡大のきっかけになるのではないだろうか。

【主要参考文献】
出口順子, 他; J リーグ観戦者のクラブ支援意図:チームアイデンティフィケーションとの関係性の検討, スポーツマネジメント研究, Vol.9, No.2, pp.19-34, 2017.
菅文彦, 他; チーム・アイデンティフィケーションと地域愛着の因果関係に関する考察−FC 今治の本拠地(愛媛県今治市)の住民を対象として−, スポーツ産業学研究, Vol.28, No.1, pp.1- 11, 2020.


日本語版集団的自尊心尺度‐観戦者行動研究への適用の検討‐
発表者:出口順子(東海学園大学)
共同研究者:長谷川健司(太成学院大学)
井澤悠樹(東海学園大学)
清川健一((株)ブレイザーズスポーツクラブ) 
 Japanese collective self-esteem scale –An examination of application to spectator behavior studies.-
 DEGUCHI Junko : Tokaigakuen University
HASEGAWA Kenji : Taiseigakuin University
IZAWA Yuki : Tokaigakuen University
 KIYOKAWA Kenichi : Blazers Sports Club Co.
Key words :social identity theory,team identification
キーワード: 社会的アイデンティティ理論,チーム・アイデンティフィケーション

【緒言】
自己概念は,個人的アイデンティティと集団的(社会的)アイデンティティを両極とする連続体だと考えられている(ホッグ・アブラムス,1995).Luhtanen and Crocker (1992)は,それまでの自尊心に関する研究が個人的アイデンティティを扱っていることを指摘して社会的アイデンティティによる自己評価の測定尺度を作成し,これを集団的自尊心尺度と呼んだ.集団的自尊感情の高い者は,内集団びいきの傾向を強く示すと考えられる(渡辺,1994).これをスポーツ観戦の文脈で考えれば,自分を特定種目やチームに対するファンであると認知し,その集団に対する自尊感情が高い人は,特定種目やチームの熱心なファンになると考えられる.また内集団の評価を高めるために, 集団にとって評価が高まるような行動を取る(塩谷,2016).
本研究では,集団的自尊感情尺度について観戦者行動の文脈での適用を試みる.具 体的には V・プレミアリーグ観戦者から収集したデータを用い,集団的自尊感情尺度について検討すること(研究課題 1),集団的自尊感情尺度とチームに対する愛着,チーム支援行動との関係を検討すること(研究課題 2)を目的とする.

【研究の方法】
調査は,V.プレミアリーグ観戦者を調査対象とし,調査員が試合開始前に座席に調査用紙を配布,試合終了後留置かれた調査用紙を回収する方法で行われた.調査日は2021 年 11 月 6 日,7 日である.2 日間合計で配布数 703,回収数 703 であった.欠損
135,未成年者の回答 72 を除いた有効回答数は 488 であった.本研究では,集団的自尊感情やチームへの愛着に関する事柄が含まれていることから,バレーボールファンの一員である,応援するチームがあると答えたケース 342 を分析に用いた.
集団的自尊感情は,Luhtanen and Crocker (1992)の 4 次元 16 項目を用いた.チーム・アイデンティフィケーション(以下「チーム ID」)は,出口ほか(2018)の項目 5 項目を用いた.チーム支援意図は出口ほか(2017)の 3 項目を用いた.

【結果】
研究課題 1 について検討するため,Luhtanen and Crocker (1992)の 4 変数 16 項目について主因子法による因子分析を行ったところ,4 因子構造が妥当であると考えられた. 再度 4 因子を仮定し,主因子法・Promax 回転による因子分析を行った.充分な因子負荷量を示さなかった 2 項目を削除し,残り 14 項目について因子分析を行った.第 1 因子は 3 項目で構成され,「自己評価」と命名した.第 2 因子も 3 項目で構成され,「他者評価」と命名した.第 3 因子は 5 項目から構成され,「否定的評価」と命名した.第4 因子は 3 項目で構成され,「アイデンティティ」と命名した.それぞれの変数の内的整合性は第 1 因子から第 4 因子でそれぞれα=.78,α=.72,α=.73,α=.63 であった. 第 4 因子の内的整合性の値が充分でなかったため,項目について検討し,1 項目を削除した.削除後の第 4 因子の内的整合性はα=.81 となった.
続いて尺度の信頼性と妥当性を検討するために,集団的自尊感情尺度について確認的因子分析を行った.因子負荷量が充分でない 4 項目を削除し,再度確認的因子分析を行ったところ,否定的評価の項目 1 項目の因子負荷量が充分でなかったため削除することとした.これにより否定的評価が 1 項目となるため,変数自体を削除することとした.削除後の適合度は CMIN/DF=5.75,CFI=.94,RMSEA=.12 であった.因子負荷量がすべてλ=.60 を上回ったため,AVE,CR を算出して更に検討することとした.自己評価,他者評価,アイデンティティの CR はそれぞれ.65,.58,.65 であった.他者評価の CR が基準値(CR=.60 以上;Bagozzi and Yi, 1988)を満たさなかったため,他者評価を削除することとした.最終的な適合度は CMIN/DF=3.42,CFI=.98,RMSEA=.06 であり,適合度の基準値(Hair et al., 2014)を満たした.以上より,観戦者行動研究における集団自尊感情尺度として 2 変数 5 項目が適用できると考えられた.
次に研究課題 2 について検討した.最初に集団的自尊感情,チーム ID,チーム支援意図について確認的因子分析を行った.因子負荷量が低いチーム ID に関する項目 2 項目を削除し,再度確認的因子分析を行ったところ,CMIN/DF=4.25,CFI=.94,RMSEA=.10 となった.項目の因子負荷量がすべて λ=.63 以上であり,CFI も RMSEA も基準値を満たしたことから,モデルとデータは適合したと判断した.尺度の信頼性と妥当性については,CR, AVE,因子間相関の二乗と AVE を比較する方法で検討し,確認された.続いてブートストラップ法を用いてモデル分析を行った.適合度は χ2/df =4.7,CFI= .93,RMSEA=.10 であった.自己評価およびアイデンティからチーム ID は β=.28,p<.01,β=.41,p<.01 であり, 影響がみられた.またチーム ID からチーム支援意図の直接効果は β=.80,p<.01 であり, 影響がみられた.さらに自己評価およびアイデンティティからチーム支援意図への間接効果はそれぞれ.23,p<.05,.33,p<.05 であり,こちらも影響が確認された.

【考察】
研究課題 1 として集団自尊感情尺度として 2 変数(自己評価とアイデンティティ) が採用された.スポーツ観戦では自分がファンであることを認識しやすいため,今回の結果となったと思われる.また研究課題 2 では,集団的自尊感情がチーム ID やチーム支援行動意図に影響していることが明らかとなった.このことは社会的アイデンティティ理論により観戦者行動が説明できることを示しており,先行研究(出口ほか, 2021)の研究を補強するものである.詳細な考察は当日行う.


 

 

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