スポーツ産業のイノベーション  スポーツを通じて社会に貢献する

スポーツ産業のイノベーション
スポーツを通じて社会に貢献する
植田真司│大阪成蹊大学マネジメント学部教授

スポーツを通じて、我々は何を手に入れ、どのように社会を変えることが出来るのか。今回は、スポーツと社会貢献について考察してみます。

スポーツとは何か?

スポーツを広辞苑で調べると、「陸上競技、野球、テニス、水泳、ボートレースなどから登山、狩猟にいたるまで、遊戯・競争・肉体的鍛練の要素を含む身体運動の総称」と記載されています。第二期スポーツ基本計画の中でも、スポーツとは「身体を動かすという人間の本源的な欲求に応え、精神的充足をもたらすもの」と定義されています。
しかし、私の周りには、スポーツを野球やサッカーのように、ルールがあり、競争相手がいて、勝ち負けがあるものと捉えている人が多いようです。
また、高校の模擬授業で「スポーツの仕事」をテーマにお話しすることがあるのですが、彼らの考えるスポーツの仕事は、「プロ選手」、「トレーナー」、「体育教員」が圧倒的に多いように感じます。

実際は、図のように産業分類のどの分野にもスポーツの仕事は存在しています。スポーツがハブ産業と言われるゆえんです。しかし、高校生はもとより大学生でも、その仕事の多様性を知っている人は少ないでしょう。まだまだスポーツが日常生活に根付いていないことが分かります。 高校からスポーツとは何か?について学ぶ機会が与えられれば、スポーツ産業分野で活躍する人材も、スポーツを文化として捉える人も増えるのではないかと考えます。

アスリートに何ができるのか?

将来プロになるために、スポーツだけ極めればよいと考えているのなら、それは大きな誤解です。長い人生の中で、アスリートとして活躍できるのはごく短い時間です。オーストラリアの知人が、「豪州のアスリートは、国の税金で育成しても、引退したら社会人として働き税金を払っている。だから、アスリート育成に税金を使っても文句を言わないし、引退後も彼らは尊敬されている」と言っていました。まさに、アスリートが目指すべき生き方だと考えます。
また、トップアスリートが、小中学校で子どもたちに話をするとき、日本ではどのような練習をしてきたのかなど、スポーツに関連した話をします。しかし、米国ではスポーツの話でなく、自らの生き方や考え方を話します。例えば、最も大切なことは教会でのお祈り、次に周りの人への感謝、さらに地域へのボランティア、勉強、そしてやっとスポーツなんだよと社会貢献や学びの動機づけをします。
トップアスリートから、スポーツより大切なことがたくさんあると聞いた子どもたちは、きっとアスリートを社会人として尊敬し、自らも学び、ファンになるでしょう。スポーツに興味がなかった子どもたちも彼らに興味を持ち、所属するチームを応援するでしょう。このようにして米国では、アスリートが社会貢献に関わり、人を育てながら、チームのファンを増やしていくのだと感心しました。
同様に、米国のプロスポーツチームも、スポーツ以外の分野でファンを増やす活動を行っています。SDGsなどに関連して環境問題、健康問題、食料問題などに取り組み、地域や社会に貢献することで、地元の人たちをファンにしています。ファンが増えれば、企業スポンサーも付きやすくなる。地域社会への積極的な取り組みは、プロスポーツチームにとって重要なものになりつつあります。

監督に何ができるのか?

先日他界された野村克也監督は、著書「弱者の兵法」の中で、「巨人軍のⅤ9を成し遂げた川上哲治監督が、ミーティングの時に何の話しをしているのか聞いたら、野球の話でなく、人間としていかに生きるべきか、人間学の話をしていたので私も実践した」と述べています。また、川上監督は、人間教育を重視した理由として「プロ選手の時間より、その後の人生のほうが長い。ほかの社会に入っても、さすがはジャイアンツの選手と言われるようにしたかったので」と述べています。
監督の仕事は、選手づくりでなく、人づくりである。この考え方こそ、真の「アスリートファースト」であり、監督は、スポーツで社会を変える重要な役割を担っていると言えます。  アスリートも、プロチームも、監督も、我々も含め、スポーツの活動だけで良かった時代から、スポーツの枠を超えて社会に貢献する時代に変わりつつあると考えます。

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