スポーツ産業のイノベーション ポーツ用品産業の可能性

スポーツ産業のイノベーション
ポーツ用品産業の可能性
植田真司│大阪成蹊大学マネジメント学部 教授

今回は、講義で担当している「スポーツ用具論」に関連してスポーツ用品産業の可能性について考えてみます。

スポーツ用品産業の役割と領域

スポー用品産業は、いち早く新素材を商品に取り入れる産業であり、新素材を生む産業です。例えば、炭素繊維は、宇宙産業用に開発されたもので、高価で一般用品には使うことができなかった素材です。しかし、ゴルフクラブなどのスポーツ用品に使われ、量産効果等により価格が低下し、航空機や自動車に使われ、やがて一般商品にも使われるようになりました。ちなみに2015年重量ベースでの炭素繊維の用途比率では、スポーツ・レジャーで16%、航空機の22 %、風力発電ブレードの17%についで使用され、自動車の13%を上回っています。
新素材を生み出したケースとして、冬山の登山用に軽量で熱を放出するブレスサーモ(吸湿発熱繊維)が開発されました。しかし、登山者でなく薄着を目的にした一般の女性客に、爆発的に売れました。今では、各社から吸湿発熱繊維を使用したウエアが販売されています。
スポーツ用品は、ウエアや競技用具にとどまらず、スポーツドリンクやサプリメント、競技場の芝生や乗馬競技の馬も関連する商品であり、今後は、紫外線対策の化粧品、睡眠関連商品とその領域は広がっていくと考えられます。

スポーツ用品の役割と可能性

スポーツ用品の役割として大きく3つあると考えます。
1つ目は、パフォーマンス向上。軽量のシューズや、速く泳げる水着、速く走れるランニングウエア(例:アシックスのHL-0 スプリントスーツ)、よく飛ぶ軟式野球バット(ミズノのビヨンドマックス)など、皆さんもよく御存知な商品です。
2つ目は、安全性。体、頭、顔、すねを守る、プロテクター、ヘルメット、マスク、レガースなどです。  例えばシューズの場合、安全性を重視してクッション性を高めるとソールが厚くなりシューズが重くなりパフォーマンスが下がります。一方で、軽くすれば、クッション性を損なうことになります。この難しい問題を解決したのがナイキのエアーです。ソールのクッション素材の中にエアーの入ったカプセルを埋め込むことで、軽量にしてなおかつクッション性を高めたのです。これは画期的なアイデアです。
他にも紫外線対策で安全性を考えると、ラッシュガードやサングラス、体を覆うユニフォームや水着などの新しい分野の市場が拡大するでしょう。
3つ目は、楽しさです。使うことにより、より楽しく感じるものや便利に感じるものです。
例えば、マラソンやランニングに女性が参加するようになった理由の一つに、「ランニングスカート(写真1)」があります。ランニング用タイツの上にスカートを着用することで、「ヒップラインを隠せる」「脚を見せなくても良い」「女性らしさをアピールできる」「ファッションを楽しめる」ようになったのです。ちょっとしたアイデアです。

ボーリング場にある「ガーター防止のバンパー(写真2)」もそうです。ルール違反ですが、子どもが楽しくボーリングをするためのアイデアです。


「ルールは、守るべきもの」と我々は考えますが、これこそが固定観念です。「ルールは、公平に楽しく遊ぶためにあるもの」です。今あるルールに囚われず、もっと自由にスポーツを楽しめるように新しいルールを作っては如何でしょうか?

楽しむこと、遊ぶことの大切さ

アイデアを出すには、遊び心が大切です。これは、車のデザイナーの話です。日本のメーカーで働いていたときには、夜遅くまでアンケートなどの調査データを元に車のデザインをしていたそうです。しかし、ドイツのメーカーに移ると、みんな17時には帰ってしまう。ドイツでは、夕食を家族と済ませ、その後車でスポーツクラブなどに出かけるそうです。彼らはデータでなく、家族と車を利用した体験からデザインしているのです。
我々も、自らが遊び、楽しみ、現場の生の声を聞くことで、スポーツ用品産業の可能性が広がるのではないでしょうか?

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