スポーツの成長産業化とスタジアム&アリーナ改革の推進

スポーツの成長産業化とスタジアム&アリーナ改革の推進
由良英雄│前スポーツ庁民間スポーツ担当参事官

スポーツ庁は発足後3年弱になりますが、スポーツのいろいろな方面からの可能性を拡大していこうと様々な事業に取り組んでいます。政府全体としても、スポーツを成長産業、あるいは地域経済の活性化の一つの大きな分野として取り上げていこうとしておりますが、そのKPIとしては、
①新しいタイプのスタジアム・アリーナを2025年までに20カ所実現。
②スポーツの市場規模を2025年までに3倍に拡大。
③成人の週1回以上のスポーツ実施率を2021年までに65%に拡大。
の3つが掲げられています。

1.データの活用

スポーツテクノロジーというと、子供のスポーツのサポートから高齢者の体調管理まで幅広くありますが、スタジアム・アリーナに絞っても、例えばサッカーの競技分析や競技力強化にも使われていますし、試合の観戦の魅力向上といったことも、“スポーツデータ分析”に期待されています。また、“ダイナミックプライシング”に関するデータの活用事例も出てき始めているという話を聞いております。そういったことが今後、国内でスタジアムを運営していく際に使われていくのかなと思っております。 スポーツ庁が自ら行っているハイパフォーマンスセンター。例えばオリンピックパラリンピック選手向けの強化センターでもデータの活用といったところについて技術導入が進んでいて、今年のピョンチャンでは風洞実験をしながらパシュートの強化を進めたといった強化のプロジェクトの一環で使われています。また、スポーツインテリジェントセンターにはCIAみたいな意味合いが少しだけありまして、対戦相手の技術を盗み見るというか、スカウンティングすることで試合の実際のときに少しでも優位に立つという取り組みが進められています。そういったアプローチの充実が、ハイパフォーマンスセンターの3本柱の1つとして位置づけられているところです。

2.スタジアム&アリーナの構想と官民の役割

2016年春にスタジアム・アリーナの連携推進の官民連携協議会を立ち上げて、各スポーツリーグ、スポーツ施設関係者、自治体などの皆様に集まっていただいてガイドラインの策定をしてきました。その成果として、「スタジアム・アリーナ改革ガイドブック」を2017年6月に発表したところです。その中で、運営管理の話は誰と相談したらいいのだろうというところに思いが至ったものですから、昨年12月からスタジアム・アリーナ運営・管理検討会を開催して、実際のランニングをどういうスタイルでやっていくべきなのかというところにさらに焦点を当てた検討を行った次第です。いまは報告書の最終微調整という段階まで来ています。関係省庁としては、文部科学省、内閣府のまち・ひと・しごと本部、国土交通省、経済産業省。それぞれが施策を持ち寄って具体化に取り組みながらサポートするという形で進めてきています。
図1に報道ベースで出ているスタジアムとアリーナの構想を並べてみました。全国のいろいろなところで元気の出る施設づくりの一つとして取り組んでみたいということが、自治体、地元の民間企業、あるいは商工会議所などからいろいろな構想が出ています。
青い文字は役所(文部科学省・スポーツ庁、経済産業省、内閣府)がその策定を支援しているところですが、行政と民間とがうまく組んでいくことで、これまでの“陸上競技場、体育館、サッカー場”という形で整備してきた完全な公的施設とはフェーズを変えていこうと思っています。そこのかみ合わせの議論がどの地域でも一番重要なポイントです。
例えば広島市のサッカースタジアムは構想としてはかなり煮詰まってきて、県と市とチームの連携ができるようなところまで来ていますし、金沢アリーナも県と市、それから地元の企業の思いや方向性がだんだん一致しつつある。あるいはV・ファーレンは今年J1に上がりましたので、とにかくスタジアムを実現しようということで取り組んでおられます。

3.スタジアムの収支

資金調達で難しいのは、施設の収益性が高い場合には民間のお金で施設整備まで少し踏み込んでいけるけれども、収益性が低い場合には、少なくとも初期投資については公共のお金で設備投資をしていかなければいけない部分が多いということです。ランニングについては基本、行政からのお金はもらわないという形で自立的に収支を回していける形を実現していきたいと思っているのですが、そこについてもなお、公共側に一定程度借り上げてもらうということでスピーディに話が進んでいる事例もあります。 図2に豊橋新アリーナの収支シミュレーション(ランニング部分:左が収入、右がコスト)を示します。ランニングでは少し利益が出てくるというところを期待しているわけですが、こういった収支の確保について具体的には誰がどういうふうに考えていったらいいのかということを、いまちょうど「管理運営計画のガイドライン」としてまとめつつあります。一言でいうと、収支の確保は民間の人が責任を持てる体制をつくらなければいけない。民間が実現していくためには柔軟性を確保しなければいけないというのが1つ目のポイントです。そんなことを自治体向けのメッセージとして発していくというのがこのガイドラインの目的です。
中身を見ていくと、スポーツだけに絞り込むよりエンターテイメントのいろいろなコンテンツを一体的に展開できる施設整備、あるいは運営管理主体が大事だろうと考えています。そういったことも運営主体を決めていく、体制を組んでいくときの重要なポイントだと思います。

4.運営管理と官民連携

運営管理については、所有者・運営者・コンテンツホルダーの3つセクターの機能区分からの4つのタイプに分けて考えています。
① 所有者と運営者が一体でコンテンツを持ち込んでくるようなスタイル(例えば、Zeppホール)。
② 所有者と運営会社およびコンテンツホルダーが全て独立していて、単に貸館するスタイル(例えば、札幌ドーム)。
③運営者とコンテンツホルダーが一体となって施設所有者から賃借して、コンテンツホルダーが運営するスタイル(例えば、広島市民球場は広島球団が運営している)。 ④3つのセクターすべてが一体で運営されているスタイル(例えば、ステープルズセンターはAGEが所有して運営し、コンテンツも持っている形です)。
このような4つのタイプに分けて運営・収支を検討する視点も重要です。
民間で運営に携わっている方から見ると常識的なものでも、行政から見ると違う点があるというところから理解しないといけない。そういうところが自治体と組んでいくときの苦労の始まりになるだろうと考えています。
そういったことを考えると、スタジアム・アリーナの構想を立てていくときには、基本構想を組むところから事業方式の決定までの間ではいろいろなフィージビリティスタディを民間の方にもやってもらいながら考えていく。こういう構想ならもう少し本体のほうを直さないといけないというような行きつ戻りつしながら、みんなでしっかり乗り越えていただきたいということが我々の思いなのです。
スタジアム・アリーナ構想についてはスポーツ庁としてもさらに実現に向けて事例の支援をさせていただいているところです、見るスポーツに限らず、するスポーツ、その他いろいろな分野と連携しながらスポーツの産業としての活力をさらに上げていきたいと思っています。

▶︎本稿は、2018年6月5日(火)に早稲田大学国際会議場で開催された「スタジアム&アリーナの新展開~エンターテイメントから街づくりまで~」の講演内容をまとめたものである。

関連記事一覧