メガスポーツイベントの法的比較から見るスポーツビジネス

メガスポーツイベントの法的比較から見るスポーツビジネス
早稲田大学スポーツ科学学術院教授・博士(スポーツ科学)、弁護士
松本泰介

2026年2月に開催された冬季オリンピックミラノ・コルティナ大会が終わり、3月は冬季パラリンピックが開催されました。また、野球のWorld Baseball Classic(WBC)も非常に盛り上がりました。それぞれの競技は非常に面白く、読者の皆さまの好きなスポーツがあれば、たくさん見どころがあったと思われます。今年は、さらに6月のサッカーW杯、9月10月にはアジア大会もあり、これからもメガスポーツイベントが目白押しです。

スポーツイベントの主催者

割と見逃されがちなのが主催者です。主催者がどのような構造にあるかによって、それぞれのスポーツイベントに大きな影響があります。
オリンピックは皆さんご存じの国際オリンピック委員会(IOC)が、パラリンピックは国際パラリンピック委員会(IPC)が主催しています。また、サッカーW杯は国際サッカー連盟(FIFA)が主催者になります。これらの組織の特徴としては、世界中の国々の統轄組織がメンバーとして加盟していることです。もちろん会長や役員が組織を運営しますが、その選出には選挙などが行われているため、民主的な運営が志向されているといえるでしょう。
一方、野球のWBCは、WBC, Inc.というMLB(メジャーリーグ)とMLB選手会の合弁会社が主催しています。WBCIの意思決定については、MLBとMLB選手会のみが最終決定権を有している状況で、WBCは、あくまでMLB及びMLB選手会の意向が強く反映される大会であり、MLBのビジネス拡大、発展を前提にされた大会であることは忘れてはなりません。

放送・配信

放送・配信もメガスポーツイベントによって大きく異なります。
2月3月に開催されました冬季オリンピックパラリンピックミラノ・コルティナ大会については、日本ではまだ地上波放送もあり、深夜から早朝でしたが、多くのファンがテレビで競技を問わず観戦することができました。実際、リアルタイムで観戦でき、日本中が朝から大いに盛り上がった競技もありました。パラリンピックも全競技ではありませんが、NHKなどで観戦することができることになっていました。オリンピックパラリンピックの歴史では、日本ではとりあえずまだ地上波放送が続いていますが、放映権の決定権限をメガスポーツイベントの主催者が握っていることからすれば、今のところ、IOCが各国の民主制や競技の多様性から、地上波放送の重要性を考えているともいえます。
一方、2026年のサッカーW杯については、地上波放送とネット配信のDAZN(ダゾーン)の双方で観戦することができることになっています。前回の2022年のサッカーW杯では、日本の映像配信会社であるAbemaTVが全試合無料配信をやっていましたが、今回全試合配信するDAZNはあくまで有料配信ですので、映像配信では無料で観戦することはできなくなりました(なお、日本戦は無料配信されることになっています)。サッカーW杯は徐々に地上波放送の範囲が非常に少なくなっており、サッカーW杯の主催者であるFIFAが地上波放送よりも放映権料による資金獲得の方向に徐々に舵を切っているともいえるでしょう。
また、皆さんもうよくご存じのとおり、2026年3月に開催された野球のWBCでは、地上波放送はなく、Netflixの有料配信のみとなりました。これまで地上波放送が存在したWBCが一切テレビにて見ることができなくなったのは、過去映像の記憶がある方々からするとなかなかショッキングなことかもしれません。こちらは前述のとおりWBC大会がMLBとMLB選手会の意向が強く反映されることから、放映権料による資金獲得に重点を置かれた契約となったということでしょう。ただ、実際、獲得された資金が増えたことから、各国に分配される賞金総額は前回の2倍以上になるなど、競技全体の普及、振興という観点ではプラスの事情もあります。
地上波放送はなくなったものの、NetflixのInstagramではハイライト映像がほぼリアルタイムで投稿されていました。夜のスポーツニュースのハイライトでさえ時間の遅さを感じます。となると、無料で観ることができる試合映像というのも、もはやテレビというメディアからSNSに移行したともいえるでしょう。その意味では、大会主催者もNetflixもスポーツ映像の新しい視聴環境にチャレンジしているのではないかと感じられる場面もありました。
このようにメガスポーツイベントの放送や配信を比較すると、それぞれのイベントの主催者、放映事業者の思惑が良く見え、非常に興味深いです。

アンブッシュマーケティング対策

オリンピックといえば、日本ではアンブッシュマーケティング対策が有名です。今回の大会でも、日本オリンピック委員会(JOC)は、ブランド保護として、2023年6月発行の「オリンピック等の知的財産の使用に関するガイドライン」を踏襲し、今回の冬季オリンピックミラノ・コルティナ大会でも、「TEAM JAPAN選手等の肖像使用に関するガイドライン」を定めていました。

アンブッシュマーケティングという言葉はとても多義的で、広い定義では、「オリンピックやワールドカップなどのイベントにおいて、公式スポンサー契約を結んでいないものが無断でロゴなどを使用したり、会場内や周辺で便乗して行う宣伝活動」(「大辞林」第3版)などとされています。歴史的には、オリンピックやワールドカップなどにおいてこのようなマーケティング手法がとられてきたため、IOCやFIFAなどが知的財産権侵害その他広告法制などで対策を行ってきました。個々の大会において、アンブッシュマーケティング規制法が制定されることもありました(2021年の夏季オリンピックパラリンピック東京大会ではこのような規制法は制定されていません)。

もっとも近年、2015年にオリンピックに出場するアスリートの肖像等の使用を全面的に禁止していたいわゆるRule40ルールが一部緩和され、また2019年にはオリンピック憲章に定められたRule40ルールが全面改正されました。これに応じて、アメリカオリンピック委員会(USOC)やイギリスオリンピック委員会(BOC)なども、アスリートの肖像等使用を大幅に認めるガイドラインを定めてきました。一方で、日本は、IOCのRule40の全面改正に応じてガイドラインの公開を行っているものの、現在も、オリンピックに参加するアスリートや個人スポンサーなどに確認書の提出を求めたり、オリンピックを想起させないジェネリック広告であっても90日前以前からの広告出稿を要件にするなどの措置を講じています。ですので、日本では、未だオリンピックにおけるアンブッシュマーケティング規制は、他のスポーツ先進国と比較して、厳しい内容になっています。メダルを取ったアスリートのSNS投稿などを見ていると、この厳格なガイドラインにしたがっていることを感じさせるものがいくつもありました。

こちらと比較すると、野球のWBCやサッカーW杯などは、出場選手の肖像利用に関して割と寛容な態度を取っています。大会期間中でも出場選手が出演する競合企業の広告などの出稿は全然なされています。

これは、野球のWBCやサッカーW杯に出場する選手らがプロであることが前提になっており、そもそも選手ら個人のスポンサー契約、所属する球団の広告契約などを制限することがほぼ不可能であることが理由と考えられます。もちろん知的財産権侵害その他法令違反などがある場合は、主催者としては当然取り締まりを行うでしょうが、それ以外についてはもうアンブッシュマーケティングだとしても、スポーツイベントの盛り上がりとして利用することや、主催者が対応する労力やコストをもはや他の分野にあてるべきと考えているとも思われます。アメリカオリンピック委員会(USOC)やドイツオリンピック委員会(DOSB)のガイドラインをみてみても、知的財産権侵害その他法令違反などがある場合を除き自由なマーケティング利用が可能になっていますので、アンブッシュマーケティング対策もこのような時代の流れの中で変化していっています。

おわりに

今回は、メガスポーツイベントを法的に比較しながら、スポーツビジネスを見てみました。野球のWBCの地上波放送がなくなったことを嘆くニュースも多いですが、スポーツビジネスの成長としては、また1つランクが上がった大会になったということでもあります。これまでもヨーロッパサッカーのチャンピオンズリーグやF1など、日本でも多くの地上波放送が消滅していっていますが、それぞれのスポーツイベントは主催者が様々な観戦体験を用意し、今でも隆盛を極めています。今後もいろいろなスポーツイベントの成長に注目していきたいと思います。
筆者としては、このようなメガスポーツイベントが続くと、職業柄なのか、スポーツビジネスとして、いろいろ比較して見てしまいます。そこで、今回は、このようなメガスポーツイベントの法的比較から、スポーツビジネスを見ていきたいと思います。

参考文献
拙書「スポーツビジネスロー」(大修館書店、2022年)
佐野慎輔「Netflix、WBC日本独占配信の未来を読む」(笹川スポーツ財団・スポーツ時事問題、2026年)

 

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