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スポーツビジネスジャパン2026 Day1 開催レポート ―レガシーとミライの価値構造を読み解く―

スポーツビジネスジャパン2026 Day1 開催レポート—レガシーとミライの価値構造を読み解く—
びわこ成蹊スポーツ大学 スポーツビジネス・メディアコース主任/准教授
吉倉秀和

2026年1月22日、コングレスクエア日本橋にて「スポーツビジネスジャパン(SBJ)2026」Day1が開催された。本稿では、基調講演および3つのセッション、サマライズセッションを学術的視座から整理し、スポーツビジネスにおける「レガシー」と「ミライ」の関係性を構造的に論じる。特に、スポーツ産業が多領域との連携や接続により産業として拡大傾向にある現在、Day1で扱われた「ヒト・コミュニティ・都市空間」の三領域は、スポーツ産業学が向き合うべき重要な研究テーマでもある。

サマライズセッションを担当した筆者

スポーツ産業成長促進政策の進捗と今後(基調講演)

スポーツ庁参事官(民間スポーツ担当)吉屋拓之氏による基調講演では、最新の政策動向が提示された。講演では、スポーツ基本法の改正、第3期スポーツ基本計画の中間評価を踏まえ、第4期スポーツ基本計画(令和9〜13年度)が示す方向性が報告された。今後のスポーツ政策が目指すべき方向性及び主な施策内容の提示として、子供たちが将来にわたって幅広いスポーツに親しむ機会の確保や充実、アスリートに配慮した国際競技力の向上、スポーツを通じた地方創生・経済の活性化について示された。

関連して、スポーツ産業は 2030年に市場規模15兆円規模へ拡大する見込みが示され、プロスポーツ3リーグの入場者数が過去最高を更新するなど、需要面でのポテンシャルも確認された。 今後の政策として、スポーツコンプレックスの推進やDXによるスポーツ価値の高度化といった領域が重点化され、スポーツを都市政策・地域政策・産業政策として展開する可能性について言及した。

「ぴあスポーツビジネスプログラム」の挑戦(セッション1:ぴあ株式会社)

ぴあ株式会社(坂井亮太氏)のセッションでは、同社が担ってきた長期的なスポーツビジネス実務の蓄積が「レガシー」として再定義された。長野オリンピックをはじめとするメガイベントのチケッティング実績は、単なるイベント成功ではなく、日本のスポーツビジネスの運営基盤を形成してきた“社会的資本”である。しかし近年、クラブやリーグ現場では、チケッティングなどを担う中核人材の不足が構造問題として顕在化している背景を受け、同社は 「ぴあスポーツビジネスプログラム(SBP)」 を立ち上げ、実践知の体系化・教育化を進めている。これは、実務知(暗黙知)を形式知へ転換し、社会的資本として再生産する仕組みであり、レガシーを制度的に未来へ接続する重要な取り組みである。

街や地域を通してプロスポーツの価値を高める取り組み(セッション2:パナソニックグループ)

パナソニックグループ(松原誠氏ほか)のセッションでは、企業スポーツの再定義という日本のスポーツ産業特有のテーマが取り上げられた。従来、企業スポーツは企業ブランディングや福利厚生を主な目的として扱われてきた。しかし、同社が掲げる「企業スポーツからスポーツ企業へ」という概念転換は、スポーツを事業価値・社会価値の創造に直接関わる“中核的領域”として位置づけ直すものである。

ガンバ大阪を中心とする北摂地域での取り組みでは、スポーツが住民の生活動線、地域企業との協働、教育・福祉領域と接続し、“街の習慣”として定着しつつあることが示された。これは、スポーツが都市・地域の社会的インフラとして機能する実例であり、顧客とのつながりの強化が次の収益力強化につながる事業収益サイクルの連携に関する示唆が展開された。

スポーツを通じたまちづくり・コミュニティ醸成(セッション3:東京建物)

東京建物(黒田敏氏・勝呂亘氏)のセッションは、都市公園や都市型スポーツ施設を基軸とした「スポーツ×都市」の価値創造を扱う内容であり、都市政策研究とも関連する先進事例であった。

明治公園(Park-PFI)では、カフェ、ランニング拠点、イベントスペースを複合し、公園を“滞留と交流を生む場”へ転換している。スポーツを媒介としたランニングコミュニティの形成やイベントを通じて、公園が “都市におけるスポーツコミュニティ” として機能している点が特徴である。

また、有明URBAN SPORTS PARKは、東京2020大会後のレガシーを多用途型施設として再定義し、アーバンスポーツ、音楽イベント、産業展示、地域イベントを包括する複合機能を持つ。施設の多用途化は、スポーツ単体では成立しにくい収益構造を補完し、都市の回遊性・経済活動との結節を生み出している。これは、スポーツが都市の空間価値・場所価値を再編する媒介として機能しうることを示し、スポーツが「日常の身体活動」「都市文化」「地域コミュニティ形成」を横断する多層的意義を持つことが、同社の事例から鮮明に読み取れた。

総括:スポーツビジネスの未来は、知・場・人の循環構造によって生成される

Day1全体の議論から抽出される理論的示唆は次の三点である。

第一に、レガシーは「保存」すべき遺産ではなく、社会変化の文脈の中で 更新・編集されるべき動的資源であるという点である。スポーツ産業のレガシーは、知識、文化、都市空間といった多層的資源から構成され、それらが教育、事業、政策、コミュニティの実践を通じて再生産されていく。

第二に、スポーツの未来価値は、競技領域を超えて、地域、企業、都市を横断する価値共創プロセスの中に形成される。スポーツが日常の行動、都市の回遊性、地域経済に浸透しうることは、産業としての広がりと社会的役割の拡張を同時に意味する。

第三に、これらのプロセスを媒介するのは“ヒト”である。人材育成、組織文化、地域との協働、場のデザインなど、あらゆる要素が人の意志・実践・専門性によって駆動される。スポーツビジネスのミライは、制度や設備ではなく、レガシーを理解し、新しい価値として社会へ接続する主体によって創造される。

以上より、SBJ2026 Day1は、スポーツビジネスを 「知・場・人」の三位一体的構造で捉える重要性を明確に示した。スポーツが社会的価値を生み出すためには、これら三要素が循環し、相互に強化される仕組みが不可欠である。スポーツ産業学は、この循環構造の解明と実装に向けて、学術研究・実務協働・教育の三領域で貢献することが求められる。

セッション終了後に行われたネットワーキング

基調講演および3つのセッションが行われた

 

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