学生アスリート増加の背景とは?

学生アスリート増加の背景とは?
京都先端科学大学 束原文郎

連載「アスリートの教育とキャリア形成」、第2回は、私立大学における体育・スポーツ・健康系学部の入学者動向をもとに、学生アスリートのマーケット規模を考える。『私立大学学生生活白書』2022年版((一社日本私立大学連盟))を見ると、2021年の体育・スポーツ系統学部の課外活動参加率は69.3%と全体平均より15.6ポイントも高い。ここでは、体育・スポーツ・健康系学部入学者を学生アスリート数の代理指標と捉えることはできないと弁えつつ、統計を整理しながら学生アスリートの規模およびその変化を考えたい。

  図には、2011〜2024年までの私学全体の入学者数(千人)、定員充足率、推薦入学者率、定員割れ大学率および体育・スポーツ・健康系学部の定員充足率の推移をまとめた。体育・スポーツ・健康系学部とは、日本私立学校振興・共済事業団が毎年刊行する『私立大学・短期大学等入学志願動向』の学部別集計の対象となった「体育学部」「健康科学部」「健康福祉学部」「スポーツ科学部」「スポーツ健康科学部」「スポーツ健康学部」である。これ以外にも「スポーツウェルネス学部」や「スポーツマネジメント学部」等、スポーツや健康に関する学部や、学科やコースもスポーツを含むものあるが、「その他」に含まれて集計できない。従って、今回の体育・スポーツ・健康系学部に関する集計はミニマムと捉える。

では図に戻る。これによれば、まず、私学全体の入学者数は2016年までの49万人程度、2017年度以降はおよそ50万人で推移している。図に収められなかった情報を添えると、この間、集計学部数は2011年1,593学部から2024年1,970学部へと1.24倍となっている一方、直近の集計では約600ある私立大学のうち約59.2%にあたる354大学が定員割れ、さらに定員の50%を満たしていない大学は43に上る。

定員割れ大学率は2000年代初頭には上昇を始め、2000年代後半から3割前後を、2010年代からは4割前後を推移するが、それと軌を一にする形で推薦入学者の割合もジリジリと上昇を続け、ここ2年は5割を超えて推移するに至っている。定員割れ大学率が2017〜2020にかけて30%台前半にまで落ち着いてきていたのは、大学の提供するサービスと入学者のニーズが合致し、需給バランスがよくなっていたこと、推薦入学者率の上昇がその調整に貢献していたものと推察される。そして2021年の急上昇が意味するのは、コロナ禍が日本全体の進学率の上昇を抑制し、私学経営がさらに難しくなるという見通しが支配的になった、というところだろう。

その中で、2013年までは114.1%程度、私学全体よりも8ポイント程度高い定員充足率を保っていた体育・スポーツ・健康系学部は徐々にその魅力を弱め、私学全体と同様、100%を割り込むようになった(2024年度98.7%)。体育・スポーツ・健康系の学部も全体としてみれば、マーケットシュリンクと同期しているように見える。だが、体育・スポーツ・健康系学部の内訳を確認すると、“体育・健康からスポーツへ”、とも形容すべき傾向が見えてくる。次回はこの傾向について詳報する。

 

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