スポーツ産業のイノベーション 創造力の高め方

スポーツ産業のイノベーション
創造力の高め方
植田真司│大阪成蹊大学マネジメント学部 教授

イノベーションを起こすのに必要な力が創造力である。創造力の定義であるが、ここでは「新しい価値を生み出す力」とする。「創造力」は、生まれ持った能力ではなく、誰もが手に入れることが出来る能力だと、私は考えている。「UNThink」の著者エリック・ウォールも、「創造力」は詩人・画家・作家など特別な人間だけが持つものではなく、偏見を取り除き、直感に従う ことで誰でも持つことができる能力だと言っている。今回は、創 造力を高める方法として「ものごとの捉え方」と「睡眠・運動」について考えてみたい。

ものごとの捉え方

例えば仕事について、あなたはどのようなイメージを持っているだろう?「生活のためにやらなければならないもの」と考えるのか、「世の中の問題を解決して、人を幸せにするもの」と考えるのか。強制的にやらされると嫌なもの、主体的に取り組み、人に感謝されると楽しいものである。これは、仕事に限らず、勉強でも、スポーツでも同じである。仕事の捉え方によっ て、気持ちが大きく変わるのである。英語で表現すると、前者は「Labor」、後者は、「Work」である。英和辞典によると「Labor」は、「(賃金を得るための) 労働、勤労。(肉体的・精神的な)骨折り、苦心、労苦、労力」。「Work」は、「(ある目的をもって努力して行なう)仕事、労働、勉強、研究、仕事、任務」と説明がある。
仕事は、「Labor」でなく「Work」であって欲しいが、さらに「Play」であればと考える。なぜなら、プロスポーツ選手は、仕事(=スポーツ)を、主体的にイキイキと取り組んでいるからだ。 まさに、遊びのように楽しみながら取り組んでいるときに、もっと も創造力が高まるのではないだろうか。
スタンフォード大学の保育園で行われた「マシュマロ・テスト」をご存じだろうか? マシュマロをすぐ1個もらうか、我慢して後で2個もらうかを調査し、その後半世紀の追跡調査で、「自制心」と「成功」との関連を調べた実験である。自制心のある子どもは、将来社会的に成功することが分かっている。
この実験には続きがある。実験前に、Aグループの子どもには「マシュマロは、甘くておいしい」という欲をそそるイメージを持たせ、Bグループの子どもには「マシュマロは、宙に浮かぶ丸 くふっくらした雲」という食べ物でないイメージを持たせた。す ると、Bグループの子どもはAグループの子どもの2倍の時間マシュマロを我慢することが出来たのである。
「マシュマロ」の捉え方を変えると、我慢できるようになるのである。この実験から、ものごとの捉え方が、我々の感情や創造性に大きな影響を与えていることが分かる。

睡眠・運動の重要さ

最近、話題になっている「睡眠」であるが、我々が思っている以上に睡眠時間は重要である。睡眠不足になると、身体の諸器官(心臓、肝臓、膀胱等)の機能不全、気分の変化(怒 りっぽくなる)、感覚・運動能力の低下、集中力や素早い反応の欠如)、倦怠感、極度の疲労等が生じるのである。
さらに、ペンシルベニア大学とワシントン州立大学の実験により、6時間の睡眠を2週間続けると、2日間徹夜した状態と同じ程度まで能力が低下することが分かっている。
また、日本は韓国と並んで世界でも睡眠時間が短い国であり、過去の睡眠時間の推移(国民生活時間調査による)を見ると、1965年の8時間05分が2015年には7時間15分と、50年で50分も減少していることがわかる。
2015年の味の素の全国睡眠意識調査(上図)によると、日本では40代の睡眠時間が最も短くほぼ6時間であり、先の実験結果からかなりの能力低下に陥っていると考えられる。今後は、能力向上のために睡眠時間を確保したいものである。
次に「運動」であるが、ハーバード大学のジョン・J・レイティ博士は、著書「脳を鍛えるには運動しかない」の中で、運動すると脳の神経細胞(ニューロン)の形成を促し、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリン等の思考や感情にかかわる神経伝達物 資の分泌を促すと言っている。
また、歩くとミルキングアクション(牛のミルク絞りのように、ふくらはぎの伸縮がポンプの役割をする)により、脳に血液が流れ、頭が冴え、創造力が高まるのである。アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏、第44代米国大統領のバラク・オバマ氏など、歩きながらのミーティングを好んだと言われているが、この効果を知っていたのかもしれない。
創造力を高めようと、技法やマニュアル等で一時的に対応するのでなく、「新しい価値を生み出す」ことを楽しみ、ものごとの捉え方を工夫し、日々の生活習慣の中で睡眠時間や運動時間を確保することで、創造力を高めてはどうだろうか。

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