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2023年度日本スポーツ産業学会・奨励賞受賞論文 アスリートアドボカシーに対する人々の反応 ──献身性と適合性がもたらす影響

2023年度日本スポーツ産業学会・奨励賞受賞論文
アスリートアドボカシーに対する人々の反応 ──献身性と適合性がもたらす影響
小木曽 湧│東洋大学健康スポーツ科学部

この度は、日本スポーツ産業学会奨励賞という名誉ある 賞をいただき、誠にありがとうございます。研究成果が認め られた喜びと同時に、背筋が伸びる思いでおります。本論 文は、早稲田大学の博士後期課程在学中に取り組んだプロ ジェクトの一部であり、中京大学・舟橋弘晃先生、早稲田大 学・間野義之先生(現びわこ成蹊スポーツ大学)との共著と なります。なお、本研究は、JSPS科研費JP 21K11402およ びJST SPRING JPMJSP2128の助成を受けて行われまし た。この場をお借りして、御礼申し上げます。以下に、受賞 の対象となった論文を簡単に解説いたします。

アスリートアドボカシーとは
アスリートアドボカシーは、「人々を社会問題へ巻き込む ことを目的とした、アスリートによる説得行動」のことを指し ます。近年では、特にBlack Lives Matter運動の広がりを 受けて、人種差別問題についてのアスリートアドボカシーが これまで以上に活発になっています。日本のアスリートアド ボカシーの代表例としては、大坂なおみ選手の黒人差別に 対する抗議行動(大会の棄権表明、黒人被害者の名前入り マスク着用など)や、八村塁選手の人種差別撤廃を訴える デモ行進への参加などがあげられます。また、2020年東京 オリンピック・パラリンピック競技大会では、サッカー女子日 本代表選手らが試合前にピッチに片膝をつき、人種問題に 対して抗議をする姿も見られました。こういった活動は決し て新しいものではなく、古くから幅広い社会的・政治的な問 題の解決に向けて取り組まれてきました。特に、近年のソー シャルメディアの普及・拡大も相まって、アスリートが自らの 意見や考えを社会に向けて発信することは、これまで以上 に多くの人の目に触れるようになっています。
私は、このようなアスリートの行動や発信に注目して、「彼 らの発信はどのくらい一般の人々を説得することができる のか」や、「彼らの行動に対する世間の反響はどのような要 素によって決まるのか」といった疑問を解決する研究を行っ てきました。今回賞をいただいた論文は、後者の研究をまと めたものになります。

研究の背景と目的
この度は、日本スポーツ産業学会奨励賞という名誉ある賞をいただき、誠にありがとうございます。研究成果が認められた喜びと同時に、背筋が伸びる思いでおります。本論文は、早稲田大学の博士後期課程在学中に取り組んだプロジェクトの一部であり、中京大学・舟橋弘晃先生、早稲田大学・間野義之先生(現びわこ成蹊スポーツ大学)との共著となります。なお、本研究は、JSPS科研費JP 21K11402およびJST SPRING JPMJSP2128の助成を受けて行われました。この場をお借りして、御礼申し上げます。以下に、受賞の対象となった論文を簡単に解説いたします。

アスリートアドボカシーとは
アスリートアドボカシーは、「人々を社会問題へ巻き込むことを目的とした、アスリートによる説得行動」のことを指します。近年では、特にBlack Lives Matter運動の広がりを受けて、人種差別問題についてのアスリートアドボカシーがこれまで以上に活発になっています。日本のアスリートアドボカシーの代表例としては、大坂なおみ選手の黒人差別に対する抗議行動(大会の棄権表明、黒人被害者の名前入りマスク着用など)や、八村塁選手の人種差別撤廃を訴えるデモ行進への参加などがあげられます。また、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会では、サッカー女子日本代表選手らが試合前にピッチに片膝をつき、人種問題に対して抗議をする姿も見られました。こういった活動は決して新しいものではなく、古くから幅広い社会的・政治的な問題の解決に向けて取り組まれてきました。特に、近年のソーシャルメディアの普及・拡大も相まって、アスリートが自らの意見や考えを社会に向けて発信することは、これまで以上に多くの人の目に触れるようになっています。
私は、このようなアスリートの行動や発信に注目して、「彼らの発信はどのくらい一般の人々を説得することができるのか」や、「彼らの行動に対する世間の反響はどのような要素によって決まるのか」といった疑問を解決する研究を行ってきました。今回賞をいただいた論文は、後者の研究をまとめたものになります。

研究の背景と目的
アスリートが社会的・政治的な問題についての意見を社会に発信する行動には、大きな反響が寄せられます。ひとつは、社会問題を多くの人に広めるという功績に敬意を表する称賛の声です。しかし、その裏側には批判もあります。社会的・政治的な問題についてのアスリートの発信は、「スポーツへの政治的介入」と非難されることも少なくありません。こういった称賛や批判によって影響を受けるのは、そのアドボカシーの主体だけではありません。例えば、アドボカシーを行ったアスリートを支援するスポンサーや、アスリートが広告塔をつとめるブランド、さらにはスポーツ興行の観客動員数など、その影響は多方面に波及することが報告されています。このように、アスリートの社会問題についての発信は、アスリート自身のイメージやブランド価値に影響を与えるだけでなく、より幅広いスポーツ産業の関係者にも作用する可能性があります。
このような理由から、アスリートアドボカシーに対する世間の反応を正確に理解することが求められます。特に、こういった社会的反響がどのような要因によって決定されるのかを知ることは、啓発活動を行うアスリートがなぜ称賛され、批判されるのかについて考えるうえで重要です。一般的に、アドボカシーに対する世間の反応は、アドボカシーの主体がどのように活動に関わっていると認識されるかによって変化するといわれています。他者の行動を評価する場合、その行動に関連する情報をもとに、行動の良し悪しを判断することになるからです。そのため、本研究では、アスリートアドボカシーを認知した人が、アドボカシーに対するアスリートの関わり方をどのように評価し、反応を形成しているのかを理解することで、アスリートアドボカシーに対する称賛・批判の背景を紐解こうと考えました。

本研究は、どのような要素がアスリートアドボカシーへの反応と関連するのかを明らかにすることを目的としました。具体的には、アドボカシーへの関わり方の中でも理論的に重要だと考えられている要素である「献身性」や「適合性」の認知と、アスリートアドボカシーへの反応との関連を検証しました(図1)。献身性はアドボカシーにかけられた労力や時間のことを意味しており、適合性はアドボカシーを行う主体とその内容の間に生じる類似性や一貫性のことを指します。

調査の概要
本研究は、アスリートアドボカシーへの人々の反応に迫るために、大坂なおみ選手の人種問題に対する発信・啓発に注目しました。大坂なおみ選手による人種問題に対する抗議や啓発は、日本人アスリートのアドボカシーの中でも、最も象徴的な事例のひとつです。重要な点は、彼女の行動に対する世間の反響が、ほかのアスリートのアドボカシーと同じく、賛否両論であったことです。このような共通点から、大坂なおみ選手の事例を検証することで、日本のアスリートアドボカシーにある程度共通する知見が得られると考えました。
調査は2021年1月にインターネット調査の方式で実施され、大坂なおみ選手のアドボカシーを知っている855名の回答を得ることができました。調査では、大坂なおみ選手のアドボカシーに対してどのような感情・感覚を抱いているか、彼女のアドボカシーの献身性や適合性をどのように考えているか、などを聴取しました。

分析の方針とその意図
本研究では、分析の妥当性を確保するために、合計5つの異なる分析モデルを用いました。この手続きは、「多重共線性」という現象を懸念してのものです。「多重共線性」は、独立変数どうしの関連が強すぎる場合に、解析が不安定な状態になる現象です。本研究の場合、アドボカシーへの関わり方の要素である、「献身性の認知」と「適合性の認知」の関連がやや高いことが事前の相関分析で分かっていました。そのため、複数の分析モデルの結果を総合的に解釈するという手続きを採用しました。モデルの詳細とその意図については、表1を参照ください。

結果と解釈
5つのモデルについて分析を行ったところ、以下の4つの結果が得られました。
❶アスリートのアドボカシーに対する献身性を高く評価している人は、アドボカシーに対して好意的な反応を示す傾向にある。
❷アスリートとアドボカシーの適合性を高く評価している人は、アドボカシーに対して好意的な反応を示す傾向にある。
❸アスリートに対してもともと愛着を抱いている人は、アドボカシーに対して好意的な反応を示す傾向にある。
❹明らかになった❶、❷の関連は、そのアスリートのファンでも非ファンであっても大きく異なるものではない。

これらの結果から、アスリートアドボカシーに対する個人の反応は、その人がアドボカシーを行うアスリートの関わり方をどのように認知するかに依存することがわかりました。言い換えると、アドボカシーに関わるアスリートに対して「献身的だ」や「違和感がない」とイメージできる場合、人々はアスリートの行動に対してポジティブな反応を持つ傾向にあります。
これらの結果は、社会問題に取り組もうとするアスリートや、彼らをマネジメントしようとする実践者、アスリートの支援や広告塔としての起用を考えている企業にとって、実践的な示唆を提供しています。具体的には、アスリートが自身の啓発活動に対する献身性や適合性をアピールすることは、世間の好意的な反応を引き出す有効なコミュニケーション戦略になるかもしれません。翻すと、適合性や献身性を伴わずに表面的にアドボカシーを行うことは、世間の批判や非難にさらされる可能性が高いとも読み取れます。
本研究では、啓発活動を行うアスリートがなぜ称賛され、批判されるのか、その背景をアスリートのアドボカシーへの関わり方という視点から紐解くことができました。興味を持たれた方は、本論文を一読いただければ幸いです。

▶小木曽湧・舟橋弘晃・間野義之;アスリートアドボカシーに対する人々の反応:献身性と適合性がもたらす影響,スポーツ産業学研究,Vol.33,No.2,pp125–140,2023.

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