スポーツ産業を測る 経済統計の中のスポーツ
スポーツ産業を測る 経済統計の中のスポーツ
庄子博人│同志社大学スポーツ健康科学部准教授
スポーツ産業の経済規模を把握するために、スポーツGDPという考え方があります。スポーツGDPは、スポーツ産業がある期間に生み出した付加価値の総計を意味し、一国のスポーツに関わる経済状況を把握するための各種統計を総合して作る加工統計であり、政府統計、民間統計、その他情報などを駆使して作成されています。日本のスポーツGDPは、生産面から計算しています。生産面からのGDPは、スポーツに関わる財・サービスの生産額を集計もしくは推計することからはじまります。スポーツ産業は、独立した1つの産業というよりは、全産業を横断するように存在していますので、GDP統計の各分類から少しずつスポーツに関連する財・サービスを切り取りしていくことになります。例えば、ポカリスウェットやアクエリアスのようなスポーツドリンクをスポーツ産業が生み出す財の1つとしましょう。これは飲み物ですので、大きな分類では「飲食料品」にあたり、少し詳細な分類になると「飲料」という分類があります。ここから更に詳細なコモ6桁という分類では「清涼飲料」という分類が存在し、さらに詳細な細品目という分類になると「スポーツ・機能性飲料」という品目があります。この例ではたまたま「スポーツ・機能性飲料」という細品目があるので、この生産額を100%スポーツの財であるとしてスポーツ生産額に算入します。ただし、細品目レベルでも明確にスポーツであると特定できない場合、スポーツが含まれる割合(スポーツシェア)を計算して掛け算することで、スポーツ生産額を推計します。
さて、全産業に横断して存在するスポーツ産業ですが、「スポーツ・機能性飲料」のように、明らかにスポーツや運動に関連している品目のみを抜き出して表にしました。スポーツに関連する品目が含まれている大分類は、「農林水産業」「製造業」「サービス」の3つでした。農林水産業では、「軽種馬」という品目があり、これがいわゆるサラブレッドなどの競走馬を意味します。「製造業」には含まれる品目が多く、先ほどの「スポーツ・機能性飲料」をはじめとして、「スポーツ用衣服」など衣服関連の品目や、「野球・ソフトボール用具」をはじめとした運動用品関連の品目が含まれています。また、「サービス」には、リースなどの「スポーツ・娯楽用品賃貸業」や、プロスポーツなどの「興行場(映画館を除く)・興行団」、競馬などの「競輪・競馬等の競走場・競技団」、スポーツ施設の運営である各施設の「スポーツ施設提供業」、そしてスポーツ指導者やインストラクターの「スポーツ・健康教授業」が含まれます。これらの品目は、工業統計や特定サービス産業動態統計調査(2019年から経済構造実態調査に再編)などをはじめとした国の基幹統計と対応しており、GDP統計の生産額の1次データはこれらの基幹統計から得られています。
この表の細品目を数えてみると、28品目であることがわかります。全ての細品目は、国内生産額表で確認すると、約3,300品目ありますので、スポーツに関連する財・サービスは極めて少ないと言えるでしょう。その他のスポーツに関連する財・サービスは、スポーツシェアを推計して計上するほかなく、この表以外で例えば、スポーツ教育、スポーツメディア、スポーツ医療、スポーツツーリズム、、、などなど多数のスポーツ関連の財・サービスはスポーツシェアの推計作業をしています。とくに知的財産やコンテンツなどスポーツに関連する権利ビジネスの品目及び統計は圧倒的に不足していると感じます。スポーツ産業の経済活動を把握するための基礎統計はもっと充実させる必要があるのではないでしょうか。