• HOME
  • ブログ
  • SERIALIZATION
  • スポーツ法の新潮流<特別編> 東京オリンピックパラリンピックを活用したマーケティング JOCマーケティングガイドラインにどう対応するか

スポーツ法の新潮流<特別編> 東京オリンピックパラリンピックを活用したマーケティング JOCマーケティングガイドラインにどう対応するか

スポーツ法の新潮流<特別編>
東京オリンピックパラリンピックを活用したマーケティング
JOCマーケティングガイドラインにどう対応するか
松本泰介│早稲田大学スポーツ科学学術院准教授 弁護士

ここ数回はeスポーツの法律実務をテーマにこの連載を行ってきましたが、今回はこの時期にお伝えしないと意味がない表題について解説させていただきます。
2019年12月に、日本オリンピック委員会(JOC)は、「東京2020オリンピック競技大会に関する知的財産保護・日本代表選手等の肖像使用について-マーケティングガイドライン-」(通称JOCマーケティングガイドライン。JOCウェブサイトで公表されています)を発表しました。東京オリンピックパラリンピック(以下「東京オリパラ」といいます)公式スポンサーであれ、ノンスポンサーであれ、東京オリパラを活用したマーケティングを行う場合、このガイドラインを把握しておく必要があるため、今回は、このガイドラインにどう対応するかを解説したいと思います。

1.JOCマーケティングガイドラインの変更内容

2018年平昌オリンピックパラリンピックの際のマーケティングガイドラインと比較して、今回のマーケティングガイドラインが大きく変わった点は2点です。
このような内容のJOCマーケティングガイドラインについて、企業はどのような視点で内容を理解すればいいのでしょうか。
このガイドラインの法的性質は、JOCが単独で定めたルールに過ぎませんので、相手の合意があって初めて法的拘束力を有します。公式スポンサーはスポンサー契約に基づき、このガイドラインの内容を遵守する法的義務を負っていますので、ガイドライン通りに従う必要があります。一方で、ノンスポンサー自身は何らかの契約を締結しているわけではありませんので、このガイドラインに従うか否かは、ノンスポンサー次第になります。そして、ノンスポンサーの判断においては、今回のJOCマーケティングガイドライン変更の背景を理解しておく必要があるでしょう。

2.JOCマーケティングガイドライン変更の背景

今回、このような形でJOCがマーケティングガイドラインを変更した背景には、このガイドラインの前提となっているオリンピック憲章第40条付属細則3項(通称ルール40)に大きな改正があったためです。そこで、国際オリンピック委員会(IOC)がこのような改正に至った2019年の動向を追ってみたいと思います。
まず、2019年2月に、ドイツオリンピック委員会(DOSB)は、ドイツのカルテル庁(独占禁止法などを管轄している官庁です)からの指摘を踏まえ、従来より大幅に緩和された、ルール40ガイドラインを発表しました(ドイツ国内におけるルール40の運用は、2017年から支配的地位の濫用の観点で調査が行われていました)。

なお、このガイドラインは、以前IOCが定めていたガイドラインを大幅に緩和するものであったものの、IOCもドイツ国内においてはこのガイドラインが優先することに同意しています。この流れを受けて、IOCのトーマス・バッハ会長は、全世界的に適用されるものではない、とコメントしていましたが、2019年6月のIOC総会では、ついにルール40の規定が以下のように改定されました。

これまでは原則として使用が禁止され、一部例外的な場面に限り使用が認められるに過ぎませんでしたので、原則と例外を逆転させる今回の改正は非常に大きな転換点になりました。そして、IOCは、改正されたルール40に基づくガイドラインを発表しています。
また、2019年10月には、このIOCガイドラインを前提に、アメリカオリンピックパラリンピック委員会(USOPC)も、東京オリパラに向けたルール40ガイドラインを発表しました。このガイドラインは、2016年リオオリンピック時に策定したルール40ガイドラインを緩和するものです。
2016年当時のUSOCのガイドラインは、6か月前申請、4か月前からのキャンペーン開始を義務付けていたところが批判を受けていましたので、今回、申請時期については、制限がなくなっています。

その他、スポーツ先進国では、IOCガイドラインを受けて、2019年7月にオーストラリアオリンピック委員会(AOC)が、2019年10月にはイギリスオリンピック委員会(BOA)が、新たなルール40ガイドラインを発表しています。各国のガイドラインはそれぞれ微妙に異なっていますが、私がこの連載で述べてきた知的財産の保護とコンテンツの自由利用とのバランス、独占禁止法などの経済法の遵守などを踏まえた内容になっています。特に、ドイツ(DOSB)とアメリカ(USPOC)のガイドラインが、日本(JOC)のガイドラインと比較して、大幅に規制を緩和している点は注目すべき点と思われます。

3.JOCマーケティングガイドラインにいかに対応するか

前述のとおり、ノンスポンサーにとってはJOCマーケティングガイドラインに一方的に従う法的義務はありませんので、このルールに対応するかしないかは、ノンスポンサー次第となります。
まず、所属選手をマーケティングに起用する場合、その選手が東京オリパラに出場するのであれば、基本的にこのガイドラインの遵守を検討する必要があります。出場選手はルール40を遵守する必要があり、マーケティングガイドラインにも記載されている通り、ルール40違反は選手のオリンピックパラリンピックの出場資格に影響しますので、慎重な対応が必要です。もっとも、オリンピックパラリンピックにおいて大活躍が期待でき、注目度の高い選手を、統轄する競技団体が出場停止にまでするかは大きなハードルがあるとも思われます。
一方で、所属選手をマーケティングに起用しなければ、ルール40は関係ありません。むしろ、この連載の以前の回で解説しましたとおり、アンブッシュマーケティング規制は、確かにオリンピックパラリンピックの主催者にとっては、保有する知的財産や公式スポンサー、公式メディアなどの保護のために必要ではあるものの、法的合理性の裏づけなく規制はできません。組織委員会が規制するかしないかは、知的財産の保護とコンテンツの自由利用とのバランス、独占禁止法などの経済法の遵守などを慎重に検討しなければならないでしょう。ノンスポンサーの企業としては、オリンピックパラリンピックについて法的に保護された知的財産権を侵害しないのであれば、様々なマーケティングの余地があると考えられます。

関連記事一覧